連載コラム「邦画特撮大全」第33章
先日、東映の新企画“東映ムビ×ステ”が発表されました。これは映画と舞台を連動させた企画で、第1弾『GOZEN』の製作が決定しています。
2019年夏に映画『GOZEN -純恋の剣-』が公開し、同年秋に演劇『GOZEN -狂乱の剣-』が上演される予定です。
発表された出演者には、犬飼貴丈(『仮面ライダービルド』)、武田航平(『仮面ライダーキバ』)、松本寛也(『魔法戦隊マジレンジャー』)、前山剛久(『仮面ライダーウィザード』)、井俣太良(『仮面ライダードライブ』)、元木聖也(『快盗戦隊ルパンレンジャーVS警察戦隊パトレンジャー』)といった多くの特撮経験者が名を連ねています。
一方で矢崎広、井澤勇貴と2.5次元ミュージカルで活躍する俳優も出演します。ただし発表されたキャストは『GOZEN』というプロジェクトに出演する俳優であって、映画・舞台の共通キャストではありません。
映画『純恋の剣』の監督は石田秀範。舞台『狂乱の剣』の演出は毛利亘宏が手掛けます。
今回は映画『GOZEN -純恋の剣-』の監督を務める石田秀範監督を特集します。
石田秀範監督の経歴
参考映像:『特救指令ソルブレイン』第19話「亀ちゃんと探偵娘」予告編
石田秀範は横浜放送映画専門学院(現在の日本映画大学)を卒業後、特撮テレビドラマ『宇宙刑事ギャバン』(1983)の助監督として映像制作の現場に参加しました。
その後“メタルヒーローシリーズ”の『特警ウィンスペクター』(1990)でチーフ助監督に昇進し、翌年『特救指令ソルブレイン』(1991)で監督デビューを果たします。
石田は平成仮面ライダーシリーズの記念すべき第1作『仮面ライダークウガ』(2000)で初のメイン監督を務めます。
以降、竹内涼真・主演の『仮面ライダードライブ』(2014~2015)までの平成仮面ライダー15作品に監督として参加していました。
この15作品中『クウガ』のほか、『仮面ライダー剣』(2004)、『仮面ライダー響鬼』(2005)、『仮面ライダーカブト』(2006)でパイロット(第1話・第2話)を監督。『剣』と『カブト』では劇場版の監督も務めています。
また『仮面ライダーW』(2009~2010)や『仮面ライダードライブ』では2人目の仮面ライダー・初登場回を演出し、シリーズを盛り上げます。
石田は厳しい演技指導でも知られる監督です。
綾野剛は『仮面ライダー555』(2003)に出演した際、初登場シーンでリテイクを23回出されたといいます。
『仮面ライダーアギト』では当時新人だった要潤の出演場面を欠番にしたなどのエピソードがあります。しかしその厳しい演技指導は作品にかける思いや俳優への愛情ゆえのもので、石田は平成仮面ライダー16作品に出演した多くの俳優たちに慕われています。
近年はテレビシリーズから離れ『仮面ライダードライブ』のVシネマや、ネットドラマ『仮面ライダーアマゾンズ』(2016~2017)などの監督として活躍しています。
石田演出が指し示した新時代の特撮ヒーロー
石田秀範は撮影や照明、各技術パートと共に『仮面ライダークウガ』で従来の仮面ライダーシリーズとは異なる映像を模索しました。
赤や緑といった極端な色の照明や逆光の多用、カメラブレによる臨場感など、『クウガ』はこれまでの仮面ライダーシリーズとは違う先鋭的な映像表現が見られました。
例えば『クウガ』の第14話「前兆」。敵グロンギのメ・ギャリド・ギ(ヤドカリ怪人)の初登場シーンで名曲「ブルーベルベット」をフラッシュインさせます。曲をそのまま流すのではなく細かく分けて流し、音楽というよりノイズのように使用しています。
『クウガ』の終盤である第47話「決意」。仮面ライダークウガと最後の敵ン・ダグバ・ゼバとの最終決戦がついに始まるエピソードです。
この回の冒頭は闇の中に車や人が炎上している様が映され、その映像に主人公・五代雄介(オダギリジョー)の苦しむ声とダグバの笑い声が重なるというもの。ざらついた映像によって最終決戦への不穏な前兆を感じさせます。
石田秀範は「今までやってきた事を全否定する。良い物も否定する」という決意の元、『クウガ』の監督に臨んだのです。そんな石田の決意による『仮面ライダークウガ』の映像表現は、その後の“平成仮面ライダーシリーズ”のベースになったと言えます。
最終回職人
“平成仮面ライダーシリーズ”のパイロット(第1話・第2話)を多く手掛けている監督は田﨑竜太監督ですが、一方で石田秀範監督は最終回を手掛けることが多い監督です。
石田が最終回の演出を手掛けたのは『仮面ライダークウガ』に始まり、『仮面ライダー龍騎』(2002)、『仮面ライダーカブト』、『仮面ライダーキバ』(2008)、『仮面ライダーディケイド』(2009)、『仮面ライダーW』、『仮面ライダーウィザード』(2012~2013)、『仮面ライダー鎧武』(2013~2015)と計8作品の最終回を手掛けています。
その中でも特に印象深いのが『龍騎』の最終回でしょう。
『龍騎』は最終回の1話前である第49話の終盤で、主人公である城戸真司/仮面ライダー龍騎がなんと死亡するのです。石田は血を流し死んでいく真司の後ろに白い車を配置させることで、生々しさを持った映像に仕上げています。
また単に生々しいだけでなく、「主人公が死ぬ」という出来事をより衝撃的に映し出しているのです。
最終回である第50話では、戦って死んでゆく仮面ライダーたちのバックでルイ・アームストロングの名曲「この素晴らしき世界(What A Wonderful World)」を流します。
音楽著作権の関係でDVDには収録されていませんが、これは仮面ライダーたちへ捧げられた鎮魂歌でしょう。
まとめ
『仮面ライダークウガ』(2000)で“平成仮面ライダーシリーズ”のベースとなる映像表現を打ち立てた石田秀範監督。
石田監督をはじめ仮面ライダーシリーズの監督たちは、東映特撮作品での助監督を経て監督デビューを果たした方々です。
そのため現場の経験に裏打ちされた、確かな演出力が光っています。
次回の邦画特撮大全は…
次回の邦画特撮大全は、劇場版『仮面ライダーW FOEVER AtoZ/運命のガイアメモリ』(2010)を特集します。
お楽しみに。