連載コラム「未体験ゾーンの映画たち2020見破録」第37回
「未体験ゾーンの映画たち2020見破録」の第37回で紹介するのは、殺人マシーンと化したドローンが人を襲うホラー映画『DRONE ドローン』。
この世に未練や恨みを残した怨念が、物に憑りついて恨みを晴らす。呪いの人形とか、呪われた家とか、色んなホラー映画向けのアイテムが登場しています。
今までにない斬新な物に魂が憑りつき、人を襲えば面白いのでは?あらゆる種類のホラー映画が作られた80年代は、そんな発想を許容する時代でした。
数々のトンデモない作品を生み出した、熱気あふれた時代のホラー映画にオマージュを捧げた、まさに人を食った設定の作品の登場です。
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CONTENTS
映画『DRONE ドローン』の作品情報
【日本公開】
2020年(アメリカ映画)
【原題】
The Drone
【監督・脚本】
ジョーダン・ルービン
【キャスト】
アレックス・エッソー、ジョン・ブラザートン、アニータ・ブリエム、レックス・リン、ニール・サンディランズ、サイモン・レックス
【作品概要】
新婚カップルを襲う恐怖、その正体はドローンだった……という設定で描く、過去のホラー映画へのオマージュに満ちた作品です。監督はゾンビ化したビーバーが人を襲う、これまたトンデモ設定のホラー映画『ゾンビーバー』(2014)のジョーダン・ルービン。彼が『ゾンビーバー』を作った仲間と共に手掛けた作品です。
主演は「WTC ワイルド・トラウマ・シネマ2019」で上映された、『セーラ 少女のめざめ』(2014)で熱演を見せたアレックス・エッソーと、43シーズン放送された長寿TVドラマ「ワン・ライフ・トゥ・リヴ」で人気となり、以降様々な映画に出演しているジョン・ブラザートンが務めます。
また「CSI:マイアミ」のレックス・リンが、監督の前作『ゾンビーバー』に引き続き出演、『最’狂’絶叫計画』(2003)『最終絶叫計画4』(2006)と、ホラーパロディ・コメディ映画に出演のサイモン・レックスらが脇を固めます。
映画『DRONE ドローン』のあらすじとネタバレ
高層マンションで若い女性が着替えをしています。ラジオからは3名の女性が連続して殺害されたニュースが流れていました。すると窓の外に小型ドローンが現れます。
女性が気付く前に、ドローンは姿を消します。街の中を飛行し、怪しげな男の住むアパートの一室に入ったドローン。部屋の壁は女性連続殺人の記事で埋め尽くされていました。
その男ラムゼイ(ニール・サンディランズ)は、ドローンから回収したメモリから、女を盗撮した映像を再生します。薬物を使用し映像を愉しもうとしていたラムゼイは、部屋にSWAT部隊が突入しようとしていることに気付きます。
パソコンのデータを消去し、彼は逃亡を試みます。SWAT部隊が突入した時、監禁されていた女性は殺害されていました。室内に隠れ隙をつき隊員の喉を切り裂き、ドローンを手にして部屋を飛び出したラムゼイ。
SWAT隊員に追われた彼は、やむなく屋上に逃れます。追い詰められたラムゼイは、投降を呼びかける警察に、「まだ終わっていない、今に見ていろ」と捨てゼリフを吐きます。
怪しげな呪文、黒魔術の様ですが、なぜか2進数なのはプログラム言語という訳でしょうか。それを唱えていたラムゼイは突然、稲妻に打たれて倒れます。電流が彼の体と手にしたドローンを駆け抜けました。
こうして連続女性殺人犯ラムゼイは死にました。証拠品のドローンを受け取った刑事(サイモン・レックス)は車に乗り込み現場を離れますが、車内で突然ドローンは動き出し、驚いた刑事は事故を起こし、車は横転します……。
場面は変わります。建築デザイナーのレイチェル(アレックス・エッソー)と、カメラマンのクリス(ジョン・ブラザートン)は、新居への引っ越し作業の最中でした。新婚の夫婦はこの家で、飼い犬のヘクターと共に、新たな生活を送ろうとしていました。
すると隣家の1人暮らしの女、コーリン(アニータ・ブリエム)がやって来ます。挨拶もそこそこに家に上がる彼女の態度に呆れますが、セクシーなコーリンに興味を持たれ、クリスはまんざらでもない様子です。
例のドローンは2人の新居に近づくと、家の側のゴミ箱の上に着陸します。それに気付くクリスと犬のヘクターですが、クリスはドローンがまだ使える状態だと確認しました。
妻の仕事場になる部屋に現れたクリスは、自分の持つドローンより拾った物の方が、最新型だと言って自分の物にすると告げます。言い出したら聞かない性分を知っており、最後には夫の我がままを受け入れたレイチェル。
販売店に行き、ドローンのコントローラーを手に入れたクリスは、早速操縦してみせます。高く飛行できるドローンのカメラは、近所の家で起きた出来事をのぞき見る性能を持っています。
その夜、ベットで戯れる2人の姿を、室内に置かれたドローンのカメラが見つめていました。
翌朝シャワーから出たレイチェルの前に、ドローンが飛んでいました。イタズラで操作したものと思い、彼女は夫を責めますがクリスに心当たりはありません。
彼女が筆を取り建築デザインの仕事をしていると、脇に置いたドローンが動いて驚きます。カメラマンの仕事をしていた夫に電話をかけ、奇妙なことが起きていると訴えますが、クリスは話を軽く受け止めます。
汚したデザイン画を修正するレイチェルの姿を、またしても独りでに飛んでいるドローンが、密かに撮影していまいした。更に彼女とクリスが写る写真も記録します。そしてドローンは家の外へ。
ドローンは隣家の庭で、トップレス姿で日光浴をしているコーリンの姿を撮影します。
夜帰宅したクリスは、玄関の前に例のドローンが落ちていることに気付きます。不審に思いながらも拾い上げ、家に入ったクリス。彼が入力する防犯用のセキュリティコードを、ドローンのカメラは見つめていました。
不審な出来事が続き、レイチェルはドローンを寝室に置くことを嫌がります。そこでクリスは別の部屋に持っていきますが、人気が消えるとドローンは飛び立ちます。
その姿を追う犬のヘクター。ドローンが怪しいものと悟ったのか、ヘクターは吠えることを止めません。鳴き声に耐え兼ね、レイチェルの反対を押し切り犬を外につなぐクリス。
隣家のコーリンがプールで泳ぐ姿に、興味深々のクリス。そんな彼を仕事へ送り出したレイチェルですが、仕事場で過去の出来事を思い出していると、突然物音がします。
何故か磁器が落ちて割れ、レイチェルは机を離れ破片を片付けます。するとドローンは彼女の仕事場のパソコンの前に現れ、画像データを送りつけます。
レイチェルが戻ると、机の上にドローンがありました。そしてパソコンに知らないファイルがあります。それを開くと中身は夫婦の夜の営みを写した動画や、日光浴するコーリンの姿をとらえたものでした。
隣に移り住んだ挨拶として、夫婦はコーリンを招き共に事をします。またしても家人の不在を利用して動き出したドローンは、パソコンで犬の保護施設を検索していました。
夫にモーションをかけるコーリンに、レイチェルは気分を害し、またも誤作動したドローンの音に腹を立てます。妻のぶしつけな態度を、昔ラジコンが絡む交通事故を経験し、遠隔操作されるドローンのような機器が、妻は苦手にしていると説明するクリス。
コーリンを送り出し、夫婦が寝静まるとドローンは動き出します。コードを入力しセキュリティを解除し、家の外に出たドローンは犬のヘクターを挑発します。ドローンを追いヘクターは壁を飛び越えますが、首輪に付けたひもで壁に吊るされてしまいます。
翌朝、変わり果てた姿になった愛犬を見つけたレイチェルは、犬を嫌って処分する場所を、パソコンで検索していたと、ヘクターを外につないだ夫を責めます。クリスはヘクターを埋葬するとそこに犬をつないだ杭を突き立て、傷心の妻を残して仕事に向かいました。
落ち込んでいる彼女がTVを付けると、彼女の意に反して画面が切り替わり、まるで見せつけるかのように犬の映像が映ります。そして次々切り替わる画面の音声は、レイチェルに呼びかけるメッセージとなります。隣にあるドローンが操作したかも、との考えがよぎるレイチェル。
帰宅したクリスに、彼女はドローンにまつわる奇怪な出来事を説明します。馬鹿げた話と考えるクリスも、いつの間にか撮られていた、夫婦やコーリンの映像を見せられると、自分は撮影していないと否定します。
突然侵入者を告げる警報音が鳴り響きます。屋内を調べたクリスは、なぜか作動したセキュリティシステムにより、一室に閉じ込められます。残されたレイチェルにドローンが突進してきますが、彼女は間一髪かわしました。
激突したドローンが床に落ちると、セキュリティは解除されました。床に転がってランプを点滅させるドローンを、夫婦は不気味そうに見つめます…。
映画『DRONE ドローン』の感想と評価
参考映像:『ゾンビーバー』(2014)
ソンビ化したビーバーが襲来! タイトルだけでお馬鹿なホラー映画と確信できる、『ゾンビーバー』を製作した、ジョーダン・ルービン監督と彼の仲間たち。
この映画、単にお馬鹿な設定だけの映画ではありません。キャンプ場にアレ目当てに集まった男女という、「13日の金曜日」シリーズなどの、スラッシャー映画風の舞台が用意されています。
さらにチープ感があふれる、可愛い”ゾンビーバー”たちの姿には、マペットモンスターが大活躍する、3作目にはレオナルド・ディカプリオが出演した、ホラー映画「クリッター」シリーズが思い浮かびます。
つまり『ソンビーバー』は、あらゆる設定の作品が生まれた、80年代ホラー映画へのオマージュに満ちあふれた作品なのです。そんなルービン監督の『DRONE ドローン』もまた、同様のテイストで作られた映画でした。
80年代ホラー映画の雰囲気を再現!
本作冒頭で、警察に追われた連続殺人犯が黒魔術で自らの魂を物に移す、これはあの殺人人形”チャッキー”が大活躍する、『チャイルド・プレイ』(1988)と同じです。
ところが人形に魂を移す、高尚(?)な設定の『チャイルド・プレイ』に対し、本作はドローンに憑りつくという何とも人を食った設定。ノリとしては電気椅子で処刑された、殺人鬼の魂が電気と一体化して暴れる、というウェス・クレイヴン監督作品『ショッカー』(1989)に近いかもしれません。
同じく冒頭に落雷が登場しますが、落雷でロボットが暴走する映画といえばコメディなら『ショート・サーキット』(1986)、殺人マシーンと化すホラーなら『キルボット』(1986)。身近な機械や家電が人を襲うトンデモ設定の映画も、無数に作られました。
AIや機械に強い犯人の姿に、天才少年が脳死したガールフレンドに、自作のロボットのICチップを彼女の脳に埋め込み復活させる、これまたウェス・クレイヴン監督作品、呆れ返るラストシーンで有名なホラー映画、『デッドリー・フレンド』(1986)を思い浮かべる方もいるでしょう。
『DRONE ドローン』と80年代ホラー映画へのオマージュは、設定の類似点だけではありません。使用したBGMはシンセサイザーで奏でる、とびっきり安っぽい感じのテクノ音楽調。これもまた当時の、B級ホラー映画の雰囲気を再現しています。
B級ホラー映画テイストに忠実すぎた結果…
ドローンに魂が乗り移った、というありえない設定を一度は否定しながら、受け入れた後はさも当然と振る舞う、柔軟性の高い登場人物たち。お色気方面に軽薄など何かとノリが軽いのも、80年代ホラー映画の登場人物と同じですから、仕方がありません。
馬鹿げた殺人だけでなく、様々な行為を行うドローンに呆れている暇はありません。いい歳をした大人がドローンと真剣に会話するなど、コメディ要素は後半どんどん加速します。
映画は明らかにコメディ的状況で展開しますが、ギャグを散りばめ笑わせて展開する訳ではありません。登場人物は事態に真剣に対処します。これを高等ギャグと感じるか、何かお寒い展開と受け取るかは、人によって意見が割れるでしょう。
そしてカタルシスも何も無い、これからどうすればイイの?的な、突き放したラストシーン。これも80年代B級ホラー映画に、よくあったラストの再現です。
このラストのヒロイン同様に、『DRONE ドローン』にという映画を笑っていいのやら、怖がっていいのやら、途方にくれた観客も多数発生しました。
80年代には、そんな投げやりな内容のホラー映画が、無数に存在したのです。そんな所まで再現したジョーダン・ルービン監督は、恐るべき人物です。
まとめ
昔懐かしい、どこかいい加減だけど楽しい、B級ホラー映画を甦らせた作品が『DRONE ドローン』です。それでもコメディ色を強調するなら、もっとベタなギャグを並べ、パロディ色を前面に出すという手法もあったでしょう。
一方あり得ない設定に対し、登場人物がこれまたあり得ない程真剣に振る舞い、そのギャップを見せる事で、笑いをとる手法もあります。日向坂46の小坂菜緒の、初出演・初主演映画『恐怖人形』(2019)などは、その良い事例となるホラー&(結果として)コメディです。
もっとも監督にそんな作品にする意図は、全く無かったでしょう。見事なまでに、全編・全要素に80年代B級ホラー映画テイストを再現させた作品です。
ところで日本でも海外でも、ドローンがむき出しのお尻を責めて、人を殺害するシーンに大喜びするような人たち(私もです)の中に、「犬を殺したシーンは悪趣味」「あれだけは許せない」との思いを訴える人が、少なからず存在しています。
あらゆる過激なシーンを愉しむ人にも、許せないものがあるんですね。何かホラー映画ファンの心に潜む、素朴な良心を再確認させて頂いた気分です。
子犬を殺されてブチ切れ、大暴れした主人公をキアヌ・リーブスが演じた映画『ジョン・ウィック』(2015)が、世界で人気になる訳です。改めて納得いたしました。
次回の「未体験ゾーンの映画たち2020見破録」は…
次回の第38回は人間を乗っ取る謎の怪物の生態と恐怖を描く異色のホラー映画『スキンウォーカー』を紹介いたします。お楽しみに。
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