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Entry 2021/04/23
Update

Netflix映画『密航者』ネタバレ感想評価と結末解説のあらすじ。 SF宇宙船の危機に“誰の命を救い誰が犠牲になるのか”を描く|Netflix映画おすすめ33

  • Writer :
  • 糸魚川悟

連載コラム「シネマダイバー推薦のNetflix映画おすすめ」第33回

夢があり憧れの対象となる空間でありながら、ひとつひとつの決断が生死を分けるシビアな空間でもある「宇宙」。

選りすぐりの宇宙飛行士であっても約4%もの人間が死亡する宇宙飛行は、まさに命を賭けた任務と言えます。

今回は3人の宇宙飛行士と1人の技術者が想定外のアクシデントから命の決断を迫られる様子を描いたNetflix独占配信映画『密航者』(2021)をご紹介させていただきます。

【連載コラム】「Netflix映画おすすめ」記事一覧はこちら

映画『密航者』の作品情報


Netflix映画『密航者』

【原題】
Stowaway

【配信日】
2021年4月22日(ドイツ・アメリカ合作映画)

【監督】
ジョー・ペナ

【キャスト】
アナ・ケンドリック、ダニエル・デイ・キム、トニ・コレット、シャミアー・アンダーソン

【作品概要】
残された者 -北の極地-』(2019)を監督したジョー・ペナが手掛けた宇宙ステーションを舞台とした密室劇。

『マイレージ・マイライフ』(2010)での演技で高い評価を受けたアナ・ケンドリックや、『シックスセンス』(1999)でアカデミー賞にノミネートしたトニ・コレット、『HAWAII FIVE-0』など複数のヒットドラマに出演したダニエル・デイ・キムなど実力派を揃えた配役が話題となりました。

映画『密航者』のあらすじとネタバレ


Netflix映画『密航者』

船長のバーネット、医師のゾーイ、研究者のデビットの3人は2年間、火星でのそれぞれの研究任務のため宇宙へと飛び立ちます。

用意された宇宙ステーション「MTS-42」とのドッキングが終わり、バーネットが宇宙船の点検をしていると二酸化炭素除去装置(CDRA)の中に負傷し気を失った男性を発見。

バーネットは本部であるハイペリオン社に報告すると、その男性が打ち上げサポート職員のマイケルであることが分かります。

ゾーイとデビットの治療により何とかマイケルの命を何とか繋ぎ止めることに成功しますが、彼を助け出す際にバーネットが腕を負傷した上にCDRAも一部破損してしまい、船内の二酸化炭素濃度が上昇してしまいます。

夜、目を覚ましたマイケルは既に宇宙船が離陸し宇宙に飛び立っていることに動揺し3人に制止されます。

マイケルは自身が技術者であり、点検途中に気を失いそのまま打ち上げがされてしまったと話し、地球に戻りたいと懇願。

しかし、宇宙船には地球に戻るための燃料は存在せず、2年の任期の間、マイケルは宇宙ステーションに留まざるをえないことになります。

何もしないことに抵抗を感じたマイケルは仕事を求め、彼が悪意を持ってこの船に乗り込んだわけではないと判断したデビットが自身の研究のデータ入力を手伝わせることにします。

その頃、バーネットはCDRAが生命維持に深刻な影響が出るほどに破損してしまっていることに気づきます。

修理なしでは酸素量が持たないと判断したバーネットは宇宙空間における植物の生育を研究するデビットに、彼の持ち込んだ植物の中でより酸素を生成する藻の繁殖を指示。

バーネットはパニックを防ぐためにゾーイとマイケルに真実を伏せます。

しかし、藻の繁殖は期待していたほどの効果が出るほどの成功とは行かず、船内の酸素は3人分しか確保出来ないことが分かり、バーネットはゾーイにも現在の深刻な状況を伝えます。

バーネットは対策を本部へと相談すると、本部はマイケルを宇宙空間に放出する案を提案します。

バーネットは強く反発しますが、代案が浮かばないことからマイケルの放出案をゾーイとデビットにも伝えました。

ゾーイはデッドラインである20日後まで本人への通告を差し控えて上でギリギリまで全員が助かる代案を考えるべきと主張し、バーネットは期限を10日とした上で了承します。

以下、赤文字・ピンク背景のエリアには『密航者』のネタバレ・結末の記載がございます。『密航者』をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。

3日後、デビットは自分を含めた3人の命を救うためマイケル放出案を支持しますが、形式上本部の案を受け入れてはいるものの納得出来ていないバーネットとマイケルの善人さを知るゾーイは決断し切れずにいました。

夜、デビットはギリギリまで真実を隠そうとするバーネットとゾーイの方針に従わず、マイケルに真実を話した上で安楽死することのできる薬を渡します。

デビットが去った後、マイケルは薬を打とうとしますが地球に残した妹のことを考え打つことを思い止まってしまいます。

3人のクルーが素晴らしい人間であり、自身が彼らの想定外の乗客であったことが元凶であると悲観するマイケルの基に現れたゾーイは、デビットが彼を追い詰めたことを知るとデビットに直談判します。

しかし、デビットは自身が人生を賭けた宇宙空間での食用草を繁殖する研究をマイケルのために捨てた上で全ての案を考えたとゾーイに言うと、彼女に自身は何かをしたのかと反発。

デビットからの指摘を受け意を決したゾーイは、危険すぎるが故に案として却下された、船外の太陽電池パネルの先にあるジェットエンジン「キングフィッシャー」から酸素を取得する案を実行に移そうとします。

訓練を受けていないマイケルには船外での作業が難しく、ゾーイはバーネットとデビットに助けを求めると、藻が全滅し3人分の酸素すら生成が難しくなったことを理由に2人は案に参加することになります。

ゾーイとデビットが船外に出ることになり、デビットは自身の発言をマイケルに謝罪しようとしますが、マイケルはデビットの謝罪を止め「良いんです」とだけ伝えました。

船外に出たゾーイとデビットはキングフィッシャーに辿り着きます。

しかし、酸素の充填中に太陽嵐が接近し、2人は全員分の酸素を充填する前にステーションに戻ることを余儀なくされます。

船内に戻る際にゾーイが酸素の入ったシリンダーを宇宙空間に落としてしまい、4人分の酸素どころか3人分の酸素すら賄えない状況となりました。

キングフィッシャーからは酸素が漏れ出ており、急がなければ3人分の酸素を確保することすらできず、ゾーイは太陽嵐が迫る中で単身キングフィッシャーまでを往復します。

3人分の酸素を確保したゾーイでしたが身体を太陽嵐によって発生する大量の放射線に蝕まれ、酸素を入れたシリンダーを送り届けた後、ステーション内に戻ることなく静かに火星を眺めていました。

映画『密航者』の感想と評価


Netflix映画『密航者』

宇宙を舞台にしたサバイバル映画

極限のサバイバル映画『残された者 -北の極地-』を手掛けたジョー・ペナが「北極圏」の次に選んだ極限の舞台「宇宙」。

地球上とは異なり、重量に制限がかかる中で持ち込んだ最低限の資源をクルー同士で共有する宇宙では資源の節約が重要となります。

本作は2人用の宇宙船を3人用に改修したギリギリの船の中に誰も意図していなかった4人目の乗客が居たことと生命維持装置の破損によって「酸素」が不足していく様子を描いており、宇宙でジャガイモを作る映画としてお馴染みの『オデッセイ』(2016)を彷彿とさせるSFサバイバル映画の一面を持っています。

無から有を作り出すことは不可能であり、限られた資源を使い「酸素」をいかに効率良く作成するかをの手段を矢継ぎ早に練るスピード感の溢れる描写が魅力の1つを担っています、

本作の制作にあたり、宇宙の詳しい調査を行ったジョー・ペナが「宇宙旅行の脆弱さ」を改めて思い知ったとされるほど、ひとつひとつの判断が生死に直結する「宇宙と言う空間の恐ろしさ」を改めて体感できる作品です。

善人しか登場しないからこその「命の重み」

『密航者』と言うタイトルからは、密航した人間の人間性が引き起こすトラブルを中心とした「サスペンス」の印象を受けます。

しかし、実際は図らずも密航することとなってしまったマイケルを始め、登場人物の全てが他者を思いやることの出来る「善人」であり、それ故に全員が生き残ることが難しい状況が重く響きます。

より多くの命を守るためにマイケルを見捨てる判断をするバーネットやデビットでさえ、マイケルの善人さを知っているため、1人のシーンでは自身の発言に押し潰されるような表情を見せます。

マイケルを除く3人のクルーは激しい訓練を耐え抜いたプロフェッショナルであり、弱さを見せずに絶望的な状況でも人前では取り乱しはしません。

その強い表面の裏に、崩れ落ちそうな動揺を隠した人間の心理を俳優の演技と描写から汲み取ることの出来る上質なヒューマン映画でした。

まとめ


Netflix映画『密航者』

エイリアン』(1979)や『クローバーフィールド・パラドックス』(2018)のように宇宙ステーションや宇宙船を題材とした密室劇を扱った映画は数多く存在します。

しかし、その多くが人間同士の恐ろしさや未知の存在に対する恐怖を描いている中、『密航者』は人間の優しさと宇宙空間の残酷さを繊細なタッチで描いていました。

自分の命だけでなく他者の生死すら左右する決断を迫られた時、即決する者と立ち止まる者、それぞれの想いが議論となりより良い案を模索する物語が胸を打つ本作。

物語の最後にゾーイが見る火星の景色は彼女の目にどのように映っていたのか。

手に汗握るハラハラ感と思わず涙ぐんでしまう人間の素晴らしさを味わうことの出来るおすすめのSFヒューマン映画です。

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