連載コラム「B級映画 ザ・虎の穴ロードショー」第111回
深夜テレビの放送や、レンタルビデオ店で目にする機会があったB級映画たち。現在では、新作・旧作含めたB級映画の数々を、動画配信U-NEXTで鑑賞することも可能です。
そんな気になるB級映画のお宝掘り出し物を、Cinemarcheのシネマダイバーがご紹介する「B級映画 ザ・虎の穴ロードショー」第111回は、ジャイルズ・アンダーソン監督が演出を務めた、映画『ウルブズ・オブ・ウォー』です。
舞台は第二次世界大戦末期。イギリス政府に敵地の偵察を命じられた英雄のウォレスは、冷徹な上司ノーウッド大尉と凄腕の狙撃手ディーガンらと共に敵地へと向かうも、ナチス軍の猛攻を受け彼らを乗せた輸送機は不時着してしまいます。
窮地を切り抜けたのも束の間、ノーウッドの口から語られた本当の任務は、「奪われた核兵器の資料の奪還」であり、その結果に関わらず数時間後に一帯が空爆されるという絶望的な事実だったのです。
2022年製作のイギリスの戦争アクション映画『ウルブズ・オブ・ウォー』のネタバレあらすじと作品解説をご紹介いたします。
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映画『ウルブズ・オブ・ウォー』の作品情報
(C) 2022 PP2020 LTD ALL RIGHTS RESERVED
【公開】
2022年(イギリス映画)
【脚本】
ベン・モール
【監督】
ジャイルズ・アンダーソン
【キャスト】
エド・ウェストウィック、ルパート・グレイヴス、マット・ウィリス、サム・ギッティンズ、ジャック・パール
【作品概要】
『ザ・デア-理由なき監禁-』(2019)のジャイルズ・アンダーソンが監督を務めた、イギリスの戦争アクション作品です。
大人気テレビドラマ「ゴシップガール」シリーズや、『ルーキー・ハウス・ガール』(2011)のエド・ウェストウィックが主演を務めています。
映画『ウルブズ・オブ・ウォー』のあらすじとネタバレ
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1945年、第二次世界大戦末期。1人でナチス・ドイツ軍の戦車20台を爆弾を使って撃破し、何百人のドイツ兵を殺した「戦争の英雄」ジャック・ウォレス軍曹は、イギリス政府から敵地の偵察を命じられ、冷徹な上司のノーウッド大尉と凄腕の狙撃手ディーガン伍長らと共に敵地へ向かいました。
しかしその道中、地上にいるナチス・ドイツ軍の猛攻を受け、ウォレスたちを乗せた輸送機は不時着してしまいます。
ナチス軍の猛攻によって通信兵が、不時着した先にいた民兵によって衛生兵のリース・オーウェンズが、それぞれ死んでしまいました。
ウォレスと兵士ではない謎の同行者、ノーウッドも謎の腕章をつけた民兵2人と遭遇。死闘の末に民兵たちを倒し、教会でディーガンと無事合流できました。
ですがウォレスは、若い民兵と、叔母に預けてきた12歳の娘マーサを重ねて見てしまい、複雑な感情で彼らの遺体を川に捨てました。
そんな窮地を切り抜けたのも束の間、ノーウッドの口から驚きの真実が告げられます。
ウォレスたちの本当の任務は、この戦争の勝利に貢献できるドイツ在住のアメリカ人科学者ホッパー教授の確保と、奪われた高性能爆薬「TNT(トリニトロトルエン)」120万トンを使った世界初の核兵器の資料を奪還すること。
その結果にかかわらず、明晩にはイギリス空軍がホッパー教授とその娘ハンナもろとも、彼らがいる基地とその周辺一帯を空爆するというのです。
そして謎の同行者の正体は、ホッパー教授の顔を知っている科学者のボブ・コナー教授だと、ノーウッドはいいます。
しかしホッパー教授とその資料をソ連軍も狙っているため、彼らより先にホッパー教授を確保し、資料を奪還しなければなりません。
ウォレスたちは周囲を警戒しつつ、急いで教会から10キロ弱離れた基地に向かいます。
しかし時すでに遅し。ウォレスたちが基地に到着したのはソ連軍の偵察部隊が襲撃した後でした。
ところが奥へ進むと、ソ連軍の偵察部隊の死体を発見。オーウェンズと同じく、服に民兵の腕章の印を血で記した紙が体の上に置かれていました。
ソ連軍の偵察部隊を倒すほどの強さがある民兵とは、一体何者なのか。そう疑問に思ったウォレスたちは、手がかりを求めて、イギリス特殊作戦執行部(SOE)のメンバーであるハンガリー人の農場に向かいました。
しかしそこにいたのは、彼の妻シュレジンガーただ一人。彼は6年前に亡くなっていました。
その日の夜。シュレジンガーに家に招待され、彼女の手料理をご馳走になったウォレスたちは、ホッパー教授と民兵について尋ねました。
すると数日前、大勢の民兵がホッパー教授を取り囲んで、この農場の前を通り過ぎていったのを見たというのです。
また民兵とは、劣勢のドイツがドイツ国家元首のアドルフ・ヒトラー総統の命令により、怒れる貧しい若者を集めて結成した組織だといいます。
組織名は「狼の天使」。リーダーの名前はフォン・ザックスという若者です。
喪失感を抱えた若者は現実逃避し、プロパガンダに洗脳されてしまったため親が止めても聞く耳を持ちません。
シュレジンガーの息子ハンスも、その1人です。それを聞いたウォレスは、シュレジンガーとハンスの親子が肩を並べているツーショット写真を見てハッとします。
なんとノーウッドが森での死闘の末に殺した民兵は、ハンスだったのです。ウォレスは、ここ10ヶ月ほど彼女が音信不通になったのは、ナチス党員である彼が原因だったと推測します。
シュレジンガーのことを信用できないというウォレスに対し、ノーウッドは「俺に考えがある」と言って彼女を任務に同行させることにしました。
以下、『ウルブズ・オブ・ウォー』ネタバレ・結末の記載がございます。『ウルブズ・オブ・ウォー』をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。
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翌日。ウォレスたちは基地にホッパー教授とハンナがいることを目視で確認した上で、ウォレスとノーウッドの2人で見張りの兵士を排除します。
そして彼らから腕章を奪い、民兵に成りすましました。そこへ時間ピッタリに、シュレジンガーが大量のワインをトラックに載せて現れます。
シュレジンガーがハンスの母親だということもあってか、警備兵はあっさり通してくれました。
警備が厳重な基地内部に侵入することができたウォレスたちは、シュレジンガーを倉庫に残し、急いでホッパー教授たちのもとへ向かいます。
ホッパー教授たちは突如現れたウォレスたちに基地からの脱出を促され困惑するも、コナー教授の「研究はアメリカに帰国してからしましょう」という言葉で脱出を決意しました。
あとは作戦どおり、ホッパー教授たちを空箱に隠して、来た時と同じようにトラックに乗って基地から出るだけです。
ウォレスとコナー教授が箱を持ち上げた瞬間、1人の民兵が声をかけてきます。
その民兵は「狼の天使」のリーダーのザックス。農場までの道中で、ウォレスたちの目の前で女子供を撃ち殺した男でした。
ザックスはドイツ語で、シュレジンガーに他愛もない話をしてきたかと思いきや、コナー教授の箱を持つ手が震えていることを指摘し、箱の扉をノックします。
当然、ホッパー教授たちからの応答はなし。ザックスは冗談だと笑い飛ばし、ウォレスに一緒にワインを飲まないかと誘います。
さらにザックスは、シュレジンガーに「喪中だろう?」と言いました。シュレジンガーがなんのことだと尋ねると、「あんたの息子のハンスは、イギリス人に殺されたよ」とザックスは答えました。
そしてザックスは、シュレジンガーに銃を渡して「敵を討て」と囁き、ノーウッドの前に彼女を突き出したのです。
ですが、シュレジンガーが引き金をひいたのはノーウッドではなく、彼の背後に立つザックスでした。
あらかじめこうなると予測してか、ザックスが渡した銃に弾は入っていなかったのです。
シュレジンガーがザックスに襲いかかった直後、ウォレスたちはこちらに銃口を向けていた彼の部下を2人射殺。ホッパー教授たちを箱から出して逃走を図りました。
大勢の民兵と銃撃戦を繰り広げつつ、ウォレスたちは少しずつトラックまで後退。それをディーガンが狙撃で援護します。
しかしトラックまで後少しというところで、シュレジンガーが胸を撃たれてしまいました。
シュレジンガーはウォレスに「ハンスのために私は残る」と言い、機関銃を乱射して彼らを逃がすための時間を稼ぎます。
しかしザックスに左の太腿を撃たれ、さらに至近距離で頭を撃たれて死んでしまいました。
この間、ディーガンにも魔の手が迫りましたが、敵が来るより先に別の場所に移動したため難を逃れました。
最初の曲がり角でディーガンはトラックの助手席に飛び乗り、ウォレスと無事合流しました。
ウォレスたちは一度トラックから降りて、近くの茂みの中に隠れます。
そして民兵たちが車から降りて、警備室に近づいた瞬間を狙って、あらかじめ仕掛けておいた爆弾を起爆させました。
さらに警備室を爆破したことによって生じた爆風を煙幕代わりにして、ウォレスたちは再びトラックに乗り込み、基地から脱出します。
しかし安堵したのも束の間、バイクに乗る民兵2人が新たに現れ、トラックの荷台にいるウォレスたちを銃撃してきたのです。
カーチェイスを繰り広げていくウォレスたち。しかしバイクの方がトラックの走行速度より速く、どんどん距離を詰められていきます。
再び窮地に陥ったウォレスたちを救ったのは、黒い馬に乗って現れたディーガンでした。
ディーガンの馬上からの狙撃で民兵1人死亡。残る運転手は、ホッパー教授が撃ち殺しました。
そしてウォレスたちは、シュレジンガーの家の前でディーガンと無事合流しました。
しかしトラックから降りた直後、ウォレスたちはハンナの叫び声でホッパー教授が実は銃撃を受けていたことに気づきます。
すぐに家の中に入り、皆で必死に救命措置を行おうとしました。しかし既に腹に負った傷から大量出血していたホッパー教授を助けることはできず、彼は娘に「彼らに協力を」と言って息を引き取りました。
ハンナは父の死に悲しみに暮れつつ、自分を守り、気持ちに寄り添ってくれたコナー教授に、父の研究の全てが記されたノートを託しました。
ノーウッドとウォレスは無線機を使って、大使館にいる諜報部に救援要請を行おうとしたその時、ハンナとコナー教授の口から、「すでに核兵器は試作され、近くの掩体壕にある」と知らされたのです。
タイムリミットが刻一刻と迫るなか、ウォレスたちは核兵器の試作品を回収しに行きます。
しかし掩体壕には核兵器の試作品はなく、代わりにハンナの子供オットーとリサを発見。
核兵器の試作品があるというのは、子供たちを掩体壕から連れ出すためについたハンナの嘘だったのです。
ハンナは素直に騙したことを謝罪し、「お願い、この子たちも一緒に連れて行って。このままでは殺されてしまう」と、ノーウッドに嘆願します。
同じく娘を持つ親であるウォレスの説得と、コナー教授の「彼女は父親と同じくらい爆弾に詳しい」という言葉を聞いて、ノーウッドは彼女の要求を受け入れることに決めました。
しかし掩体壕から出ようとした瞬間、階段の上から手榴弾が投げ込まれます。
空爆まであと10分。別の出口から脱出を試みたウォレスたちでしたが、既に民兵たちが待ち構えていました。
ザックスは「投降すれば女と子供は助かる。だが抵抗すれば、数分のうちに皆殺しにしてやる」と脅迫します。
ハンナとその子供たちを救うため、ウォレスたちは彼らに投降しました。この危機を打開する策として、コナー教授は発煙筒をあげて鞄まで走ろうと提案します。
ノーウッドはその案を受け入れ、皆を救うために自ら囮となりました。
ザックスがノーウッドを殺そうとした瞬間、ハンナはウォレスから渡されていた銃を使って、ザックスの左足を撃ちます。
ノーウッドはザックスから銃を奪って人質にし、ドイツ語で彼の部下たちに「その場から動けばこいつを殺す」と脅しました。
その隙にウォレスたちは発煙筒が入った鞄を回収し、ハンナたちを連れてその場から少しずつ後退します。
ザックスは自力でノーウッドの手から逃れ、部下たちに女以外は皆殺せと命じました。
銃撃戦の最中、コナー教授は腕を撃たれ、発煙筒が入った鞄を落としてしまいます。
しかし敵の数は多く、おまけにバズーカ砲まで使ってくるため、ウォレスたちは鞄を取りに行きたくても行けず………。
空爆まであと5分。ノーウッドは自殺行為だと理解した上で、敵との間にある鞄を取りに行きました。
ノーウッドがロックオンされた瞬間、ディーガンがバズーカ砲を狙撃して破壊します。
しかしその直後、オットーが落としたぬいぐるみを拾おうと、民兵たちの前に躍り出てしまったのです。
オットーに狙いを定めるザックス。それに気づいたディーガンは狙撃しようとしましたが弾切れだったため、身を挺して彼を守ります。
ディーガンは、すぐさま駆け寄ってきたウォレスに「お前は”戦争の英雄”だ」と言い、息を引き取りました。
そしてついに、ノーウッドまで撃たれてしまいます。ノーウッドは地面を這いつくばって何とか発煙筒を手にしました。
しかしその瞬間、ザックスにとどめをさされ、ノーウッドは死んでしまいます。
万事休すかと思いきや、発煙筒から緑の煙が上がりました。ノーウッドが死ぬ直前にピンを引き抜いていたからです。
しかし爆撃機のパイロットが発煙筒の煙に気づいた時には、既に爆弾を投下したあとでした。
爆弾が投下されたことに気づいたウォレスたちとザックスたちは、戦いをやめて慌てて建物の中や影に身を隠します。ザックスは直前で部下たちに裏切られ、爆死しました。
この空爆によって敵は一掃されたものの、ウォレスは瀕死の状態に陥ってしまいます。
ウォレスは、必死に自身の腹の傷口を押さえて止血しようとしているコナー教授の姿と、救援に来た爆撃機を見て、意識を失いました。
第二次世界大戦中、英連邦軍人181名にビクトリア十字章が授与されました。そのうちの約半数は命を犠牲にした者で、死後に贈られました。
1945年5月8日、欧州における第二次世界大戦が終結。イギリス兵が帰国できたのはその数ヶ月後でした。
イングランドに帰国し、マーサが待つ家に戻ることができたウォレスは、抱きついてきた娘をそっと抱き締めました。
映画『ウルブズ・オブ・ウォー』の感想と評価
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ウォレスたちに課せられた「奪われた核兵器の資料の奪還」と、その核兵器を研究する天才科学者のホッパー教授の確保という任務は、想像以上に危険極まりないもので、見ている者を終始ハラハラドキドキさせてくれます。
しかも物語の序盤で通訳に必要な通信兵と衛生兵を失ったため、彼らは援軍を呼ぶことも、誰かが傷を負っても的確な治療を受けることもできません。
部隊としてはまさに最悪な状況。それでもウォレスたちが敵地を脱するには、任務を遂行するしか選択肢がないのです。
ウォレスたちは作中で、何度も何度も絶体絶命のピンチに見舞われ、そのたびに皆で知恵を振り絞り乗り越えてきました。
ですが脱出まであと一歩というところで、ホッパー教授にディーガン、ノーウッドが敵に殺されてしまうのです。
そして主人公のウォレスも、空爆によって負った傷で瀕死状態に陥ってしまいます。
あともう少しで、みんなで無事に敵地から脱出できたのにと、悔しくて悲しくて、無念さが募らせてます。
ウォレスたちイギリス兵とザックスたち民兵による激闘の数々と、ディーガンが仲間を襲う敵を的確に狙撃していく様は勇ましく、戦争アクションものとして十分楽しめる一方で、ウォレスの仲間や任務の協力者が次々と命を散らしていってしまう姿に悲し差が滲みます。
まとめ
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敵地の中で孤立無援となったイギリス兵たちが、絶望的なまでに危険な任務に挑む、イギリスの戦争アクション作品でした。
ウォレス役のエド・ウェストウィック、ノーウッド役のマット・ウィリス、ディーガン役のサム・ギティンズ、コナー教授役のジャクソン・ビーズの演技力の素晴らしさはもちろん、それぞれが演じるキャラクターに合致していて感情移入しやすいです。
また冷徹な上司という設定のノーウッドですが、物語の後半では自殺覚悟で任務の対象外であるハンナとその子供たちを守ろうとした人情深さもあります。
コナー教授は最初銃も殺し合いも怖がっていたのに、物語が進んでいくにつれてウォレスたちの立派な戦力となっていきました。
スリルと迫力があるアクション場面はもちろん、そういったキャラクターたちそれぞれの良さを味わえるところも本作の見どころとなっています。
エド・ウェストウィックら演じる俳優がハマり役で、キャラクターたちに感情移入しやすく、物語の世界観にどっぷりと没入することができる戦争アクション映画が観たい人にとてもオススメな作品です。
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