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Entry 2020/09/02
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『マイ・バッハ 不屈のピアニスト』感想と考察評価。実話映画化でピアニスト音楽家ジョアン・カルロス・マルティンス半生を描く|心を揺さぶるtrue story3

  • Writer :
  • 咲田真菜

連載コラム『心を揺さぶるtrue story』第3回

2020年9月11日(金)よりヒューマントラストシネマ有楽町ほかにて『マイ・バッハ 不屈のピアニスト』が全国公開されます。

本作は20世紀で最も偉大なバッハの演奏家として知られている、ジョアン・カルロス・マルティンスの実話をもとに描かれています。

リオパラリンピックの開会式で、ハンディキャップを持った両手で華麗な演奏を披露したブラジルのピアニスト…といえば、思い出す人も多いのではないでしょうか。

幼い頃からピアノの才能が抜きんでていて、とんとん拍子に世界的なピアニストとなりますが、そんな彼をいくつもの不幸な出来事が襲います。本作は、不幸に負けずに音楽の道を究めていった彼の姿を追っています。

【連載コラム】『心を揺さぶるtrue story』一覧はこちら

映画『マイ・バッハ 不屈のピアニスト』の作品情報

【日本公開】
2020年(ブラジル映画)

【監督・脚本】
マウロ・リマ

【キャスト】
アレクサンドロ・ネロ、ダヴィ・カンポロンゴ、ロドリゴ・パンドルフ、アリーン・モラエス、フェルナンダ・ノーブル、カコ・シオークレフ

【作品概要】
本作の主人公、ジョアン・カルロス・マルティンスが日本で知られるきっかけの一つにリオパラリンピックがありました。パラリンピックの開会式で披露された彼の国歌演奏の模様は日本でも話題となり、ハンディキャップを持った両手で奏でられた美しい旋律は、多くの人の心を魅了しました。若くして世界的な活躍をしていたジョアンを襲った数々の不幸、そしてその苦難を幾度も乗り越えていった実話を描いていきます。

映画『マイ・バッハ 不屈のピアニスト』のあらすじ

幼い頃から病弱で家の中で過ごすことが多かったジョアン・カルロス。しかしピアノを習い始めるとその才能が大きく開花します。

めきめきと実力を伸ばした彼は、20歳でクラシック音楽の殿堂として知られるカーネギーホールでの演奏デビューを飾り、“20 世紀最も偉大なバッハの奏者”として世界的に活躍するまでになりました。

一流の演奏家として世界を飛び回っていたジョアンでしたが、不慮の事故により右手の3本の指に障がいを抱えてしまいます。

ピアニストとして生命線である指が動かせなくなった彼は不屈の闘志でリハビリに励み、再びピアニストして活動できるまでになります。

しかし、復帰を果たし自身の代名詞ともいえるバッハの全ピアノ曲収録という偉業に挑戦をしていた彼に、さらなる不幸がのしかかります。

映画『マイ・バッハ 不屈のピアニスト』の感想と評価

ピアノに対する壮絶な想い

本作の冒頭で、オスカー・ワイルドの「芸術は痛みによってのみ完成される」という言葉が紹介されます。

この言葉が物語のすべてを象徴しているのだということを、作品を観終わった時にしみじみ感じるほど、主人公・ジョアンのピアノに対する想いは深く、時に壮絶です。

幼い頃から身体が弱かったジョアンは、楽しそうにサッカーをする友達を羨ましく見つめる引っ込み思案な子どもでした。

そんなジョアンはピアノを習うことで、自分の並外れた才能を知ることになります。通常2カ月かけてマスターしていくピアノの教習本を、あっという間に自分のものにしてしまうジョアン。

彼の才能を見抜いたピアノの先生は、さらに上を目指すよう勧め、期待どおりジョアンは、とんとん拍子に世界的なピアニストへの階段を駆け上ります。

そしてわずか20歳で音楽の殿堂といわれるカーネギーホールでのコンサートを成功させます。

ジョアンのピアノは、エネルギッシュに鍵盤をたたきつける奏法です。背中を丸め、一心不乱に鍵盤に向かうジョアンは、何かに取り憑かれているようにも見えるのですが、彼が奏でるバッハは間違いなく多くの人々を魅了する演奏なのです。

名誉も地位も、そして好きな女性も手に入れて、前途洋々なジョアンを不幸な事故が襲い、ピアニストにとって最も大切な指に障がいが残ってしまいます。

担当医は、指を酷使する曲を弾くのは避ける、コンサートの間隔は最低でも12日間空けるようにするなど、ピアニストとして生きていけるようにジョアンにアドバイスをするのですが、彼は聞く耳を持ちません。

コンサートで、血まみれになった鍵盤に向かうジョアンは、「狂気」という言葉でしか表現できない姿でした。

偶然出会ったファンから「その手を動かすのは、天使か悪魔か」と問われますが、まさに背後で悪魔が操っているのでは……と思うほどです。

ピアノを弾くことで、目立たない引っ込み思案な少年が一躍脚光を浴びたことで、ジョアンは何が何でもその地位を捨てたくなかったのかもしれません。

その時にピアノと引き換えにジョアンが失ったものは、決して少なくはありませんでした。

実際に本人が演奏した曲を使用

物語で演奏される曲はすべて、実際にジョアン・カルロス・マルティンスが演奏したものが使用されています。

ジョアンは、「バッハの演奏において、20世紀で最も偉大な奏者」といわれるだけあって、彼が弾くバッハには驚愕します。

ピアノを少しでも習った人なら分かると思いますが、バッハの曲は右手がメロディーで左手が伴奏というものではなく、右手も左手もメロディーのようになっている曲が多く、苦手意識がある人もいます。

苦手意識を持っている人なら、ジョアンが弾くバッハに驚き、あれよあれよと引きこまれていくことでしょう。

ジョアンが弾くピアノを存分に楽しめるのが本作の大きなポイント。バッハが好きな人はもちろんのこと、あまりバッハが好きではなかった人も、その魅力に気付くことができるかもしれません。

3人のジョアンが魅せる人間味溢れる演技

本作ではジョアンをアレクサンドロ・ネロ、ダヴィ・カンポロンゴ(少年期)、ロドリゴ・パンドルフ(青年期)の3人の俳優が演じています。

ダヴィ・カンポロンゴが演じる少年ジョアンは、病弱で線が細いながらも、神童ぶりを上手く表現しています。ソルフェージュを得意気に披露するところはとても可愛らしく、彼が口ずさむリズムを何度も繰り返し聴きたくなってしまいます。

ロドリゴ・パンドルフは、ピアニストとして成功し、ピアノにのめり込んでいく青年ジョアンを繊細に演じています。

時に意志が弱く、そして自己中心的になってハラハラさせられるところもあるのですが、それが若き日のジョアンの真の姿だったのかもしれません。鍵盤が血まみれになる演奏シーンは、息をのむ迫力があります。

アレクサンドロ・ネロは、数々の困難が降りかかり、再びピアニストとして復帰していくジョアンの姿を力強く表現していきます。

若い頃と同じように、女性に目がないところは相変わらずなのですが、ピアノと引き換えに失った愛を取り戻すなど、困難に直面しながらも小さな幸せを手にしていきます。ロドリゴ・パンドルフが演じる若き日のジョアンを踏襲した丁寧な演技が見事です。

ジョアン・カルロス・マルティンスという天才ピアニストは、人として少しばかり問題があったのかもしれませんが、この3人は彼を人間味あふれるキャラクターとして見事に作り上げています。

まとめ

オスカー・ワイルドの「芸術は痛みによってのみ完成される」という言葉は、まさにジョアンのためにあるようなものだと物語を通して実感するのですが、一つだけ付け加えることがあります。

それはジョアンの場合、痛みだけではなく、ピアノ、もっと大きく言えば音楽への愛があったからこそ、ジョアンなりの芸術を完成させることができたのかもしれません。もしかしてジョアンは「まだ完成はしていない」と言うかもしれませんが……。

いくつもの困難に直面しながらも、諦めることなく音楽とともに人生を歩み続けるジョアン・カルロス・マルティンス。

タイトルどおり「不屈のピアニスト」として成し得た偉業を、素晴らしいピアノ演奏とともに本作で堪能してみてください。

『マイ・バッハ 不屈のピアニスト』は、2020年9月11日(金)よりヒューマントラストシネマ有楽町ほかにて、全国公開されます。

次回の連載コラム『心を揺さぶるtrue story』もお楽しみに。

【連載コラム】『心を揺さぶるtrue story』一覧はこちら

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