2017年11月18日より公開されたコメディ映画『泥棒役者』は、人気アイドルグループ「関ジャニ∞」のメンバー丸山隆平が単独主演を果たした作品です。
演出を務めるのは本作が劇場公開2作目となる西田征史監督。
どうやらこの作品は“笑い”特有の風刺のセンスが隠された設定あり、舞台裏を深掘りして読めば、シニカルな視点から見た日本人への批判精神と、応援のメッセージが隠されていました。
CONTENTS
1.映画『泥棒役者』の作品情報
【公開】
2017年(日本映画)
【脚本・監督】
西田征史
【キャスト】
丸山隆平、市村正親、石橋杏奈、宮川大輔、片桐仁、高畑充希、峯村リエ、ユースケ・サンタマリア、向井理、片桐はいり
【作品概要】
アイドルグループ「関ジャニ∞」のメンバーである丸山隆平が単独初主演を務めたコメディ映画。
NHK連続テレビ小説『とと姉ちゃん』やアニメ『TIGER & BUNNY』などで人気の脚本家の西田征史による、劇場監督2作目となる作品です
主人公はじめ役を丸山隆平、その恋人の美沙役を高畑充希が演じ、市村正親、ユースケ・サンタマリアたちの共演が脇を固めています。
2.映画『泥棒役者』のあらすじとネタバレ
小さな町工場の溶接工として、真面目に働いている大貫はじめ。
彼は恋人の藤岡美沙と、貧しいながらに幸せな同居暮らしていました。
しかも、毎日はじめに優しくし接してくれ美沙の誕生日を迎えたのです。
はじめは折角の誕生日に美沙を喜ばせたいと、付き合い出した当初のように約束の時間を決め駅前で待ち合わせ、その後に美沙へのプレゼントを一緒に購入しに行くデートを提案します。
その後、約束の時間に一足早く到着した、はじめの前に現れたのは運悪いことに、美沙ではなく畠山則男でした。
はじめにとって則男は、児童福祉施設の先輩であり、昔に自分を窃盗の道に誘い出した人物で、彼とともにはじめには少年院に収監させた張本人でした。
刑期を終えて刑務所から出所してきた則男は、ふたたび、はじめに金庫破りの窃盗を強要します。
今では窃盗から足を洗ったはじめは、止めましょうと激しく拒否します。
しかし則男は自分の言うこと聞かないようなら、はじめの過去を恋人の美沙に告げ口して、本当の大貫はじめの姿を暴露して知らせると恐喝をします。
大切な美沙に自分の犯した過ちの秘密を知られたくないはじめは、スマで美沙に急な仕事でデートに遅れることを伝えます。
渋々、先輩の則男が目を付けた大きな洋館の玄関をはじめはこじ開けると、2人は屋敷のなかに忍び込みます。
それでもはじめは、何とか金庫破りの犯行に及ばないように最後の最後まで則男に抵抗をしました。
人のいる気配の物音にとっさに則男だけは、クローゼットの中に隠れますが、鍵を開けてあった玄関から訪問販売のセールスマンの轟良介と名乗る男とはじめは顔を合わせてしまいます。
その男は、はじめを家の主人だと勘違いしたのを良いことに、正体がバレたくないはじめは自分が主人だとばかり話を合わせて演じます。
轟は相手の空気を読むことが出来ずに、しつこく、油絵のセットを買わせようと迫ってきましたが、何とかはじめは追い返すことに成功します。
すると今度は部屋のドアから主人らしい男がドアを開けて出てきました。その男の名前は前園俊太郎といい、この家の主人で職業は絵本作家でした。
またしても、はじめは成り行きに任せで、編集者の代行に来た人物に勘違いされたのを良いことに、はじめは今度は出版社の編集者を演じます。
それを信じ込んだ前園俊太郎が着替えに部屋に戻った隙に、玄関から逃げようとしますが、今度は若い女性が玄関から入って来ました。
どうやら彼女こそが、前園が勘違いしていた編集者の代行する奥江里子でした。
奥は初対面の作家先生に失礼があってはいけないと、はじめを絵本作家の前園俊太郎だと勘違いしたことに、はじめはまたも上手く話を合わせて、その場を何とかやり過ごします。
無理やり過去を知る先輩の則男に脅されながら、はじめは強盗に忍び込んだ洋館の屋敷内で、絵本作家の前園俊太郎、編集者代行の奥江里子、そして強引に戻ってきたセールスマンの轟良介と、4人の勘違いは入り乱れて加速していきます。
はじめは思いを寄せる美沙に、急な仕事が入ってバースデーの約束を守れなかったことをスマホで詫び続けます。
一方の美沙はガーンとショックを受けるも怒りもせずに、自宅でカニクリームコロッケを手作りして待ってるとLINEで返信します。
3.映画『泥棒役者』の感想と評価
ポイント① 暗喩されていた舞台設定は「日本と朝鮮半島」の関係
アイドルグループ「関ジャニ∞」のメンバーである丸山隆平が単独初主演を務めた本作。
映画の冒頭で小さな町工場で働く大貫はじめは、スクリーンに姿を見せるものの、なかなかその顔をキャメラに捉えさせません。
西田征史監督は丸山隆平ファンへの焦らしとともに、過去の出来事の後ろめたさからか、本当のことを言い出せない(表せない)という演出を見せます。
その後、はじめと美沙がデートの待ち合わせをしたのは埼玉県川口市にある川口駅のロータリー橋の上。
町工場という設定で川口なのかと、当初はその程度の意味に感じ取っていました。
しかし、この作品の舞台設定が川口というのには大きな意味がありました。
物語の中盤から登場するユーチューバーの高梨仁という存在の登場で明確になります。
彼の部屋には赤い唐辛子の装飾飾り付けがあり、それは高梨が在日の血筋であることを暗示した小道具です。
川口といえば、往年の映画ファンなら誰もが知る1962年に公開された、今村昌平による脚本の浦山桐郎監督の名作『キューポラのある街』。
参考映像:吉永小百合主演『キューポラのある街』
本作『泥棒役者』の物語の設定は、日本と朝鮮半島の関係がメタファーに隠されていました。
在日である高梨仁という存在であってこそ、この作品がコメディとしての大きな魅力を持つことになります。
では、そのメタファーに触れる理由をいくつか挙げていきましょう。
前園の住む自宅である洋館は“日本という国”であり、高梨の住むアパートは“朝鮮半島”になっており、お隣さんの関係として描かれています。
だからこそ、何かと(日本へ)苦情やイチャモンをつけてくるのが高梨という存在ということになっています。
エアコンのガタピシと音を立てる室外機は、かつて日本のお家芸であったメイドインジャパンの電化製品の比喩。
前園の表現が絵本作家というのに対して、高梨はユーチューバーというのもネット社会では先進的な韓国を表しているのでしょう。
しかし、あくまで高梨は北朝鮮と韓国のどちらなのかということはあまり明記されていません。
さかのぼれば、1962年の『キューポラのある街』では在日朝鮮人ということが大きな意味を持った作品でした。
主人公の少女ジュンの親友金山ヨシエや、タカアキの親友のサンキチの登場は明確にそのように示されていました。
しかもサンキチは新潟から船に乗って北朝鮮帰還運動の名の下に、北朝鮮に夢を抱き帰っていく設定だったからです。
また主人公ジュンの父親の石黒辰五郎は、高度経済成長のなかオートメーション化される鋳物工場を解雇されます。
仕事にあぶれた辰五郎は無責任にも、また朝鮮戦争が起きたらいいと、朝鮮特需で景気が湧いた頃を振り返ります。
一方で『泥棒役者』の方では前園俊太郎は落ち目の絵本作家であり、お金にも困っていると話していました。当然のことながらこれは現代の日本経済そのものを示しています。
ここで登場した4人が過去に捉われていることを思い出してみましょう。
①はじめは過去に犯した罪を愛する人に言えない。
②前園は過去の栄光から落ち目となっている。
③奥は過去に自分の言った発言を悔やんでいる。
④轟は過去に友人に騙された負債(油絵セット)抱えている。
(*等々力については、映画ではあまり描かれず原作にあり)
この点のどれを見ても現代社会で日本人が自信をなくし、未来を見出せない抱え込んでしまったものを表現したものでしょう。
一方で歌手としての才能はなくとも(おそらく)高梨は、ユーチューバーとして一生懸命に励んでいます。もちろん、隣人の前園に対しての僻みコンプレッススを抱いています。
この「日本と朝鮮半島の関係」を枝いた裏設定に気が付かないで、勘違いのどたばた喜劇として観ることもできます。
しかし、本来“お笑い”というものが持つ最大の力は、権力や強いものへの批判精神や風刺です。
今の日本の現状をコメディ映画で示されて笑えないようでは、独裁国家であるましし、何かに強いられた所詮は民でしかないのでしょう。
1度鑑賞した際に、西田征史監督の巧みな裏設定に気が付かなかったあなたは、もう1回、本作をご覧いただくことをお薦めします。
ポイント② 日本と朝鮮半島の未来への続編は?
本作が現状では上手くいっていない人たちばかりが登場します。
彼らが日本と朝鮮半島の関係をメタファーにした物語のなかで、その状況を打破した後に関係改善の働きかけをしたのは誰でしょう。
それはデーヴの油絵セットの訪問販売をセールスマンの轟良介です。
奇しくも窃盗犯の先輩の則男にガッツがあるヤツと言われた轟。
また、皆んなから空気が読めないと揶揄されますが、空気を読めない轟だからこそ、膠着状態になっていた前園と高梨の関係を良い方向に持っていけたのでしょう。
映画ではそこまでは詳細に描かれていませんが、きっとそうなのでしょう。
たまにはあまり神経質になりすぎず、鈍感力が互いの未来を創って行くのかもしれませんね。
まとめ
さて、本作のなかで、はじめ、前園、奥、轟という4人のが創作絵本のアイデアを出し合った物語がありました。
ゴミたちが力を合わせて、最後は玄関を飛び出して、外の世界へと旅立って行くお話でしたね!
これから先の人生に不安を感じていた彼ら(役立たず?ゴミ?)に、太陽の光が降り注ぎ、明るい未来を感じさせて、ジ・エンドを迎えたストーリーがアニメで表現されていましたね。
まさしく、こそが今の日本そのものの現状であり、応援歌なのです。
また、それを象徴した轟の手作りの太陽くんのぬいぐるみを、美沙はとても無邪気に誕生日プレゼントとして喜んでくれました。
誠実で情熱的なはじめを、そのぬいぐるみに表情に感じたからでしょう。
太陽くんは、はじめであり、太陽くんは日本なのです。現状はどうであっても明るく突き進むしかこの国はない。
そのように映画『泥棒役者』は、日本人であるあなたの人生の続編に、フレー、フレーと応援を送る作品なのです。