連載コラム「未体験ゾーンの映画たち2019見破録」第46回
ヒューマントラストシネマ渋谷で開催の“劇場発の映画祭”「未体験ゾーンの映画たち2019」。今回はインドネシアを舞台に、引退したはずの殺し屋が暴れ回る映画が登場します。
麻薬王が支配するマンションにSAWTが突入、中にいた多数のギャングとひたすら殺し合う、というノンストップ・アクションで見せる映画『ザ・レイド』の世界的ヒットにより、一躍世界の注目を浴びたインドネシア映画界。
そのインドネシアを舞台に、今度は孤高の殺し屋が巨大な犯罪組織を相手に、単身挑み殺戮の限りを尽くす、ハードボイルドな作品が登場します。
第46回はバイオレンス・アクション映画『メッセージマン』を紹介いたします。
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CONTENTS
映画『メッセージマン』の作品情報
【日本公開】
2019年(インドネシア・オーストラリア映画)
【原題】
Message Man
【監督】
コーリー・パーゾン
【キャスト】
ポール・オブライエン、ヴェルディ・ソライマン、アジ・サントサ
【作品概要】
引退した凄腕ヒットマン、ライアンは安住の地を求め、インドネシアの小島にやって来ました。
その地に住む少年とその一家と親しくなったライアンは、少年に重傷を負わせた海賊団を殺害します。しかしその行為は、更なる巨大な敵を呼び込みます。
オーストラリアのコーリー・パーゾンが製作・監督・脚本・編集を務め、インドネシアのスタッフと共に作り上げたアクション映画です。
ヒューマントラストシネマ渋谷とシネ・リーブル梅田で開催の「未体験ゾーンの映画たち2019」上映作品。
映画『メッセージマン』のあらすじとネタバレ
ヨットに乗り、単身インドネシアの海を旅する男。彼は一つの小島に近づきます。双眼鏡でその島を観察すると、拳銃をベルトに差し入れボートに移り島に上陸します。
港の男に教えられた修理屋に、男は船の部品の修理を依頼します。部品の完成は2日後。島に滞在する事になり食料を調達する男に、荷物を持とうと、まだ幼い少年が声をかけます。
男に声をかけた少年、ドーニ(アジ・サントサ)は断わられても離れず、勝手に男の買う商品の値切りを行い、役に立つとアピールし、夕食は自分の家で食べれば良いと提案します。
近くの店に少年の母ジーニティと妹デビの姿があります。ジーニティは店の男への支払いに苦労しており、ドーニの家族は貧しい暮らしをしていました。
母に尋ねられると、今は男の荷物運びをして働いていると説明するドーニ。ジーニティに名を聞かれた男は、ライアン(ポール・オブライエン)だと名乗ります。
ジーニティから夕食に来るなら歓迎する、と告げられたライアン。その後彼は食料を買い、ドーニと共にボートでヨットに向かい、荷を積み込みます。
ヨットに置いてあった弓に興味を示すドーニに、何も触るなと言うライアン。少年に職業を聞かれても、今は引退したとしか答えません。ドーニは自分の家をライアンに教え帰っていきます。
同じころ、海賊たちの乗る大型のヨットが島に近づいていました。海賊は若い女を集め監禁しており、その成果をリーが喜ぶだろうと話しています。
女の反抗を防ぐ為に、誰か殺して見せしめにしろと指示する海賊のボス。更に女を手に入れる目的で、船は島に近づきます。
ライアンは海に矢を放ち魚を仕留めると、それを手にドーニの家に現れます。ドーニは大切に飼っている、闘鶏に使う鶏をライアンに見せます。少年は幼くして父を亡くしていました。
ジーニティの用意した夕食を、一家と共に食べるライアン。彼はドーニに、明日の朝9時に港に来るよう指示して帰ります。
翌日、港に海賊たちが上陸します。彼らが現れると目を伏せる島の子供たち。
ライアンの元を訪れたドーニは、母がライアンを気に入ったと語ります。ライアンはドーニの為に弓を作り、魚を仕留める方法を教えます。
ライアンは修理屋の元を訪れ、作らせた部品を確認するとヒビがありました。もう一つ部品を作るよう要求するライアン。島の滞在は予定より伸びる事となります。
車に乗った海賊たちは島の住居に押し入り、家の主人を脅して力ずくで娘をさらって行きます。海賊は島で横暴の限りをつくしていました。
ドーニの一家と交流を深めていくライアン。ところが泣いるドーニの姿を目にします。何事かと尋ねると、お気に入りの鶏が野犬に殺されたと訴えます。
泣き止まないドーニにライアンは、これからどうするのかを尋ねます。同じ事が二度と起きないように、野犬を殺すのかと問いただすライアン。
犬は殺さない、と答えるドーニ。そんな行為はもっと悪い事だとライアンに告げます。明日鶏の檻を修理するので、今夜は犬が現れぬ様に見張ろうと答えます。
夜、家の外に座り鶏を見守る2人。ドーニが寝てしまった後に野犬が現れます。ライアンは弓矢を手に取り犬に向けますが、思い直して追い払います。
翌朝、鶏の檻を修理するライアンの姿がありました。
今日も2人は野菜や水などを市場で調達し、それをドーニが荷車に積み込みます。ところが猛スピードで走る海賊の車が現れると、荷車を引くドーニをはねてしまいます。
意識の無いドーニに駆け寄るライアン。車に乗っていた海賊は、ライアンの行為が車を傷つけたと言い、山刀を持つ3人の海賊が降りて来るとライアンに詰め寄ります。
路地の奥へと歩むライアンを海賊は追ってきます。ライアンは海賊を路地に誘い込むと山刀を奪い、あっと言う間に容赦ない手口で3人とも惨殺します。
車に残った海賊は、返り血にまみれたライアンの姿をスマホで撮影していました。
ライアンはドーニをジーニティの家に運び込むと、ドーニを彼女に委ねてヨットに医薬品を取りに向かいます。ライアンは医薬品だけでなく、拳銃も手にして戻ってきました。
手際よくドーニを治療するライアンを見て、ジーニティはあなたは医者かと尋ねますが、ライアンはそれには答えず、彼女に海賊について尋ねます。金や若い女を奪い去る海賊たちは毎月現れ、一味は30名位いるとジーニティは答えます。
島民たちは生きるためにやむなく、何でも海賊に差しだしていました。ライアンはドーニが目覚めたら、君たちを安全な場所に移すと彼女に約束します。
部下から報告を受け、送られた写真を見た海賊のボスは、相手の男が海賊たちの上に立つ男、リーが探し求めている男だと気付きます。
ジャカルタの建設現場で、現場監督に非情な指示を出している男、リー(ヴェルディ・ソライマン)は、海賊から送られたメールにすぐ反応します。
送られたライアンの写真を照合し、目当ての男だと確認したリーは、男を殺さず生きたまま連れて来るように命じます。
一方ジーニティに荷物をまとめるよう伝え、発信機の付いたペンダントをデビに、ジーニティにはヘアピンを付けさせるライアン。2時間で戻らなければ教会に行くよう指示します。
外に出たライアンを何者かが狙っていました。彼はライアンをライフルのスコープに収めていましたが、殺すなと指示するメールを見て狙撃を中止します。
ライアンも自分を付け狙う存在に気付いていました。海辺の資材置き場に現れたライアンを、拳銃を手にした白人の男が襲いますが、ライアンは格闘の末に男を倒し、椅子に縛りつけます。
ライアンを狙う男が何人いるか、誰に雇われたか、報酬は100万か、200万かと尋ねても男は一切答えません。リーだな、ケチられたなと言うと、何も答えぬ男を射殺するライアン。
敵に監視されていると悟ったライアンは、用具を身に付けスキンダイビングで密かに自らのヨットに戻り、闘いの準備をします。
仲間を殺された海賊のボスは、リーにライアンを始末したいと訴えますが、リーは耳をかさず待機を命じます。
傍らの愛人に何年も探し求めた相手を見つけた、と告げるリー。その相手は何者かとの彼女の問いに、リーは探し求めた相手は両親を殺した男、裏社会で“メッセージマン”と呼ばれ、皆から恐れられていた殺し屋だと話します。
ライアンは用意した荷物を路地に隠すと、とある家に忍び込みます。そこには先程ライアンを狙撃しようとした男、トムがいました。ライアンはトムと旧知の間柄でした。
銃を向けたライアンに、何故仕事を引き受けたかを聞かれると、娘や孫のために金が必要だったと答えるトム。覚悟を決めたのか、ライアンの問いに素直な態度で答えていきます。トムはリーの指示で動いていました。
島の海賊もリーの手下で、もう一人日本人か中国人らしい殺し屋も、お前を狙っていると告げるトム。このまま姿を消すので撃たないでくれと望むトムに、孫娘の名を語らせると、間髪入れず彼を射殺するライアン。
ついに海賊たちが武器を手に島に乗り込んできます。リーの指示でジーニティを襲い、2人の子供を拉致すべく動き出しました。
ライアンは体に埋め込まれた発信機を取り出して操作すると、活動を再開したと報告します。遠く離れた地で、ライアンの報告を受け彼をモニターしている女の姿がありました。
次々と海賊を殺害してゆくライアン。山刀やナイフで次々海賊を倒していきます。島のあちこちに銃声と絶叫が響き渡ります。
ようやくジーニティの家に着いたライアンは、傷付けられ放置された彼女の姿を目にします。海賊たちが押し入り、2人の子供をさらっていました。
家の壁に貼りつけられた携帯電話が鳴り、出たライアンにリーが語りかけます。2時間でジャカルタに現れ、自分の元に現れないと、2人の子供を殺すと脅すリー。
凄腕の殺し屋、“メッセージマン”ことライアンは、ジーニティに子供たちを連れ戻すと約束すると、単身巨大な敵に向かっていきます。
映画『メッセージマン』の感想と評価
情けも手加減も無用で暴れるインドネシアのジョン・ウィック
引退した非情の殺し屋が、自分の愛するものに手を出した犯罪組織に、全力をあげ反撃する。殺し屋の背後には、とてつもない規模の世界的殺し屋のネットワークが存在していた。
キアヌ・リーブスが完全復活を遂げた映画、『ジョン・ウィック』そのままの世界が、『メッセージマン』にも展開されていると誰もが気付くでしょう。
よって“メッセージマン”ことライアンが組織にカムバックすると、唐突に凄い規模のバックアップを受けたり、契約で突如現れた、やたらと印象深くカッコいいスナイパーに助けられるのも、『ジョン・ウィック』を前提に考えれば、素直に受け止められます。
設定に対し、説明不足と言うなかれ。説明に時間を割かず、アクション主体で見せるサービス精神あふれた映画を、を大いに楽しむ姿勢で受け入れましょう。
『ジョン・ウィック』がキアヌ・リーブスの、華麗なアクションで見せる映画であったのに対し、こちらはインドネシアテイストのアクション。切断・流血にまみれた過激な描写が続きます。
この映画の助監督Dondy Adrianは、『ザ・レイド』『ザ・レイド GOKUDO』にも助監督として参加している、インドネシア映画界の人物。
この作品、インドネシアのアクション映画の影響を大いに受けて製作されいます。
オーストラリア映画とインドネシア映画を結び付けた人物
『メッセージマン』の製作・監督・脚本を務めたのがオーストラリアの映画人、コーリー・パーゾン。彼は東南アジア各国の映画界との関係を築きあげ、そしてこの合作映画の完成させました。
映画に登場した多様な世界と、インドネシア映画が誇るアクションシーンは、彼の尽力で描かれたものです。
コーリー・パーゾンは合作のアクション映画だけでなく、オーストラリアでファンタジー作品シリーズの1本となる映画、『Harmony』の製作・監督・脚本も行っています。
参考映像:『HARMONY』(2018)
また現在、東南アジアに伝わる伝承を元にした冒険ファンタジー映画『Silent Day』の製作を準備中。こちらも完成すれば、国際的なスケールの作品になるでしょう。
国境を越え精力的に活躍し、様々なジャンルの映画を生み出している、コーリー・パーゾンの今後の活躍にも注目しましょう。
まとめ
現在、様々な国の製作会社が互いに出資する事で多くの映画が誕生しています。
その流れの中から各国の映画人が協力し、互いに得意とする技術を提供しあって完成した映画を見る機会も増えてきました。
インドネシア版『ジョン・ウィック』と評すべきこの作品は、オーストラリアの映画人によって生み出され、アクションシーンはインドネシア映画のクオリティで描かれています。
スケールの大きな裏社会を舞台にした、流血と人体破壊を伴うアクションで描く、孤独でストイックな殺し屋を描いた物語。これをお好みと感じたら見るべき作品です。
ところで『メッセージマン』、『ジョン・ウィック』に明らかに勝る点が一つあります。
『デッドプール2』で、「犬を殺した奴」と大いにイジられた『ジョン・ウィック』。一方『メッセージマン』は「犬は殺さない」、実に良心的な映画。
敵には全く情け容赦しない姿勢も含めて、デットプールならこの映画に軍配を上げるはずです。
次回の「未体験ゾーンの映画たち2019見破録」は…
次回の第47回はリゾート地を舞台に繰り広げられる、華麗で奇妙な人間模様を描いた映画『ビッチ・ホリデイ』を紹介いたします。
お楽しみに。