連載コラム「シネマダイバー推薦のNetflix映画おすすめ」第79回
映画『The Hand of God』は、イタリアのナポリを舞台に、悲劇に見舞われた少年の葛藤と成長を描いた物語で、ベネチア国際映画祭で銀獅子賞(審査員グランプリ)を受賞しました
。
『グレート・ビューティー 追憶のローマ』でアカデミー賞外国語映画賞を受賞したパオロ・ソレンティーノ監督による自伝的作品でもあり、Netflixで12月15日から配信開始されました。
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CONTENTS
映画『The Hand of God』の作品情報
【配信】
2021年(イタリア映画)
【監督】
パオロ・ソレンティーノ
【キャスト】
フィリッポ・スコッティ、トニ・セルビッロ、テレーザ・サポナンジェロ、マーロン・ジュペ―ル、ルイーザ・ラニエリ、レナート・カルペンティエ、マッシミリアーノ・ガッロ、ベッティ・ベトラッツィ、エンツォ・デカーロ
【作品概要】
パオロ・ソレンティーノ監督は『グレート・ビューティ 追憶のローマ』で英米アカデミー賞、ゴールデングローブ賞にて外国語映画賞を受賞するなど、数々の映画賞を受賞しています。
また、2008年『イル・ディーヴォ 魔王と呼ばれた男』でカンヌ映画祭審査員賞を受賞。2011年にはショーン・ペン主演の『きっと ここが帰る場所』にてカンヌ国際映画祭エキュメニカル審査員賞を受賞しています。
主演のファビエット役を演じたフィリッポ・スコッティは、100名以上の候補者が集まったオーディションでこの役に選ばれました。そして、本作の演技が評価され第78回ベネチア国際映画祭にてマルチェロマストロヤンニ賞(新人俳優賞)を受賞しています。
監督の自伝的作品である本作は、内容のほとんどが事実だと監督自身が認めています。作中にあったように実際に映画監督のアントニオ・カプアーノと出会い、後にカプアーノ監督による『ナポリの埃』を共同脚本しています。
映画『The Hand of God』ネタバレあらすじ
パトリツィアがバスを待っていると、車に乗った謎の男に声を掛けられます。自分は守護聖人で、子どもができない理由を説明してあげるからと言って車に乗せて、家に連れて行きます。
そこには修道士の霊(モナシエロ)とおぼしき少年がいました。その少年がパトリッツィアの鞄にお金を忍ばせました。
頭にキスをするよう言われ、かがむと守護聖人の男からおしりを触られました。「これで子を授かることができる」と言われました。
帰宅するとフランコが、また体を売ったのかとパトリツィアを責め立てて殴りかかります。自室に逃げ込んで姉に電話で助けを求めます。
姉夫婦は息子のファビエットが運転するバイクに3人で乗ってやってきました。
自宅の上の階に住んでいる婦人科医の男爵夫人が会いに来ます。彼女とのおしゃべりに付き合いながら夫の合図でベランダに出るファビエットの母。
バイクに乗ったファビエットと夫に口笛の合図を返します。口笛で会話するのは夫婦の間の愛情表現でした。
週末、アジェーロラで妹の結婚相手に会うために親族が集まりました。緑豊かで、小高い場所にあるその家からは海が見渡せます。
偏屈なジェンティーノ婦人の発言を親戚一同がいつものこととして聞き流したり、近況を話していました。
妹のルイセラが婚約者を連れてやってきました。70歳で声を発することができないので、機械を喉に押し当てながら話す男でした。
親族一同でボートに乗って海に泳ぎに行きます。ファビエットの両親は仲良く2人で泳いでいます。ボートにあがると、パトリツィアが全裸で日光浴していました。その様子を親族全員唖然として見つめます。
男数人が操縦する密漁船が海上警察に追われている様子を横目で見ながら、家へと帰ってきました。
俳優志望のファビエットの兄はオーディションに行きますが、古風な顔だと言われ落とされたと言います。美しい女優の写真に見惚れるファビエットでした。
父が会社の同僚と不倫していることが分かり、母親は気が狂ったかのように叫びます。その声と様子を見てパニックになったファビエはパニック発作のようなものを起こして、兄になだめられました。
ナポリが130億でマラドーナを買ったという知らせを受けました。兄とファビエットは大喜びしました。
ファビエットは誕生祝いにサッカーの試合のチケットを父親から貰います。セラオ広場で妻との出会いの思い出をファビエットに聞かせる父親でした。
家に帰って、母とふたりで昔の誕生日のときに飲んだ牛乳スープを飲みながら思い出話をします。母は父を数日締め出すことにし、木曜から完成した別荘に荷物を運び込む予定だと言いました。
アントニア・カプアーノ監督の撮影現場に立ち寄りました。美しい女性に見とれるファビエット。
その夜、外で物音がして確認しに行った父親でしたが、クマの着ぐるみを着た男に驚かされました。妻のいたずらで、協力してくれた男たちと大笑いする妻でした。
翌日マラドーナの試合を親族全員で大盛り上がりで観戦します。ハンドでゴールを決めた後もマラドーナの活躍は続きます。
ロッカラーゾに夫婦2人は出かけます。ファビエットと兄はマラドーナの試合を観るために残りました。
マラドーナの試合の夜、ファビエの両親は病院にいると聞いて兄に連れられて向かったファビエット。
映画『The Hand of God』の感想と評価
ナポリを舞台に、悲しみと葛藤を抱える思春期の少年の成長を描いた上質なヒューマンドラマでした。
少年に予期せぬ悲劇が降りかかることで物語は大きく動きだします。その後に彼が経験する出来事や偶然の出会いが、絶望から抜け出し未来を見るすべ、そして自立し夢へと一歩を踏み出す後押しになったといえるでしょう。
思春期の少年の成長
主人公のファビエットに悲劇が起こるまで、彼はサッカー選手のマラドーナと叔母のパトリツィアに夢中でした。
そのふたりは、少年期の憧れの象徴だといえます。サッカーの才能で観衆を魅了し、ハンドできめたゴールすら「神の手」と称えられたマラドーナ。
女性を知らないファビエットにとって最も身近にいた、美しく色香漂う大人の女性である叔母のパトリツィア。
しかしファビエットは、次第にこの2人から離れていく形になります。ただ憧れて受け身だったファビエットがナポリの美しい景色
本作の魅力の一つともいえるのは、広角で映し出された美しいナポリの景色の数々です。 奥行きのある構図で、ナポリの町を細部まで美しく映し出しています。夜を照らす街頭の明かり、そして深い闇。建造仏が落とす影、夏の活き活きとした緑と揺らす風。 それら全てに目を奪われ、スクリーンで観ていたらきっとナポリにやってきたような感覚を味わえたかもしれません。 特に灯りの捉え方がとても絶妙で、暗い部屋の中や屋外で顔を照らすあたたかな輝きが美しいです。幻想的でエロティックで、郷愁的な雰囲気をも抱かせる<独特な美しさです。
列車に乗ったファビエットがイヤホンで音楽を聞くシーンがありますが、どこかすっきりとしたような微笑を浮かべた表情が映し出されています。 そのときかかっていた曲の冒頭の歌詞は以下の通りです。 「ナポリは千の色彩 ナポリは千の恐怖 ナポリは生き物の声 ため息と叫び そしてあなたは自分が一人でないことを知る。」 ナポリの美しさとそこに宿る命、そしてファビエットの背中を押すような歌詞が内容とマッチして、素晴らしいシーンとなっています。ぜひ彼の表情に注目して観てはいかがでしょうか。まとめ