姿なき麻薬王を追え!
韓国で『アベンジャーズ/インフィニティ・ウオー』、『デッドプール2』を抑え、初登場1位! 観客動員500万人突破の大ヒットを記録。
ジョニー・トー監督の香港ノワール作品の代表作『ドラッグ・ウォー 毒戦』を大胆な脚色でリメイクした『毒戦 BELIEVER』が2019年10月4日よりシネマート新宿他にていよいよ全国公開されます!
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CONTENTS
映画『毒戦 BELIEVER』の作品情報
【公開】
2019年公開(韓国映画)
【監督】
イ・ヘヨン
【キャスト】
チョ・ジヌン、リュ・ジュンヨル、キム・ジュヒョク、チャ・スンウォン、パク・ヘジュン、チン・ソヨン、キム・ドンヨン、カン・スンヒョン
【作品概要】
2012年のジョニー・トー監督作『ドラッグ・ウォー 毒戦』を、『お嬢さん』など、パク・チャヌク監督とのタッグで知られる脚本家チョン・ソギョンが大胆に脚色。
韓国映画界を支える実力派俳優の一人チョ・ジヌンと、韓国若手俳優の中でも卓越した演技力を持つリュ・ジュンヨルがW主演した韓国ノワール。
闇マーケットの王・ハリムを演じたキム・ジュヒョクは、本作が遺作となった。
映画『毒戦 BELIEVER』のあらすじ
麻薬取締局のウォノ刑事は長年にわたって麻薬王の“イ先生”を追いかけていました。
“イ先生”は、麻薬組織のボスとして悪名をとどろかせながらも、誰一人としてその顔も本名も経歴も知らない謎の人物です。追っても追っても、その尻尾すらつかむことができません。
ある日、麻薬製造工場が爆破され、事故現場から唯一の生存者が発見されます。男の名はラク。彼は意識不明で病院に運ばれますが、刑事が医師と話すために3分間席をはずした間に、姿が見えなくなります。
あわてて防犯カメラで行方を追うと、彼は麻薬製造工場で下働きをしていて爆発に巻き込まれた母の遺体が安置されている場所にたたずんでいました。
取り調べの結果、ラクは麻薬の取引の連絡係をしていたことが判明。ウォノ刑事は組織に見捨てられたラクと手を組み、潜入捜査に乗り出します。
ウォノ刑事たちの前に現れたのは、闇マーケットの王、狡猾なドラッグディーラー、ジャンキーの毒婦、麻薬作りの天才姉弟、残虐なクリスチャンといった麻薬に魅入られた狂気の人々でした。
それぞれの思惑が交錯し、絡み合い、物語は思わぬ展開へと突入していきます。
映画『毒戦 BELIEVER』の解説と感想
大胆な脚色の中に浮かび上がる本家の香り
韓国映画において、ある作品をリメイクするということは、その作品を最大限にリスペクトしつつ、さらに面白いものに仕上げてみせるという意味合いを持っています。
勿論、それは韓国映画に限らずどこの国の製作者にも言えることなのですが、韓国映画の場合、リメイクするということは“自分たちならもっと面白くできる(作る)”という一点につきるのです。そのためには大胆な脚色も厭いません。
ジョニー・トーの『ドラッグ・ウォー 毒戦』は序盤の怪しげな人物が乗ったバスシーンの緊張感や、クライマックスの何の盾もなく超至近距離で行われる無謀な銃撃戦など、異様にパワフルな作品でしたが、本作ではこうしたシーンはひとつも採用されていません。
『親切なクムジャさん』、『お嬢さん』など、パク・チャヌク監督作品の脚本でよく知られているチョン・ソギョンが描く世界は、ジョニー・トー作品の骨格だけを採用し、あとは別物と言ってもいい展開を見せます。リメイクとことわらなくてもいいのでは?と思えるくらいに大胆です。
しかし、不思議です。見終えたあと、確かにジョニー・トー作品の、香港ノワールのほのかな香りが感じられるのです。
この感情を具体的に説明するのは難しいのですが、まったく別ものの、韓国アクションらしい作品でありながら、そこにきっちりとジョニー・トー作品の精神を宿らせているのです。
これこそまさに、究極のリメイク作品と言えるのではないでしょうか。
狂気を秘めたキャラクターたち
本作の最大の魅力は強烈な個性を発揮するキャラクターの面々です。
キム・ジュヒョク扮する闇マーケットの王ハリムの何をしでかすかわからない狂気溢れる様、パク・ヘジュン扮するドラッグ・ディーラーの狡猾で姑息なふるまい、麻薬作りの天才姉弟の不敵で独特なたたずまい、手段を選ばない残酷さを秘めたクリスチャンの御曹司など、油断ならない連中が激しく火花を散らし合います。
麻薬取締局の刑事ウォノは、ディーラーに成りすまし闇マーケットの王に交渉したかと思えば、ディーラーには闇マーケットの王に成りすまして応じるという綱渡りのような潜入捜査を行い、何がどう展開するかわからない類をみないサスペンス溢れる空間を導きます。
ウォノに扮するのは『悪いやつら』(2012)、『お嬢さん』(2016)、『工作 黒金星(ブラック・ヴィーナス)』(2018)などの出演作で知られ、韓国映画界を代表する映画スター、チョ・ジヌンです。
麻薬製造工場の爆破で唯一生き残ったラクは、口数が少なく、孤独な、いわば社会の暗部を一身に背負わされたかのような青年です。組織からは用済みとばかり命を狙われています。
ラクを演じるのは、『タクシー運転手 約束は海を越えて』(2017)、『ザ・キング』(2017)など幅広い役柄を演じる若手実力派俳優のリュ・ジュンヨルです。リュ・ジュンヨルはキム・テリと共演した『リトルフォレスト春夏秋冬』と本作をほぼ同時に撮影したというから驚きです。
2人に加えて、ウォノの部下たちもただの動くコマにはなっていません。とりわけ、ハリムの情婦の役割を担い現場に向かい、最後には激しいアクションを繰り広げる映画初出演のカン・スンヒョンにも是非注目してください。
彼らは正体不明の”イ先生“に如何に近づいていくのでしょうか?
最高峰のスタッフが創り上げた魅惑的な世界
麻薬製造工場爆破の場面は、車を降りた女性が建物に向かっていく様を俯瞰で撮っているのですが、突然建物が爆発して女性は吹っ飛び、近くの車にぶつかります。その間、カメラは固定されていてカットを割っていません。
CGなのか、合成なのか、はたまた実際に撮った映像なのかは判断できませんが、序盤から度肝を抜かれます。
撮影監督のキム・テギョンや照明監督のホン・スンチョルといった最高峰の技術スタッフが結集し、数々の魅惑的な場面を創り上げました。
風力発電の風景はたびたび映画にも現れ、フィルム映えするものですが、ここでは巨大な風力タービンとそれが湖に反射して映っている様子を魅惑的にとらえています。
美術監督のイ・ハジュンによる様々なセットもスタイリッシュかつユニークなもので、今までにみたことがない空間から見える都市の風景にはため息がでるほどです。
麻薬組織のアジトが一体どこにあったのか、是非スクリーンで目撃してください。ちなみにチョ・ジヌンが車を走らせる雪景色の風景はノルウェーで撮影されたそうです。
まとめ
監督はサスペンスドラマ『京城学校 消えた少女たち』のイ・ヘヨンです。独自のスタイルが評価されている気鋭の監督です。
パク・チャヌク作品で知られる人気脚本家、チョン・ソギョンと強力なタッグを組み、”ノワール映画の新境地にして到達点“と言わしめた極上のエンターティメント作品を創り上げました。
狂気の人、チン・ハリムを熱演したキム・ジュヒョクは交通事故で亡くなり本作が遺作となりました。
キム・ジュヒョクは、本作で第39回青龍映画賞と第55回大鐘賞映画祭にて助演男優賞を受賞しています。
映画『毒戦』は、シネマート新宿、シネマート心斎橋他にて10月04日(金)よりロードショー公開されます!
次回のコリアンムービーおすすめ指南は…
次回は、チョ・スンウ主演『風水師 王の運命を決めた男』(2018)を取り上げる予定です。
お楽しみに。
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