連載コラム「邦画特撮大全」第52章
目黒シネマにて2019年6月22日から6月28日までの7日間、“大林宣彦デラックス~キネマの玉手箱~”が開催。
この特集上映は『フィルムメーカーズ 大林宣彦』(宮帯出版社)の刊行を記念したもので、『HOUSE ハウス』(1977)、『時をかける少女』(1983)、『異人たちとの夏』(1988)、『ふたり』(1991)の4作品が上映されました。
今回の邦画特撮大全は『異人たちとの夏』を特集します。
本作は人気脚本家が幼い頃に死別した両親と再会を描いた幻想的でノスタルジックな作品です。『転校生』(1981)や『時をかける少女』(1983)など青春映画のイメージが強い大林宣彦監督ですが、本作は言わば「大人のおとぎ話」。
そんな「大人のおとぎ話」を大林監督と共に紡いだ脚本家・市川森一をキーに、『異人たちとの夏』を紹介したいと思います。
映画『異人たちとの夏』の作品情報
【公開】
1988年(日本映画)
【原作】
山田太一
【脚色】
市川森一
【監督】
大林宣彦
【キャスト】
風間杜夫、秋吉久美子、片岡鶴太郎、永島敏行、名取裕子、入江若葉、林泰文、笹野高史、峰岸徹、高橋幸宏、竹内力、石丸謙二郎、ベンガル、角替和枝、奥村公延、本多猪四郎
映画『異人たちとの夏』の作品概要
テレビドラマ『岸辺のアルバム』(1977)『ふぞろいの林檎たち』(1983)などの脚本で知られる山田太一の小説を大林宣彦が映像化。原作小説は第1回山本周五郎賞を受賞しています。
主人公のシナリオライター・原田英雄役には『蒲田行進曲』の風間杜夫。主人公の良き仕事仲間であるテレビ局のプロデューサー役には永島敏行。原田が幼い頃に死別した両親役は片岡鶴太郎と秋吉久美子。
不思議な雰囲気を持った原田の若き恋人・藤野桂には名取裕子がキャスティングされています。
母親を演じた秋吉久美子は当初、名取が演じた藤野桂役に想定されていました。また片岡鶴太郎の起用は、彼に往年の喜劇俳優・榎本健一のイメージを見出した大林監督によるものです。
そのため本作には榎本健一が舞台『浅草オペラ』で持ち歌にしていた楽曲『リオ・リタ』が用いられています。
また峰岸徹や竹内力、入江若葉といった大林宣彦監督作品の常連キャストや、『ゴジラ』(1954)の本多猪四郎監督がカメオ出演しています。
映画『異人たちとの夏』のあらすじ
人気シナリオライターの原田英雄は妻子と別れてマンションで一人暮らし。彼の部屋へ桂と名乗る若い女性が、飲みかけのシャンパンを持って訪ねてきました。
オフィスビルのため、夜になると原田と桂の2人しかこのマンションにいないのです。しかし原田は桂を冷たくあしらってしまいます。
原田は数日後、浅草の寄席で12歳の時に死別したはずの父親と再会します。父に招かれるまま道を進んでいくと、そこには同じく死別したはずの母もいました。
父とキャッチボールしたり母の手料理を食べたり、原田はそこへ入り浸るようになります。
また原田は以前冷たく追い返してしまった桂と再会し、2人は愛し合うようになります。
幸せなはずの原田ですが、なぜか日に日に衰弱していきます。桂は原田の衰弱の原因が両親だと考えていました。
桂は原田に両親に二度と会わないように忠告します。しかし原田は桂の忠告を聞かずに、両親の元へ会いに行ってしまいました…。
大人のおとぎ話の名手・市川森一
参考映像:『快獣ブースカ』(1966~1967)
本作はシナリオライターが死別したはずの両親と再会する幻想的な体験を描いた物語です。
浅草の風景を赤味の帯びた照明で撮ることによって、ノスタルジックな空気や作り物感を醸し出させています。
衰弱していく原田の特殊メイク、藤野桂の正体が明かされるクライマックスなど、特撮の使用はピンポイントなものになっています。
特殊メイクは“平成ガメラ三部作”などで知られる原口智生によるものです。
また前述のクライマックスシーンには、本作と同年に公開された『帝都物語』(1988)に続いてハイビジョン技術が導入されています。
本作の脚本は原作者である山田太一ではなく、市川森一が担当しました。
市川は山田太一と同じく、テレビドラマを主戦場としてきた脚本家です。映画の脚本を担当したのは本作が初で、本作以後『淀川長治物語・サイナラ』(2000)『その日の前に』(2008)などの大林宣彦監督作品の脚本を手掛けています。
市川のデビュー作は『快獣ブースカ』(1966~1967)です。その後『ウルトラセブン』(1967)や『怪奇大作戦』(1968)など、キャリアの初期は特撮テレビドラマを数多く手掛けていました。
地球で生きる孤独な宇宙人を描いた『ウルトラセブン』第37話「盗まれたウルトラアイ」。
子供に化けた敵がウルトラマンを苦しめる『帰ってきたウルトラマン』第31話「悪魔と天使の間に‥‥」や『ウルトラマンA』最終回「明日のエースは君だ!」などファンの間では名作と呼ばれる話数を数多く手掛けています。
子供向けの特撮作品を離れた後は、萩原健一と水谷豊が共演した『傷だらけの天使』(1974~1975)や『淋しいのはお前だけじゃない』(1982)など数多くの名作ドラマを手掛けていきます。
また『黄金の日日』(1978)『山河燃ゆ』(1984)『花の乱』(1994)とNHK大河ドラマの脚本を3度も担当しました。
市川森一の作風を一言でまとめると「大人のおとぎ話」でしょうか。現実と非現実が交差する幻想的で叙情的な空気や、登場人物たちが抱える寂寥感や孤独感などが、デビューから一貫した市川森一作品の特徴といえます。
参考映像:山田太一 脚本家「戦後70年 語る・問う」2014.11.14
一方で原作者である山田太一が手掛けてきたテレビドラマの特徴は日常を描くというもので、非日常の要素が登場する作品は少ないです。
こうして並べてみると『異人たちとの夏』の持つ要素が、原作者である山田太一よりも市川森一の作風と非常に近かったことがわかります。
市川森一の起用は功を奏し、本作は第12回(1989年)日本アカデミー賞の各賞にノミネートされ市川自身は最優秀脚本賞を、片岡鶴太郎は助演男優賞を受賞しました。
参考映像:#186ドラマティックな生き方 作家・脚本家 市川森一
まとめ
前回紹介した『時をかける少女』(1983)以上に特撮の使用がピンポイントとなった本作『異人たちとの夏』。
山田太一、市川森一、大林宣彦の3人の邂逅が生んだ「大人のおとぎ話」です。
次回の邦画特撮大全は…
次回の邦画特撮大全・第53章は、2019年7月から放送が始まる『ウルトラマンタイガ』を特集します。
お楽しみに。