連載コラム「邦画特撮大全」第89章
今回の邦画特撮大全は『ウルトラマンティガ』(1996~1997)を紹介します。
今年2021年7月10日(土)より放送開始される『ウルトラマントリガー NEW GENERATION TIGA』。この作品は、誕生から25周年を迎えた人気作『ウルトラマンティガ』の真髄を継ぐものとして企画されました。
そこで今回は『ウルトラマントリガー』の原点である『ウルトラマンティガ』が、その後のウルトラマンシリーズにもたらした影響について解説・紹介していきます。
CONTENTS
『ウルトラマンティガ』の作品情報
【放送】
1996年~1997年
【監修】
高野宏一
【監督】
松原信吾、村石宏實、川崎郷太、岡田寧、神澤信一、冬木椴、北浦嗣巳、原田昌樹、石井てるよし、実相寺昭雄、満田かずほ
【特技監督】
高野宏一、神澤信一、村石宏實、北浦嗣巳、川崎郷太、大岡新一、服部光則、佐川和夫
【脚本】
右田昌万、小中千昭、宮沢秀則、川上英幸、武上純希、兒玉宜久、河崎実、中崎一嘉、神澤信一、太田愛、長谷川圭一、斎藤和典、薩川昭夫、大西信介、上原正三
【キャスト】
長野博、吉本多香美、高樹澪、大滝明利、増田由紀夫、影丸茂樹、古屋暢一、石橋けい、川地民夫、タケ・ウケタ、岡部健、北川たか子、京本政樹、長内美那子、小倉一郎、高野浩幸、高良隆志、岡村洋一、二又一成
『ウルトラマンティガ』がもたらした革新
2021年現在から25年前の1996年に放送された『ウルトラマンティガ』。90年代の円谷プロは、『ウルトラマンG(グレート)』(1990)や『ウルトラマンパワード』(1995)などの海外との合作、映画『ウルトラマンゼアス』(1996)、ビデオ素材による新ヒーロー『電光超人グリッドマン』(1993~1994)などを展開していました。しかし純粋な国内製作によるウルトラマンのTVシリーズは、この『ウルトラマンティガ』が『ウルトラマン80』(1980)以来16年ぶりだったのです。
16年ぶりのウルトラマンということもあり、スタッフは「現在のウルトラマン」を作ろうとこれまでのシリーズの設定を一新し、企画をゼロからスタートさせました。
まずウルトラマンティガの基本設定を見てみましょう。ティガはこれまでのウルトラマンと違い、M78星雲の出身ではありません。ティガは3000万年前に地球を訪れた光の巨人が復活した存在です。『帰ってきたウルトラマン』(1971)以降のウルトラマンシリーズは「ウルトラ兄弟」の設定が導入され、歴代ウルトラマンの客演や人気怪獣の再登場などが盛り込まれていました。しかし『ウルトラマンティガ』では過去作とのつながりを一切断ち、独立した世界が展開されます。そのため第49話「ウルトラの星」(脚本:上原正三)の例外を除いて、歴代ウルトラマンも過去作の人気怪獣も全く登場しないのです。
今日のウルトラマンシリーズではもはや当たり前となった、「タイプチェンジ」が導入されたのも『ウルトラマンティガ』が初。また高樹澪の演じる防衛チームGUTSのイルマ・メグミ隊長は、ウルトラマンシリーズ初となる女性隊長でした。このようにシリーズ初となるさまざまな新要素が導入されたのが『ウルトラマンティガ』なのです。
そして主演にジャニーズ事務所所属のタレントが選ばれたのも大きな転換と言えましょう。マドカ・ダイゴを演じたのはV6のメンバーであった長野博です。これは今日のイケメンヒーローブームに先鞭を打ったものと言えるでしょう。
大河的な物語とバラエティ豊かな作品群
次に『ウルトラマンティガ』の物語構成について述べていきましょう。『ウルトラマンティガ』では“超古代文明”という縦軸の要素が、第1話から最終回まで貫徹されています。これまでのウルトラマンシリーズは1話完結のバラエティ豊かなエピソードで構成されていましたし、『ウルトラマンA』『ウルトラマン80』など、当初の設定が残念ながら途中で放棄されてしまう場合もありました。『ウルトラマンティガ』では、第3話「悪魔の預言」からシリーズに参加した脚本家・小中千昭を中心に、一貫した設定のもとで物語を展開していきます。こうした大河ドラマ性は、後に小中千昭がシリーズ構成も担当した『ウルトラマンガイア』(1998~1999)でより強化されていくことになります。
ウルトラマンシリーズが休眠中だった80年代に入ると、スーパー戦隊シリーズをはじめ他社のヒーロー番組では大河ドラマ性が強化されていきました。『ウルトラマンティガ』で見られた大河ドラマ的な物語構築は、スタッフや視聴者の意識の変化から来る時代の要請であったとも思われます。
一方で『ウルトラマンティガ』は従来のシリーズ同様にバラエティ豊かなエピソードも充実しています。巨匠・実相寺昭雄による第37話「花」と第40話「夢」の2つの異色編、『帰ってきたウルトラマン』のメインライター・上原正三の脚本による第49話「ウルトラの星」などはその代表例と言えます。特に後者は円谷英二と初代ウルトラマンが登場するという、作品設定から考えるとイレギュラーな展開のエピソードでした。また主演の長野博の多忙なスケジュールから、他のレギュラーキャストを中心に据えたエピソードを展開せざるを得なかったという事情も、結果的に『ウルトラマンティガ』の作品世界を奥行きあるものにしました。
「光と闇の戦い」を描く神話
『ウルトラマンティガ』の完結は、第50話「もっと高く!~Take Me Higher!~」から第52話「輝けるものたちへ」まで3話分の分量を費やして描かれます。前述したように大河ドラマ性を強化から、最終回にいきなり最後の強敵を登場させるのではなく、徐々に盛り上げていく作劇となっているのです。さらにこれまでのゲストキャラクターたちをただの「顔見せ」ではなく、物語上しっかりと役割を持たせた上で再登場させ、それまでバラバラに見えた各エピソードをも最終回で収束させるという作りになっています。
『ウルトラマンティガ』の最終回で描かれたのは「光と闇の戦い」でした。古代遺跡から復活した邪神ガタノゾーアとその眷属である怪獣ゾイガーによって、「闇」に閉ざされた世界を取り戻すため、ウルトラマンティガのみならず全人類が立ち上がるというもの。地球平和連合TPCの基地を侵攻する闇、暗雲がたちこめ破壊される世界各地の都市、石像に閉ざされたティガへ飛んでいく子供たちの光。「光と闇の戦い」を観念的なものではなく、具体的な映像を以て展開しています。
『ウルトラマンティガ』が最終回で出した結論は「人間はみんな自分自身の力で光になれる」というもの。世紀末の暗い世相を反映した最終回ではありましたが、絶望感に満ちたものでは決してなく、子供たちが自ら希望の「光」となる明るい未来を思わせるものとなっていたのです。
『ウルトラマントリガー』の作品情報
【放送】
2021年
【監督】
坂本浩一ほか
【キャスト】
寺坂頼我、豊田ルナ、金子隼也、水野直ほか
【作品概要】
2021年で誕生から25周年を迎えた『ウルトラマンティガ』のコンセプトを受け継いで企画されたシリーズ最新作『ウルトラマントリガー』。メイン監督に『ウルトラマンジード』(2017)の坂本浩一監督を迎えた「令和版ウルトラマンティガ」といえる新たな物語が展開されます。
2021年7月10日(土)より全国テレビ東京系にて放送開始。
まとめ
放送から25周年たった現在でも高い人気を誇る『ウルトラマンティガ』。四半世紀前にウルトラマンティガと子供たちが放った「光」を、ウルトラマントリガーはどのようにして継ぐのか。シリーズ最新作『ウルトラマントリガー』に期待がふくらみます。
次回の邦画特撮大全は…
次回の邦画特撮大全は、ウルトラマンシリーズ最新作『ウルトラマントリガー NEW GENERATION TIGA』(2021)の内容を考察・予想していきます。お楽しみに。