連載コラム『すべての映画はアクションから始まる』第48回
日本公開を控える新作から、カルト的に評価された知る人ぞ知る旧作といったアクション映画を時おり網羅してピックアップする連載コラム『すべての映画はアクションから始まる』。
第48回は、2024年8月23日(金)よりTOHOシネマズ 日比谷ほかにて全国公開される『モンキーマン』。
『ゲット・アウト』(2017)のジョーダン・ピールがプロデュース、『スラムドッグ$ミリオネア』(2008)主演のデヴ・パテルが初監督した、バイオレンス・リベンジアクションの見どころをご紹介します。
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映画『モンキーマン』の作品情報
【日本公開】
2024年(アメリカ・カナダ・シンガポール・インド合作映画)
【原題】
Monkey Man
【製作・監督・原案・脚本】
デヴ・パテル
【共同製作】
ジョーモン・トーマス、ジョーダン・ピール、ウィン・ローゼンフェルド、イアン・クーパー、ベイジル・イバニク、エリカ・リー、クリスティーン・ヘーブラー、サム・サーヘニー、アンジェイ・ナグパル
【共同脚本】
ポール・アングナウェラ、ジョン・コリー
【撮影】
シャロン・メール
【編集】
ダービド・ヤンチョ、ティム・マレル、ジョー・ガルド
【音楽】
ジェド・カーゼル
【キャスト】
デヴ・パテル、シャルト・コプリー、ピトバッシュ、ビピン・シャルマ、シカンダル・ケール、アディティ・カルクンテ、ソビタ・ドゥリパラ、アシュウィニー・カルセカル、マカランド・デシュパンデ、ジャティン・マリク、ザキール・フセイン
【作品概要】
主演作『スラムドッグ$ミリオネア』、『LION ライオン 25年目のただいま』(2016)などで知られる俳優デヴ・パテルが構想8年をかけた初監督作。架空のインドの都市を舞台にひとりの男の復讐劇を描きます。
パテルは製作・主演・脚本も兼任し、『第9地区』(2009)のシャルト・コプリーや『ミリオンダラー・アーム』(2014)のピトバッシュが共演。
ポール・アングナウェラと『ホテル・ムンバイ』(2018)のジョン・コリーが共同脚本、『ゲット・アウト』のジョーダン・ピールがプロデュースをそれぞれ担当。
第31回サウス・バイ・サウスウエスト映画祭で観客賞を受賞しました。
映画『モンキーマン』のあらすじ
幼い頃に故郷の村を焼かれ、母も殺されて孤児となったキッド。
どん底の人生を歩んできた彼は、現在はインドにある都市ヤタナにある闇のファイトクラブで猿のマスクを被り「モンキーマン」と名乗り、殴られ屋として生計を立てていました。
そんなある日、キッドはかつて自分から全てを奪った者たちのアジトに潜入する方法を発見。
長年にわたって押し殺してきた怒りをついに爆発させた彼は、壮絶な戦いに身を投じていくことに――。
デヴ・パテル✕ジョーダン・ピールが放つアクション超大作
映画初出演にして主演を務めた『スラムドッグ$ミリオネア』で注目を浴びて以降、『LION ライオン 25年目のただいま』、『どん底作家の人生に幸あれ!』(2019)、『グリーン・ナイト』(2021)など、さまざまなジャンルの話題作に主演する俳優デヴ・パテル。
エグゼクティブ・プロデューサーとしては、『ホテル・ムンバイ』やドキュメンタリー『虎を仕留めるために」(2022)に参画したパテルですが、本作『モンキーマン』ではついに監督と脚本業に着手。しかもその内容は、フィルモグラフィ上ではおそらく初となる本格派アクションです。
『燃えよドラゴン』(1973)やシャー・ルク・カーン主演のボリウッド作品など、「子どもの頃からアクション映画に夢中だった」と語る彼は、8年もの構想をかけて原案を構築。さらには、『アジョシ』(2010)、『オールド・ボーイ』(2003)、『ザ・レイド』(2011)といった2000年代アクションのインスピレーションも受け、脚本を練っていったと言います。
本作は当初ストリーミングプラットフォームで公開予定だったものの、大規模な劇場公開作にしたいとパートナー探しに奔走。結果、アメリカの映画監督ジョーダン・ピールと彼の制作会社モンキーポウ・プロダクションが、パートナーに名乗りを上げました。
ピールは、「デヴ・パテルと聞いて、もう虜だった。骨太で、悲劇的ながらも映画的に美しい世界を作り出した」とパテルの監督としての手腕を絶賛します。
復讐の化身となった猿神=ハヌマーン
「恨みによる復讐者が正義の復讐者になるという、この映画のテーマにとても惹かれた」とピールも触れているように、本作はパテル扮する1人の青年キッドによる仇討ちが描かれます。
幼き頃に母を殺され、青年となってからはインドの都市ヤタナ(サンスクリット語で「闘争・努力・復讐」の意)内のファイトクラブで、猿のマスクを被る「モンキーマン」となり、殴られ屋として生計を立てていたキッド。
彼はある日、母を殺した仇敵の手がかりを得たことで、復讐の化身となります。
アクション映画において仇討ちは作劇の大きな要素の1つであり、前述の『アジョシ』、『オールド・ボーイ』といった韓国映画の影響が見て取れますが、パテルは、さらに“猿の神”ハヌマーンの要素を加えました。
サンスクリット語の叙事詩『マハーバーラタ』や『ラーマーヤナ』に登場する、知恵、強さ、勇気、献身、自制心の象徴とされるハヌマーン。
劇中で亡き母からハヌマーンの話を聞かされていたキッドは、インド系イギリス人として生まれ、子どもの頃から祖父にハヌマーンについて聞かされていたというパテルのアルターエゴ(分身)でもあります。
ハヌマーンと同化したモンキーマンの武器は、その鍛え抜かれた身体から繰り出される闘争本能。
自らの仇討ちと同時に街を腐敗させた者たちを浄化していきますが、その要となるアクションを、パテルは手足を骨折してまでもスタントを使わず自ら熱演。
ジャッキー・チェン主演の『ザ・フォーリナー/復讐者』(2019)でファイト・コーディネーターを務めたブラヒム・ハブと共に、トレーニングで仕上げた完璧な体型で見事なファイトシーンを作り上げました。
また、昨今主流の短いカット割りやカメラトリックに頼らないロングショットでのコレオグラフィ、オートリキシャのトゥクトゥクを使ったカーチェイス、さらには特訓シーンなど、アクション映画には欠かせないファクターが盛りだくさん。
「信仰に基づく復讐映画として、この素晴らしい作品が完成した」と胸を張るほど、パテルが作りたくてたまらなかったアクション映画がここにあります。
奇しくも日本では、パキスタンをルーツに持つイギリス人女子高生が大暴れするアクション映画『ポライト・ソサエティ』が同日公開。
監督と脚本を手がけたニダ・マンスールもまたパキスタン系イギリス人として、幼少時に観たアクション映画の影響を受けてきたと語ります。
リベンジ・バイオレンスの渾身作『モンキーマン』と、明るくポップなガールズムービーの『ポライト・ソサエティ』。両極端な2本ですが、南アジア系俳優による娯楽アクションの競演を楽しんでみるのも一興かもしれません。
次回の『すべての映画はアクションから始まる』もお楽しみに。
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松平光冬プロフィール
テレビ番組の放送作家・企画リサーチャーとしてドキュメンタリー番組やバラエティを中心に担当。主に『ガイアの夜明け』『ルビコンの決断』『クイズ雑学王』などに携わる。
ウェブニュースのライターとしても活動し、『fumufumu news(フムニュー)』等で執筆。Cinemarcheでは新作レビューの他、連載コラム『だからドキュメンタリー映画は面白い』『すべてはアクションから始まる』を担当。(@PUJ920219)