Cinemarche

映画感想レビュー&考察サイト

連載コラム

Entry 2024/11/10
Update

映画『敵』あらすじ感想評価レビュー。筒井康隆の原作小説を吉田大八監督×長塚京三で映画祭の最高賞受賞|TIFF東京国際映画祭2024-8

  • Writer :
  • 星野しげみ

第37回東京国際映画祭コンペティション部門『敵』

東京から映画の可能性を発信し、多様な世界との交流に貢献するミッションに則る東京国際映画祭。開催37回目となる2024年は、10月28日(月)に開会され、11月6日(水)まで開催されました

今回は同映画祭にて東京グランプリを受賞し、最優秀監督賞・主演男優賞(長塚京三)とあわせ3冠を達成した吉田大八監督作『敵』をご紹介します。


(C)2024 TIFF

映画『敵』は、小説家・筒井康隆の小説『敵』を、『桐島、部活やめるってよ』(2012)『騙し絵の牙』(2021)の吉田大八監督が、ベテラン名優長塚京三を主役に向かえて映画化。

映画『敵』は、2025年1月17日(金)全国公開です

【連載コラム】『TIFF東京国際映画祭2024』記事一覧はこちら

映画『敵』の作品情報


(C)1998 筒井康隆/新潮社(C)2023 TEKINOMIKATA

【日本公開】
2025年(日本映画)

【原作】
筒井康隆『敵』(新潮文庫刊)

【監督・脚本】
吉田大八

【キャスト】
長塚京三、瀧内公美、河合優実、黒沢あすか、中島歩、カトウシンスケ、髙畑遊、二瓶鮫一、髙橋洋、唯野未歩子、戸田昌宏、松永大輔、松尾諭、松尾貴史

【概要】
筒井康隆の小説『敵』を、『桐島、部活やめるってよ』(2012)『騙し絵の牙』(2021)の吉田大八監督が映画化した作品。定年後の穏やかな生活を送っている独居老人の前に、ある日「敵」が現れる物語を、モノクロの映像で描いています。

主人公の儀助を演じるのは、12年ぶりの映画主演になる長塚京三。教え子役を瀧内公美、亡くなった妻役を黒沢あすか、バーで出会った大学生役を河合優実が演じました。他に、松尾諭、松尾貴史、カトウシンスケ、中島歩らが共演。

2024年・第37回東京国際映画祭コンペティション部門出品。吉田大八監督が東京グランプリ/東京都知事賞と最優秀監督賞を受賞し、主演の長塚京三が最優秀男優賞に輝きました。

映画『敵』の予告編

映画『敵』のあらすじ


(C)1998 筒井康隆/新潮社(C)2023 TEKINOMIKATA

渡辺儀助、77歳。大学教授の職を辞して10年? 妻には先立たれ、祖父の代から続く日本家屋に一人暮らしています。

料理は自分でつくり、晩酌を楽しみ、多くの友人たちとは疎遠になった反面、今でも気の置けない僅かな友人と酒を飲み交わし、時には教え子を招いてディナーを振る舞ったりしています。

預貯金が後何年持つか、すなわち自分自身が後何年生きられるかと不安を抱き資産を計算しながら、来るべき日に向かって日常は完璧に平和に過ぎていきます。

遺言書も書きました。もうやり残したことはありません。ですが、そんなある日、書斎のiMacの画面に「敵がやって来る」と不穏なメッセージが流れてきました……。

映画『敵』の感想と評価


(C)1998 筒井康隆/新潮社(C)2023 TEKINOMIKATA

本作は主役の大学教授・渡辺儀助の平穏な日常生活を主体に描いています。

妻に先立たれた元大学教授の渡辺儀助。毎朝シャカシャカと米をといでご飯を炊き、焼き鮭ををおかずに慎ましい朝食を食べます。時には、おかずが湯気のたつ目玉焼きになることも……。食後はミルでコーヒー豆を挽き、薫り高いコーヒーを楽しむのが日課となっています。

儀助は平穏な毎日を過ごしながら、少しの蓄えと年金で、寿命が尽きるまであと何年ぐらい暮らせるかと計算し、来るべき日に備えて準備をしていました。

実に堅実で真面目な儀助ですが、亡き妻の亡霊、教授時代から慕ってくれる教え子の女性、バーで知り合った女子大生と、3人の女性たちが儀助の日常生活に入り込んできます。他にも何やら不穏な出来事が起こり始めます。

物語後半になって突然出現する平穏な日常を脅かす‟敵”。これによって儀助の生活は一変しました。

年老いてもなくならないであろう男女間の愛憎劇の展開をはじめ、時にはクスッと笑いがこみあげる場面も用意され、主人公の行動から目が離せない作品です。

原作者の筒井康隆が描いた昭和の日常感もそのまま再現されていますが、本作の特徴はモノクロ映像だということ。

モノクロにすることによって、あくまで主人公の幻想の物語かと思わせ、現実性の薄い世界観を醸し出しているのかも知れません

そんな中での注目は、慎ましい生活を満喫する独居老人の喜怒哀楽と敵に脅える恐怖をリアルに演じる長塚京三です。

人生の最期を迎えようとする時、自分ならどうするだろうと、物語のラストに深い問いかけを感じることでしょう。

まとめ


(C)1998 筒井康隆/新潮社(C)2023 TEKINOMIKATA

『時をかける少女』『虚人たち』などでも知られる小説家・筒井康隆の小説『敵』を、吉田大八監督が映画化。

妻に先立たれた後、自由で堅実な余生を独りで送っている元大学教授の男のもとへ、ある日突然、日常を脅かす“敵”が現れるという本作は、最初から最後までのモノクロ映像に驚きます。

本作では、長塚京三が主人公の大学教授をユーモアもあるシンプルな演技で、孤独な男の人生の最期を繊細かつ力強くリアルに表現。見どころの一つです。

第37回東京国際映画祭コンベンション部門に参加した本作は、長塚京三が最優秀男優賞を、吉田大八監督は、東京グランプリ/東京都知事賞と最優秀監督賞を受賞しました。

映画『敵』は、2025年1月17日(金)全国公開です

【連載コラム】『TIFF東京国際映画祭2024』記事一覧はこちら

星野しげみプロフィール

滋賀県出身の元陸上自衛官。現役時代にはイベントPRなど広報の仕事に携わる。退職後、専業主婦を経て以前から好きだった「書くこと」を追求。2020年よりCinemarcheでの記事執筆・編集業を開始し現在に至る。

時間を見つけて勤しむ読書は年間100冊前後。好きな小説が映画化されるとすぐに観に行き、映像となった活字の世界を楽しむ。



関連記事

連載コラム

映画『揺れるとき』あらすじ感想と解説評価。サミュエル・セイス監督が描く危うくも美しい少年期の感情|2022SKIPシティ映画祭【国際Dシネマ】厳選特集3

SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2022国際コンペティション部門最優秀作品賞サミュエル・セイス監督作品『揺れるとき』 2004年に埼玉県川口市で誕生した「SKIPシティ国際Dシネマ映画祭」は、映画産業 …

連載コラム

【ドラマネタバレ】ジャック・リーチャー シーズン1|あらすじ結末と感想評価。シーズン2続編も決定!アラン・リッチソンが魅せるスリル満点のアクションドラマ【Amazonプライムおすすめ映画館17】

連載コラム「Amazonプライムおすすめ映画館」第17回 ロナルド・プランテが撮影監督を務めた、2022年製作のアメリカのサスペンス・アクションドラマ『ジャック・リーチャー~正義のアウトロー~ シーズ …

連載コラム

『仮面病棟』映画と原作の違いをネタバレ考察。あらすじから3つの注目ポイントを解説|永遠の未完成これ完成である5

連載コラム「永遠の未完成これ完成である」第5回 映画と原作の違いを徹底解説していく、連載コラム「永遠の未完成これ完成である」。 今回、紹介するのは、2020年3月6日公開の『仮面病棟』です。 人気ミス …

連載コラム

映画『母の聖戦』あらすじ感想と評価解説。実話から‟市民”の母親が誘拐事件の犯人に立ち向かう姿を描く|映画という星空を知るひとよ131

連載コラム『映画という星空を知るひとよ』第131回 知られざるメキシコの誘拐ビジネスの闇に迫り、誘拐された娘の奪還を誓った母親の愛と執念の物語『母の聖戦』。 実話を基にした社会派ドラマ『母の聖戦』は、 …

連載コラム

【ネタバレ】エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス|あらすじ結末感想と考察評価。アカデミー賞主要部門にノミネートしたジャンルごちゃ混ぜムービー【SF恐怖映画という名の観覧車173】

連載コラム「SF恐怖映画という名の観覧車」profile173 『ヘレディタリー/継承』(2018)や『ミッドサマー』(2020)など、異色の映画を世に放ち続ける映画製作会社「A24」。 『エクス・マ …

【坂井真紀インタビュー】ドラマ『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』女優という役の“描かれない部分”を想像し“元気”を届ける仕事
【川添野愛インタビュー】映画『忌怪島/きかいじま』
【光石研インタビュー】映画『逃げきれた夢』
映画『ベイビーわるきゅーれ2ベイビー』伊澤彩織インタビュー
映画『Sin Clock』窪塚洋介×牧賢治監督インタビュー
映画『レッドシューズ』朝比奈彩インタビュー
映画『あつい胸さわぎ』吉田美月喜インタビュー
映画『ONE PIECE FILM RED』谷口悟朗監督インタビュー
『シン・仮面ライダー』コラム / 仮面の男の名はシン
【連載コラム】光の国からシンは来る?
【連載コラム】NETFLIXおすすめ作品特集
【連載コラム】U-NEXT B級映画 ザ・虎の穴
星野しげみ『映画という星空を知るひとよ』
編集長、河合のび。
映画『ベイビーわるきゅーれ』髙石あかりインタビュー
【草彅剛×水川あさみインタビュー】映画『ミッドナイトスワン』服部樹咲演じる一果を巡るふたりの“母”の対決
永瀬正敏×水原希子インタビュー|映画『Malu夢路』現在と過去日本とマレーシアなど境界が曖昧な世界へ身を委ねる
【イッセー尾形インタビュー】映画『漫画誕生』役者として“言葉にはできないモノ”を見せる
【広末涼子インタビュー】映画『太陽の家』母親役を通して得た“理想の家族”とは
【柄本明インタビュー】映画『ある船頭の話』百戦錬磨の役者が語る“宿命”と撮影現場の魅力
日本映画大学