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ドラマ『西遊記1978』解説と考察。キャスト堺正章&夏目雅子の評価や作品変遷の紹介も|邦画特撮大全19

  • Writer :
  • 森谷秀

連載コラム「邦画特撮大全」第19章

今回取り上げる作品は今年放送から40周年をむかえるテレビドラマ『西遊記』(1978)。

NHK大河ドラマの裏番組でありながら、高視聴率を記録した作品です。翌年1979年にはパート2が制作・放映されました。またイギリスやオーストラリアなどでも放映され、国外での人気も高い作品でもあります。

本作は日本テレビ開局25周年記念番組であり、破格の予算と豪華キャストで製作されました。

堺正章の孫悟空、夏目雅子の三蔵法師、岸部四朗の沙悟浄、西田敏行(パート1)・左とん平(パート2)の猪八戒、藤村俊二の玉竜(パート2のみ)は正にハマリ役です。

また1978年は日中平和友好条約が調印された年でもあり、中国国内でのロケーション撮影も敢行されました。

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日本版『西遊記』・映像化の略史

『西遊記』の原作は同名の中国古典小説です。『三国志演義』『水滸伝』『金瓶梅』と併せて中国四大奇書の1つに数えられます。

本作の他にもアニメや漫画、ゲームなどの題材に数多く選ばれているため、日本でもなじみ深い物語となっています。

日本での『西遊記』の映像化はまず戦中に製作された『エノケンの孫悟空』(1940)、三木のり平主演のミュージカル映画『孫悟空』(1959)の2作があります。

両作とも、監督・山本嘉次郎、特撮監督・円谷英二という布陣で制作されました。後者の『孫悟空』で衣裳考証を担当した真木小太郎は、本作でもコスチューム・デザインを担当しています。

大映では坂東好太郎主演で『西遊記』(1952)、『大あばれ孫悟空』(1952)、『殴り込み孫悟空』(1954)の3作が制作されています。

また本作以前にも『孫悟空西へ行く』(1964)など、TVドラマ版が既に製作されていました。

その他に手塚治虫のマンガ『ぼくのそんごくう』をベースにしたアニメ映画『西遊記』(1960)やTVアニメ『悟空の大冒険』(1967)などもあります。

1960年代の段階で様々な『西遊記』の映像作品が、日本国内で製作されていたことが判ります。

本作が放送される前年にザ・ドリフターズの人形劇『飛べ!孫悟空』(1978)、本作と同年にフジテレビ系列でアニメ『SF西遊記 スタージンガー』(1978)が放送されていました。

本作はこうした一連の流れで製作されたのです。

また本作の5年前に放送された日本テレビ開局20周年記念作品が『水滸伝』(1973)でした。

さらに日本テレビはSPアニメ『三国志』(1985)を製作・放送しているため、「金瓶梅」以外の中国四大奇書を映像化していることになります。

中性的な“三蔵法師”像

本作で三蔵法師を演じたのは女優の夏目雅子です。彼女はこのドラマをきっかけに人気女優となりました。

しかし、実在の玄奘三蔵は男性です。夏目雅子が演じていますが、役の性別は男性なのです。

三蔵法師役は当初、五代目坂東玉三郎に依頼されました。

三蔵法師に高貴で中性的なイメージを持たせるため、歌舞伎の女形である坂東を起用しようとしたのです。

しかし坂東に断られてしまったため、思い切って女性をキャスティングすることになり夏目雅子が選ばれました。

本作の影響からその後の製作された『西遊記』のドラマ版でも、宮沢りえ、牧瀬里穂、深津絵里と三蔵法師役に女優が起用されています。

また本作の釈迦如来役には女優の高峰三枝子、観世音菩薩役には俳優の勝呂誉がキャスティングされています。

世間的なイメージですと釈迦如来=男性、観世音菩薩=女性というイメージがあると思います。

本作以降に日本で製作された『西遊記』での配役は、このイメージでキャスティングされています。

本木雅弘主演のSPドラマ『西遊記』(1993)では釈迦の声を常田富士男、観世音菩薩を八千草薫が演じており、唐沢寿明主演の『新・西遊記』(1994)では観世音菩薩は鳳蘭が演じています。

香取慎吾主演の『西遊記』(2006)では本作へのオマージュから釈迦如来を堺正章が演じました。

仏教的には釈迦如来も観世音菩薩も男女の性別を超越した存在であるため、男性と女性どちらが演じても特段問題はありません。

本作で釈迦如来を高峰三枝子が演じた理由は夏目雅子の三蔵法師同様に高貴さを印象づけるためだと考えられます。

『西遊記』の特撮

『西遊記』の特撮を担当したのは円谷プロダクション(パート1のみ)と東宝映像の2社が担当しました。妖怪や妖術が数多く登場するため、他の特撮ドラマ同様に“特撮監督”の役職も置かれています。

特撮監督を務めたのは高野宏一(パート1のみ)、鈴木清、佐川和夫といった円谷特撮の主力メンバー、『日本沈没』(1973)の中野昭慶、後に平成ゴジラシリーズの特撮監督を歴任する川北紘一(パート2のみ)といった面々です。

各回に登場する妖怪は衣装やメイクで表現されています。妖怪に扮しているのは内田良平や中尾彬、天津敏、花沢徳衛、緑魔子と言った名優たちです。

パート1の第2話に登場する白竜は30メートルの原寸大モデルが制作され、迫力あるものとなっています。またパート2の第1話には“熱子竜”というぬいぐるみの怪獣が登場します。

悟空の使う伸縮自在の如意棒は、シーンによってサイズの違い物が使用されています。如意棒の伸び縮みする描写には作画合成も用いられました。また悟空が乗る筋斗雲の飛行シーンにはミニチュア撮影が行われました。

まだCGのない時代に妖術や妖怪のいるファンタジックな世界を映像化したため、ふんだんに特撮を使用した迫力のある映像作品になっています。

次回の邦画特撮大全は…

次回の邦画特撮大全は、円谷プロ制作の特撮ドラマ『怪奇大作戦』を特集します。

お楽しみに。

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