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Entry 2020/05/01
Update

映画『トータルリコール(1990)』ネタバレあらすじと感想。続編もあるポールバーホーベンの謎を残した演出|すべての映画はアクションから始まる18

  • Writer :
  • 松平光冬

連載コラム『すべての映画はアクションから始まる』第18回

日本公開を控える新作から、カルト的評価を得ている知る人ぞ知る旧作といったアクション映画を網羅してピックアップする連載コラム、『すべての映画はアクションから始まる』。

第18回は、1990年公開のアーノルド・シュワルツェネッガー主演作『トータル・リコール』です。

【連載コラム】『すべての映画はアクションから始まる』記事一覧はこちら

映画『トータル・リコール』の作品情報


(C)1990 Columbia/TriStar Pictures

【日本公開】
1990年(アメリカ映画)

【原題】
Total Recall

【原作】
フィリップ・K・ディック

【脚本】
ロナルド・シャセット、ダン・オバノン、ゲイリー・ゴールドマン

【監督】
ポール・バーホーベン

【製作】
バズ・フェイトシャンズ、ロナルド・シャセット

【製作総指揮】
マリオ・カサール、アンドリュー・ヴァイナ

【撮影】
ヨスト・バカーノ

【特殊メイク】
ロブ・ボッティン

【キャスト】
アーノルド・シュワルツェネッガー、レイチェル・ティコティン、シャロン・ストーン、マイケル・アイアンサイド、マーシャル・ベル、ロニー・コックス

【作品概要】
フィリップ・K・ディックの短編小説『追憶売ります』を、『ロボコップ』(1988)のポール・バーホーベン監督、アーノルド・シュワルツェネッガー主演で1990年に映画化したSF大作。当時のアクション映画界で大人気を誇っていたシュワルツェネッガーのアクションと、バーホーベン監督のエクストリームなバイオレンス描写が絶妙にマッチし、全世界で大ヒットを記録します。

共演に、バーホーベン監督の次作『氷の微笑』(1992)でのセンセーショナルな演技で、90年代のセックス・シンボルとなるシャロン・ストーン。そのほか、マイケル・アイアンサイド、ロニー・コックスらが脇を固めます。特殊メイクや視覚効果を手がけたロブ・ボッティンが、アカデミー賞を獲得。2012年には、コリン・ファレル主演でリメイク版も製作されました。

映画『トータル・リコール』のあらすじとネタバレ


(C)1990 Columbia/TriStar Pictures

西暦2084年、地球で結婚8年目になる妻ローリーと暮らすダグラス・クエイドは、毎晩行ったこともない火星の夢を見てうなされていました。

地球の植民地となっていた火星では、現地でエネルギーを採掘し、酸素を販売する会社の総督・コーヘイゲンに対する、クワトーという謎の人物が主導する反乱分子たちとの紛争が多発していました。

火星に行ってみたいとローリーに言うも、彼女から強く反対されたクエイド。

それでも夢が気になるあまり、体験したことのない旅行の記憶を販売する、リコール社のサービスを受けるのでした。

リコール社で、火星で自分がスパイになり、ブルネット色の髪を持つ美女と共に悪党と闘うという記憶を植え付けてもらったクエイド。

ところが、施術前に無意識に暴れ出したダグラスを診断したところ、彼の脳裏には、すでに火星にいたことがあり、何者かによってその記憶を消されていることが判明。

トラブルを恐れたリコール社によって、客として訪れた記憶を消されたクエイドは、タクシーに乗った状態で追い出されるのでした。

タクシーを降りたクエイドは、土木作業員である同僚たちに突如襲われますが、難なく彼らを倒してしまいます。

訳が分からないまま帰宅したクエイドを、さらに妻ローリーが襲いかかります。

ローリーから、自分が妻ではなくクエイドの監視役と明かされ、クエイドは逃走。

ローリーと彼女の恋人リクターに追われ、ホテルに逃げ込んだクエイドは、そこで謎の男からカバンを受け取ります。

カバンの中にあったモニターに映ったのは、自分と全く同じ顔のハウザーという男でした。

ハウザーは、「自分はコーヘイゲンの部下であり、スパイとして反乱分子たちに紛れ込んだが、分子メンバーである女性と恋に落ちたことで、コーヘイゲンを裏切った」と語ります。

そして、反乱分子たちと共にコーヘイゲンの野望を打ち崩すために、火星に行くよう告げるのでした。

火星に着いたクエイドは、空港でリクターに追われるも逃亡。

逃亡したクエイドは、ハウザーから託されたカバンにあったカードを使ってホテルに入室し、ハウザーが預けたという物を受け取ります。

中に入っていた「最後の楽園」というパブ店のチラシの裏には、「メリーナを指名して」と記されていました。

ベニーという名の運転手のタクシーに乗り、到着した「最後の楽園」があるスラム街は、火星の異常気象により、満足な生活を送れない者たちが住んでいました。

指名して現れたメリーナは、夢に出てきた女性と、そしてリコール社でリクエストした女性と同じ容姿でした。

メリーナはクエイドをハウザーと呼び抱きつくも、その記憶がないクエイド。

自身の現状を伝えたクエイドですが、メリーナに疑われたことで追い出されてしまいます。

仕方なくホテルに戻ったクエイドに、リコール社から来たという男とローリーが訪問。

男は、「君は現実には火星にはおらず、まだリコール社で夢を見ている」とし、その夢から覚めるため薬を飲むようにと告げます。

しかしクエイドは、男の顔に汗が出たのを見て射殺するも、ローリーとその部下たちによって捕まります。

そこへメリーナが助けに現れ、クエイドはローリーを射殺するのでした。

メリーナに連れられ、クエイドは反乱分子のリーダーであるクアトーと対面。

ミュータントだった彼の能力により、クエイドは記憶の一部を取り戻します。

それは、火星で50万年前にエイリアンが作ったリアクターを作動すれば酸素を作り出せるも、コーヘイゲンがその存在を隠していたというものでした。

ところが、クエイドを連れてきたタクシー運転手ベニーの裏切りによりクアトーは殺され、クエイドはリクターに囚われの身となってしまいます。

以下、赤文字・ピンク背景のエリアには『トータル・リコール』のネタバレ・結末の記載がございます。本作をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。


(C)1990 Columbia/TriStar Pictures

コーヘイゲンの元に連行されたクエイド。そこでコーヘイゲンは、クアトーの居場所を掴むため、ハウザーの記憶を消してクエイドという人間にしたことを明かし、クエイドをハウザーに戻そうとします。

しかし、クエイドとして生きることを望み、記憶を消される寸前に脱出、メリーナとともにリアクターのある場所へと向かいます。

襲い掛かるベニー、そしてリクターを返り討ちにし、目的地に着いたクエイド。

妨害しようとしたコーヘイゲンを倒し、リアクターを作動させたことで、火星に酸素が戻ります。

赤から青に変わった火星の空を見上げながら、「これも夢かもしれない」と呟いたクエイドは、メリーナとキスを交わすのでした――

映画『トータル・リコール』の感想と評価

シュワルツェネッガー自ら映画化に着手

参考映像:アーノルド・シュワルツェネッガー自伝『Total Recall』映像

本作『トータル・リコール』の脚本は、1970年代にすでに執筆されていたとされます。

しかし、なかなか映画化には至らず、80年代に入っても、多くのプロデューサーの間でたらい回し状態となっていました。

そこに、『ターミネーター』(1985)、『コマンドー』(1986)などの大ヒットアクション映画で飛ぶ鳥を落とす勢いだったスター、アーノルド・シュワルツェネッガーが目を付けます。

彼は、シルヴェスター・スタローンの「ランボー」シリーズ(1981~85)のヒットで、やはりハリウッドに新風を巻き起こしていた映画会社カロルコの創業者マリオ・カサールとアンドリュー・ヴァイナに、映画化権を買うよう進言。

また、当初『ザ・フライ』(1986)のデヴィッド・クローネンバーグが監督候補だったのを、『ロボコップ』の出来映えを気に入ったシュワルツェネッガーの希望で、ポール・バーホーベンが指名されます。

シュワルツェネッガーは、プロデューサー的役割を務めた本作によほど思い入れがあったのか、2012年に出版した自叙伝のタイトルにも『Total Recall』と付けています。

記憶を上書きしていく男のドラマ

参考映像:『トータル・リコール』(2012)

本作の原作となる、1966年発表のフィリップ・K・ディックの小説『追憶売ります』(後年に『トータル・リコール』に改題)は、文庫本にして40ページ程度の短編です。

原作は、大まかなあらすじこそ映画と同じですが、最大の違いは、主人公クエイド(原作では「クウェール」名義)が火星に行かない点です。

火星での反政府運動家であるという記憶を持ちながら、自分の妻が政府のスパイであり、その彼女を自分が殺したのではないか?というさらなる記憶をたどっていくという、サスペンスドラマとなっていきます。

忌まわしい記憶をなくそうと新たな記憶を何重にも入れ、もがいていく主人公を描いているあたり、「自分は何者なのか」、「自分の存在意義とは何か」といった物語を繰り返し発表してきたディックらしいテーマといえましょう。

とどのつまり、映画版は原作よりもアクションとSF要素を強めて、見せ場を増やしています。

一方、2012年にコリン・ファレル主演で製作されたリメイク版は、より原作に忠実な内容となっています。

観客に謎を残すポール・バーホーベン演出

参考資料:『トータル・リコール』公開30周年記念イベント

クエイド役のシュワルツェネッガーが鼻から追跡装置を引き抜いたり、大柄の女性の顔が割れた中からシュワルツェネッガーが出てくるといった、ロブ・ボッティンによる特殊撮影シーンが特徴の本作。

また、バーホーベン監督ならではなバイオレンス描写も特徴の一つです。

監督の前作『ロボコップ』にもあったバイオレンス描写は、シュワルツェネッガーが主演ということでパワーアップ。

一般市民を巻き添えにした銃撃戦や、躊躇なく敵に斧を振り回し、容赦なく腕をもぎ取るなど、そのエクストリームさには思わず笑ってしまうほど。

『氷の微笑』(1992)、『ショーガール』(1995)などの次作に登場する、バーホーベンが追い求める“タフな女性”像も、本作ですでに描かれています。

また、クエイドが「これも夢かもしれない」と呟きながらメリーナと抱き合ったと同時に、画面がホワイトアウト(白く覆われる)するラストも話題に。

「ホワイトアウトは、観客にもこの結末が真実なのか夢なのか判別させないという演出」、「ホワイトアウトした瞬間にカッコウのさえずりの微音が入っているのは、“目覚め”や“朝”の暗喩」、「クエイドが見る火星の青空も、リコール社にあったプログラム『火星の青い空』によるもの」など、さまざまな謎かけがされています。

公開30周年を迎えるシュワルツェネッガー版『トータル・リコール』

参考映像:『マイノリティ・リポート』(2002)

本作『トータル・リコール』が全世界でヒットしたことを受け、製作会社のカロルコは続編を企画したこともあります。

それは、ディックの原作短編『少数報告』をアレンジし、同じシュワルツェネッガー主演、バーホーベン監督で映画化するというものでした。

その企画は最終的に立ち消えとなるも、原作自体は後年、スティーブン・スピルバーグ監督、トム・クルーズ主演で『マイノリティ・リポート』(2002)として映画化されています。

今年2020年にはアメリカで公開30周年の記念イベントも予定されるほど、本作は今観ても驚くほどのパワフルさに満ちた作品となっています。

次回の連載コラム『すべての映画はアクションから始まる』もお楽しみに。

【連載コラム】『すべての映画はアクションから始まる』記事一覧はこちら

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