連載コラム「Amazonプライムおすすめ映画館」第3回
Amazonプライム・ビデオから最新作として配信されたオリジナル映画・ドラマの中から“大人向け・女性向け・映画ツウ向け”な作品を厳選。
Cinemarcheのシネマダイバー・くろみずしがご紹介する連載コラム「Amazonプライムおすすめ映画館」第3回は、CIAのブッシュ政権下で行われた尋問プログラムの隠蔽を暴くまでを描いた映画『ザ・レポート』です。
2001年アメリカで起きた同時多発テロ『9・11』。このテロ以降CIAはテロ対策として新しい尋問プログラムを行っていました。プログラムでは禁止されている拷問も含まれていたとして、CIAに対し調査委員が設立。
5年もの年月を費やし調査に明け暮れた調査員のダニエル・J・ジョーンズにスポットを当て描かれた実話であり、真実を追求する調査員の緻密な仕事と、政治的背景に衝撃を受ける作品です。
主人公ダニエル・J・ジョーンズ役は、『Star Wars』続3部作でカイロ・レン役を演じたアダム・ドライバーです。彼は9・11を機にアメリカ海兵隊に入隊した過去があります。
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映画『ザ・レポート』の作品情報
【配信】
2019年(アメリカ映画)
【原題】
『The Report』
【脚本・監督】
スコット・Z・バーンズ
【キャスト】
アダム・ドライバー、コリー・ストール、アネット・ベニング、イベンダー・ダック、ジョン・ハム、リンダ・パウエル、サンドラ・ランダーズ、ジョン・ロスマン、ヴィクター・スレザック、ガイ・ボイド、テッド・レヴィン
【作品概要】
日本では劇場公開されず現在Amazonプライム・ビデオで独占配信されている作品。
スティーヴン・ソダーバーグ監督の『サイド・エフェクト』(2013)や、コロナウイルス感染症が流行したことで話題になった『コンディション』(2011)で脚本を手掛けたスコット・Z・バーンズが監督です。
映画『ザ・レポート』のあらすじとネタバレ
ダニエル・J・ジョーンズ(ダン)はダイアン・ファインスタイン上院議員によって、CIAの尋問プログラムについて調査する任務に抜擢されました。その調査をダンが振り返るところから物語が始まります。
2001年のアメリカ同時多発テロ(9・11)以降、CIAは尋問を強化するため新しい尋問プログラムを採用していました。CIAが雇った心理学者のミッチェル博士とジェッセン博士が考案した強化尋問法(EIT)です。
2007年、CIAがアルカイダ容疑や尋問ビデオを破棄したという内容のニュースがNYタイムズに掲載されていました。
情報委員会はその情報を知りませんでした。その破棄した記録には何が記録されていて、何故破棄されたのかを何千ページもの文書記録から探す作業をダンは命じられました。
2009年、調査から2年が経過しビデオ破棄の調査報告が完成しました。調査の全容は解明されておらず、CIAを調べ上げ全てを整理する必要があると判断されました。そして、ダンが指名されました。
調査のルールはビデオ破棄の時と同様、政治的な偏見はなく、意見や仮設ではなく事実が重要。個人的な感情は殺し、委員会以外の人に情報を漏らすのは厳禁というものでした。
ダン率いる調査メンバー6人はバージニアのCIA機密施設で用意された、情報漏洩対策が施された部屋で調査をすることになりました。そこではCIAの許可なく書類を持ち出すのは禁止されていました。
調査から間もなく、6人いた調査員は3人に減りました。
CIAは司法省以外には何も話してはいけないことになっており、関係者からの調査は困難。そのため膨大な資料やメール、電報など、彼らのコミュニケーションツールから手がかりを得ようとしました。
2002年3月グリーン収容所、アブ・ズベイダはFBIのアリから尋問を受けていました。ハリド・シェイク・モハメド(KSM)がアルカイダの幹部であることを明かしました。
CIAはこの手柄がFBIのものになることに不服とし、ズベイダの尋問に加わることになりました。
CIAはミッチェル博士とジェッセン博士が考案した非人道的な尋問プログラム『SERE』を採用。衰弱(Debility)、従属(Dependency)、恐怖(Dread)を誘発する3Dのメソッドを、次のテロを食い止めるためロドリゲス局長は許可を出しました。
それから、ズベイダはCIAの尋問を受けることになりました。
ダンは最初にズベイダ尋問を行ったアリならば話を聞き出せるのではないかと接触しました。彼は尋問は信頼の構築が効果的だと考えており、CIAの非人道的尋問からは手を引いた、と話します。
CIAは新しい尋問を試すために大統領と司法省にズベイダを大物に仕立てた可能性が高いとも話しました。
ダンが機密施設から帰ろうとしたとき、謎の人物が話しかけてきました。名前は明かしたくないく、現在もCIAの現役のため絶対に伏せてほしいが力になりたい。という内容でした。
医療チームの一員として尋問に携わっており、CIAが録画をしていたはずの記録が抜け落ちているが、その間は水攻めを行いズベイダは意識を失ったとのことでした。
施設長に新しい尋問方法に対し意見を述べたところ、ロドリゲス局長から反対意見を文書で上げるのは証拠が残るので止めろと言われたと話しました。そして証拠は全部メールにある。と言い残し彼は去って行きました。
ブッシュ大統領が新尋問プログラムのことを知ったのは2006年4月、4年も後のことでした。尋問を受けていたグル・ラフマンという人物はテロの情報を知る過激派と疑われ、結果名前しか聞き出せないまま、冷水を浴びさせられ朝まで放置、低体温症で死にました。
深刻な苦痛を与えなければ拷問ではないとされているが、死ぬまの苦痛ではないかと疑問視されました。
調査が進むその頃、メディアではCIAでの尋問で多くのテロ攻撃が阻止されたと報道されていました。しかし、KSMは1995年に既に爆破未遂容疑で起訴されており、CIAはズベイダが彼のことを認める前から知っていたのです。
CIAはKSMに直腸栄養法を医療上必要ではないが支配を誇示するため開始しました。また水攻めも続けていたところ、KSMは次のテロについて告白をしました。しかし、それは尋問をやめさせる為のウソだったのです。
この尋問によってわかったことは、“正直ではない、KSMは嘘つき”というものだけでした。しかし、効果がないとわかっても何故183回も水攻めを行ったのでしょうか。
捜査が難航するなか、また一人調査から降りました。2年も調査をしているのに、解決できないという理由からです。
2011年、ラムズフェルド元国防長官とチェイニー元副大統領がEITで得た情報がビンラディン殺害につながったとテレビで報道されていました。
そのため、ホワイトハウスへCIAはEITでビンラディンの居所を突き止めたわけではなく虚偽の報告を上げていると報告をしましたが、作戦が成功したから問題ないのではないかという回答でした。
2007年6月、119番目の収容者ムハンマド・ラヒームが最後の収容者でした。彼から得られた情報はゼロでした。そして、初めてCIAがプログラムの有効性の検証を始めたのです。結論は、尋問官は信頼性の構築に努めることというものでした。
2012年、CIAによる尋問プログラムの審査承認の可否を問うための会議が開かれました。そしてジョン・O・ブレナン(CIA長官候補)が召喚され、EITが効果がなく、責任はCIAにあるということを認めました。
しかし、尋問で得た情報は他の方法では入手不可能であり、人命を守るためだったと主張しました。
ダンの報告書公開は苦戦していました。そこにエヴァン・タナーと名乗る国家安全保障部門の記者からオフレコで情報を話さないかと誘いを受けるのでした。ダンは行き詰まった報告書公開の打破のためこの誘いを受けるのでしょうか。
映画『ザ・レポート』の感想と評価
2001年アメリカ同時多発テロ以降のCIA考案の尋問プログラム問題を取り上げた『ザ・レポート』は非常に難しい内容でした。
この作品だけを見て良し悪しを判断できるほど、政治や歴史に詳しくないからです。しかし、この作品では多くの感情が沸き起こってきました。
その1つとして上げるのは、“恐怖”です。この作品に出てくる登場人物が口を揃えたのは“国家の安全”や“正義”を語るものでした。
所属している機関が違うだけで、根源は同じでも手段は大きくズレてしまうことや、今回のダンの報告書のように、CIAやアメリカ国家に不都合となる報告は徹底的に隠蔽をされてしまうことに恐怖を感じました。
エンドロールでは“EITに携わったCIAの局員は誰一人として罪に問われなかった”とメッセージが載せられていました。この報告書作成に長い月日をかけ没頭してきたダンはこの結末を望んでいたのでしょうか。
国会議事堂をさるダンの後ろ姿には政治の世界に入る当初の希望は消え去り、別の人物に見えました。その後、ダンはどのような人生を歩んだのかを鑑賞者に託し、想像したくなります。
作品の中で『スノーデン』(2016)が会話の中で登場してきたのも印象的でした。アメリカ政府の機密を告発した29歳のスノーデンが犯罪者扱いされてしまう実話作品です。
『ザ・レポート』のダンとスノーデンは共通する部分があるため、こちらの作品も合わせて鑑賞することをおすすめします。
まとめ
アメリカ史の暗い影を映し出した『ザ・レポート』では最後まで正義を貫いた若者に焦点を当て、衝撃的な事実を世界へと発信しています。
歴史には光と影が存在しており、我々は同じことを繰り返さないためにも事実を知ることの重要性を感じました。報道されるニュースがいつでも正しいわけではないということや、自分が学んできた歴史が間違っていることもあるということ。史実も学び、考える手段の1つとして映画は非常に役立つものであると再認識しました。
また、9・11後、様々な角度でテロを題材に映画が制作されてきましたが、テロ対策のための尋問を扱った作品は珍しいのではないでしょうか。
本作で主役ダンを演じたアダム・ドライバーは『ブラック・クランズマン』(2018)、『マリッジ・ストーリー』(2019)で2年連続でアカデミー賞主演男優賞ノミネートを果たしている近年存在感を発揮している注目の俳優です。
『ザ・レポート』と公開年月も近い両作品と比べても、ダン演じたアダム・ドライバーは秀逸そのものでした。
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