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『ザ・ファイブ・ブラッズ』ネタバレ感想と結末までのあらすじ。スパイクリーがベトナム戦争を背景に人権問題を描く|Netflix映画おすすめ2

  • Writer :
  • 西川ちょり

連載コラム「シネマダイバー推薦のNetflix映画おすすめ」第2回

ベトナム戦争を背景にスパイク・リーがアフリカ系アメリカ人に対して繰り返される暴力、差別を描くNetflixオリジナル映画『ザ・ファイブ・ブラッズ』。

『ブラック・クランズマン』(2018)により、第91回アカデミー賞で脚色賞に輝いたスパイク・リー監督が、ベトナム戦争をテーマに手掛けました。

戦死した仲間の遺骨を探すためにベトナムを再訪した4人のアフリカ系アメリカ人の退役軍人。しかし、彼らには他にも目的がありました。密林に埋まったままになっているCIAの金塊を掘り起こそうというのです!

出演者のひとりであるチャドウィック・ボーズマンは2020年8月28日に43歳の若さでこの世を去り、本作が遺作の1つとなりました。

【連載コラム】「Netflix映画おすすめ」記事一覧はこちら

映画『ザ・ファイブ・ブラッズ』の作品情報


(c)Netflix

【日本公開】
2020年6月12日より配信(アメリカ映画)

【原題】
Da 5 Bloods

【監督】
スパイク・リー

【脚本】
ダニー・ビルソン、ポール・デ・メオ、ケビン・ウィルモット、スパイク・リー

【キャスト】
デルロイ・リンドー、ジョナサン・メジャース、クラーク・ピータース、ノーム・ルイス、イザイア・ウィットロック・Jr.、メラニー・ティエリー、ポール・ウォルター・ハウザー、ヤスペル・ペーコネン、ジョニー・グエン、ラム・グエン、ジャン・レノ、チャドウィック・ボーズマン

【作品概要】
スパイク・リー監督が、ベトナム戦争をテーマにすえたNetflixオリジナル映画。仲間の遺骨とジャングルに隠した金塊を探すためベトナムを再訪した4人のアフリカン・アメリカンの退役軍人が見たものとは!?

『マルコムX』のデルロイ・リンドー、『ブラックパンサー』のチャドウィック・ボーズマンらが出演。

映画『ザ・ファイブ・ブラッズ』あらすじとネタバレ


(c)Netflix

アフリカ系アメリカ人の退役軍人であるポール、エディ、オーティス、メルヴィンの4人は、ベトナム・ホーチミンのホテルで再会を果たし、喜びを爆発させました。

4人はかつてベトナム戦争に従軍した戦友で、部隊のリーダーで戦死したノーマンの遺骨を回収するため、久しぶりに集まったのです。

しかし、目的はそれだけではありませんでした。彼らは、戦中、森に隠した大量の金塊を掘り起こそうと企んでいたのです。

CIAの軍用機が撃ち落とされ、それらを発見するよう命令を受けた彼らは、積まれていたものが金塊だとわかると、上には発見できなかったと嘘の報告をし、森に埋めて隠すことにしました。

「黒人はアメリカという国で正当な扱いを期待し建国前から血を流してきたのに裏切られ続けてきた。国は我々に借りがある。この金塊は同胞に与える」とノーマンは皆に語りました。

夜になりオーティスはベトナム人女性のティエンを訪ねました。かつてティエンは娼婦をしており、2人は恋愛関係にありました。

2人で食事をしていると娘が帰宅し、その容姿を見てオーティスは自分の娘であると気づきます。

ポールの部屋に突然、息子のデビッドがやってきました。驚く父に対して息子は言います。「目的は金だろ? メールを読んだ。僕も仲間に入れてくれ。これまでの僕への仕打ちを考えたら安いもんだ」

翌日、ポールは息子を仲間に紹介しました。彼らはデビッドが仲間に入ることを許してくれました。

ティエンの紹介でフランス人のデローシュという男と取引をすることになりました。金塊をそのまま持ち帰ることはできないので、彼に頼んで換金してもらうしか方法はありません。牽制仕合いながらも、なんとか話はまとまりました。

出発の日、見送りに来たティエンは用心にとそっとオーティスに銃を手渡しました。

ティンというベトナム人ガイドと共に船に乗り、どんどん川を進み奥地に入っていきます。

途中、街で休憩した際、デビッドはフランス人の女性ヘディと知り合います。彼女は、サイモンとセッポという男性と共に、地雷や不発弾を撤去する活動をしていると語りデビッドを驚かせます。

翌日、数日後に迎えにきてもらうことをディンと約束すると、4人は徒歩で現地に向かいました。

4人はノーマンのことを思い出していました。ノーマンといると生きて帰れるように思えたものです。彼は博学で、アフリカン・アメリカンの歴史についてもよく知っていました。

金塊は長年のうちに目印が消えてしまったのですが、最近、土砂崩れが起きたためその位置を衛生で確認することができたのです。

野宿をしている際、ポールはオーティスが拳銃を持っていることを知り、不信感を募らせ激怒します。ポールは拳銃を取り上げました。

そんな中、探索を続けた4人はついに金塊を発見します。次いでノーマンの遺骨も発見しました。重い荷物を担ぎ帰路に着く4人。

休憩の際、エディは、ノーマンが金塊を同胞のために使うと言っていたことに言及します。しかし、皆は自分のために使うと話します。エディが抗議しながら後ろに下がると突然爆発が起きました。

地雷を踏んだエディが亡くなると、今度はデビッドが「俺も地雷を踏んだ」と叫びました。彼のスニーカーの下には地雷が見えていました。

そこに地雷除去の活動を終えたヘディたち3人が通りかかりましたが、ヘディたちもこうした場合の対処は知りませんでした。

ポールは戦中の経験を思い出し、セッポが持っていたロープを借りました。デビッドの体にロープを巻きつけ、6人の人間が一斉に引きました。デビッドが飛んだ途端地雷は爆発しましたが、デビッドは無事でした。

ほっとしたのもつかの間突然ポールがヘディたちに銃を向け、跪かせました。「もっと善人も殺した」と彼らに告げると、デビッドに彼女たちを縛るよう命じました。

オーティスもメルヴィンもポールを説得しようとしますが、ポールは言うことを聞きません。仕方なくデビッドはヘディを縛り始めました。その時、セッポだけは逃げ出します。

エディを埋葬し、一行は再び歩き始めました。

夜になって、あばら小屋のようなところで休憩することになりました。その時、デビッドは父親を殴り、形勢は逆転。ポールはデビッドに対して「俺の息子じゃない!」と喚きました。

ガイドのディンが約束した場所で待っていると、一行が戻ってきました。ディンはひとり足りないことに気が付きます。そんなディンにオーティスは「生涯かせぐ以上の金は欲しくないか?」と尋ねました。

その時、車が一台やってきました。降りてきたのは銃を構えた男たちで、セッポが人質となっていました。

以下、赤文字・ピンク背景のエリアには『ザ・ファイブ・ブラッズ』ネタバレ・結末の記載がございます。『ザ・ファイブ・ブラッズ』をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。
「こいつを返してほしかったら金塊をよこしな。それは俺達ベトナム人のものだ」と男たちは言いました。警官だと名乗る男にバッジを見せろとポールが言うと男は怒り出し、ナイフを振りかざしてきました。

銃を使おうとするベトナム人を蹴飛ばしてサッポは走り出しますが、地雷を踏んで爆死します。ブラッズたちはベトナム人が落とした銃を奪い、銃撃戦が始まりました。

仲間を数人失ったベトナム人たちは、あわてて逃げていきましたが、ポールは「奴らはずっと強い奴らを集めて戻ってくるだろう」と呟きます。

デビッドが足を撃たれ苦しんでいました。弾は貫通しており、オーティスが手当をしました。

ディンの車は穴が開きガソリンが漏れ出していました。ディンはあまり遠くにはいけない、近くの廃院までなら送っていけると皆に告げます。

ポールはジャングルを横切って別の街に出ようと提案します。しかしそれはあまりにも遠い距離でした。足を撃たれたデビッドには無理な行程です。

ポールは一人で行こうとします。ノーマンが仲間割れを許すと思うか?と問われたポールは「許さないさ。だがこれは俺の問題なんだ」と言い返し、背を向けて一人で歩き始めました。

成す術もなくポールを見送った一行は廃寺へと向かいました。

まもなく、助っ人を乗せたベトナム人の一行が戻ってきました。彼らは敵が二手に別れたことを察すると、3人ずつに別れ、後を追いました。

足を撃たれたデビッドはヘディに父親との確執を告白します。彼の母は彼を産んで亡くなってしまい、以来父はずっと自分を憎んでいるのだと。

一方、目的地へと進んでいたポールは、途中で蛇に驚き、体勢を崩して道を踏み外してしまいます。金塊の入ったバッグが木の枝にぶら下がり、どうしても取れません。

そんな彼の目の前にノーマンが立っていました。彼が軍服をめくると血まみれになった腹が見えました。

あの時、敵と撃ち合っていたノーマンとポール。そこに一人のベトコンの女性が近づいていました。

女性が銃を構えて現れたと同時にポールは振り返って銃撃しましたが、その弾はノーマンの腹にもあたってしまったのです。そのままノーマンは息絶えました。そのことを誰にも言えず、彼はずっと苦しんできたのです。

ノーマンは言いました。あれは事故だ、俺はお前を許すと。2人は固く抱き合いました。そこに追ってきた男たちが現れノーマンは殺害されてしまいます。

廃寺の方にも車がやってきました。ベトナム人と共にデローシュの姿もありました。全てはデローシュの裏切り行為だったのです。

すぐさま銃撃戦が始まりました。激しい攻防のもと、ベトナム人を全て倒しましたが、デローシュだけはしぶとく生き残っていました。

オーティスはデローシュに肩を撃たれ倒れます。さらにデローシュは手榴弾を転がし、メルヴィンは爆発を抑えるため飛び込み絶命します。

デローシュはオーティスに近づき止めを刺そうとしますが、その時彼の頭に銃弾が撃ち込まれました。デビッドが放った一発でした。

後日、アメリカに戻ったデビッドは父からの手紙を読んでいました。死後開封するようにと指定された手紙をオーティスから渡されていたのです。

「息子よ。これを読んでいるなら俺は死んでいる」という書き出しで始まる手紙は、これまでの仕打ちを謝罪し、「愛している」と何度も綴られていました。

オーティスは命をとりとめ、ディエンを訪ねました。娘が彼に歩み寄り、2人は固く抱き合いました。

遺骨がアメリカに帰り、軍によるノーマンの葬式が厳かに行われました。

ディンは立派な旅行会社のオーナーになりました。亡くなった仲間の遺族、BLM運動の団体、「地雷と不発弾の会」などに巨額の寄付金が届けられました。

映画『ザ・ファイブ・ブラッズ』の感想と評価

スパイク・リーの真骨頂

第91回アカデミー賞・脚色賞を獲った『ブラック・クランズマン』(2018)に続くスパイク・リー作品は、ベトナム映画を背景にしたNetflix映画です。

映画は徴兵拒否をするモハメド・アリの映像から始まります。アリは激しいバッシングを受け、ボクシングのライセンスも奪われてしまいますが、闘い続けました。アリの言論や姿が、やがて活発になるベトナム反戦運動の流れを作ることになります。

映画はその後も、ベトナム戦争の象徴的な映像や、反戦運動が激化する中でのケント州立大学銃撃事件、ジャクソン州立大学銃撃事件などの当時の映像が続き、また、エンディングではマーティン・ルーサー・キング牧師の演説の様子が流れます。

そうした現実の記録フィルムの映像に挟まれながら展開する物語は、ベトナム戦争に従軍したかつてのアフリカン・アメリカン(以下“黒人”と記載させていただきます)の戦友たちの友情物語であり、部隊のリーダーであった青年の遺骨を持ち帰る目的と共に、金塊を掘り起こすという冒険譚の要素も含んだものです。

アクションシーンも豊富で、すこぶるエキサイティングな作品に仕上がっています。

映画のエンターティメント性に、黒人の歴史と現実が織り込まれる作風は、まさにスパイク・リーの真骨頂といえます。

“ブラッズ”たちの絆

映画の中で黒人兵士が人口比率において際立って多かったことが言及されているように、大義名分が見えにくかったベトナム戦争において、黒人はさらなる理不尽な扱いを受けていました。

『ザ・ファイブ・ブラッズ』には、チャドウィック・ボーズマン扮する部隊のリーダー・ノーマンが、他の兵隊たちに自分たちが歩んできた歴史と現実を伝えるという教育的な側面があります。

そのことによって、怒りと共に目覚めていく兵士たちの姿は、当時、アメリカ国内で大きくなっていった反戦運動と思想的にリンクしており、また兵士たちが崇拝するノーマンという人物は、キング牧師や公民権運動に尽力した様々な人々の姿を象徴したものともとれます。

スパイク・リーの1992年の作品『マルコムX』でギャングを演じていたデルロイ・リンドーがPTSDを患っているポールという人物を演じるなど、堅い絆で結ばれたブラッズたちのそれぞれの個性が魅力的に描かれています。

チャドウィック・ボーズマンは、本作の配信後、2020年8月28日に癌でこの世を去りました。撮影中は、病気であることを一切悟らせることはなかったと言います。

今、この作品を観ると、チャドウィック・ボーズマンとノーマンというキャラクターが、単なる俳優と演じた役柄という意味合いを超え、オーバーラップして見えてきます。

まとめ

ブラッズたちがいよいよ船に乗りかつての戦地に向かう際、劇伴としてワーグナーの「ワルキューレの騎行」が流れるなど、映画『地獄の黙示録』(1979)へのオマージュが各所に捧げられています。

また、マーヴィン・ゲイのベトナム反戦歌「What’s going on」も劇中、重要な役割を果たしています。

映画の序盤、ノーマンの遺骨と金塊を探す一行は、青々としたベトナムの美しい水田を横切ります。水田で出会った少年にポールが挨拶し、少年も元気な声で挨拶を返すシーンがあります。

それがとても清々しいシーンであったからこそ、かつてなぜ彼らはベトナムで戦わねばならなかったのか、戦争というものの理不尽さ、不条理さを思わずにはいられません。ソンミ村の大量虐殺事件の写真が挿入されることにより、戦争の残酷さが鮮明に浮かび上がってきます。

映画の終盤、「Black Lives Matter」のおそろいのTシャツを着た団体の姿が映し出されます。ベトナム戦争の時代から2020年へ。アメリカの黒人の歴史の過去と現在が1つの映画の中で結びつけられ、語られています。

公民権運動が起こった60年代以降、黒人の人権問題は改善されて来たように見えて、根本では何も変わっていないことを映画は訴えます。と、同時に、諦めない決意も語られます。

最後に映し出されるキング牧師が作家のL・ヒューズの言葉を引用した演説が本作でも受け継がれているのです。

「私にとって米国は祖国ではなかった。だが、ここで宣言する。いずれ必ずなると」。

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