連載コラム『鬼滅の刃全集中の考察』第22回
大人気コミック『鬼滅の刃』の今後のアニメ化/映像化について様々な視点から考察・解説していく連載コラム「鬼滅の刃全集中の考察」。
今回前回記事に引き続き、「無限城決戦編」の名言・名シーンその2を紹介・解説していきます。
ついに始まった最終決戦・鬼たちの最大拠点「無限城」の各所では、鬼殺隊と“上弦”の鬼との激しい戦いが繰り広げられます。
その最中で交わされる善逸の熱い想い、“上弦の参”猗窩座の壮絶ながら切ない過去が明かされる名シーンと名言をご紹介します。
CONTENTS
「この技で いつかアンタと肩を並べて戦いたかった」
無限城にて善逸は、鬼になったかつての兄弟子・獪岳と遭遇。
実は獪岳が鬼となったことで、二人の育手・桑島慈悟郎は責任を取って切腹しており、善逸は柱稽古の際にその知らせを受けていました。その事を話し「何故鬼になった」と問い詰める善逸ですが、獪岳は自身を認めなかった桑島の死を「清々する」と評し、二人は互いに刃を交えます。
激闘の末、善逸が自身で考え出した新たな型「雷の呼吸 漆ノ型 火雷神」を繰り出し、 獪岳を撃破。獪岳は自身が知らない型を目にし「桑島が善逸に対し贔屓していた」と勘違いしますが、善逸はあくまで自分自身で見つけ出した型だと明かし、このセリフを口にします。
結果として同じ師に学び、袂を分かってしまった二人ですが、善逸は邪見にされながらも獪岳を兄弟子と慕い憧れ、獪岳のようになりたいと感じていました。それ故に懸命に技を研鑽し続け、新たな型「火雷神」を編み出し、獪岳に近づこうとしていたのではないでしょうか。
そして、このセリフを語る善逸の表情がどこか淋しそうに感じられるのは、言葉通り決して叶わぬものになってしまった「獪岳との共闘」に想いを馳せていると同時に、尊敬する兄弟子への別れを惜しんでいるからなのでしょう。
「独りで死ぬのは惨めだな」
獪岳は善逸に討たれた事実を受け入れられず混乱が続く中、力尽き共に高所から落下している善逸に気が付くと、善逸も転落死する事で勝負は相討ちになると安堵します。しかしどこからともなく現れた兪史郎が、獪岳にこのセリフを語りかけ、善逸を助け去っていきます。
この直前の兪史郎が口にした「欲しがるばかりの奴は結局何も持っていないのと同じ」という言葉の通り、獪岳はこれまで一方的に何かを求め他者から搾取するばかりであった故に、誰からも真に信頼される事はありませんでした。
対して師匠・桑島を想い、炭治郎らと絆を深めてきた善逸が直接の面識はないものの同じく炭治郎との絆を持つ兪史郎に助けられるという「絆が紡ぐ人と人の縁」の有り様が垣間見られる場面であり、一人消えていく獪岳の哀れさも描いた対照的な場面でもあります。
また、消失する獪岳が何事か叫んでいますが、何を叫んでいるのか描かれていない=「その言葉を受け取ってくれる者がいない」という様を描いている点も、獪岳の哀れさに拍車をかけています。
「お前は儂の誇りじゃ」
獪岳を倒した善逸ですがそのまま意識を失い、三途の川で今は亡き自身の育手・桑島に再会します。
善逸は獪岳と仲良くできなかった事、世話になった桑島に何一つ恩返しできなかった事を必死に詫びます。そして何も答えない桑島の元へ向かおうと善逸は川を渡ろうとしますが、川岸の彼岸花が足に絡みつき進む事ができません。
焦る善逸に桑島は涙を流しながらこの言葉を口にし、その直後に善逸は意識を取り戻します。
弱気でネガティブながらも「桑島への恩返し」と「獪岳と肩を並べる事」を目標にしていた善逸は、桑島と獪岳の死によりいずれの目標も失ってしまいました。しかし桑島のこの言葉により、善逸の努力の全てが報われるという感動的な場面です。
桑島は自らの死後も善逸が気がかりで、死後の世界へ旅立つ事ができず、若くして川に来てしまうかもしれない善逸を瀬戸際で追い返そうと、あるいは懸命に生き抜いた善逸を優しく迎えようと、ひたすらそこに佇んでいたのかもしれません。そして桑島が伝えた言葉はそのどちらでもない、しかし限りなく優しさと愛に満ちたものした。
ただ一言のセリフですが、桑島の善逸への想いが溢れる感動的な名言といえます。
「負けるな炭治郎 負けるな禰豆子 絶対に負けるな」
炭治郎らが最終決戦に臨む中、鱗滝は珠世が作った「鬼を人に戻す薬」を飲み苦しむ禰豆子の看病をしていました。禰豆子が人間に戻れば「日光に抗体を持った鬼」が消滅する事で無残の目論みが費えるため、禰豆子もまた、最後の戦いに臨んでいたのです。
鱗滝は「最終局面」という言葉を反芻しながら、炭治郎が現れた事により急激に事態が動き出した数奇な巡り合わせに思いを馳せ、胸中でこの言葉を口にします。
奇しくもこの時、炭治郎は「無限列車編」以来の因縁の相手である“上弦の参”猗窩座との戦いに臨んでいるだけに、強く印象付けられる名言です。
歴戦の猛者であり、常に冷静沈着な鱗滝が脂汗を流し緊張している事からも、この戦いの重要性がひしひしと感じられます。何よりかつて、炭治郎に稽古をつけた際には決して励ます事のなかった鱗滝の励ましの言葉から、炭治郎・禰豆子兄妹への強い想いが伝わってくる名言です。
「強い者は弱い者を助け守る そして弱い者は強くなり また自分より弱い者を助け守る これが自然の摂理だ」
炭治郎と戦う猗窩座は格段に腕を上げた炭治郎を賞賛、煉獄の死を糧にし強くなった事を察し「杏寿郎はあの夜、死んでよかった」と評しますが、その言葉に炭治郎は激怒します。
対して猗窩座は炭治郎も煉獄も賞賛していると言った上で、自身が嫌い侮辱するのは「弱者」のみであり、弱者が淘汰される事は「自然の摂理」であると語ります。しかし炭治郎は、猗窩座も含め誰しもはじめは「弱者」であったと説き、この言葉を続けます。
気迫のこもった表情で力強く叫ぶ炭治郎の姿に胸が熱くなる名言です。またこの言葉から、「無限列車編」での煉獄の事を思い浮かべたファンも多いのではないでしょうか。
亡き母・瑠火が幼い煉獄にかつて教えた、「弱き人を助ける」という「強く生まれた者」の責務。その言葉を胸に戦い続けた煉獄自身もまた、「柱ならば後輩の盾になるのは当然だ」という言葉通り、「無限列車編」にて炭治郎達を守り抜きました。
そして「強い者」であった煉獄の生き様からその姿勢、意志を受け継ぎ戦い続け「強い者」になれた炭治郎だからこそ、「弱い者は強くなり また自分より弱い者を助け守る」という言葉も自然と口を突いて出てきたのかも知れません。
「猗窩座!! 今からお前の頸を斬る!!」
炭治郎は猗窩座との激闘の中で、父・炭十郎から教わった、相手や自身の臓器や筋肉・血管が透けて見える「透き通る世界」を見る事ができるようになります。それによって猗窩座の動きを見切り、繰り出された攻撃を全て回避。さらに自身の闘気を消した状態で、猗窩座の背後を取ることに成功します。
猗窩座の頸を斬る絶好の機会に、炭治郎はこのセリフを叫びます。
宿敵であろうと正々堂々と戦おうとする炭治郎の実直さを表現したセリフであり、この直後、これまでの苦戦が嘘のように一刀のもと猗窩座の頸を斬り飛ばす場面へつながる事を含め、インパクトの強い場面となっています。
またこの場面では、炭治郎の闘気を探知できず、すでに死んだと勘違いする猗窩座の背後に佇む炭治郎に気付いた冨岡が、内心炭治郎の不意打ちを期待するも、馬鹿正直に叫んでしまった炭治郎に呆れかえる表情も必見です。
「炭治郎を殺したければまず俺を倒せ……!!」
猗窩座の頸を斬り勝利したと思った炭治郎ですが、猗窩座の体は崩壊することなく、そのまま炭治郎に襲いかかります。
不意を突かれると共に、肉体が限界を迎えようとしていた炭治郎は猗窩座の一撃を食らい、気を失ってしまいます。とどめを刺そうと炭治郎に肉薄する猗窩座の前に冨岡が割って入り、このセリフを叫びます。
刀を折られ、満身創痍の冨岡が膝を折りながらも力強く叫ぶ姿は、普段はクールで無口な冨岡が高ぶった感情を爆発させる瞬間である事も含め非常にカッコよく感じられる名言です。
そしてこの言葉は、猗窩座が「ある記憶」を思い出すきっかけとなった重要な名言でもあります。
「生まれ変われ 少年」
猗窩座との戦いに復帰する炭治郎ですが、体力の消耗から振りかぶった刀が手から抜け落ちてしまったため、苦し紛れに拳を握ると猗窩座の顔を殴りつけます。この瞬間、猗窩座は炭治郎の姿にある男……慶造の姿を重ね、その幻影の慶造がこのセリフを口にします。そして猗窩座は前述の冨岡のセリフも相まって、鬼になる以前の記憶を取り戻します。
人間であった頃の猗窩座……狛治は、かつて病気の父の薬代を稼ぐべく盗みを繰り返していたものの、父が自責の念から自ら命を絶った事で自暴自棄に陥り、喧嘩に明け暮れていました。
そんな狛治の前に現れた慶造は彼を打ちのめすと、狛治を自身の道場へ連れて行きます。そこで狛治は慶造から「素流」と呼ばれる徒手空拳の武術を学ぶと共に、病気がちな慶造の娘・恋雪を看病する中で更生していきます。
しかし狛治が慶造から道場を継ぐ事、そして恋雪との婚姻が決まったその矢先、因縁があった剣術道場の謀略により慶造と恋雪を毒殺されます。再びかけがえのない人々を失った狛治はその怒りから、剣術道場の道場主や門下生を全員殺害。そして常軌を逸した強さを無惨に見込まれた事で鬼=「猗窩座」となり、その際に人であった頃の記憶を失ってしまいます。
猗窩座が何故頑なに「強さ」を欲し「弱者」を嫌悪していたのかが明らかになったものの、その想いとは裏腹に記憶を失った猗窩座が誤った方向へと進んでしまったのだと彼自身も、そして読者全員も気づかされるこのエピソードはあまりにも切ないです。
その反面、猗窩座……狛治の前に幻影とともに再び現れたかつての慶造の言葉は、再び道を誤った弟子を今また、救おうとすべくと現れたのだと思うと、その優しさと繰り出された熱い拳に目頭が熱くなる名言です。
「もう充分です」
前述の慶造の言葉と記憶を思い出し、過去への後悔と自身への嫌悪から自らに拳を向ける猗窩座。敗北を認め、無意識に再生しようとする体を抑えようとしますが、脳裏に無惨が現れます。
「強くなりたかったのではなかったのか?」という無惨の問いかけに、再び立ち上がり戦おうとしてしまう猗窩座。しかし彼の前に今度は恋雪が現れ、この言葉を口にします。
結果、懸命に叫ぶ無惨は猗窩座の脳裏から消滅。猗窩座は人間であった頃の狛治の姿に戻ると大粒の涙を流し、恋雪へ精一杯の謝罪をします。そして恋雪の「おかえりなさい」という言葉により、猗窩座の体は崩壊します。
猗窩座の根底にあった「誰よりも強くなりたい」という信念は、かつての記憶を失って尚拭い去る事ができない「恋雪を守るため」という強い想いによるものであり、結果として道は誤ってしまったものの、恋雪自身がそれを痛いほどわかっているが故に「もう充分です」という言葉をかけたのではないでしょうか。猗窩座と恋雪のそれぞれへの想いが伝わってくる感動的な名言といえます。
「もう嘘ばっかり吐(つ)かなくていいから」
“上弦の弐”童磨に敗れ喰われてしまった“蟲柱”しのぶに代わり、立ちはだかるカナヲ。一方で彼女と対峙していた童磨は、猗窩座が敗れた事を感じ取ります。
猗窩座の死を知り涙を流す童磨に対し、カナヲはこの言葉を投げかけます。
“上弦”の鬼の中でも感情豊かに見える童磨ですが、実は一切の感情がなく、その場その場で表情や声色・仕草だけを変えては取り繕っていました。これまでそれに気が付く者は居ませんでしたが、その事実をカナヲが初めて指摘した言葉でもあります。
これまで感情が乏しかったカナヲが、自身の抱いた嫌悪や怒りを露わにするという「変化」に至る一方で、感情豊かに見えていた童磨は一切の表情がなくなり、寒々しいまでの無表情という「無変化」に至るという、対照的な二人の姿が描かれています。
まとめ/次回の『鬼滅の刃全集中の考察』は……
「無限城決戦編」名言/名シーン集その2、いかがだったでしょうか。
鬼殺隊と鬼の雌雄を決する激しい戦いの最中、それぞれのキャラクターたちの想いもまた激しく熱を帯び、交わされる名言の数々は私たちの胸を打ちます。中でも善逸の獪岳への強い怒りと相反する憧れと桑島への想いは、『鬼滅の刃』における「家族」の物語の一つなのかもしれません。
次回記事では、「無限城決戦編」の名言/名シーンその3をピックアップ。しのぶがカナヲを想う名言や今わの際の童磨へ投げかけるあの名言、不死川実弥の弟・玄弥を想う名言などをご紹介します。