連載コラム「未体験ゾーンの映画たち2020【延長戦】見破録」第13回
世界のあらゆる国の、様々なジャンルの埋もれかけた映画を紹介する、劇場発の映画祭「未体験ゾーンの映画たち2020【延長戦】見破録」。第13回で紹介するのは『ストレンジ・アフェア』。
5年前に事故で亡くなった兄の元恋人が、突然身ごもった姿でやって来ます。そしてお腹の子は、間違いなく兄の子だと告げたのです。
突然の告白は最愛の家族の死から、ようやく落ち着きを取り戻したかに見えた家族に、大きな波紋を投げかけ、その謎が人々を翻弄していきます。
奇妙な物語の真実は果たして何であったのか。異色のミステリーが幕を開けます。
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CONTENTS
映画『ストレンジ・アフェア』の作品情報
【日本公開】
2020年(カナダ映画)
【原題】
Strange But True
【監督】
ローワン・アターレ
【キャスト】
ニック・ロビンソン、マーガレット・クアリー、エイミー・ライアン、グレッグ・キニア、ブライアン・コックス、ブライス・ダナー、コナー・ジェサップ
【作品概要】
不可解な妊娠を告げられた家族の姿と、その謎が明らかになる物語を描いたスリラー映画。小説「ボーイ・スティル・ミッシング」を発表し、サリンジャーの再来と評されたジョン・サールズの原作小説を、イギリス出身のローワン・アターレが監督した作品です。
主演は『ジュラシック・ワールド』(2015)のニック・ロビンソンと、Netflixリメイク版『Death Note デスノート』(2017)や「未体験ゾーンの映画たち2020延長戦」上映作『デスマッチ 檻の中の拳闘』(2018)のマーガレット・クアリー。
2人をベテラン俳優陣が支える作品で、WOWOWでの放送が日本初公開の作品です。
映画『ストレンジ・アフェア』のあらすじとネタバレ
子供たちは世界を知るために、大人たちに訊ねます。本当にあの世は存在し、死んだらそこに行くのか。神が存在するなら、なぜ悪いことが起きるのか。
こういった全ての疑問の真実を知った時、人の不安は解消されるのか、それとも増すのか…。
森の中を松葉杖を突いて逃げる若い男、フィリップ(ニック・ロビンソン)。しかし落ち葉に足を取られ、くぼ地に転落します。
松葉杖を置いたままはって逃げ、木の影に身を隠すフィリップ。しかし彼は追って来た何者かに殴られ、意識を失いました。
この2日前。足を怪我しているフィリップは、母シャーリーン(エイミー・ライアン)の用意した食事に手を付けずにいました。
シャーリーンは息子のなげやりな様子に手を焼いているようです。手持ち無沙汰に写真を眺め、どこか不満げな態度を見せるフィリップ。
彼は家の前に車が停まり、中から臨月に近い身重の女性が現れたと気付きます。それは5年前に死んだ兄の恋人、メリッサ(マーガレット・クアリー)でした。
松葉杖を突いて玄関に向かったフィリップは、久しぶりに現れた彼女の意図を図りかねますが、それでも笑顔で迎え入れました。
メリッサに怪我について聞かれ、彼は自転車の事故で大したことはないと答えます。ニューヨークで暮らしていたものの、怪我のため今は母が1人で住む実家に戻っていたフィリップ。
メリッサはかつての恋人で、フィリップの兄でもあるロニー(コナー・ジェサップ)の母、シャーリーンに会おうと家を訪ねて来たのです。
シャーリーンはメリッサの突然の訪問に腹を立てていました。妊娠した姿を見せ、今の幸せをアピールしに来たのかと憤慨しますが、ともかく話を聞こうと説得するフィリップ。
現れた母子に、シャーリーンの勤め先に図書館に行ったが、今は働いていないと言われ、家を訪れたと説明するメリッサ。妊娠39週目と告げた彼女に、シャーリーンは冷たい態度を見せます。
今はチェイスさんは居ないのかと聞かれ、元夫のリチャード(グレッグ・キニア)は今は新しい妻と暮らしている答えるシャーリーン。
なぜかメリッサは、リチャードはフロリダで暮らしていると知っていました。
彼女に金の無心に来たのかと言い放つシャーリーン。母の態度をフィリップがたしなめます。
メリッサは冷静に、子を亡くすのは母親にとり辛い事だと告げます。あの日の不幸な出来事について話したメリッサは、カセットテープを取りだします。
それはメリッサと、降霊術師との会話を収めたテープでした。ロニーの弟が写真を愛好していると知り、亡きロニーは今も弟が写真を続けることを望んでいると語る降霊術師。
テープの降霊術師は、メリッサのお腹の子は純粋な存在で、ロニーの分身でもあると告げました。それを聞いたシャーリーンはテープを止めました。
何が言いたいのか、と訊ねた彼女に、メリッサは自分が関係を持ったのは、死んでしまったロニーだけだと告げます。つまり彼女は、自分の子は間違いなくロニーの子だと言うのです。
メリッサはあなた方も知っておくべきだ、とテープの続きを流しました。彼女は自分の子は間違いなく、5年前に死んだロニーの子だと固く信じていました。
フィリップにこの娘を追い出して、と告げ部屋を出たシャーリーン。フィリップも精神的におかしいのでは、と訊ねますがそれを否定したメリッサ。
彼女はロニーが死んだ事故の現場にいました。事故の日以来、突然意識を失うことを度々経験していると言う彼女は、常にロニーの存在を身近に感じていました。
彼女の主張は、フィリップにも信じがたい事でした。何か話したくなったら、あるいは赤ちゃんが見たくなったらと、メリッサは彼に住んでいるコテージの住所と電話番号を教えます。
フィリップにあなたの写真は好きだ、と告げ1人帰って行ったメリッサ。
5年前のあの日、プロムに向かうメリッサとロニーを、弟のフィリップと両親のリチャードとシャーリーンは喜んで送り出します。
その時メリッサとロニー、そして両親の姿を、フィリップは写真に収めていました。その後事故で兄が死に、家族がバラバラになるとは誰も予想していませんでした。
家を出たメリッサは自分が住むコテージに戻りますが、近くに住む大家で友人でもある老夫婦の家を訪ねます。現れたゲイル(ブライス・ダナー)は、彼女を親身に世話します。
そこに夫のビル(ブライアン・コックス)が機嫌良く現れます。彼もメリッサに自分の工務店の職を与えるなど、何かと彼女を気遣っていました。
ビルが自分に隠れて、体に悪い煙草を吸ったと責めるゲイル。するとビルは密かに煙草をメリッサに預け、否定して妻を納得させました。彼らはまるで親子同然の関係です。
彼らは共にテーブルを囲みますが、父親のいない子を身ごもって以来、実の家族とは今まで以上に疎遠になったと打ち明けるメリッサ。
そこで彼女はビルとゲイルのアーウィン夫妻に、生まれてくる子供の後見人になって欲しい、と相談します。それは子供のいない老夫婦にとって、むしろ歓迎する願いです。
その夜、1人テレビを見ていたシャーリーンは、ロニーが事故にあったとの連絡を受けた、あの日を思い出していました。すると突然手にしたグラスが割れました。
翌朝、ロニーは朝食時に母の手の傷について訊ねます。話題が昨日のことになると、シャーリーンは警察を呼ぶべきだったと、忌々しげに呟きます。
自分の意見に同意しないフィリップを、母は怒りました。しかし母もメリッサも妄想的になっている、冷静になるべきだと訴えるフィリップ。
例えばロニーが精子を冷凍保存していれば、人工授精も可能だとフィリップは言いますが、それは母には馬鹿げた話にしか聞こえません。
母には息子の態度が、兄の死を受け入れることを拒んでいるように見えました。フィリップは母を避け部屋に閉じこもり、ベットで横になりました。
シャーリーンは司書として働いていた、元の職場の図書館に現れます。薬を飲み気を落ち着かせ館内に入った彼女を、元の同僚が迎え入れます。
そこのパソコンで、彼女は最先端の生殖医療について調べ始めます。そして死後24時間以内であれば、遺体から精子を取り出し保存することも可能だと知るシャーリーン。
一方フィリップは不自由な体で車を運転すると、プロムの日にロニーと行動を共にしていた、兄の友人だったチャズの職場を訪ねます。
彼はメリッサについて、チャズが知っていることを訊ねます。メリッサは事故以来自分を責めて暮らし、誰とも付き合わずに暮らしていました。
やがて彼女は降霊術のようなオカルト的なものに傾倒すると、厳格なクリスチャンの彼女の両親は、2・3年前にメリッサを勘当したと教えるチャズ。
しかし彼女は工務店で働き始め、生計を立ていると彼は教えます。チャズにも彼女の妊娠は意外なニュースでした。
一方図書館を出たシャーリーンは、元夫のリチャードに電話をかけます。彼女の夫は今はマイアミの、不妊クリニックに務める医師でした。
緊急の電話と言われ出た元夫に、死後も精子を採取し冷凍保存できるかと訊ねたシャーリーン。彼女が妊娠したメリッサが現れたと告げると、かけ直すと答えるリチャード。
リチャードはメリッサがロニーの精子で妊娠した可能性など、馬鹿げた話だと否定します。しかし彼女は生殖医療技術を持つ夫を疑っていました。
しかもメリッサは、リチャードがフロリダに住んでいることを知っていたと指摘します。彼女は元夫がこの件に、何か関与していると考えていたのです。
自宅に戻ったリチャードは、今の妻にシャーリーンが妙な電話をかけてきて、様子がおかしかったと話しました。
その頃自宅の裏の作業場にいたビルに、ゲイルが飲み物を持っていきました。するとビルがせき込み始めます。彼女は老いた夫の体を心配していました。
車の中でカメラをいじっていたフィリップの元に、父リチャードから電話が入ります。彼はシャーリーンからの電話について、息子に確認したのです。
訪問時のメリッサが正気に見えたかを訊ねる父に、子供はロニーの子だと信じており、父親が誰かは言わなかったと告げるフィリップ。
しかしこの件が母を混乱させている、と彼は事情を父に話しました。リチャードは息子に、何でも相談してくれと伝えます。
息子のと電話を終えたリチャードは、なぜかビル・アーウィンに連絡を取りました。
一方のフィリップは電話の後、メリッサが持って来たカセットテープを思い出します。そのテープには、降霊術師のシャンテルの名が記されていました。
その夜、メリッサは自宅で1人、産まれてくる子供のベビーベットにペンキを塗っていました。その家の明かりを見つめているゲイル。
そこにビルが現れます。ゲイルは夫に彼女は幸せそうだが、なぜ父の名を明かさないのかと訊ねます。彼女自身の人生だから、我々は黙って見守ろうと答えるビル。
翌朝、シャーリーンはまた1人で図書館に向かいます。彼女は生殖医療だけでなく、処女懐胎についても調べ始めていました。
母が家を出た後フィリップは、車に乗ると降霊術師のシャンテルの店を訪れます。現れた彼女に、ここを訪れたメリッサについて訊ねたフィリップ。
顧客については話せないと言うシャンテルは、フィリップが足の怪我について不名誉な思いを抱き、何かを隠し嘘をついていると指摘し、彼を動揺させます。
図書館を出たシャーリーンは、元同僚から声をかけられます。事故の後職場に6カ月も現れず、あなたの仕事を引き継しかなく、仕事を奪ったわけではないと告げられたシャーリーン。
フィリップは霊媒師のシャンテルに、自分を診てもらうことになりました。彼女は毛髪を1本もらうと術を始め、カセットテープをセットし彼を霊視し始めます。
兄のロニーがここに居ると告げ、あなたは兄に関する良い思い出をたくさん持っていると言うシャンテル。そして今のあなたは、深い悲しみに沈んでいると語り掛けました。
メリッサと異なり、あなたは自分の世界に縛り付けられている。しかし実在しない物の中にこそ、求める答が存在すると告げるシャンテル。
メリッサはロニーの存在を信じている、それは彼女にとって真実だ。しかし問題は、あなたが何を信じるかだ、シャンテルはそう問いかけました。
自分が信じられるものを見つけて、そうればあなたは影から離れることが出来る、シャンテルはそう言葉を続けます。
最後にあなたは近いうちに傷付くかも、そして困難があなたと、あなたに近い人を見舞うだろう。そう予言するとシャンテルは診断を終え、テープを渡し代金を請求しました。
その頃シャーリーンはメリッサを訪ねようと、アーウィン夫妻の家に現れました。彼女がノックするとゲイルが姿を現します。
自らをメリッサの元恋人、ロニーの母だと名乗った彼女に、ゲイルはメリッサは素晴らしい娘だと話します。そしてメリッサに対する、彼女たちの好意の礼を告げるゲイル。
ゲイルはメリッサのコテージの家賃は、毎月彼女の元夫リチャードが支払っていると話します。しかしそれは、今までシャーリーンが知らない話でした。
顔色を変え立ち去る彼女を見て、ゲイルは話してはならぬ事を告げたと気付きます。
車に乗ったシャーリーンは、元夫の家に電話を入れました。そして今のリチャードの妻から、フィリップはあなたに会うために、NY行きの飛行機に乗ったと聞かされました。
洗濯のため自宅の地下室に降りたゲイル。そこで彼女は棚にビルが隠した、煙草の箱を見つけます。仕方のない夫だ、と思った彼女はもう1つ煙草の箱を見つけます。
それには薬が入っていました。夫が何か自分に隠して、持病の薬を飲んでいると思ったゲイルは、ビルとメリッサが働く工務店に電話をかけました。
電話に出たビルに、見つけた薬について訊ねようとしたものの、何も知らず元気に振る舞うビルの態度に、聞きそびれてしまったゲイル。
夫に愛していると告げ電話を切ったものの、不安になったゲイルは薬を手に街に出ます。
NYの空港に到着したリチャードを、シャーリーンが待ち受けていました。驚きフィリップに会いに来たと説明する元夫に、なぜメリッサの家賃を払っていると追求するシャーリーン。
家族に波乱を引き起こした謎の正体が、少しずつ露わになろうとしていました…。
映画『ストレンジ・アフェア』の感想と評価
2005年にジョン・サールズが発表した小説、「Strange But True」を原作とした本作。彼は脚本にも参加し、カメオで出演まで果たしている映画です。
原作は”超自然スリラー”と紹介されていますが、映画をそれと同じジャンルの作品だと、考えることはできるでしょうか。
本作は映画化の動きが始まってから、かなり時間が経過した後に製作されました。まず脚本が書かれ、それには原作者も参加しています。
そしてインド系のイギリス人監督、ローワン・アターレの手により、実力派キャストを起用して製作されました。ではその舞台裏を覗いてみましょう。
小説を映画化する作業
参考映像:『ジェーン・ドウの解剖』(2016)
本作の脚本は早い段階でジョン・サールズと、『マッチスティック・メン』(2003)の原作者であり、『ジェーン・ドウの解剖』の製作者、エリック・ガルシアにより完成していました。
それを『ジェーン・ドウの解剖』や『ラ・ラ・ランド』(2017)プロデューサー、フレッド・バーガーが映画化しようと動きます。
監督は知り合いであった、フレッド・バーガーから本作の脚本を送られて読み、映画化を決意します。彼にとっては原作より先に、脚本に出会ったのです。
監督が映画に関わってからも脚本は手直しされますが、時間をかけ練られた脚本は、読んだ時点で高い完成度をを持っていた、とローワン・アターレは語っています。
小説と映画は別の媒体であり、内容を適合させるのは非常に困難な作業ですが、本作ではその作業を、エリック・ガルシアが成し遂げてくれたと説明する監督。
原作者ジョン・サールズは、積極的に映画製作に参加し、撮影にも初日だけでなく、何日か立ち合います。彼の人柄もあり、それが撮影現場に良い影響を与えてくれた、と監督は証言しています。
中規模映画を作る困難
続編でもリメイクでもない映画の製作環境は、非常に困難になっていると語る監督。
その結果本作は豪華なキャストを揃えたものの、撮影は3週間という、かなり短い期間が設定され、そのスケジュールの中で製作されました。
それでも自分が10代から知っている、ベテラン俳優陣と仕事が出来て幸運だったと監督は喜びを隠しません。エリック・ガルシアの脚本の魅力が、これを可能にしたと証言しています。
映画作りにおいて、優れた俳優にとって無駄な行為は、10時間皆で話し合った上で、ようやく2日間の撮影に臨むといった製作態度である。
脚本と向き合い自ら準備を終えた俳優にとって、既に準備を終えた撮影現場に乗り込み、やるべき事を全て把握している監督と仕事をするのがベストだ。
そのような姿勢で現場に臨めば、短時間で効率的な映画の撮影が出来ると、ローワン・アターレ監督は語っているのです。
まとめ
効率的に撮影された、優れた俳優陣のアンサンブルで贈るサスペンス映画『ストレンジ・アフェア』。様々な要素のある作品ですが、家族の再生を描いた作品として胸を打ちます。
映画は中盤まで登場人物の抱える謎や、オカルトやスピリチュアル的雰囲気、そして医療ミステリーなど様々な要素が絡み合い、先の見えない展開が楽しめます。
ところがその結末は、ある意味しごく当然な(そして残酷な)行為が原因だったと明かされると、一気に平凡な物語になってしまう、と紹介すると失礼でしょうか。
小説を映画化するにあたり、観客に判り易くストーリーを単純化し、視覚的に納得できる展開を選んだ結果、このような展開になったと言えるでしょう。
様々な出来事をクロスカッティングやフラッシュバックの手法で見せ、登場人物たちの葛藤と人生の交差を見せるテクニックは、実に映画的手法で感動を呼ぶシーンを生みました。
その一方で小説の持つ深みが、映像化されることで単純化されてしまった、深みの部分はナレーションで表現するしかなかった、そんな作品とも見れます。
原作者が積極的に関与しても、映画は映画的な物語に落ち着いてしまったと言えます。小説が原作である映画は、今後も異なる媒体の壁に苦慮しながら作られ続けるでしょう。
ところで『ジェーン・ドウの解剖』にも出演しているブライアン・コックス。彼は”意識のない若い女性”に関わると、ロクな目に遭わないのでしょうか…。
次回の「未体験ゾーンの映画たち2020【延長戦】見破録」は…
次回の第14回は待望の続編登場!異星人と人類の遭遇を描く、ロシア発の本格SF映画第2弾『アトラクション 侵略』を紹介いたします。お楽しみに。
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