Cinemarche

映画感想レビュー&考察サイト

連載コラム

宇宙戦隊キュウレンジャーに影響を与えた映画『宇宙からのメッセージ』|邦画特撮大全2

  • Writer :
  • 森谷秀

連載コラム「邦画特撮大全」第2章


(C)2018 Lucasfilm Ltd. All Rights reserved

前回、特撮という技術はほとんどの映画で用いられることを記しました。

しかし特撮が主戦場となるのは、やはり変身ヒーローや怪獣が登場するものも含むSF映画やパニック映画などです。

昨年2017年に公開40周年を迎えた映画『スター・ウォーズ』。若き日のハン・ソロを描いた『ハン・ソロ/スター・ウォーズ・ストーリー』が先日日本公開されました。

スター・ウォーズもSF映画であるので、もちろん特撮は用いられています。

今回は『スター・ウォーズ』の影響下の元、製作されたある日本映画について語りたいと思います。

【連載コラム】『邦画特撮大全』記事一覧はこちら

深作欣二×スペースオペラ『宇宙からのメッセージ』

『スター・ウォーズ』が本国アメリカで公開されたのは1977年、しかし日本公開は1978年の6月と1年1か月後。前評判を耳にした日本の映画界は2つのスペースオペラ映画を製作します。

東宝の『惑星大戦争』(1978)、東映の『宇宙からのメッセージ』(1978)がその2本です。

今回は『惑星大戦争』については割愛し、『宇宙からのメッセージ』について語っていきましょう。

『宇宙からのメッセージ』(1978)

皇帝ロクセイア12世(成田三樹夫)率いるガバナス帝国によって要塞に改造されてしまった惑星ジルーシア。

ジルーシア人の酋長キド(織本順吉)は救世主となる者を求め、聖なる8つのリアベの実を宇宙に放ちます。孫娘エメラリーダ(志穂美悦子)と戦士ウロッコ(佐藤允)の2人は実を追って勇者を迎えに行く旅に出ます……。

8つの実と勇者などから、本作は『南総里見八犬伝』がベースとなっていることが判ります。

そしてリアベの実に選ばれた勇者ですが以下の8人ですが、ロボットを含む老若男女です。

本作の監督は『仁義なき戦い』で知られる深作欣二。撮影は東映京都撮影所。

本作のクライマックスである王子ハンス(千葉真一)とロクセイア12世の殺陣など、時代劇的な要素が多分に含まれています。

10億円という製作費、東映京都撮影所の20ステージの内8ステージを使用、ドラマ『コンバット!』(1962~1967)の主演で日本でも人気のあった俳優ヴィック・モローの招聘など力が入ったものです。

もちろん本作は矢島信男特撮監督の下、特撮にも力が入っていました。

『宇宙からのメッセージ』の特撮技術


(C)1978 東映

まず本作の星空には電球が仕込んであり、それぞれの星を明滅させています。

ミニチュア撮影には、巨大感を出すためにシュノーケルカメラ(小型カメラ)が使用されました。シュノーケルカメラは当時世界に3台しかなく、本作は1か月間その内の1台を借り切っていました。

また本作は初めて東通ecgシステムが使用された作品でもあります。

東通ecgシステムとは光学合成技術の1つで、ビデオ信号をフィルムに変換するというもの。現場で合成の仕上がりを確認することができ、深作欣二は現場で合成の調整(人物や戦艦の位置)をしたといいます。

結果的に評価と興行収入は『スター・ウォーズ』に遠く及びませんでした。

しかし、シュノーケルカメラの使用、東通ecgシステムの使用など、特撮史的に重要なポイントなのです。

東通ecgシステムは後にTV特撮でも用いられ、特に『宇宙刑事ギャバン』(1982)の独特な映像はecgシステムによるところが大きいと思います。

ビデオ撮影、デジタル合成が主流になり東通ecgシステムは1996年を最後に使用されなくなりました。

意志の継承『宇宙戦隊キュウレンジャー』

『宇宙戦隊キュウレンジャー 救世主の記憶 メモリー・オブ・ショウ・ロンポー』

2017年度のスーパー戦隊『宇宙戦隊キュウレンジャー』。

全宇宙の99%を掌握した宇宙幕府ジャークマターと、宇宙を守るためジャークマターと戦う宇宙戦隊キュウレンジャー9人の戦いを描いた作品です。

全宇宙が舞台ということもあり、本作は全体的にビジュアルに力が入っています。

特に第1話に登場する惑星クロトスや、第3話に登場する惑星ニードルのビジュアルには息を呑むものがありました。「スーパー戦隊」というと採石場を思い起こしてしまう方、必見です。

ただ1年間の放映ということもありシリーズ終盤、ビジュアル面(ロケ地等)が若干パワーダウンしてしまったのは否めません。

9人(最終的には12人)という人数はスーパー戦隊シリーズにおいて最多数です。

そのため回ごとに、メンバー選抜(大体5人)をします。また各班に分け同時並行して任務にあたったり、一部のメンバーが後方支援にまわったりなど、人数を生かした作劇が非常に面白かったです。


(C)2018 東映ビデオ・東映AG・東映 (C)2017 テレビ朝日・東映AG・東映

実は『宇宙戦隊キュウレンジャー』のイメージソースの1つは『宇宙からのメッセージ』なのです。

キュウレンジャーはキュータマという変身アイテムに選ばれます。

これはリアベの実を想起させます。キュウレンジャーのメンバーが人型宇宙人の他、ロボットや獣人型宇宙人など多彩なメンバーという点も『宇宙からのメッセージ』と共通しています。

また敵の名前が「宇宙幕府」、彼らの役職名がショーグン、カロー、ダイカーンなど、時代劇の要素も取り込まれています。

決して評価が高いとは言えない『宇宙からのメッセージ』ですが、東映という会社の中ではしっかりと血肉となっていたのです。

Vシネクスト『宇宙戦隊キュウレンジャーVSスペース スクワッド』予告編

次回の「邦画特撮大全」は…

第3章では、金子修介監督・樋口真嗣監督による平成ガメラ3部作の特撮について検証いたします。

お楽しみに!

【連載コラム】『邦画特撮大全』記事一覧はこちら

関連記事

連載コラム

映画『ゾンビランド2ダブルタップ』ルーベン・フライシャー監督インタビュー【続編ダブルタップに夢中】FILMINK-vol.26

FILMINK-vol.26「Ruben Fleischer Nuts Up For Zombieland: Double Tap」 オーストラリアの映画サイト「FILMINK」が配信したコンテンツか …

連載コラム

アダムス・ファミリー2 アメリカ横断旅行!あらすじ評価と感想解説。キモカワお化けファミリーがドライブ旅行で得た家族の絆とは?|映画という星空を知るひとよ84

連載コラム『映画という星空を知るひとよ』第84回 過去には映画やドラマで実写化もされたチャールズ・アダムスのコミックをアニメーション映画化した『アダムス・ファミリー』の第2弾『アダムス・ファミリー2 …

連載コラム

映画『ビルド NEW WORLD 仮面ライダークローズ』あらすじネタバレと感想。主演の赤楚衛二に期待|邦画特撮大全31

連載コラム「邦画特撮大全」第31章 2019年1月25日より期間限定上映が開始されたVシネクスト『ビルド NEW WORLD 仮面ライダークローズ』。 2017年から2018年にかけて放映され人気を博 …

連載コラム

インド映画『スルターン』あらすじと感想評価。マフィアのひとり息子が100人の子分たちを更生させようと奮闘するさまを歌と踊り満載で描く!|インド大映画祭IDE2023・厳選特集2

連載コラム『インド大映画祭IDE2023・厳選特集』第2回 「インド映画同好会」による『インド大映画祭 IDE 2023 in K’s cinema』が、6月17日(土)~7月7日(金)の21日間、新 …

連載コラム

映画『石門』あらすじ感想と評価解説。ホワン・ジー&大塚竜治共同監督が複雑な女性心理をリアルに捉える|東京フィルメックス2022-3

東京フィルメックス2022『石門』 第23回東京フィルメックス(2022年10月29日(土)~11月6日(日)/有楽町朝日ホール)のコンペティション9作品のひとつとして上映された『石門』。 妊娠をテー …

【坂井真紀インタビュー】ドラマ『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』女優という役の“描かれない部分”を想像し“元気”を届ける仕事
【川添野愛インタビュー】映画『忌怪島/きかいじま』
【光石研インタビュー】映画『逃げきれた夢』
映画『ベイビーわるきゅーれ2ベイビー』伊澤彩織インタビュー
映画『Sin Clock』窪塚洋介×牧賢治監督インタビュー
映画『レッドシューズ』朝比奈彩インタビュー
映画『あつい胸さわぎ』吉田美月喜インタビュー
映画『ONE PIECE FILM RED』谷口悟朗監督インタビュー
『シン・仮面ライダー』コラム / 仮面の男の名はシン
【連載コラム】光の国からシンは来る?
【連載コラム】NETFLIXおすすめ作品特集
【連載コラム】U-NEXT B級映画 ザ・虎の穴
星野しげみ『映画という星空を知るひとよ』
編集長、河合のび。
映画『ベイビーわるきゅーれ』髙石あかりインタビュー
【草彅剛×水川あさみインタビュー】映画『ミッドナイトスワン』服部樹咲演じる一果を巡るふたりの“母”の対決
永瀬正敏×水原希子インタビュー|映画『Malu夢路』現在と過去日本とマレーシアなど境界が曖昧な世界へ身を委ねる
【イッセー尾形インタビュー】映画『漫画誕生』役者として“言葉にはできないモノ”を見せる
【広末涼子インタビュー】映画『太陽の家』母親役を通して得た“理想の家族”とは
【柄本明インタビュー】映画『ある船頭の話』百戦錬磨の役者が語る“宿命”と撮影現場の魅力
日本映画大学