連載コラム「シネマダイバー推薦のNetflix映画おすすめ」第6回
Netflixのおすすめ映画『デンジャラス・ライ』。主人公のケイティは大学院のアダムと婚約し、生活は楽ではなく彼女は堅実に働きます。
そんなケイティに思わぬ遺産が入り、2人に幸せな日々が訪れるはずでした。しかし、その遺産の影には、誰も知らない秘密と罠が!?
監督は、長年にわたって、テレビのドラマ映画やドキュメンタリー映画の製作に多く携わってきたマイケル・M・スコット。遺産相続や“大金”の裏に潜む、欲にまみれた“危険な嘘”と真実が興味をそそります。
カミラ・メンデス、ジェシー・T・アッシャーなどの俳優が熱演するなか、『ドラゴンボール』のハリウッド版でチチ役を務めたジェイミー・チャンも好演。
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CONTENTS
映画『デンジャラス・ライ』の作品情報
【日本公開】
2020年(アメリカ映画)
【原題】
Dangerous Lies
【監督】
マイケル・M・スコット
【脚本】
デヴィッド・ゴールデン
【キャスト】
カミラ・メンデス、ジェシー・T・アッシャー、ジェイミー・チャン、カム・ジガンデイ、サッシャ・アレクサンダー、エリオット・グールド、マイケル・P・ノーシー、ニック・パーチャ
【作品概要】
マイケル・M・スコット監督が手掛けた『デンジャラス・ライ』。ケイティ役には米CWのテレビドラマ、『リバーデイル』でベロニカロッジ役で知られる、カミラ・メンデス・ジェシー。2017年のティーンチョイスアワードで、シーンスティーラー賞を受賞し、『シュガーベイビー』(2016)で、映画デビューした俳優です。
アダム役には、SF超大作『インデペンデンス・デイ リサージェンス』(2016)で、ディラン・ヒラー役に抜てきされた、ジェシー・アッシャー。他に人気漫画『ドラゴンボール』のハリウッド実写版『DRAGONBALL EVOLUTION』(2009)で、チチ役を演じたジェイミー・チャンが、ストーリーのとどめ役として好演。
映画『デンジャラス・ライ』のあらすじとネタバレ
“スマイルダイナー”でウェイトレスとして働くケイティは、大学に通う夫のアダムと2人暮らし。
ある晩、アダムはケイティの働くダイナーで、大学院に進む勉強をしながら、彼女の仕事が終わるのを待っていました。
休憩時間をアダムの自動車の中で2人の時間をすごしたケイティが店に戻ってみると、誰かが言い争う声がします。
そっと見ると強盗が女性を人質に捕って、店長に金を要求し怒鳴っていました。床には厨房で働いていたスタッフが血まみれで倒れ、修羅場と化しています。
強盗は興奮状態で店長は狼狽し動けません。アダムは近くにあったフライパンを持ち、立ち向かおうとします。
ケイティはアダムを制止しますが、隙を見て強盗犯にとびつくと、フライパンで強盗を殴打し捕り押さえました。
4ヶ月後、アダムは大学を退学し就職活動を始め、ケイティは訪問介護の仕事に付きました。
利用者は88歳の男性レナードです。ケイティは朝、レナードの邸宅に行くと朝食を用意し、服用している薬を飲ませます。
レナードは献身的で親しく接してくれるケイティを、使用人としてではなく“友人”という気持ちでいました。
レナードは庭の見える窓辺に立ち、自分が生まれた時に植えた木や、母親が手入れをした美しい庭には、見学に来る人もいたと話します。
しかし、今は手入れがされないまま荒れてしまっています。「2、3年前にイーサンという若者を雇い庭の手入れを始めたが、2、3週間働いて来なくなってしまった」と言います。
アダムの就職活動はなかなかうまくいかず、仕事が決まりません。ケイティは学資ローンの返済が滞り、督促の電話がきていることを話します。
ケイティの収入だけではまかないきれず、不安からイライラしてしまいます。アダムも理解しているものの、どうすることもできません。
アダムがケイティの機嫌をとろうとしても空回りし、ケンカになってしまい、ケイティは外へでていきました。
ケイティがレナードの家のエントランスで、物思いにふけっていると、バットをもったレナードが家から出てきて、ケイティに驚きます。
ケイティはバットを持っている理由を聞くと、「寝ていたら、“また”足音がして」と言います。ケイティは「また?・・・誰もいないわ」と、言ってバットを受け取ります。
レナードはケイティの暮らしが、経済的に苦しいことを聞き、“友達”として援助したいと提案します。ケイティは断りますが、アダムには仕事が必要とだけ言います。
ある日からアダムは、レナードの計らいで庭師として働き始めます。その日レナードの家には、ミッキー・ヘイデンと名乗る不動産会社の人間が訪ねてきました。
ヘイデンはレナードの家を購入したい依頼主がいると話します。ケイティは家主は売る予定も引っ越す予定もないと、引き取らせようとし気が変わったら連絡がほしいと頼みます。
翌日はケイティが登録をしている人材派遣会社の責任者カルバーンが、アポイントなしでレナードの家を訪ねてきます。
カルバーンは、ケイティの仕事ぶりを確認しに来ただけのようでしたが、植木の剪定をするアダムを怪訝そうに見て帰っていきました。
レナードはカルバーンを、ケイティの立場を悪くするような質問ばかりすると怒っています。「君なしじゃ生活できないと伝えた」と、言うと報酬の小切手を渡しました。
ケイティとアダムは小切手を換金しに銀行へ行きます。車内で小切手を確認すると、金額が、“7,000ドル”と一桁多く書かれていました。
ケイティは自分達の経済状況を話したせいだと、アダムに話します。アダムは自分達への援助かもと言いますが、ケイティはレナードに電話をかけますが出ません。
その日は請求の支払い期限で、アダムにはそのお金が必要でした。そして、支払いの分だけ使ったら、差額は明日返せばいいとアダムが言い、ケイティも仕方なくそうしました。
そんなケイティ達の様子を乗用車の中から監視する者がいました。不動産会社のヘイデンです。
翌朝、ケイティは薬と朝食をレナードの部屋に運び、部屋にいないので屋根裏部屋に行くと、椅子に座り目を閉じたレナードが、両親のレコードを聴きながら亡くなっていました。
アダムは落ちていた鍵をみつけ、辺りを探すと南京錠の外された箱をみつけます。
中には若い頃のレナードが、女性と撮った写真と沢山の手紙、そして写真の女性が自動車事故で亡くなったと報じた、新聞記事の切り抜きが入っていました。
アダムは箱が二重底になっていることに気がつき、上箱を持ち上げると下には、多額のドル紙幣が入っており2人は仰天します。
献身的だったケイティへの援助だと話し、少し納得した彼女はアダムに、「用心してね」と念を押して、警察に連絡を入れます。
映画『デンジャラス・ライ』の感想と評価
『デンジャラス・ライ』は序盤から様々な伏線があり、登場する人物それぞれに、何かしら隠さなければならない秘密を持っています。
それを隠すために作り上げられたいくつかの“嘘”によって、ストーリーを複雑に仕立てています。最後まで明かされない“秘密”がいくつかあり、誰もが怪しい・・・と思わせる効果がありました。
それ故に鑑賞後に、“あれはどういうこと? これは何か関係しているの?”と、真相が考察できる面白味のある作品です。
レナードが隠していた“現金”の謎に迫る
イーサンはレナードからの印象がよかったので、撃たれたあと助けを求め、納屋の上にかくまってもらった可能性があります。
カルバーンの紹介でイーサンがレナードの庭師になったとしたら、カルバーンが宝石強盗のグルだった可能性もあり、家の合鍵を作ってあったとも考えられます。
イーサンはヘイデンに濡れ衣を着せようと利用し、持ち逃げし撃たれたのです。レナードは負傷したイーサンのことをカルバーンに伝えます。
カルバーンは自分の身を守るため、イーサンの遺体を納屋に放置したまま、レナードに口止め料を定期的に渡し、レナードはそれを宝箱に隠したのではないでしょうか?
レナードがケイティを引き止めようと大事にし、カルバーンを嫌ったのは、彼から自分の身を守るためでしょう。
つまり、ケイティが受け取った多額の報酬が“脅し取った”ものというのも、庭師のアダムを怪訝そうに見た理由も、カルバーンが追い詰められていたからです。
さらにカルバーンには、イーサンの秘密を知るレナードを殺す理由もあり、薬の記録を知っていたので、量を細工することもできます。
そして、アポなしで訪問した日はおそらく口止め料を渡した日であり、レナードは箱に隠した後に亡くなったのです。
レナードが好きだった詩人“バイロン”とは
レナードが雇ったという弁護士のジュリア・バイロン・キムの名前を聞いたケイティは、「“バイロン”はレナードが一番好きな詩人の名前」だと言いました。
バイロンとはイギリスのロマン派詩人、ジョージ・ゴードン・バイロンのことです。
バイロンの名言で「事実は小説より奇なり」という言葉があまりに有名です。そして、この映画のキーワードともいえる、“嘘”に関する名言もあります。
それは「嘘とは何か。それは変装した真実にすぎない」という言葉です。本作は真実を嘘で隠した話で、真実を知るものは全員死んでしまい、作中でも真実は語られません。
その謎解きをする面白さもありながら、>詩人“バイロン”がどういう人物だったのかを紐解くと、更にストーリーが言わんとする趣旨もみえてきます。
バイロン自身は、子供のいなかった従祖父(父母のいとこ)であるバイロン男爵の遺産を相続し、第6代のバイロン男爵になったという経緯がありました。
彼はバイロン卿の遺産を得ましたが、学業は怠慢で、勝手気ままな生活をしたことでも有名でした。その乱れた生活を指弾され、イギリスを追われ、異国で熱病にかかり36歳という短い生涯を終えます。
ケイティも予期しない遺産を手に入れますが、堅実な生活を望みました。一方、アダムはその遺産や盗んだダイヤで楽な生活を選ぼうとし、短い一生を終えました。
犯罪を犯したり、嘘で大金を手に入れ贅沢な暮らしをしようとしても、それは身を亡ぼす結果も生むのです。
まとめ
Netflix映画『デンジャラス・ライ』は、本当の秘密と嘘の真相は、作中では明かされずモヤモヤとしたまま終わり、鑑賞後にこうして推理しながら楽しむ映画だったと言えます。
なぜなら最初から怪しいヘイデンが宝石強盗で、あとから登場したジュリアが共謀者だけですと、ストーリーは普通で、何が秘密で嘘だったのかが、わからないままだからです。
そして、欲望のまま嘘をつけば哀れな最期しかなく、思いがけず大金を手に入れても、堅実で正直に生きようとすれば、必ず応報があるのだと教えてくれる作品でした。