連載コラム「邦画特撮大全」第93章
今回の邦画特撮大全は『セイバー+ゼンカイジャー スーパーヒーロー戦記』(2021)を紹介します。
2021年7月22日(木)より劇場公開されている『セイバー+ゼンカイジャー スーパーヒーロー戦記』。
本作は生誕50周年を迎えた仮面ライダーシリーズと、通算45作品に到達したスーパー戦隊シリーズのクロスオーバー作品です。
例年であれば毎年夏は仮面ライダーとスーパー戦隊の劇場版が2本立てで公開されているのですが、今年2021年は両シリーズにとってアニバーサリーイヤーであるため、このような作品が企画されました。
『スーパーヒーロー戦記』の作品情報
【公開】
2021年(日本映画)
【原作】
石ノ森章太郎、八手三郎
【監督】
田崎竜太
【脚本】
毛利亘宏
【出演】
内藤秀一郎、駒木根葵汰、山口貴也、川津明日香、青木瞭、生島勇輝、富樫慧士、岡宏明、市川知宏、アンジェラ芽衣、庄野崎謙、増子敦貴、浅沼晋太郎、梶裕貴、宮本侑芽、佐藤拓也、福圓美里、鈴木福、谷田歩、横田真悠、奥野壮、高橋文哉、鈴木勝吾、水石亜飛夢、石丸謙二郎、宇梶剛士、ささきいさお、谷中敦、誠直也、知念里奈、榊原郁恵、藤岡弘、
【作品概要】
生誕50周年を迎えた“仮面ライダーシリーズ”と通算45作品に到達した“スーパー戦隊シリーズ”のクロスオーバー作品。
現在放送中の『仮面ライダーセイバー』、『機界戦隊ゼンカイジャー』の2作品からメインキャストが集結したほか、謎の少年役に鈴木福、敵役アスモデウスにドラマ『下町ロケット』(2015)などで知られる谷田歩が出演。また藤岡弘、をはじめとする歴代ヒーローたちも競演。
監督は『仮面ライダージオウ Over Quartzer』(2019)の田崎竜太。脚本は『宇宙戦隊キュウレンジャー』(2017)の毛利亘宏。
『スーパーヒーロー戦記』のあらすじとネタバレ
小説家の神山飛羽真/仮面ライダーセイバーはスランプに陥っていました。小説家は物語にとって神、人を助けるために仮面ライダーとして活動しているのに、物語の登場人物を苦しめるのは矛盾しているのではと考え始めていたからです。
ユーリ/仮面ライダー最光から面白いと渡された『機界戦隊ゼンカイジャー』という本。この本を開くと、飛羽真とユーリ、担当編集の須藤芽依の3人は“ゼンカイジャーの世界”へ飛ばされてしまいました。
3人はゼンカイジャーのメンバー、ジュラン/ゼンカイジュランと出会います。怪人が出現したため戦う飛羽真たちでしたが、その最中ユーリの姿は消え、スケッチブックを持った謎の少年“ショウタロウ”が現れるのでした。
一方、五色田介人/ゼンカイザーたちジュラン以外のゼンカイジャーも本を開いたことで“セイバーの世界”へ来てしまいました。セッちゃんを使ってお互いの世界と交信を始めます。
世界に危険を及ぼす“禁書”が収められたアガスティアベースの衛士・アスモデウスが反乱を起こし、禁書の封印を解いてしまったのです。
その禁書とは35冊の『仮面ライダーの書』と45冊の『スーパー戦隊の書』。この禁書が解かれたことにより、物語と現実の境界線が曖昧となり、やがて現実世界は崩壊してしまうのです。
異常事態はさらに発展し、介人たちゼンカイジャーと新堂倫太郎/仮面ライダーブレイズは『西遊記』の世界へ飛ばされてしまいます。オーマジオウ(『仮面ライダージオウ』)から、天竺を目指す三蔵一行のお供をするように言われる介人たち。しかし現れた三蔵一行はモモタロスたち『仮面ライダー電王』のイマジンでした。
一行の動きを阻止するためアスモデウスの配下・戦隊メギドの襲撃を喰らいますが、常盤ソウゴ/仮面ライダージオウの加勢を得て敵を倒し、無事天竺の経典=禁書を手に入れます。
一方、飛羽真たちとジュラン、ショウタロウは『八犬伝』の世界へ。『宇宙戦隊キュウレンジャー』のショウ・ロンポーとラプター283を助けたことから、彼らが求める“本を持つ八犬士”を探すことになります。
本とは禁書のことで、禁書を持つドギー・クルーガー/デカマスター、谷千明/シンケングリーン、押切時雨/キラメイブルーら歴代ヒーローたちが集まります。
飛羽真たちに同行していたショウタロウはみんなの活躍をスケッチしていましたが、「たしかに格好良いけど僕の描きたいヒーローじゃない」と心情を吐露しました。
飛羽真たちを阻止しようと、アスモデウスの部下・ライダーワルドが一行を襲います。ジュランも本を持つ犬士のひとりだということが発覚し、そこから発想を得たショウタロウがショウ・ロンポーとラプター283の2人を八犬士にしてしまいます。
そして犬士のひとり飛電或人/仮面ライダーゼロワンも加勢に現れ敵を撃破。一行は8冊の禁書を手に入れたのです。
※以下、ネタバレ
『スーパーヒーロー戦記』の感想と評価
『仮面ライダークウガ』(2000)の放送開始前日を起点に虚と実を交差させ平成ライダー20全てを総ざらいした『仮面ライダー平成ジェネレーションズFOREVER』(2018)、そこから“平成ライダーとは何だったのか”というテーマをより深化させた『仮面ライダージオウ Over Quartzer』(2019)。
本作『スーパーヒーロー戦記』は、この2作品の系譜にある作品だと思われます。
本作の内容を端的に述べると、それは原作者である石ノ森章太郎が描いてきたヒーローとはなにかに尽きるでしょう。
『仮面ライダー』(1971)と『秘密戦隊ゴレンジャー』(1975)を出発点に半世紀にも亘って続く仮面ライダーシリーズとスーパー戦隊シリーズ。この2シリーズだけでなく、原作者である少年時代の石ノ森章太郎の物語が交差していく複雑な世界を展開しています。
物語の中盤で「格好良いけど僕が描きたいヒーローじゃない」と、鈴木福の演じるショウタロウは旅の中で出会ったヒーローたちのスケッチを破いてしまいます。
ショウタロウが出会ったヒーローたちは、仮面ライダーセイバーとゼンカイジャーたちをはじめ全員、石ノ森章太郎が亡くなられた1998年以降に登場したヒーローなのです。
そして彼らに出会ったショウタロウは高校2年生で、まだ仮面ライダーと秘密戦隊ゴレンジャーを生み出す前です。
一見、石ノ森章太郎が存命なら現在の仮面ライダーや戦隊モノへ苦言を呈したのではと思わせる描写ですが、ここは自分の描きたいヒーローを生み出す前に発展していった現在のヒーローを見てしまい困惑している描写と言えるでしょう。
そしてショウタロウが神山飛羽真/仮面ライダーセイバーの助言のもと出した結論は、「悪のにおいがするヒーロー」という自身の創作意欲に迷いを生じさせたものです。
悪の側面を持つヒーロー、それは絶対的な正義を持つ存在ではなく、感情があり時に傷つき時に迷う、人間そのものなのです。
ヒーローを描くことをやめたショウタロウを説得したのは、『仮面ライダーセイバー』の主人公・神山飛羽真でした。
これは飛羽真の本業は小説家で、創作活動をするショウタロウの思いを誰よりも理解できる人物だからです。そして『仮面ライダーセイバー』本篇には「ワンダーワールド」という本の中の異世界が登場し、現実世界と異世界を交差させています。
つまり本作『スーパーヒーロー戦記』の物語とその構造は、現在の仮面ライダーが『仮面ライダーセイバー』でなければ成立しなかったと言えるのです。
まとめ
ヒーロー誕生させる以前の石ノ森章太郎という“過去”と放送中のヒーロー『仮面ライダーセイバー』と『機界戦隊ゼンカイジャー』という“現在”、そしてサプライズ登場した次作『仮面ライダーリバイス』という“未来”。
3つの時間軸と虚と実が交差する複雑な構造で、歴代ヒーローが競演するお祭り作品でもありますが、本作『スーパーヒーロー戦記』は「ヒーローとは何なのか」に真摯に向き合った作品と言えるでしょう。