連載コラム「B級映画 ザ・虎の穴ロードショー」第13回
深夜テレビの放送や、レンタルビデオ店で目にする機会があったB級映画たち。現在では、新作・旧作含めたB級映画の数々を、動画配信サービス【U-NEXT】で鑑賞することも可能です。
そんな気になるB級映画のお宝掘り出し物を、Cinemarcheのシネマダイバーがご紹介する「B級映画 ザ・虎の穴ロードショー」第13回は、ジェフリー・ランド監督がホホジロザメをモチーフにしたパニック・アクション映画『ロボシャーク vs. ネイビーシールズ』です。
『スピーシーズXX 寄生獣の誘惑』(2007)などで知られるジェフリー・ランドが監督、共同脚本を務め、2015年にSyFyチャンネルで放映されたテレビ映画。
手に汗握る展開に、荒唐無稽な迷シーン・迷ゼリフの数々。あっという驚きと思わず吹き出してしまう展開に口を閉じている暇がありません。
今回は海軍とロボシャークの戦いを主人公のリポーターの目線から描いた『ロボシャーク vs. ネイビーシールズ』をご紹介します。
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CONTENTS
映画『ロボシャーク vs. ネイビーシールズ』の作品情報
【公開】
2015年(カナダ・ブルガリア合作映画)
【原題】
Roboshark
【監督】
ジェフリー・ランド
【キャスト】
アレクシス・ピーターマン、マット・リッピー、ナイジェル・ハーパー、ヴァネッサ・グラッセ、アイザック・ヘイグ、ローラ・デイル
【作品概要】
『シャークトパス』(2010)『シャークネード』(2013)に続いてアメリカのSyFyチャンネルで放映されたテレビ映画。風刺を織り交ぜたアクションコメディであるため、テンポ良く次から次へと派手な見せ場が続きます。
また映画の舞台であるシアトルに実在する市のショッピングモールであるパシフィック・プレイスやシアトル中央部に位置する塔スペースニードルが登場するなど観光映画としての機能も持ち合わせています。
映画『ロボシャーク vs. ネイビーシールズ』のあらすじとネタバレ
大気圏上空に現れた正体不明の宇宙船から、太平洋に向けて偵察ポッドが射出されました。
海中で行動を開始するドロイド。その突如、出現した巨大ホホジロザメに飲み込まれてしまいます。アメリカ海軍の潜水艇を回転ノコのような歯で食いちぎり、乗っていた乗組員は悲鳴を残して行方不明に。
ペンタゴンではこのサメの進行方向にある都市を特定していました。目的地はシアトル。
ニュースリポーターのトリッシュは、お天気お姉さんのイメージを払拭するために特ダネで名を挙げようと意気込んでいました。シアトルで水道局員として働く夫のリックは太平洋と繋がる水道管で何かが逆流しているのを発見します。
トリッシュは街に海軍が配備されているのを目にし、それが朝、娘が見ていた飛行機を襲う変異種のサメの映像と関係があるのではないかと睨み、夫に相談します。
報道局のバンを近くに停め、向かいのカフェにコーヒーを買いに行く取材クルー。トリッシュが彼らのもとへ駆け寄った途端カフェの地面が割れ、そこから出現した変異種のサメに店員と客が飲み込まれてしまいました。
辺りは騒然としますが、その後駆けつけた消防隊はガス管の破裂が原因だといい、現場でサメをみたというトリッシュの話を一蹴します。
局のライバルリポーター、ヴェロニカに仕事を奪われるトリッシュ。今度はサメの向かう場所に先回りし、証拠映像を捉えようとしますが、時すでに遅し。下水処理場で作業員を食らい、サメは消えてしまいました。
娘から送られてきた映像を見てトリッシュはサメがネット上でロボシャークと呼ばれていることを知ります。一方妻の身を案じるリックの職場に海軍が乗り込んできました。水道局を作戦基地にし、ロボシャークを駆逐するためにです。
ショッピングモールに現れるロボシャーク。娘メロディの協力もあってロボシャークの生中継に成功するトリッシュ。その動画をYouTubeに投稿したところ、瞬く間に拡散され、世界中で様々な反応がされるのでした。
ある人は「フェイクだ」と。ある人は「ハイオク魚だ。バイオ株を買え。」そしてまたある人は「大衆を操る企業の陰謀だ」「政府がシアトルを潰そうとしている」
海軍は部隊をモールへ送りましたが、作戦は失敗。サメを取り逃がしてしまいます。そこへ“世界を動かす 本物の権力者”がサメ退治に乗り出すのでした。
実業家にして、妻と共同で財団を経営していそうな世界一の大富豪ビル・グレイツ。彼はドローンを使い、公園にサメを誘導します。レーダーで捕捉するロボシャーク。ドローンを一飲み、ビル・グレイツをも食い殺してしまいました。
映画『ロボシャーク vs. ネイビーシールズ』の感想と評価
タイトルは大喜利&B級サメ映画の世界
映像ソフト売り場においても、ひと際異彩を放つモックバスター映画群。
モックバスターとはメジャー大作映画に便乗して製作されたジャンル映画を指し、近年だと『ゴジラ キングオブモンスターズ』(2019)に合わせて作られた『ロード・オブ・モンスターズ』(2019)や『パシフィック・リム:アップライジング』(2018)公開時にぶつけられた『アトランティック・リム』(2018)などがそれにあたります。
ポスターアートやタイトルもそれを踏まえたものになるので、パチモン感がクセになる。ちょいパチ感が言い表せない謎の喜びを与えてくれます。(似たパッケージに騙されて、本家と勘違いして観てしまった人の怒りは計り知れないものですが。)
サメ映画におけるモックバスターは独自に進化してきた歴史があります。
個性豊かなサメたち
参考画像:ロジャー・コーマン『シャークトパス』(2010)
映画の規模を問わず、サメ映画に登場するサメのほとんどはホホジロザメをモチーフとしています。
有象無象乱立するサメ映画の中でサメをキャラクターとしてサメを際立たせようとした結果、B級映画の帝王ロジャー・コーマン製作のもと『シャークトパス』(2010)のような合体生物モノ、だんだん頭が増えていった『シックスヘッド・ジョーズ』(2018)架空生物との対決モノへとサメ映画は、わき道に逸れながら発展していきました。
こういった作品が目指しているのは他の映画では決してできないようなジャンルとしての意地、見世物根性です。
大衆向けの映画では反感を買うのを恐れてできないような不謹慎なギャグ、ブラックユーモアをふんだんに使い、予算という現実に向き合いながら、わざわざ特撮という“金も手間もかかるジャンル”を通して何とか面白いものを作ってやろうと奮闘しているのです。
こういうと立派そうに聞こえますが、実際の映画は「ホエール(鯨)が吠えーる」といった、ご機嫌なシャレをカマすようなメンタリティなので、ヘンテコながらも存在自体がすごく貴重なモノだというジャンル自体の希少価値を忘れてしまいがちです。
希少価値といいますと、この世の中でロボット化したサメが観れる映画は今作と『メガ・シャークVSメカ・シャーク』(2013)のたった二本しかありません。
参考映像:『メガ・シャークVSメカ・シャーク』(2013)
この二作は分かり易く比較することが出来ます。ゴジラ映画で例えるなら、今作のロボシャークは人類の敵なので昭和メカゴジラ。『メガ・シャークVSメカ・シャーク』(2013)に登場するメカ・シャークはメガ・シャークに立ち向かう人類側の兵器として登場するので平成ゴジラ(特に機龍)の趣があります。
サメ映画におけるモンスター、サメは他のモンスターと比べて最も感情を読み取ることが出来ない、一切話の通じる余地がない脅威として描かれます。
その点に関して画期的であった今作。サメ本人にDMを送るなどというギャグにして茶化してはいますが、無心に人を食らうサメにも心を通わせる可能性が開けているのではないかということを提起していました。
最終的には討伐されてしまいますが、サメの(あるかもしれない)心を描いた作品は珍しいです。
まとめ
モックバスター映画の見世物根性について書きましたが、すべての映画が見世物根性に基づいて作られているわけではありません。予算や手間の問題から派手な見せ場を撮れないという状況はよくあります。
そういったシーンはその光景を目にする人のリアクションをアップで撮り、登場人物に口頭で説明させるなどで胡麻化している低予算映画は少なくありません。
本作も多少至らないシーンはありますが、何が面白いかを伝えるに十分な見せ場は保障されています。
怪獣側の描写を充実させるため登場人物が書き割りのようになってしまいがちな怪獣映画というジャンルの作品として観ても、天気キャスターは若いうちにしかできない仕事、他の若い子に奪われる前にリポーターとしての自分を売り込みたいと奔走する女性キャスターとそのライバルを丁寧に描かれており、そこから「お天気お姉さん」という職業が持つエイジズムや性差別の問題をほのかに感じさせるだけの厚みがありました。