Cinemarche

映画感想レビュー&考察サイト

連載コラム

短編映画『気:呼吸の技法』あらすじと感想。“気”のパワーで武侠映画の精神を継ぐリウ・イー監督|OAFF大阪アジアン映画祭2019見聞録8

  • Writer :
  • 加賀谷健

連載コラム『大阪アジアン映画祭2019見聞録』第8回

今年で14回目の開催となる大阪アジアン映画祭。2019年3月08日(金)から3月17日(日)までの10日間、アジア圏から集まった全51作品が上映されます。

今回は3月13日にシネ・リーブル梅田で上映された「台湾:電影ルネッサンス2019」選出作品の短編映画『気:呼吸の技法』を取りあげます。

【連載コラム】『大阪アジアン映画祭2019見聞録』記事一覧はこちら

映画『気:呼吸の技法』の作品情報

【公開】
2018年(台湾・アメリカ合作映画)

【監督】
リウ・イー

【キャスト】
シン・ホアイシュオ、クララ・リー、カス、ツァイ、ベラ・チュン、アーチー・フー

【作品概要】
コロンビア大学大学院の卒業制作として、台湾系アメリカ人のリウ・イー監督がした短編映画。

スタイリッシュな映像表現で台湾の次世代の映像作家として注目されています。また監督の他に脚本、撮影、照明も務めています。

映画『気:呼吸の技法』のあらすじ

アメリカ育ちの帰国子女シュオは台湾で父親と二人で暮らしています。

成績が悪く、予備校もさぼってばかり。父親には毎日のように叱られています。

いつものようにクラスメイトのチアチアと予備校をさぼっていると、突如スリにあい、鞄を盗まれます。

咄嗟の機転を利かせたチアチアが泥棒を見事に撃退。

その動画を偶然ネットでみたシュオは、武術に興味をもちます。

最初は武術指導を渋っていたチアチアでしたが、秘伝の技が描かれた一枚の紙片をシュオに渡します。

それを手がかりにシュオは特訓し、生まれて初めて“気”のパワーを感じ取ります。

しかしそのことが思わぬ騒動を引き起こし…。

映画『気:呼吸の技法』の感想と評価

“気”を感得する体験

気のパワーを扱う武術と言えば、台湾でも健康法として実践されている太極拳があげられます。

万物の起源を「道」とする「老荘思想」に根ざした太極拳では、ゆるやかな丸を描くような、動作によって体内の気が活発化されます。

これは実際に体験してみなければわかりませんが、翻る手のひらにポカポカとした温かみを感じることができるのです。

その内在的な温かみを感じると、体験者は「自我」を去り、自然と呼吸に身を委ねている状態になります。

『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』(2016)でドニー・イェンが演じた盲目の戦士チアルートが感得していたのもこの気のパワーです。

台湾の武術映画

参考映像:『グリーン・デスティニー』(2000)

中華圏の武術映画といえば、やはり香港のクンフー映画が連想されるのでしょうか。

日本でも圧倒的人気を誇ったブルース・リー主演のクンフー映画はその筆頭です。

またブルース・リーの唯一の師匠として知られる詠春拳の達人イップ・マン(葉問)の生涯を描いた「イップ・マン」シリーズも大ヒットを記録。

クラスメイトの思わぬ秘技にみせられたシュオは、シリーズの主演俳優であるドニー・イェンに憧れると言ったりもしていました。

しかし中華系映画では、クンフー映画以前に「武侠映画」と呼ばれる剣劇時代劇があります。

香港映画の全盛期を築いた映画会社ショウ・ブラザーズで武侠映画の金字塔を打立てたキン・フー監督は、後に台湾に渡りその分野の巨匠的存在となります。

台湾ではその後、アン・リー監督の『グリーン・デスティニー』(2000)が第73回アカデミー賞で外国語映画賞を受賞し、武侠映画が世界的注目を集めました。

義侠心を重んじるという意味では、本作『気:呼吸の技法』も武侠映画の精神を継ぐものと言えるのではないでしょうか。

まとめ

この短編作品によって、中華圏に伝わる“気”の存在を知る人も多いはずです。

『スター・ウォーズ』のフォースに匹敵する気のパワーを感得する武術の達人たちは現代版のジェダイ戦士そのものでしょう。

本作を撮ったリウ・イー監督が、次回作以降、新たな台湾武侠映画を模索していくことを期待するばかりです。

【連載コラム】『大阪アジアン映画祭2019見聞録』記事一覧はこちら

関連記事

連載コラム

映画『レッド・ブレイク』ネタバレあらすじ感想と結末の評価解説。ワイルド・スピードシリーズのタイリース・ギブソン主演による“元海兵隊員”のアクション活劇!【未体験ゾーンの映画たち2022見破録12】

連載コラム「未体験ゾーンの映画たち2022見破録」第12回 映画ファン待望の毎年恒例の祭典、今回で11回目となる「未体験ゾーンの映画たち2022」が今年も開催されました。 傑作・珍作に怪作、ド派手なア …

連載コラム

『ウーマン・トーキング 私たちの選択』あらすじ感想と評価解説。ボリビアで起きた実際の事件を基にルーニー・マーラらで描く女性たちの対話劇|山田あゆみのあしたも映画日和11

連載コラム「山田あゆみのあしたも映画日和」第11回 今回ご紹介するのは映画『ウーマン・トーキング 私たちの選択』です。 本作は『ノマドランド』(2020)のフランシス・マクドーマンドが原作にほれ込み、 …

連載コラム

『THE GUILTYギルティ』ネタバレ感想と考察。音声のみで展開される異色サスペンス作品の妙味|サスペンスの神様の鼓動11

こんにちは、映画ライターの金田まこちゃです。 このコラムでは、毎回サスペンス映画を1本取り上げて、作品の面白さや手法について考察していきます。 前回のコラムで、次回は『フロントランナー』をご紹介すると …

連載コラム

『アラビアンナイト 三千年の願い』あらすじ感想と評価考察。ジョージ・ミラー監督がファンタジックに描く大人の恋愛物語|映画という星空を知るひとよ138

連載コラム『映画という星空を知るひとよ』第138回 「マッドマックス」シリーズで、世界中を圧倒したジョージ・ミラー監督が放つ、新たな寓話の『アラビアンナイト 三千年の願い』。 3000年もの間瓶に閉じ …

連載コラム

水木しげるの妖怪漫画を実写化した『ゲゲゲの鬼太郎』。歴代の解説と評価|邦画特撮大全29

連載コラム「邦画特撮大全」第29章 漫画家・水木しげるの代表作と言えば『ゲゲゲの鬼太郎』です。 1968年にモノクロ版の第1作、1971年に第1作の直接的続篇の第2作が製作されました。 以降およそ10 …

【坂井真紀インタビュー】ドラマ『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』女優という役の“描かれない部分”を想像し“元気”を届ける仕事
【川添野愛インタビュー】映画『忌怪島/きかいじま』
【光石研インタビュー】映画『逃げきれた夢』
映画『ベイビーわるきゅーれ2ベイビー』伊澤彩織インタビュー
映画『Sin Clock』窪塚洋介×牧賢治監督インタビュー
映画『レッドシューズ』朝比奈彩インタビュー
映画『あつい胸さわぎ』吉田美月喜インタビュー
映画『ONE PIECE FILM RED』谷口悟朗監督インタビュー
『シン・仮面ライダー』コラム / 仮面の男の名はシン
【連載コラム】光の国からシンは来る?
【連載コラム】NETFLIXおすすめ作品特集
【連載コラム】U-NEXT B級映画 ザ・虎の穴
星野しげみ『映画という星空を知るひとよ』
編集長、河合のび。
映画『ベイビーわるきゅーれ』髙石あかりインタビュー
【草彅剛×水川あさみインタビュー】映画『ミッドナイトスワン』服部樹咲演じる一果を巡るふたりの“母”の対決
永瀬正敏×水原希子インタビュー|映画『Malu夢路』現在と過去日本とマレーシアなど境界が曖昧な世界へ身を委ねる
【イッセー尾形インタビュー】映画『漫画誕生』役者として“言葉にはできないモノ”を見せる
【広末涼子インタビュー】映画『太陽の家』母親役を通して得た“理想の家族”とは
【柄本明インタビュー】映画『ある船頭の話』百戦錬磨の役者が語る“宿命”と撮影現場の魅力
日本映画大学