連載コラム「未体験ゾーンの映画たち2020【延長戦】見破録」第22回
日本劇場公開が危ぶまれた、様々な国籍のあらゆるジャンルの映画を紹介する、劇場発の映画祭「未体験ゾーンの映画たち2020【延長戦】見破録」。第22回で紹介するのは『リベンジ・アイランド』。
フランスで銀行強盗を行った男たち。1人だけ逮捕されますが、彼は仲間の名を明かすことなく罪を被り、15年間刑務所に服役します。
出所した男は仲間の前に姿を現します。仲間たちはフランスを遠く離れたタイの地で、人生を謳歌していました。彼らは再会を喜び歓迎しますが、男は強盗で得た金の分け前を要求します。
やがて彼らは再び暴力の世界に戻り、事態は南国の楽園を血に染める抗争劇に発展します。フランス発のノワールアクションの登場です。
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CONTENTS
映画『リベンジ・アイランド』の作品情報
【日本公開】
2020年(フランス映画)
【原題】
Paradise Beach
【監督・脚本】
グザビエ・デュランジェ
【キャスト】
サミ・ブアジラ、テウフィク・ジャラ、メラニー・ドゥーテ、ヒューゴ・ベッカー
【作品概要】
南国を舞台に、フランスで重罪を犯した男たちが暴力の世界に還る姿を描く、クライムアクション映画。監督はフランスの、テレビドラマの演出や脚本を中心に活躍するグザビエ・デュランジェ。
主演は武装強盗団を描いた『ザ・クルー』(2015)や、ジャン=クロード・バン・ダム主演の『ザ・バウンサー』(2018)のサミ・ブアジラ。『グランド・ジャーニー』(2019)のメラニー・ドゥーテらが共演する作品です。
映画『リベンジ・アイランド』のあらすじとネタバレ
激しい雨の日、覆面をした男たちが銀行を襲撃しました。目的を果たした男たちは、金の入ったカバンを手に車に向かいますが、背後から警察部隊が撃ってきます。
仲間の1人ザックが撃たれ、メディが助けて車に乗せました。しかしメディも撃たれて倒れます。彼の弟が駆け寄りますが、メディは自分を残して逃げるよう告げました。
彼を残して強盗たちは逃げました。雨の中、警察に逮捕されるメディ。
その15年後、服役を終えたメディ(サミ・ブアジラ)はタイの空港に姿を現します。彼を弟のヒチャム(テウフィク・ジャラ)が出迎え再会を喜びます。
兄弟を乗せた車はタイの観光地、バトンビーチを抜け、ヒチャムの邸宅に向かいました。
到着したメディを、この地で結婚した弟の妻アオムと、2人の幼い息子が迎えます。ヒチャムはこの地で成功を収めているようでした。
母がスイス人でフランス語が喋れるアオムは、メディを喜んで歓迎しました。タイはフランスと違い、自分たちアラブ系の人間を犯罪者扱いしない、と語るヒチャム。
その代わりタイの人々は、自分たちをファラン(ヨーロッパ系の人々を指すタイの言葉)と呼んで、まとめてよそ者扱いするだけだと説明します。
アオムの父シリモンコンはタイの政財界に大きな影響を持つ大物で、兄のピチャイは警察の幹部だとヒチャムは教えました。
よそ者がこの地で商売をするには、現地タイ人の後ろ盾が必要だとヒチャムは説明します。服役中に連絡をとらず、弟の暮らしぶりを知らずにいたメディ。
ヒチャムは兄にこの地では大人しくしているよう告げ、運転手兼ボディガードのソンチャイに案内させる、歓楽街の店で楽しむよう勧めます。
メディが出て行くと、ヒチャムは妻アオムに兄との再会は15年ぶりだと説明します。しかし兄の過去については話そうとしません。
しかし子供の頃から兄に助けられ育ったと、その恩を語ります。メディの過去に疑問を覚えながらも、夫を信じ義兄を受け入れるアオム。
その後ヒチャムの元を、フランク(ヒューゴ・ベッカー)が訪問しました。彼もメディやヒチャムと共に、15年前銀行を襲った6人の強盗団の仲間でした。
彼が現れたことで、面倒が起きるかもと不安を口にするフランク。メディの容赦しない振る舞いを知る彼は、悪魔が帰ってきたと呟きます。
バトンビーチの歓楽街に向かったメディは、教えられたクラブに入ります。店内で騒ぎを起こしたウィニーも、店を経営する大男のザックも強盗団の仲間でした。メディを喜んで歓迎するザック。
店の女はスリムという男が仕切っていました。メディはクラブの女、アヴァを紹介されますが、商売女に興味はないと言うメディ。しかし彼女の方で興味を持ったようです。
メディの名はタイ人に、悪人を意味する言葉に聞こえました。あなたみたいな男は、私が救ってあげるというアヴァにそれは無理だ、俺は救えないと答えるメディ。
酔いつぶれてカウンターで寝ていたメディの前に、弟のヒチャム、フランク、ウィニーとザック、そして黒人のゴヤーヴの5人が現れます。この6人が強盗団のメンバーでした。
5人はメディを起こし、再会を祝います。そして彼らはヒチャムの所有する、豪華なヨットに乗り込みます。クラブの女を仕切るスリムも、ヒチャムに仕えるソンチャイも船にいました。
タイに来てからゴルフを覚えたフランクは、メディにもこれからは人生を楽しむよう告げます。何か言いたげなメディも、今は皆と楽しむことにします。
元強盗団の6人は、アヴァたち船に乗せた女と共にハメを外して騒ぎ、皆で記念撮影をします。しかし落ち着くと本題を切り出したメディ。
15年前の強盗の後、メディだけが逮捕されましたが、彼は仲間の名を明かさず1人服役しました。その間に残る5人はタイに逃れていました。
銀行から奪った250万ユーロの6分の1、40万ユーロを寄こせと言うメディに、ヒチャムを含めた仲間たちは、そう簡単な話ではないと説明します。
金は足がつかないよう、タイで店などの資産に変えられていました。しかも事業をするに当たり結婚した相手など、現地のタイ人に名義を移す必要がありました。
申し訳ないが今すぐ渡せる金は無いと告げられ、自分の服役中も人生を楽しみ、出所した仲間にこの扱いかと、怒り出したメディ。
メディはゴヤーヴに、お前も何か言えと迫りますが、彼は気楽に行こうぜと呼びかけます。その言葉にさらに怒ったメディはその場を離れます。
メディは誰かに電話をしました。相手の女は泣いています。その女を慰め、タイに来るよう告げるメディ。その姿をアヴァが見ていました。
金を失ったゴヤーヴ以外の仲間は、皆タイで事業を成功させていました。自分も仲間に加えろというメディに、彼らはまずはバカンスを楽しめと言います。受け入れて仲間と乾杯するメディ。
和解したメディに、ザックはバトンビーチの店を任せると持ちかけます。ただし店は、今はアフリカ系のギャングがのさばり、女が引き抜かれていると説明します。
しかし騒ぎを起こし警察が動くと、外国人である我々には面倒な事態になると告げ、穏便に振る舞えと忠告するザック。
しかし話を聞いたメディは、その夜アフリカ系ギャングの1人を捕まえ、暴行を加え目を潰すと、引き抜いた女を返せと迫ります。
翌朝メディは浜辺のウィニーの店で、ゴヤーヴと再会します。彼は幼い娘を1人連れてきました。
ゴヤーヴはこの地で結婚し、新たな人生を始めたと語ります。しかしスマトラ島沖地震で発生した大津波で、彼は全てを失います。
仲間はバンコクに逃れた後も、現地に残り救助活動に加わった彼は、10日後に妻の遺体を発見しました。そして当時2歳だったこの娘を見つけ、育てて共に暮らしていると語るゴヤーヴ。
残った金も被災した人々のために使った、金が少しでもあればお前に渡す。しかしこの娘以外の財産は無く、この娘には教育を受けさせ、商売女の真似はさせたくないと語ります。
それでも気楽にやろう、と娘に語り掛けるゴヤーヴに、お前の事情は分かった、と告げるメディ。彼はゴヤーヴが、自分と異なる生き方を見つけたと悟りました。
空港に現れたメディは、呼び寄せたジュリア(メラニー・ドゥーテ)と再会します。彼女はメディの出所を待ち続け、その間苦労を重ねました。再会した2人は互いの愛を確かめます。
メディとジュリアの歓迎パーティーに、仲間たちとその身内も訪ねます。弟の妻アオムの兄ピチャイも、警官の制服姿で現れました。
ピチャイに何の目的でタイに来たかを聞かれ、メディは観光だと答えます。観光なら歓迎だと告げるピチャイ。
バトンビーチで商売する外国人の影響で、治安は乱れていました。タイの刑務所に比べれば、フランスの刑務所は三ツ星ホテルだと言うピチャイは、メディに警告を発したのかもしれさせん。
ウィニーが連れの女に強圧的に振る舞い、それをアオムが諫め一同の雰囲気は悪くなります。するとメディが立ち、弟ヒチャムとジュリアへの感謝の言葉を告げ、皆で乾杯しました。
パーティーは終わりましたが、ヒチャムはウィニーに対し、乱暴な振る舞いは自分たちの後ろ盾になっている、警察幹部のピチャイの印象を悪くすると警告します。
そしてフランクはヒチャムに、繁華街でアフリカ系ギャングと争いを起こしたメディを、何とかしろと要求します。彼が騒ぎを起こせば、我々が危険に晒されると訴えるフランク。
そしてメディと過ごしたジュリアは、あなたの目には今も憎しみが宿っていると告げます。
弟の家に戻ったメディに、ヒチャムは強盗事件の際、自分を救ってくれた兄に改めて礼を言います。その弟にメディは、俺は服役して償いを終えた、次はお前たちの番だと言いました。
もう少し時間をくれというヒチャムに、早くしろと迫る兄のメディ。
メディは店の女の引き抜きの件で、スリムの仲介でアフリカ系のギャングと話し合います。なんとか収めようとするスリムに対し、メディは女を戻せと強行に迫ります。
交渉は決裂しました。タイの歓楽街で商売をする外国人は、当局に目を付けられないよう、大人しくした方がいいと説得するスリムの言葉に、メディは耳を貸しません。
ザックが仕切るクラブにアフリカ系ギャングが現れ、店の女に声をかけます。メディが向かい一触即発の事態になりますが、ザックが割って入りギャングたちを帰らせました。
頻繁に夜の店に出入りするメディを、ジュリアは他に女がいるのかと責めます。問題が解決するまで待てというメディに、ジュリアはあなたは昔と変わっていないと告げます。
出ていったジュリアは、アオムら顔を合わせた女たちに会っていました。メディは今も昔と変わらないと話すジュリア。
アオムに対し、メディとヒチャム兄弟は幼くして親を失い、支え合って生きてきたとジュリアは教えます。その絆は裕福な家庭に育ったアオムには、決して理解できないだろうと告げます。
その夜ジュリアに会い、今後を話し合ったメディ。その後彼は何者かに電話をかけると、この地に呼び寄せました。
水かけ祭りに賑わうバトンビーチの街に、メディや仲間たちとその家族もいました。楽しんでいたメディは、人混みの中に銃を持つアフリカ系のギャングがいると気付きます。
弟ヒチャムの息子をかばい、ジュリアの姿を探すメディ。銃声が響き人々は逃げまどいます。メディはジュリアを見つけました。
ギャングたちはザックやウィニーの店を襲撃します。ついに抗争が勃発したのです…。
映画『リベンジ・アイランド』の感想と評価
参考映像:『ザ・クルー』(2015)
映画の草創期から犯罪映画は数多く作られましたが、フランス映画界は1950年代に数多くの犯罪映画の名作を生み出し、フレンチ・フィルム・ノワールと呼ばれるジャンルを築きます。
名優ジャン・ギャバンらが主演し、犯罪者の友情や裏切りのドラマを描いた作品はファンを魅了し、世界で同様の映画が製作されました。
フランスではその後、アラン・ドロンがこのジャンルのスターとなります。また1980~90年代に人気を博した香港ノワール映画も、フレンチノワール映画から大きな影響を受けました。
そんな伝統を持つフランス映画界は、今も様々な犯罪映画を生み出しています。
現代風に重武装・アクション重視化していますが、多くの作品が複雑な仕掛けや、情に訴えるストーリーを持つのは、フレンチノワールの伝統です。
本作のサミ・ブアジラが主演した映画『ザ・クルー』も、そんな作品の1本です。フランス製アクション映画の数々にご注目下さい。
タイを舞台に描くフレンチノワール
タイの風光明媚な観光地、妖しげな歓楽街を舞台にした犯罪映画。冒頭からクラブで踊る女性や、水着姿の女性の大量投入。何ともパーティ・ピープルな映画の印象を与えます。
それがギャングとの抗争劇に発展し、さらに仲間内で疑心暗鬼を引き起こす重い展開に変わります。冒頭の軽さはどこに行ったの?、と見る者は驚くでしょう。
綺麗なおネエさんや、エキゾチックな夜の街を登場させる方便に思えた舞台のタイが、本作のストーリーに大いに絡んで来るのです。
フランスはかつて海外に多くの植民地を持っていました。その影響で本土に移民したアラブ系・アフリカ系住民も多数存在します。
その2世・3世住民は、フランスで生れ育ったにも関わらず、貧困や差別を経験します。そんな彼らを主人公にした犯罪映画が、現在多数作られています。
かつてベトナムを植民地にしていたフランスは、その隣国タイとも歴史的に様々な関わりを持っています。本作の強盗団がタイに逃れたのも、そんな背景があります。
そしてタイの人々にとって、白人であろうがアラブ系であろうが、欧米から来た人々は一律に”ファラン”扱い。アラブ系の主人公らには、フランスより暮らしやすい環境です。
もっともそれは現地に溶け込んだことにはならず、タイで一律によそ者扱いされていることを意味します。これは日本人が”ガイジン”と呼ぶ人々への扱いと良く似ています。
本国で差別的な扱いを受けていた人が、日本では公平に扱われたと喜ぶ一方、結局誰もがよそ者扱いされていると感じ、これを差別的だと受け取る方もいるようです。
“ファラン”や”ガイジン”は区別に過ぎないのか、差別なのか。ここでは追求しませんが、日本とタイが観光客を歓迎し、移民を敬遠することを含め、良く似た風土を持つと感じさせられます。
本作に登場するアフリカ系ギャングも、フランスの旧植民地の人間。フランス系アラブ人の主人公らと共に、タイを舞台にすることで、逆に彼らのフランスでの立ち位置が浮かび上がります。
日本のヤクザ映画にも、貧困層や被差別層からの成り上がりを目指し、その世界に飛び込むといった作品が多数あります。犯罪映画は常に社会を映す鏡です。
犯罪映画要素のオンパレード
フランスで虐げられた扱いを受け、タイに活路を求めたアラブ系、アフリカ系のフランス人(旧植民地人)が、結局異境で殺し合い、現地に溶け込もうとした者を除いて破滅します。
またタイの警察や刑務所は恐ろしい、という様々な映画の中で度々登場する、お馴染みのイメージも劇中で描かれました。
日本の警察も一度勾留されると出れない、弁護士にも会えないと、恐怖する海外の方もいるようです。何かと日本とタイ、似ております。
そんな『リベンジ・アイランド』ですが、登場人物が実に多数です。主人公グループにその親族、タイ警察に対立組織の面々、まさにギャング&ヤクザ映画のボリュームです。
それら登場人物が抗争劇や、様々な駆け引きを繰り広げますから、油断すると誰が誰やら混乱すること必至です。
しかも登場人物みな短髪、いずれの人種も南国で日焼けし、似た服装ですから紛らわしい事この上なし。抗争劇映画の宿命ですから、やむを得ない事態でしょうか。
短い上映時間で駆け引きや抗争、謎解きまで盛り込んだ展開に免じ、許してあげましょう。
まとめ
頭の悪いパーティーピーポーな犯罪者映画に見えて、実は奥の深い設定と、本格的な抗争劇と謎解きで見せるノワール・アクション『リベンジ・アイランド』。犯罪映画好きなら必見です。
ところで6人の元銀行強盗の中で、主人公と親しい巨漢ザックを演じたのは、フランスのラッパー、セス・ゲッコーです。
彼の名を聞いてピンと来た人は、相当のB級映画ファンか、クエンティン・タランティーノ&ロバート・ロドリゲス信者に違いありません。
このセス・ゲッコーという芸名、ロバート・ロドリゲス監督、クエンティン・タランティーノ脚本&出演の映画『フロム・ダスク・ティル・ドーン』(1996)にちなんだ名です。
この作品でタランティーノの兄で、主役を演じたジョージ・クルーニーの役名こそ、セス・ゲッコーであり、そこから拝借した芸名でした。
『フロム・ダスク・ティル・ドーン』は吸血鬼の巣窟であるストリップバーで、犯罪者やそれに関わった人物が、吸血鬼相手に死闘を繰り広げる迷作、いや名作ホラー映画です。
その名を頂戴したセス・ゲッコーが、いかがわしいクラブを仕切っている訳ですから、シャレの効いたキャスティングと言えるでしょう。
ちなみに『フロム・ダスク・ティル・ドーン』に登場するのは、トップレスが売りの吸血鬼ストリップバーという、思いついた人物をホメてあげたい、サービス精神満点のお店です。
本作に登場するクラブは、色々な意味でそこまで過激なお店ではありませんので、どうかご安心下さい。もっと過激な、パリピ精神があった方が良かったでしょうか?
次回の「未体験ゾーンの映画たち2020【延長戦】見破録」は…
次回の第23回はクルド人武装組織が蜂起した都市での、激しい攻防戦の実態を描いた戦争アクション映画『フォートレス・ダウン 要塞都市攻防戦』を紹介いたします。お楽しみに。
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