連載コラム「邦画特撮大全」第106章
今回の邦画特撮大全は2022年2月27日に最終回を迎えたスーパー戦隊シリーズ第45作『機界戦隊ゼンカイジャー』を紹介します。
“スーパー戦隊”そのものをモチーフとした45作品目のスーパー戦隊が描いた軌跡を、これまでの展開や設定を振り返りながら考察・解説。
そうすると、「多様性」というキーワードが浮かび上がってきました。
CONTENTS
『機界戦隊ゼンカイジャー』の作品情報
【放送】
2021年3月7日~2022年2月27日
【原作】
八手三郎
【Special Thanks】
石ノ森章太郎
【監督】
中澤祥次郎
【脚本】
香村純子、八手三郎
【キャスト】
駒木根葵汰、浅沼晋太郎、梶裕貴、宮本侑芽、佐藤拓也、増子敦貴、世古口凌、森日菜美、川岡大次郎、甲斐まり恵、中田譲治、鈴木達央、福西勝也、乃村健次、竹田雅則、榊原郁恵
『機界戦隊ゼンカイジャー』を振り返りまとめ考察・解説!
1人+4体・個性の集塊
『ゼンカイジャー』で一番目を引いたのはやはり、人間1人着ぐるみキャラクター4人という異色の編成です。五色田介人/ゼンカイザーのみが人間で、ジュラン、ガオーン、マジーヌ、ブルーンの4人は機械生命体。
メンバーに着ぐるみキャラクターがいるというのは、第40作『動物戦隊ジュウオウジャー』(2016)、『宇宙戦隊キュウレンジャー』(2017)と過去にも前例がありました。しかし前者は着ぐるみキャラクターに人間態が用意され基本的には人間の姿で行動しており、後者はメンバーが多く人間7人に対し着ぐるみキャラクター5人という編成でした。そのため斬新な設定ではあったのですが、どこかこの点を強くアピールできていない部分が見られました。
しかし今回『ゼンカイジャー』では4人が一貫して着ぐるみのままであり、『爆竜戦隊アバレンジャー』(2003)第36話「初恋アバレミラクル」で爆竜トリケラトプスが少年(演じるのは子役時代の神木隆之介)に変化するようなエピソードもありません。
主人公と4人の着ぐるみキャラクターのコミカルな交流は、プロデューサーの白倉伸一郎、武部直美両名が手がけた『仮面ライダー電王』(2007)の方法論を受け継いだものだと言えます。
『電王』には主人公の野上良太郎(佐藤健)に憑依するモモタロスたち4体のイマジンが着ぐるみキャラクターで表現されました。イマジンたちが繰り広げるコミカルなやり取りは声優陣とスーツアクターの好演の相乗効果で人気を博し、『電王』のキャラクター商品売上は約115億円を記録。今でも根強い人気のある作品です。
電王の仲間のイマジンたちは、モモタロス=どこか愛嬌のある強面、ウラタロス=女好きな詐欺師風、キンタロス=マイペースな巨漢、リュウタロス=甘えん坊という風に、分りやすくも個性的な面々でした。
これに倣ってゼンカイジャーの面々を端的に書き出していくと、ジュラン=格好つけたちょっと頑固なおじさん、ガオーン=動物好きのハイテンションな青年、マジーヌ=引っ込み思案なドジっ子、ブルーン=好奇心旺盛で生真面目な性格というように、それぞれが個性的な面々です。介人を中心としたゼンカイジャーたちのワチャワチャしたやり取りは本作最大の魅力でした。凸凹な面々の個性を否定したり「使命」の下に矯正したりせず、その多様性を受け入れるのがゼンカイジャーなのです。
『仮面ライダー電王』の良太郎を中心にしたイマジンの関係性と描写は、スーパー戦隊の図式を仮面ライダーシリーズに応用したものです。そのため介人を中心としたゼンカイジャーの関係性は逆輸入といってもいいでしょう。着ぐるみキャラクターによるコミカルなドラマは『がんばれ!ロボコン』まで遡ることが出来ます。その要素を新機軸としてスーパー戦隊シリーズに導入するのは正に“温故知新”と言えるでしょう。
3つの家族・それぞれの解
第8回「ドアtoドアで別世界?!」で初登場となったゾックス・ゴールドツイカー/ツーカイザー。いわゆる追加戦士のゾックス。通常の追加戦士であればゼンカイジャーのチーム内に溶け込んでいくのですが、ゾックスは自分の家族“世界海賊ゴールツイカー一家”として行動。彼はあくまでツーカイザーであって6人目のゼンカイジャーではないのです。
ゼンカイジャーとツーカイザー、そして刺客としてゼンカイジャーを狙うステイシー/ステイシーザーの3者の立ち位置を見て行くと「家族」というものが浮かび上がってきます。
まずゼンカイジャーは共同生活を送っていることから、“疑似家族”と言えるチームです。一方ゾックスは、妹フリント、弟のリッキーとカッタナーの実の家族のチームの“血縁者”です。ゾックスは呪いによって姿が変わった弟を元に戻すためというのがその行動原理です。
そしてステイシーはトジテンドの将軍バラシタラの息子ではありますが、父に対して強い嫌悪感を抱いており、その行動原理はバラシタラを見返すこと。トジデントに対して忠誠心を持ってはいません。彼の心の拠り所は亡き母で、介人の祖母ヤツデにその面影を見出していました。中盤では裏切り者とされトジデントを追われ、彼の立ち位置は“孤立無援”となっていきます。
介人のゾックス、ステイシーに対する態度も非常に面白い描かれ方をされています。
ゾックスに対しては「この世界を荒らさない」ことを約束させますが、自分の仲間になるよう強要したりはしません。つまり介人はあくまでゾックスたち世界海賊のチームの個性を認めているのです。ステイシーが介人の家である駄菓子カフェ・カラフルにヤツデを求めて来るのにも当初は驚いていましたが、その居場所を奪うようなことを介人はしていません。
介人は両親の功博士と美都子博士がトジテンドにさらわれヤツデと二人暮らし。第24回には大学生となったかつての同級生・花恋が登場しており、介人は両親がいない等の経済的な事情から大学進学を選択しなかったのではと思わせます。「世界初」にこだわるアクティブな性格ながら実家を出てはいません。介人は両親がいない事から「子ども」のまま大人になったキャラクター。最終回は介人の旅立ちで終わります。つまり両親が戻ってきた事で介人は「大人」としてようやく歩み始めるのです。
第44回で明かされますが、ゾックスの父は彼を守るために死に、父の死後ゾックスは家族を守る役割を引き継ぎました。ゾックスは介人と逆で家族のために「子ども」でいることを辞めたキャラクターです。因縁あるSDワルドとの戦いには当初誰かの手も借りないつもりでしたが、戦いの中で「家族」をはじめとした自分の守りたいもの全てが「お宝」だと気付くのです。
ステイシーはトジデントを離れ介人たちと共闘することを決意します。ステイシーの行動原理は「これから生きる場所を守る」ことへ変わり、最終的に父バラシタラへの復讐心という個人的な感情を捨てました。
「家族」は人間が属する一番小さい「世界」と言えます。その中で介人、ゾックス、ステイシー、三者三様それぞれの答えを出し成長したのです。
ギャグもパロディも全力ゼンカイ!
視聴者の多くが楽しんだの『ゼンカイジャー』の要素はそのギャグ描写でしょう。
毎回の敵怪人ワルドは、トジテンドが並行世界を封じた“トジルギア”から生み出した存在です。そのため各怪人には基となった並行世界が存在するのですが、カシワモチワルドにオニゴッコワルド、「そんな世界本当に存在するのか?」と思う怪人だらけで、奇天烈な侵略作戦を展開します。ゼンカイジャーもそれに対して意表をつくアイデアで対抗しました。
毎回展開されるギャグの力の入り様もすさまじいので、いくつか見て行きましょう。
まず第7回「魔界の王子は気がみじかい!」では偽ゴレンジャーによるゴレンジャーハリケーンを本家通りボールが3回飛んでいく描写を再現。
第24回「いのち短し、恋せよゼンカイ!」ではレンアイワルドの力によって人々が恋に落ちていきます。パンをくわえて走る女子高生、『タイタニック』などの小ネタやパロディが頻出。さらには『鳥人戦隊ジェットマン』(1991)の最終回を完コピし、その際には画面サイズが4:3になる徹底ぶりです。
テニス対決が描かれた第28回「王子のねらい、知ってるかい?」では、『テニスの王子様』のパロディが炸裂。テニス対決の様子をアニメ『エースをねらえ!』の出崎統監督の演出をオマージュした分割画面と3連ショットで描いていました。
前述の第24回で人々が次々恋に落ちていく訳ですが、ジュランとガオーンの男性同士、マジーヌとフリントの女性同士、さらには介人とパフェが恋に落ちます。無論この状況は敵の能力によるものなのですが、同性同士に異種族間さらには人間と無生物の恋愛を描くのはまさに多様性を受け入れたニューノーマルな描写と言えるでしょう。
第24回「侵略完了!できるか奪回?!」では、バカンスワルドによって一度トジテンドによって侵略が完了します。しかし彼の能力は人々をバカンス状態にさせることで、大々的な破壊活動はしておらず、介人やゾックスとバカンスを楽しんでいました。そんなバカンスワルドは敵将バラシタラによって粛清されてしまいますが、介人はその死を悼み戦いの後に「みんな仲良くできたらいいのに」と呟きます。
『ゼンカイジャー』は基本的にはコミカルな作品でギャグやパロディが確かに多いのですが、このようにやはり「多様性」を認める態度が全体に行き渡っています。
神との戦い・まさかの展開へ!
敵組織トジテンドとの最終決戦は第48回で終え、最終回では介人と神様との戦いが展開されます。並行世界すべてを閉じた神様と世界を解放するように挑む介人。実態を持たず誰かに憑依して喋る神様の設定は、ラスボスとして非常に異色。最終決戦も介人の精神世界の中で展開するので、その姿は介人本人を借りたものでした。弥勒菩薩像のようなアルカイックスマイルと半跏思惟のポージング、白の衣裳が神秘性を醸し出します。
そして介人と神様の最終決戦はなんとジャンケンでした。介人がパー、神様はグーで介人の勝利となり並行世界は解放されます。開いた手のパーと、閉じた手のグーという勝敗の結果。これは世界を開きたい介人と世界を閉じた神様の対比であり、介人の開いた手は5本指でゼンカイジャーを表しています。
1話戻ってトジデントのボッコワウス大王との最終決戦。ボッコワウスは父親をはじめ歴代王族の体を取り込んでいます。また彼らの使うトジルギアは並行世界を閉じ込めたもの。つまり、これらは世界を同質化あるいは画一化していることを表しています。
世界の同質化、画一化に対抗するのが多様性を認め合うチーム“ゼンカイジャー”だったのです。どんなにその世界がくだらなくてもふざけていても、神様のように世界にフタをするのではなく、トジテンドのように自分都合のルールで踏み荒らすのではなく、ゼンカイジャーはその多様な世界たちの存在を受け入れたのです。
まとめ
物語の最後、介人たちゼンカイジャーは旅に出ました。これは自分の世界に閉じこもらず、新たな世界との出会いを求めてという事でしょう。
お互いの個性を認め合い、同質化・画一化に挑むヒーロー“ゼンカイジャー”は非常に現代的で理想的な決着を迎えたのです。