連載コラム「未体験ゾーンの映画たち2019見破録」第3回
様々な理由から日本公開が見送られてしまう、傑作・怪作映画をスクリーンで体験できる劇場発の映画祭、「未体験ゾーンの映画たち」が2019年も実施されています。
ヒューマントラストシネマ渋谷で1月4日よりスタートした「未体験ゾーンの映画たち」2019では、貴重な映画が一挙に58本も上映されます。
第3弾として紹介するのは、アメリカ製のマフィア映画『マフィオサ』。
父を殺された娘。彼女が真相を求めて近づいたマフィア一家。血で血を洗う両者の激突は、宿命だったのか。
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CONTENTS
映画『マフィオサ』の作品情報
【公開】
2016年(アメリカ映画)
【原題】
Mafiosa
【監督】
溝口友作
【キャスト】
フィオナ・ドゥーリフ、ジェイソン・ゲラハート、カーメン・アルジェンツィアノ、ジョルディ・ビラスソ、ブライアン・バーネット、ダミアン・ルバラ、カトリーナ・ロー、ブレイク・ベリス
【作品概要】
アメリカ他各国の映画祭に出品され、数々の映画賞を受賞したマフィア映画がついに日本公開。
映画監督を目指し単身渡米、大学で映画を学んだ後は様々な映画製作プロダクションで経験を積んだ溝口友作が、監督・アクション監督を務めます。
『チャイルド・プレイ/誕生の秘密』『チャイルド・プレイ ~チャッキーの狂気病棟~』の2作に、主役のニカ役として出演したフィオナ・ドゥーリフが主演の映画です。
ヒューマントラストシネマ渋谷とシネ・リーブル梅田で開催の「未体験ゾーンの映画たち2019」上映作品。
映画『マフィオサ』のあらすじとネタバレ
ニューヨークにあるJFK空港。ひとりの男がフロリダ州のオークランドまでの往復チケットを偽名で購入しています。
そのオークランドでは、サマンサ・ハンター(フィオナ・ドゥーリフ)が家から出ようと、父リチャードから車を借りようとしていました。
リチャードに断わられるとサマンサは、手慣れた様子で車の扉をこじ開け、エンジンも鍵無しで動かし走り去ります。
友人のアレックス(カトリーナ・ロー)の家の鍵をこじ開け、忍び込んだサマンサは、そこにあるサンドバックをひとりで叩き始めます。
そこにかつての恋人で、ニューヨークの刑事タッカー(ジェイソン・ゲラハート)が現れました。
彼はビジネスの件でリチャードを訪ねようとオークランドに現れ、弟の恋人であるアレックスの家にいました。
サマンサもかつては両親と共にニューヨークに住んでおり、タッカーとは幼馴染みでした。
しかしサマンサの母が何者かに射殺される事件が起き、その後、彼女は父と共にフロリダに移り住みます。
サマンサとタッカーが思い出に耽っていた頃、リチャードの家に何者かが忍び込み、彼を銃撃します。
サマンサと別れその家に向かったタッカーは、撃たれた後に首を絞められ殺された、リチャードの遺体を確認することになりました。
その頃、ニューヨークではマフィアのロンバルト一家のボスであるセバスチャン(カーメン・アルジェンツィアノ)が次男のニコ(ブライアン・バーネット)に尋ねていました。
フロリダの件は上手く始末できたかと報告を受けます。
後日、ニューヨークで行われたサマンサの父、リチャードの葬儀には、アレックス、タッカー、そして彼の弟ブルース(ブレイク・ベリス)も参列しています。
その葬儀を監視する怪しい車をアレックスとブルースが目撃します。
父の死に疑問を感じたサマンサは犯人を突き止めることを誓い、タッカー刑事、そして、アレックスとブルースもそれに協力を約束します。
一方セバスチャンは、堅気として弁護士の仕事をしている三男のビンセント(ジョルディ・ビラスソ)に不正資金の処理を行わせようとします。
そんなセバスチャンの態度にビンセントは激しく憤ります。
その頃オーランドに現れたニコは、手下として使っている現地の保安官に何かを依頼しました。
犯人を捜す手がかりを求め集まったサマンサ、アレックス、そしてタッカーとブルースの4人。ブルースは腕の良いハッカーでした。
ブルースはハッキングして調べた結果、葬儀の際目撃した車はロンバルト一家のものだと報告します。車に乗っていたのは一家の長男コンスタンティン(ダミアン・ルバラ)でした。
しかしマフィアのロンバルト一家と、サマンサの父との接点が判明しません。
また刑事であるタッカーは、ロンバルト一家、特に次男のニコがいかに危険な存在であるかを説明します。
ブルースは様々な機関にハッキングしてロンバルト一家を追求しようとしますが、兄のタッカーはそれを制止します。
タッカーは弟がこの危険な一件に深入りする事を望んでいませんでした。
そんな中ニューヨークのサマンサらの住居に、黒ずくめの男が侵入してきます。サマンサは男と格闘になり首を絞められます。
そこにアレックスとタッカーが帰ってきたので男は逃げ出し、サマンサは救われました。
タッカーはサマンサの首に付いた手の跡が、殺害されたリチャードの首に付いた物と同じである事に気付きます。
場面は変わってロンバルト一家の裏の仕事を行う弁護士の事務所を、一家の三男ビンセントが訪れます。
父が隠している物を知る為に、ビンセントは弁護士に銃を突きつけ、秘密にされていた書類を奪い盗ります。それは父セバスチャンの遺言書でした。
こうしてビンセントは遺言書に記された内容を知ります。
一方サマンサは、証拠を掴む為にロンバルト一家への住居への侵入を計画します。
刑事のタッカーの手配で、駐車違反の処理にセバスチャンらを警察に呼び出し、その隙にタッカーと共に留守となった住居に侵入しました。
サマンサはセバスチャンの部屋で、父リチャードの名が記されたファイルを見つけます。そこにロンバルト一家が現れます。
サマンサは長男コンスタンティンを射殺し、辛くもタッカーと共に逃れる事に成功しました。
そしてフロリダのオーランド。再度保安官の前に現れたニコは、彼を知り過ぎた人物として撲殺。
ロンバルト一家の住居での一件の後、タッカーはブルースがバーテンを務める酒場で兄弟で語りあっていました。
ブルースは兄にアレックスとの結婚を考えていることを打ち明けて去って行きました。
遺されたタッカーの前に一家のボス、セバスチャンが現れて、サマンサの知りたいことは全て知っていると告げます。
その頃帰宅したブルースはアレックスにプロポーズし、受け入れられます。
が、ブルースとアレックスは仕掛けられた盗聴器に気付きます。その時ニコが手下と共に現れます。
父からサマンサには手を出すな、と命じられたニコは、2人をセバスチャンの前に連れ出します。そしてその場でブルースは射殺されました。
一方ブルースの兄、タッカーはロンバルト一家に陥れられ、刑事の職を辞しました。
追い詰められたサマンサたちの前に、ロンバルト一家の三男ビンセントが現れ、自分の話を信じた上で共にセバスチャンと闘うことを条件に、知り得た真実を語ります。
映画『マフィオサ』の感想と評価
ハリウッドで活躍する溝口友作監督の挑戦
映画監督を目指し渡米、様々な映画製作の分野で活躍中の溝口友作。
ニューヨーク大学映画製作コースを経て、コロンビア大学映画学科監督コースに編入したのち、学士号を修めた溝口友作は、ロサンゼルスに移り住みます。
製作現場を理解しようとワーナーブラザーズやディズニースタジオなど、様々な形でスタッフとして参加している行動派です。
ハリウッドでは映画予告編の監督・編集者としても活躍し、“予告編のアカデミー賞”と言われている「Golden Trailer Awards」にノミネートされた実績を得ました。
また幼い時期から武道を学んだ経験から生かし、アクション指導やスタントもこなすほど、バイタリティのある人物です。
溝口監督は、従来の映画理論を否定し、それを破壊する為に大学で映画を学んだと広言しています。
そして、手掛ける作品毎に、異なるジャンルに挑み異なるスタイルで製作することを試みています。
さて『マフィオサ』は、いかなるスタイルの作風となったでしょうか。
史劇的物語をプログラムピクチャーとして見せる
今回、溝口友作監督は、共同製作者でもあるベロニカ・ルッソが執筆した脚本の映画化に臨みました。
紹介した通り血縁を巡って殺人をも辞さない、ギリシア史劇かシェークスピア劇の様な物語になっています。
しかし、このストーリーを生かして描いた結果なのか、映画はなにか奇妙な、ツッコミ所が満載の作品になっています。
サマンサに拘るあまり、息子を含めた他の人物の生死に無頓着すぎるマフィア一家のボスであるセバスチャン。
あらすじの紹介した様に、サマンサ側パート、ロンバルト一家パートが交互に、愚直に繰り返される構成。
そして映画の中で警察は存在しても、次々起こる殺人に全くの機能停止状態。骨肉の争いは登場人物の中だけで繰り広げられるのです。
これはまさに東映任侠映画、そしてその後の実録路線では無い、東映プログラムピクチャーの形式です。
リアルな実録路線的な展開を求めた方、実はこの映画はそんなスタイルだったのです。
これは“アメリカンVシネマ”な作品⁈
本作はプログラムピクチャーだと理解して鑑賞すると、なかなか楽しめます。
マフィア一家に前に、絶体絶命のピンチからあっさり逃れる主人公たち。
最後の決戦が控えているので、途中で死ぬ訳にはいかないのです。
ロンバルト一家の奇妙に手ぬるく、詰めの甘い行動も当然そんな事情ですから仕方ありません。
ブルースが何故ハッカーだったのか説明はありませんし、そもそもパソコンを触る描写すら無し。
結果だけを持ってくるのですが、これもストーリーの進行上で必要な行為です。
そして彼女にプロポーズという、見事な死亡フラグを立てたブルースは、当然、殺害され退場。
しかしクライマックスへのお膳立てですから、これまた必要な犠牲…。
そして単身敵地に乗り込むサマンサは、タンクトップ姿。映画はプログラムピクチャーから、東映Vシネマの域に昇華していきます!
すると今まで何処にいたんだ、という数の子分が登場してきますが、楽々と倒してゆくサマンサ。
その姿をモニターで眺め、余裕たっぷりに「何人殺したんだ」とのたまうマフィアのボス。
劇場で鑑賞中の観客の中からは、これら展開に気付き始めたのか笑い声も聞こえ始めます。
弾着および小道具の破壊は最小限に留められた銃撃戦は、時に音声のみで表現。
このクライマックスは是非、Vシネマを鑑賞する感覚でお楽しみ下さい!
まとめ
さて、“新たなるアメリカンVシネマ”な映画『マフィオサ』、いかがだったでしょうか。
低予算でストーリーを追いかけ、クライマックスは出来る限り派手、という方向性で作られた作品ではないかと推察します。
これこそまさにVシネマの製作方針です。『マフィオサ』がVシネマ的なムードに満ちた作品である事を理解して頂けたでしょうか。
溝口監督はアメリカで一人、Vシネマ製作を支えた当時のスタッフたち同様の苦労と、熱狂の中に身を置いているのかも、しれません。
映画ファンは溝口監督の今後の活躍にも、ぜひご注目下さい。
ところで最後にサマンサに向かってボスが言ったセリフ。実のところこの段階で、今さら言われても、ねぇ…。
次回の「未体験ゾーンの映画たち2019見破録」は…
次回の「未体験ゾーンの映画たち2019見破録」は非常に高い犯罪発生率の国、南アフリカの刑務所を舞台に、実話を基に描かれたヴァイオレンス・アクション『ザ・ナンバー』を紹介いたします。
お楽しみに。