連載コラム『シニンは映画に生かされて』第13回
はじめましての方は、はじめまして。河合のびです。
今日も今日とて、映画に生かされているシニンです。
第13回にてご紹介する作品は、『幸せのちから』で有名なガブリエレ・ムッチーノ監督のコメディ映画『家族にサルーテ! イスキア島は大騒動』。
イタリア・イスキア島の美しき風景で紡がれる、ある大家族の切なくも愛おしい大騒動の顛末を描いた作品です。
CONTENTS
映画『家族にサルーテ! イスキア島は大騒動』の作品情報
【公開】
2019年6月21日(イタリア映画)
【原題】
A casa tutti bene
【監督】
ガブリエレ・ムッチーノ
【脚本】
ガブリエレ・ムッチーノ、パオロ・コステッラ
【キャスト】
ステファノ・アコルシ、カロリーナ・クレシェンティーニ、エレナ・クッチ、ピエルフランチェスコ・ファビーノ、クラウディア・ジェリーニ、マッシモ・ギーニ、サブリナ・インパッチャトーレ、イバノ・マレスコッティ、ジュリア・ミケリーニ、サンドラ・ミーロ、ジャンパオロ・モレッリ、ステファニア・サンドレッリ、バレリア・ソラリーノ、ジャンマルコ・トニャッツィ、ジャンフェリーチェ・インパラート
【作品概要】
イタリアの美しい避暑地・イスキア島を舞台に、そこに訪れたある幸福な一族の問題や秘密が続々と明かされていくその顛末を描いたコメディ・ドラマ。
監督を務めたのは、ウィル・スミス主演映画『幸せのちから』など、ハリウッドでの活躍でも知られているイタリア映画界の名匠ガブリエレ・ムッチーノ。
またキャストには、『はじまりは5つ星ホテルから』のステファノ・アコルシ、『修道士は沈黙する』のピエルフランチェスコ・ファビーノ、『暗殺の森』のステファニア・サンドレッリ、『8 1/2』のサンドラ・ミーロなど、イタリアを代表する老若男女の名優たちが勢揃いしました。
映画『家族にサルーテ! イスキア島は大騒動』のあらすじ
美しい風景が見られる避暑地として知られるイタリアのイスキア島。
そこで結婚50周年の金婚式を開くことにしたピエトロ&アルバ夫妻を祝うため、親戚一同19人が島へと集いました。
教会で無事金婚式を挙げ、久しぶりに再会したファミリーたちの楽しい食事会パーティーが終わりを迎えようとした時、嵐によりフェリーが欠航するという知らせが。
突然、二晩も同じ屋根で過ごす羽目になったファミリーたち。
やがて金婚式やパーティーでは潜めていた不満や本音が洩れ始め、誤魔化していたはずの様々な問題や秘密が次々と暴露されてゆきます…。
共同体に繁栄と衰退をもたらすもの
映画の冒頭、大家族の長であるピエトロとその妻アルバの次男であるパオロは、イスキア島行きのフェリーが出る船着場へと向かう車中、心の内でこう語ります。
家族は我々の出発点だという
そこから逃げ、最後は戻ってゆく
(映画劇中より抜粋)
家族は“我々の出発点”。
彼が家族という共同体に対してそう表した意味は、劇中で描かれてゆく家族間での秘密の暴露、そしてその暴露を通じて剥き出しにされていく家族たちの“愛”あるいは“恋”にまつわる本音や葛藤によって理解することができます。
蘇る初恋。友情と恋情の狭間。そして、恋の目覚め。
翳りの尽きない結婚。妊娠と出産と育児。仕事の意味。浮気。離婚。再婚。前妻・後妻の板挟み。病。老い。介護。そして、晩年。
“恋”と“愛”にまつわるあらゆる出来事が、一つの大家族の有り様を通じて描かれています。
ここで大切なのは、“恋”と“愛”とは、共同体で生活する人間同士を繫ぎ止める、もっとも単純でもっとも複雑なエネルギーであるということです。
このエネルギーは、時には社会すらも破壊してしまうほどの強大さを孕み、時には石ころ一つすらも蹴れないほどの弱小さを孕むという、訳の分からない性質を持っています。そして、そんな訳の分からない、正体不明の“恋”と“愛”というエネルギーによって、これまでに形成されてきた無数の共同体は繁栄と衰退を描いてきたのです。
「社会」や「国家」というより大きな単位に対する議論が絶えない、現代における共同体の状況。その中で、映画『家族にサルーテ! イスキア島は大騒動』は共同体の最小単位と言える「家族」の有り様を描くことで、「そもそも共同体を生み出し、滅ぼし続けてきたエネルギーとは何か」という疑問に立ち返ろうとするのです。
ムッチーノ監督は“家”に帰り再考する
本作のメガホンを取ったガブリエレ・ムッチーノ監督は、ウィル・スミス主演で話題となった『幸せのちから』(2006)をはじめ、12年に渡ってロサンゼルス・ハリウッドにて映画制作を続けてきました。そして今回、ムッチーノ監督は自身の故郷であり、映画監督としてのルーツであるイタリアにて本作を制作したのです。
また、本作の大きな見どころの一つに、映像によって切り取られたイタリア・イスキア島の美しい風景を見られるという点があります。
ルネ・クレマン監督、アラン・ドロン主演の名作映画『太陽がいっぱい』(1960)のロケ地としても知られるイスキア島ですが、紀元前730年から始まる長い歴史を持つ島としても知られています。
ムッチーノ監督は、なぜこの島を本作の舞台に設定したのか。それは、イタリア、あるいは現時点ではイタリアという国が繁栄しているその土地で興隆・興亡を繰り返してきた無数の共同体を見つめ続けてきたイスキア島だからこそ、自身のルーツと自身が属してきた共同体について再考を試みることができたからではないでしょうか。
監督は本作のパンフレットでのインタビューにて、こう語っています。
物理的にも感覚的にも遠く離れた所へ旅をした後に、まさしく家に戻ってきたという心境です。
(パンフレット・監督インタビューより抜粋)
故郷イタリアを離れ、12年間のハリウッドでの映画制作を通じてその実力を研鑽してきたムッチーノ監督は自身が属してきた共同体の単位である「故郷」という“家”に帰ることで、共同体にまつわる再考へと至ったのです。
ガブリエレ・ムッチーノ監督のプロフィール
1967年生まれ、イタリア・ローマ出身。
ボランティアで監督助手を経験したのを機に映画へ興味を抱き、イタリア国立映画実験センターで演出と脚本を学びました。
1998年、長編デビュー作『Ecco fatto(原題)』で「イタリアのアカデミー賞」とされるダヴィッド・ディ・ドナテッロ賞新人賞にノミネート。一躍注目されます。
2001年、『最後のキス』でダヴィッド・ディ・ドナテッロ賞の監督賞と脚本賞、サンダンス映画祭の観客賞を受賞。さらに2003年にはモニカ・ベルッチが主演を務めた『リメンバー・ミー』でダヴィッド・ディ・ドナテッロ賞の作品賞&監督賞&脚本賞に輝き、イタリアを代表する映画監督となりました。
そして2006年、ウィル・スミス主演『幸せのちから』でハリウッドに進出。同作は日本国内でも大ヒットを記録しました。
その後も、再びウィル・スミスとタッグを組んだ『7つの贈り物』(2008年)や『最後のキス』の続編にあたる『もう一度キスを』(2010年)のほか、ジェラルド・バトラー、キャサリン=ゼタ・ジョーンズ、ユマ・サーマンが共演した『スマイル、アゲイン』(2013年)、ラッセル・クロウとアマンダ・セイフライドが共演した『パパが遺した物語』(2015年)などを手掛けてきました。
まとめ
社会や技術をはじめ、あらゆる事象の急速な変化によって、その在り方に関する議論は益々混迷を極めてゆく共同体に対し、ムッチーノ監督は自身にとっての“古き”共同体である「故郷」、そして「家族」を描くことで、共同体を生み出し、滅ぼす“恋”と“愛”というエネルギーについての再考を試みました。
そして、大家族のてんやわんやの大騒動、そしてその果てに辿り着く共同体の意味、人生の意味を目撃した観客の多くは自らを内省し、その上で「それでも未来と幸せを目指そう」という意志を抱くでしょう。
自身が人生の上り坂にいても下り坂にいても関係なく、共同体に属し続ける限り幾度となく繰り返されるであろう「サルーテ!(乾杯!)」という言葉は、共同体と人生にまつわる苦悩を描き、それでも受容を選びとろうとする“人間賛歌”である本作にこそふさわしいのでしょう。
映画『家族にサルーテ! イスキア島は大騒動』は2019年6月21日より絶賛公開中です。
次回の『シニンは映画に生かされて』は…
次回の『シニンは映画に生かされて』は、2019年8月2日(金)より公開中の映画『世界の涯ての鼓動』をご紹介します。
もう少しだけ映画に生かされたいと感じている方は、ぜひお待ち下さい。