連載コラム「B級映画 ザ・虎の穴ロードショー」第30回
深夜テレビの放送や、レンタルビデオ店で目にする機会があったB級映画たち。現在では、新作・旧作含めたB級映画の数々を、動画配信U-NEXTで鑑賞することも可能です。
そんな気になるB級映画のお宝掘り出し物を、Cinemarcheのシネマダイバーがご紹介する「B級映画 ザ・虎の穴ロードショー」第30回は、フィル・カールソン監督が贈る、スパイアクション映画『サイレンサー第4弾/破壊部隊』(1968)です。
ディーン・マーティンが遊び人の諜報部員を演じ大人気となったスパイアクションコメディ「サイレンサー」シリーズ。シリーズ第4弾となる本作では、強奪された金塊を取り戻すためにデンマークの首都コペンハーゲンを奔走します。
2019年に公開されたタランティーノ監督作『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』において、劇中に登場するシャロン・テートの出演作品として本作はフィーチャーされており、近年再び注目度が上がった作品でもあります。
今回はシャロン・テートも出演していた人気スパイアクションコメディ「サイレンサー」シリーズ第4弾『サイレンサー第4弾/破壊部隊』のネタバレあらすじと作品情報をご紹介します。
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CONTENTS
映画『サイレンサー第4弾/破壊部隊』の作品情報
【公開】
1968年(アメリカ映画)
【原題】
The Wrecking Crew
【監督】
フィル・カールソン
【キャスト】
ディーン・マーティン、エルケ・ソマー、シャロン・テート、ナンシー・クワン、ナイジェル・グリーン、ティナ・ルイーズ、ジョン・ラーチ
【作品概要】
ドナルド・ハミルトンのスパイ小説マット・ヘルシリーズの映画化作品。
本作公開から半年後に「マンソン・ファミリー」のよるシャロン・テート殺害事件が起きたため、製作が予定されていた5作目(原題:The Ravegers)も急遽中止となり、事件にショックを受けたディーン・マーティンは本作をもってマット・ヘルを演じ終えてしまいました。
また本作のカラテ・アドバイザーとして、ブルース・リーが武術指導を担当、後に『ドラゴンへの道』で彼と共演することになるチャック・ノリスの映画デビュー作品としても知られています。
映画『サイレンサー第4弾/破壊部隊』のあらすじとネタバレ
デンマークを走る貨物列車は10億ドル金塊を乗せていました。列車は突如、コンティーニ伯爵一味の攻撃を受け、金塊は強奪されてしまいます。
ワシントンを出発したICEのマクドナルドはマット・ヘルムを迎えに行きます。車両は、伯爵一味の妨害を受けながらも、ヘルムとの連絡を試みます。
一向に連絡のつかないヘルムは、ちょうどその頃、野原でコールガールと夢見心地でした。
ヘルムを迎えに到着したマクドナルド。ロンドンへ輸送中の金塊がテロ組織に強奪された事を伝え、彼に内密に操作を依頼しました。
金塊を豪邸へと運び込んだ伯爵。伯爵はレインボー作戦を第3段階まで実行する旨をつたえます。
金塊が強奪されたデンマークへと飛んだヘルムは、ホテルでローラと名乗る美女の歓迎を受けます。
部屋へ招待され、2人は良いムードになったかと思えば彼女の注ごうとしたスコッチが爆発し、ローラは爆死。警察沙汰の騒ぎになってしまいました。
先ほど、ロビーで出会ったデンマークを案内するという観光局員フレヤの機転により、ヘルムは逮捕を免れます。
翌日コンティーニ伯爵の屋敷へ招かれたヘルムとフレヤは、「2人が金塊を追ってきたことはすでにお見通しである」と伝えられます。
伯爵はヘルムに100万ドルで手打ちにしないかどうか、と提案しますが、ヘルムはそれを拒否。伯爵は口封じの為に2人をその場で始末するよう部下に命じました。
屋敷から脱出したヘルムとフレヤは、ロープウェイ乗り場まで逃げたものの、そこで伯爵の手下達と乱闘に。
しばらくしてホテルへ戻ると、ユーランと名乗る女がヘルムの部屋で待ち構えていました。フレヤが部屋に押し入ったことで、彼女の暗殺は失敗に終わります。
英国首相官邸では、ヘルムが任務を期日までに遂行できるか会議が行われていました。月曜までに金塊の奪還が叶わなければポンドの価値は暴落する。彼が間に合わなければ特殊部隊の準備が検討されていました。
ヘルムはリンカの部屋へ呼び出され、デート気分で向かいます。後をつけてきたフレヤはムードを壊すため、部屋の外からクラクションを鳴らします。ヘルムは仕方なくフレヤとホテルへ戻りました。
リンカはヘルムの処分に失敗した事を伯爵から責められます。リンカは明日までには必ずヘルムを処分すると約束しました。
一方ホテルでマクドナルドと合流したヘルムはフレヤがイギリス諜報員である事を知ります。リンカから掛かってきた電話でヘルムは金塊の在処を知っていると告げました。
映画『サイレンサー第4弾/破壊部隊』の感想と評価
無邪気さを放っていたかつてのハリウッド作品
本作は、60年代末期「0011ナポレオン・ソロ」シリーズや『FBIアメリカ連邦警察』といった映画顔負けのクオリティのテレビドラマが台頭するようになり、ドラマと映画の線引きが困難になった時代の作品です。
本作が特にドラマらしいと感じるのは、ほぼ全編通してスタジオ撮影がされた映画であるため。
それは、現在の映画に対するビジュアルが、70年代以降のロケを多用したニューシネマのイメージによっているからではないかと考えられます。
加えて、スパイコメディという時代性を感じさせるジャンルそのものが醸し出す軽妙さ、前面に押し出されたカラッとした明るい作風が、今でいうドラマ的なルックに見えてしまうのでしょう。
本作の軽妙なコメディタッチの語り口は、主人公マット・ヘルムの能天気なイメージと重なり、『続・夕陽のガンマン』などの楽曲で知られるウーゴ・モンテネグロ楽団の手掛ける軽やかな音楽と合わさって映画にメリハリを利かせています。
ヘルムが行く先々で出会った魅力的な女性を、気の向くままに口説いていく場面では、毎回彼の心情に沿った歌が流れ、そこから女性とのコントのような掛け合いが始まってしまいます。
ヘルムのこういったイメージは、映画シリーズと共にそれほどメジャーなイメージではないと思います。
というのも、彼の軽やかなイメージは同時代にジョーン・コネリーが演じた「007」シリーズの主人公ジェームズ・ボンドに対するぼんやりとしたイメージと混同されているのではないでしょうか。
ジェームズ・ボンドといえば誰もが知るイギリスの諜報員で、高級スーツに身を包み、世界中をまたにかけ、犯罪組織とガジェットを駆使したスパイアクションを繰り広げるといったイメージでしょう。
これは他のスパイアクションシリーズとも共通するものですが、ことボンドが誤解されがちなのが、好色で女にはめっぽう弱いといった人物像です。
これがまさに、本作の主人公ヘルムと勘違いされたイメージで、実際のボンドは他の紳士スパイと比べ、女性に冷徹です。
ジェームズ・ボンドは、ボンドガールと呼ばれる、彼に協力する女性たちを駒として利用するだけ利用し、必要とあらば見殺しにするほどの非情な一面を持っています。
後年のロジャー・ムーア版ボンドのような、ドライでユーモラスな人物像と「サイレンサー」シリーズのヘルムのイメージとが重なってしまったことに起因する誤解なのではないでしょうか。
映画「サイレンサー」シリーズは、その主人公ヘルムの人物像と併せて、60年代末期の軽やかな元気さ、無邪気さを象徴するかのような作品で、まさに物見遊山という言葉がしっくりくるような、常に陽気でゴキゲンな映画でした。
60年代の終わりを象徴するシャロン・テート
映画「サイレンサー」シリーズが、というよりも、とりわけこの4作目が現在注目されているのは、本作公開から半年後シャロン・テートの身に起こった悲劇と、タランティーノ監督がシャロン・テートへ向けて作った映画『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』の影響でしょう。
同作でシャロン・テートを蘇らせたタランティーノ監督は、「彼女は60年代の終わりを象徴する存在だ」と語っています。それは彼女が背負わされる必要のなかったイメージのことを意味していました。
1969年8月9日。チャールズ・マンソンの「金持ちを殺せ」という指令を実行するために当時ハリウッドにあったロマン・ポランスキーの邸宅へやってきた「マンソン・ファミリー」の4人の男女。
彼らの凶行の被害に遭ったのは、留守中のポランスキーの家に残っていた、彼の恋人である妊娠8か月のシャロン・テートとその友人3人でした。
家出してきたヒッピー少女たちを囲った「マンソン・ファミリー」は、前年に行ったマリファナ・パーティにより、その存在は既に広く知られており、この事件が報道されたことで、カルト教団がハリウッドで起こした惨劇として世間に更なる衝撃を与えました。
まだ駆け出しであった若い女優シャロン・テートは、被害にあったロマン・ポランスキーの恋人として、その名が知れ渡り、シックスティーズに抱くラブ&ピースのイメージは、この事件をきっかけにハリウッドから幻想として消滅してしまいました。
長らくその存在が事件と結び付けられる形のみで語り継がれてきた彼女を救済するということは、本作の中で輝く、お茶目なセクシーコメディエンヌの姿を取り戻すということでした。
本作には、シャロン・テートという魅力的な女優が出演しています。それだけが彼女について覚えておくべきこと、語らうべきことだと思います。
まとめ
本作は、呪われた映画などではありません。映画の外の世界で、その後に起きた悲劇によりエンドクレジットで予告される第5作目の製作は叶いませんでしたが、映画は変わらぬ楽しさ、明るさ、無邪気さを放っており、「サイレンサー」シリーズの世界を堪能するに十分な見どころは数多く存在します。
シャロン・テート存命中に公開された最後の映画といった尾ひれが付きまとったせいで、その儚さ、やるせなさを感じてしまうかもしれません。
しかし、一度映画を観れば、そこにいるのは切ないシャロン・テートではなく、天真爛漫なイギリス諜報員フレアだと分かります。
彼女とディーン・マーティンの丁々発止やりとりが面白く、敵を追う道中のドタバタした展開に目が離せません。
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