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Entry 2021/01/31
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ウェイティング・バーバリアンズ帝国の黄昏|ネタバレあらすじとラスト結末の感想。ジョニー・デップが怪演を見せた痛烈な風刺劇|未体験ゾーンの映画たち2021見破録3

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  • 20231113

連載コラム「未体験ゾーンの映画たち2021見破録」第3回

世界のあらゆる国の、様々な事情で埋もれかけた映画を紹介する「未体験ゾーンの映画たち2021見破録」。第3回で紹介するのは、ノーベル賞受賞作家の小説を映画化した『ウェイティング・バーバリアンズ 帝国の黄昏』。

「未体験ゾーンの映画たち」と言えば玉石混交、隠れた名作から珍作・怪作までそろえたラインナップで注目されています。

その中で本作はジョニー・デップ、アカデミー助演男優賞受賞のマーク・ライランスが出演した、スケールの大きな大作映画。

2019年ベネチア国際映画祭のコンペティション部門に出品された作品が、全貌を現します。

【連載コラム】『未体験ゾーンの映画たち2021見破録』記事一覧はこちら

映画『ウェイティング・バーバリアンズ 帝国の黄昏』の作品情報


© 2020 Iervolino Entertainment S.p.A.

【日本公開】
2021年(イタリア・アメリカ映画)

【原題】
Waiting for the Barbarians

【監督】
シーロ・ゲーラ

【キャスト】
マーク・ライランス、ジョニー・デップ、ロバート・パティンソン、ガナ・バヤルサイハン、グレタ・スカッキ、デビッド・デンシック

【作品概要】
とある帝国の辺境の地。平穏を保っていた城塞に住む人々の運命は、ある男の来訪で狂い始めます。壮大な自然を背景に人間の愚かさを描く、風刺を秘めた映画です。

デビュー作で注目され『彷徨える河』(2015)でカンヌ国際映画祭監督週間で最高賞受賞、アメリカのバラエティ誌で「2016年に注目すべき監督10人」の1人に選ばれたシーロ・ゲーラ。

ノーベル賞作家J・M・クッツェーが自作の小説「夷狄を待ちながら」を自ら脚本化し、それをゲーラ監督が映画化した作品です。

主演は『ブリッジ・オブ・スパイ』(2015)でアカデミー賞を獲得し、『ダンケルク』(2017)や『レディ・プレイヤー1』(2018)に出演のマーク・ライランス。

『ファンタスティック・ビーストと黒い魔法使いの誕生』(2018)など、数々の有名作でお馴染みジョニー・デップ、『TENET テネット』(2020)の出演で知名度を上げたロバート・パティンソンらが出演しています。

映画『ウェイティング・バーバリアンズ 帝国の黄昏』のあらすじとネタバレ


© 2020 Iervolino Entertainment S.p.A.

荒涼とした大地を、黒い制服に身を包んだ騎兵に護衛された、1台の馬車が進んできます。

とある帝国の辺境の、多くの住民が住む城塞の中の街。この地を統治する行政官(マーク・ライランス)はここに赴任していました。

~夏 「大佐」~

行政官は城塞の街に馬車で到着した、帝国から派遣された秘密警察所属のジョル大佐(ジョニー・デップ)を出迎えます。

蛮族が攻めてくるとの噂に帝国政府は、辺境の調査に大佐を派遣したのです。自分はこの地の地理や状況に疎く、行政官は現地の実情に詳しいかと尋ねる大佐。

帝国の支配外にある、遊牧民の住む地の実態は判らないが、彼らとは問題なく交流してると答えた行政官。長らく辺境に住む彼は、すっかり暮らしに慣れてしまったと答えます。

大佐と別れ街を視察した行政官は、住人から現れた大佐がどんな人物か聞かれます。帝国に蛮族が攻めてくるという話が広まっていましたが、その噂をこの地では誰も信じていません。

翌朝、ジョル大佐を連れ街を案内する行政官。彼は大佐から囚人を管理する牢獄があるか聞かれます。大した犯罪も無く、古い兵舎を留置所代わりにしていると説明する行政官。

そこには羊泥棒と疑われた、遊牧民の2人の男が収容されていました。彼らの言葉が判る行政官は2人は盗賊ではなく、病の甥とその叔父で薬を求めこの街にやって来た、と説明します。

ジョル大佐は自ら尋問したい、と告げました。老人と病人の2人が襲撃部隊の訳がないと主張する行政官。

嘘をつく相手には、辛抱強く繰り返し圧力をかければ真実を話す。真実か否かは声の調子で見極められると語る大佐は、行政官を立ち会わせずに尋問を開始します。

日常の業務に戻る行政官。隣人の豚が庭を荒らしたという住人の訴えを仲裁し、太古にこの地に住む人々の遺物を発掘調査し、1日は終わります。

翌朝、従兵(デビッド・デンシック)から手紙を受け取った行政官は、急いで留置所に向かいます。遊牧民の少年は傷ついて怯え、その叔父は既に死んでいました。

拷問を加え供述を取ったと知り、行政官は朝食中のジョル大佐に抗議します。国境の情勢を知るには更なる情報が必要だと大佐は告げ、1週間分の食料と兵士の提供を要求します。

少年が拷問で襲撃の動きの自白を強要されたと知り、平穏な関係を保っている遊牧民との関係を悪化させるだけだ、と抗議する行政官。

その訴えを無視し、大佐は拷問した少年を道案内にして部隊と共に国境地帯に向かいました。

行政官は実情に疎い秘密警察の大佐の行動は、地域の平穏を乱すと懸念し、帝国が実情に疎い人物を調査に派遣したことを抗議する手紙を書きます。

その夜、何人かの遊牧民を捕虜として引き連れた大佐の部隊が帰ってきました。

大佐の行動を止めることが出来きず、駐屯する兵士が通う娼館の女に慰めを求める行政官。

牢屋に収容された遊牧民たちは、非人道的な扱いを受けていました。行政官の前に現れたジョル大佐は、必要な情報を得たのでこの地を去ると伝えます。

今回得た情報は一部に過ぎない、辺境各地で同様の調査が行われ、蛮族の企ての全貌が明らかになるだろうと話す大佐。

どの地域の行政官も調査に協力的だが、ここはそうではなかったと告げ、辺境地域にはいずれ大掛かりな処置が必要だと言葉を続けます。

大佐が引き上げると部下の兵たちを叱りつけ、ただちに拘束された遊牧民を開放しろと、行政官は命じました。

~冬 「少女」~

薄く雪が積もる時期、行政官は街の中で松葉杖を持つ、物乞いの少女(ガナ・バヤルサイハン)を見かけ去るように伝えます。街は住人ではなく、職も持たぬ浮浪者の存在を禁じていました。

しかし足が不自由で、言葉も異なる遊牧民の女は街を去りません。彼女を哀れみ邸宅に招いた行政官は、その両足首が傷つき化膿していると気付きます。

その足を丁寧に洗ってやった行政官は、やがて疲れ果て寝てしまいます。その姿を見て初めて笑顔をこぼした少女。

街に帝国から派遣された、正規軍部隊が到着します。行政官は部隊の隊長を歓迎しました。

隊長に対しジョル大佐の僅か1週間の行動が、この地の情勢を不安定なものに変え、今もこじれた民族間の関係は修復出来ていないと訴える行政官。

隊長は帝国の一部であるこの土地を、必ず蛮族の手から取り返すと自信ありげに語りました。

国境があって無いような辺境に帝国は城塞を築き、この地に定住する人も現れました。しかし現地の民は、我々をいずれ立ち去るよそ者と見ている、行政官はそう説明します。

定住しない遊牧民の討伐など不可能と言う行政官に、隊長は我々は決して去ることなく、帝国の防衛に不可欠なこの地域を確保すると告げました。

何も語ろうとしない少女を屋敷に住まわせ、世話を続ける行政官。

従兵のクラークと屋敷に娘と孫と住む家政婦(グレタ・スカッキ)は、行政官と少女が男女の関係か噂していました。

家政婦の娘と共に洗濯をし、覚えた言葉を交わす少女を呼び、髪を洗ってやる行政官。目元の傷に気付き、彼女がジョル大佐に捕らえられ、拷問された遊牧民の1人と気付きます。

部下の兵士の尋問の様子を訊ね、告白を強要された父の前で彼女は拷問され、両足首を折られ、そして父は死んだと知ります。部下から報告されなかった事実に衝撃を受ける行政官。

少女に何をされたか尋ねた行政官は、背中についた無残な傷跡を見せられます。そして拷問の実態について聞かされました。

彼女に対し望むのであれば、部族の元に送り届けようと伝える行政官。

1週間か10日の行軍を命じられた兵士たちは、行政官が少女を連れて現れたことに戸惑います。

しかし命令に従い、兵たちは行政官と少女と共に城塞に囲まれた街を出発します…。

以下、『ウェイティング・バーバリアンズ 帝国の黄昏』のネタバレ・結末の記載がございます。『ウェイティング・バーバリアンズ 帝国の黄昏』をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。


© 2020 Iervolino Entertainment S.p.A.

~春 「帰還」~

一行は把握しきれていない辺境の地を進みます。壮大な風景の中を進み、野宿する旅が続きます。

兵士と談笑する少女の姿を見守り、寄り添って彼女と休む行政官。その姿は親子のように、恋人同士のようにも見えました。

やがて砂嵐に襲われた一行は、何頭かの馬と多くの荷物を失います。

なおも旅を続ける一行の前に遊牧民の一団が現れます。警戒する兵士を落ち着かせ、危害を加えるつもりは無いと伝える行政官。

行政官は自分たちの目的について、少女自身が包み隠さず真実を説明するよう言います。

その上で行政官は、私は少女が共に街に戻って、私と暮らしてくれることを望んでいる、しかしどうするかは自分自身で決めて欲しい、と告げました。

少女は同じ部族の長に、自分は連れ去れら拷問され家族を失ったが、行政官に救われ連れてこられた。自分は部族の元に帰りたいと話します。

行政官は遊牧民から馬を買おうと銀塊を渡します。しかし部族の長は怒っていました。

少女の身柄は受け取るが、帝国の人間の振る舞いは許さない。馬は売らない、お前たちを殺さない代償として、銀は受け取ってやると告げる部族長。

少女と別れた行政官は、部下たちと共に街へと引き返します。

帰還した一行を正規軍の兵士が迎え、行政官は部下から引き離されます。執務室に案内されると、そこにマンデル准尉(ロバート・パティンソン)がいました。

ジョル大佐と話したいと訴える行政官に、今回の旅の目的は何かと尋ねる准尉。帝国の許可なく職務を離れ、敵と通じたのかと追及します。

この地に敵はいないと言う行政官に対し証言を得た結果、お前はずさんな会計処理を行うなど帝国の法を軽んじ、娼館の女と深い関係にあると告げる准尉。

さらに今回の旅の理由と、蛮族の女の同行は出発直前まで告げられなかった、と兵の証言を伝えます。

改めて旅の目的を聞かれ、答えたくないと抗議した行政官は准尉から引き離されました。

部隊の帰還を告げるラッパの音に、行政官も外に出ます。住民の歓声で迎え入れられるジョル大佐の討伐部隊。

部隊は捕虜にした蛮族たちの手のひらと頬に穴をあけ、針金で一列につなぎ連行していました。

マンデル准尉は捕虜を住民の前にひざまづかせ、大佐は部下に命じ警杖で打たせます。

警杖を渡された幼い少女は、まねをして捕虜を打ちました。歓声を上げる見物人たち。

光景に唖然とする行政官の前で、ジョル大佐は金槌を握った手をかざします。群衆はさらなる暴力を求め声を上げます。

止めさせようと声を上げる行政官を、マンデル准尉が警杖で叩きのめします。腕を折られ、苦痛を訴える行政官。

それでも立ち上がり、人々にこんな行為はすべきでないと訴えた行政官は、准尉に打たれ気を失いました。

収監された行政官は、大佐と准尉の前に引き出されます。彼らは行政官が発掘した太古の木簡を、敵との情報をやりとりした証拠と疑い尋問し始めます。

木簡には誰にも読めない、失われた文字が記されていました。それを読めと言われた行政官は木簡を手に取りました。

記された文章はジョル大佐ら帝国の横暴に虐げられた、辺境の地に住む人々の苦痛と恨みの声だと読み上げていく行政官。

愚弄されたと気付いたマンデル准尉が止めようとしますが、制止し続けさせる大佐。

ここに記された1文字は、「戦争」あるいは「復讐」を意味する。しかし逆さに記されていれば、「正義」を意味する。

物事は様々な意味で読むことが出来る。ここで起きている出来事も戦争の計画なのか、最後の年を迎えた帝国の黄昏の歴史なのか、判らないと語り終える行政官。

聞き終えた大佐は、お前はただ1人帝国に非協力的な行政官だと言い放ちます。協力していれば多少の不正や不祥事も目をつぶり、自由気ままに暮らせていたと告げます。

お前は今、正義を口にすることで、歴史に名を残す望みを持ったのか。お前などピエロに過ぎず、その名は誰も興味を持たぬ辺境に埋もれると言うジョル大佐。

遊牧民を敵と決めつける大佐を非難し、死刑に値する卑劣な拷問者だと叫ぶ行政官。

最後まで少女を連れ帰す旅の説明を拒んだ、行政官の取り調べは打ち切られました。

マンデル准尉により女性の下着を着せられ、街の広場の木に吊るされた行政官。彼はかつての部下や住民から嘲り笑われます。

~秋 「敵」~

職を奪われ他に行き場も無い行政官は、街の掃除夫の仕事をしていました。

かつて部下だった兵士に、少しの間自分の部屋に戻り、私物を幾つか取らせてもらえないか頼んでも、許可できないと断られます。

ジョル大佐率いる蛮族を討伐する遠征軍は、8月に出征して以来まだ帰ってきていません。

家政婦の用意した粗末な食事をとる行政官。彼の従兵も、家政婦の娘も孫を残し街から姿を消していました。

行政官の髭を剃りながら、かつて彼が世話した少女は、時々泣いていたと教える家政婦。

あなたが彼女を不幸にした、という言葉の意味を行政官は考えていました。

部下とトランプに興じるマンデル准尉が、行政官に絡み声をかけます。裁判を待つ囚人である私は、法律上労役を科されることはないと答える行政官。

准尉は行政官を逮捕し、裁判にかける記録など無いと言い放ち、自由の身だと告げました。戦乱の地となった辺境で、行政官は帝国から忘れ去られた存在でした。

立ち去れと言われた行政官は、なぜあなたは人を拷問した後、平然と食事ができるのかと尋ねます。

どうして家族や友人と一緒に、食事が出来るのかと繰り返し聞かれ怒り、行政官を追い払うマンデル准尉。

部隊の帰還を告げるラッパが鳴り響きます。しかし砦に到着したのは、馬にまたがる1人の兵士だけでした。

それは馬に縛り付けられた兵士の死体でした。准尉が帽子を取ると頭の中身はありません。慄然として見つめる行政官と住民たち。

准尉ら帝国から派遣された部隊は、これは一時的な措置だと声明を読み上げ、業務を縮小し必要な人員を残し、この城塞からの撤退すると宣言します。

統制を失った正規軍の兵士は砦の守備隊を脅し、住民に対し略奪を働いた上で街から姿を消しました。

それを見届けた行政官は、誰もいなくなった執務室に入ります。

ある夜、書き物をしていた彼の前に、マンデル准尉の姿を求める兵士が現れました。

ジョル大佐が新たな馬を求めていると言う兵士に、ここに馬はおらず何も無いと答えた行政官。

彼が広場に出ると、そこに大佐の馬車がありました。行政官が扉を開けると遊牧民との戦いに敗北し、打ちのめされた大佐がいました。

行政官と大佐は視線を交わしますが、何も語りません。逃げ去る大佐の馬車に石を投げる住民たち。

それを見送った行政官は、城塞の扉を閉めました。

城塞の壁の上には、兵士の姿をした案山子が敵に備え、空しく並んで立っていました。そこで遊ぶ少年たち。

様々な出来事があった街の広場で、遊んでいる子供たちを見つめる行政官。彼は砂漠の民として暮らす、あの少女の姿を思い描いていました。

城壁にいた少年は、遠くから迫ってくる砂煙に気付きます。

それは帝国から蛮族・夷狄と蔑まれ、敵とされた遊牧民の大規模な騎馬部隊が巻き起こす砂煙でした…。

映画『ウェイティング・バーバリアンズ 帝国の黄昏』の感想と評価


© 2020 Iervolino Entertainment S.p.A.

登場する軍隊の装備を見ると、時代は19世紀半ばでしょうか。帝国の辺境は北アフリカにも、中東のどこかにも見える風景です。

そして帝国の敵とされた人々は、中央アジアの遊牧民のような姿です。南アフリカのノーベル賞作家J・M・クッツェーが1980年に発表した原作通り、架空の時代・場所の物語です。

原作を彼がを自ら脚本化した映画が本作です。そのテーマは21世紀の現代社会への風刺していると、誰もが気付くでしょう。

しかし、ここは原点に帰るためにも、小説が書かれた当時の南アフリカを振り返りましょう。

過去の南アフリカ共和国の姿が現在を風刺する

参考映像:『RECCE レキ 最強特殊部隊』(2018)

かつて人種隔離政策、アパルトヘイトを行っていた南アフリカ共和国。第2次大戦後旧植民地諸国が次々独立、1960年にアフリカで17か国が誕生し、「アフリカの年」と呼ばれました。

アパルトヘイト体制下の南アフリカは、周辺に黒人国家が生まれる状況に危機感を募らせます。

近隣の白人国家ローデシアで1965年~1979年に行われた内戦に介入するなど、 自国の体制を守るため国の外や辺境で戦いを繰り広げます。

様々な思惑を持ち、東側陣営諸国が支援する黒人勢力と戦いは泥沼化、多くの人命が失われ国は疲弊し、辺境に住む人々は苦難に巻き込まれます。

J・M・クッツェーはこの時代に、原作小説「夷狄を待ちながら」を執筆しました。

架空の場所を舞台にした物語は、南アフリカ人々が置かれたの状況を切実に反映したものです。

日本人には馴染のない当時の南アフリカ周辺での戦い。これを1981年を舞台に、南アフリカ特殊部隊員の作戦行動を軸に描く映画があります。

それが「未体験ゾーンの映画たち2020」で上映された『RECCE レキ 最強特殊部隊』。

人種隔離政策を内外から批判され、世界から孤立しながら戦い続けた結果、軍事技術だけは発展し過去に一時、核兵器まで保有していた南アフリカ。

ロボコップ』(1987)が描いた近未来では、南アフリカ白人政府が暴動に対し、中性子爆弾(核兵器)の使用を許可したニュースがTVに流れる、それがネタになる状況でした。

歴史を正面から描いた映画以外の、娯楽作品からも世界の様々な状況が読み取れるものです。

ジョニー・デップにはハマリ役すぎです


© 2020 Iervolino Entertainment S.p.A.

深いテーマを持つ小説を作者自らが脚本化、活躍が期待される監督が選ばれ、名だたるスターの出演で製作された本作。

複雑な主人公を演じるマーク・ライランス、時流にのって横暴に振る舞う若者を演じたロバート・パティンソンの演技は見応えあり。

特にある種のカリスマ性を持つ、同時に偏狭な大佐を演じたジョニー・デップの演技は彼の新境地、と言って良いでしょう。しかし、これが不幸な結果を生むとは皮肉です。

2014年に彼と結婚したアンバー・ハードがDV被害を訴え、2016年に離婚したジョニー・デップ。離婚後も双方が相手のDV行為を訴える泥仕合を演じます。

デップは2018年、ワシントンポスト紙に書かれた記事の内容で元妻を名誉棄損で告訴、また同年イギリスのSun誌が彼のDVを報じた記事も同じく訴えます。

それまで家庭内の出来事と静観気味だった世間も、裁判の進行と共にどうやらデップのDVは本当らしい、という見方に変わります。

2019年、ベネチア国際映画祭でお披露目された本作。その際インタビューで「私は悪役が大好きです。でも、それを演じるのは簡単ではなかった」と答えたジョニー・デップ。

本作の大佐と行政官の関係はサディストとマゾヒストの関係で、状況を支配しているのは実はマゾヒストだと解説しています。

今となっては誰もが「お前が言うか?」と思うでしょう。裁判の進展と共にイメージが悪化した彼が、拷問者を演じたのでは洒落にもなりません。

結局コロナ禍もあって、アメリカでは2020年8月配信で公開された本作。散々な結果です。

そして2020年11月、ジョニー・デップはSun誌との裁判に敗訴。結果として彼の元妻へのDV行為を、裁判所が認めた形になりました。

芸能人の不倫に厳しい日本は海外に比べて異常、という声もありますが、アメリカでは日本よりモラルハラスメント、特にそれが立場を利用したものであれば、徹底的に糾弾されます。

それに虚偽の説明が加われば最悪。敗訴直後にデップの「ファンタスティック・ビースト」シリーズからの降板が発表されました。

芸能人や関係者の不祥事で、映画が割を食うのはどこの国も一緒です。不幸な一面に関係なく、本作は優れた映画だと強調しておきます。

まとめ


© 2020 Iervolino Entertainment S.p.A.

思わぬケチが付いた感がありますが、モロッコで撮影された風景も壮大で美しい『ウェイティング・バーバリアンズ 帝国の黄昏』。

現在映画化された本作は対テロ戦争後、あるいはアラブの春運動の後の中近東地域に、様々な思惑で介入したものの、結局混乱を招いただけの各国の姿に重なります。

また国際情勢だけでなく、相手を敵に祭り上げ糾弾することに終始し、気付いた時には取り返しの付かない状況になっている人の姿は、我々の身近に余りに多数存在します。

深い示唆に富んだ作品として、この映画をご覧下さい。無論、拷問もDVもダメです。

次回の「未体験ゾーンの映画たち2021見破録」は…


©2021「ある用務員」製作委員会

次回の第4回は、福士誠治初主演作!任侠映画とアクション映画が要素がはじける作品『ある用務員』を紹介します。お楽しみに。

【連載コラム】『未体験ゾーンの映画たち2021見破録』記事一覧はこちら





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