連載コラム『鬼滅の刃全集中の考察』第13回
大人気コミック『鬼滅の刃』の今後のアニメ化/映像化について様々な視点から考察・解説していく連載コラム「鬼滅の刃全集中の考察」。
今回は「柱合会議・蝶屋敷編」の名言/名シーンを紹介・解説していきます。
以降の物語に深くかかわってゆく“柱”たちとの出会いを描いた「柱合会議編」と、蝶屋敷での生活を通じて炭治郎が様々な人々の想いに触れることになる「蝶屋敷編」。
多くの想いが衝突・交錯する中で登場する数々の名言を振り返っていきます。
CONTENTS
「善良な鬼と悪い鬼の区別もつかないなら柱なんてやめてしまえ!!」
鬼に人並み以上の憎悪を抱く“風柱”こと不死川実弥は、禰豆子の処遇を巡って議論を重ねる他の“柱”たちに痺れを切らし、禰豆子が眠る背負い箱を剣で貫きます。それに激怒した炭治郎は不死川に頭突きを見舞い、力強くこの言葉を叫びました。
“柱”たちはもとより、鬼殺隊全体の認識として、人間に仇なす鬼はすべて滅するべき対象であり、そもそも善悪で討伐の是非を判断する必要自体がないと考えています。
対して禰豆子はもちろん、珠世や兪史郎といった、人間に対して好意的な鬼がいることを知り、邪悪な鬼であっても、死に瀕した際には情けを見せる炭治郎。
このセリフは彼の鬼に対する考え方が強く反映された言葉であると同時に、鬼殺隊という「組織」に属しながらも決して自らの信条は曲げない彼の意志の強さを感じる事も出来ます。
「鱗滝左近次 冨岡義勇が腹を切ってお詫びいたします」
禰豆子の存在を認めるよう、鱗滝が鬼殺隊の現当主・産屋敷輝哉に宛てて書いた手紙の中に綴られた言葉であり、万が一にも禰豆子が人を襲った場合には、冨岡と共に自らの命を差し出す覚悟を示しています。この時に炭治郎は初めて鱗滝の想いと覚悟を知り、人知れず涙します。
炭治郎にとっては決して多くを語らず、厳しくも優しい師匠であった鱗滝は、無用な心配を炭治郎にかけないため、敢えてこの手紙の存在は話さなかったのだと思われます。そんな鱗滝と炭治郎・禰豆子兄妹の絆を感じさせる感動的な場面となっています。
アニメでは原作コミック通りに産屋敷の娘・にちかが読み上げ“柱”たちに聞かせますが、その途中から次第に鱗滝の声へと切り替わる演出となっています。鱗滝を演じる大塚芳忠の嘆願の文章にあるにもかかわらず、どこか宣言するように他を圧倒するような力強さを感じさせる演技にも注目です。
「これを否定するには 否定する側もそれ以上のものを差し出さなければならない」
前述の鱗滝の手紙を聞かされたものの、それでも禰豆子の存在を認める事に反発を続ける“柱”たちに、産屋敷が言って聞かせた言葉です。
人を襲うことなく、逆にこれまでの戦いの中で人を助けてきた禰豆子の存在と、鱗滝・冨岡の命を差し出しての嘆願。それら事実、何よりも“覚悟”を否定する事に対しても“覚悟”が必要だと諭す産屋敷。どこかつかみどころがない彼ですが、この場面では“当主”としての片鱗を垣間見ることができます。
アニメでは終始穏やかな口調で話し続ける産屋敷ですが、このセリフを話す際には決して語気が強いわけではないものの、どこか有無を言わさぬ“圧”を感じられる事から、彼を演じる森川智之の演技力が光る場面でもあります。
「プイッ」
禰豆子を背負い箱から引きずり出した不死川は、自らの腕を傷つけて血を見せ、わざと自身を襲わせることで禰豆子が「危険な鬼」であると証明しようとしますが、禰豆子は血の誘惑を意志の力で振りほどきます。
しかし鬼化の影響により言葉を発することができないため、「プイッ」という擬音と共に禰豆子がそっぽを向く事で、彼女が誘惑を振り払った様子を表現しています。
原作コミックでは、禰豆子が誘惑に苦しむ様を描きつつも、どこか可愛らしくコミカルにこの場面は描かれていますが、アニメでは「プイッ」という擬音表現は登場せず、より禰豆子の苦しみが強く強調されて描かれています。
また禰豆子は誘惑を振り払う直前、鱗滝にかけてもらった暗示「人間を家族と思い、守れ」と言う言葉と共に、在りし日の家族の姿、そして鬼と化した禰豆子を冨岡から守ろうする兄・炭治郎を思い出し、自らの決意「人間を絶対に傷つけない」という想いを改めて強めます。鬼に化しても決して変わることのない、禰豆子にとっての家族の絆が描かれた感動的な場面です。
「イイヨ 気ニシナイデ」/「ゴメンネ 弱クッテ」
那田蜘蛛山での戦いの後、傷を癒すため「蝶屋敷」で休養していた伊之助が、炭治郎と再会した際に言ったセリフです。
普段は暴れ放題の伊之助の珍しく元気がない上、あまりにも弱気な言動は非常にコミカルかつ印象的です。また後にも先にも弱気な伊之助はこの場面でしか登場しないため、ある意味では貴重な場面かもしれません。
アニメでも伊之助演じる松岡禎丞の消え入りそうなしゃがれた声は、松岡自身のキャリアの中でも珍しく、喉を傷めていると言う設定、伊之助が初めて感じたであろう挫折が入り混じりながらも、コミカルに演じ切ってるみせた演技にも注目です。
「幸せ!! うわあああ 幸せ!!」
「蝶屋敷」での治療後に機能回復訓練へと赴く事になった善逸が、訓練を監督するのがカナヲやアオイを初めとする女子ばかりと知った際に、喜びのあまり絶叫したセリフです。
先んじて訓練を受けていた炭治郎と伊之助に対し、理不尽としか言いようのない怒りをぶつけていた直後に発した叫びであり、さらにその直後にまたキレるという情緒の不安定さが誘うコミカルさは、数ある善逸のコミカルな場面の中でも一、二を争うのではないでしょうか。
女の子が絡むと冷静さを失い、暴走してしまう善逸らしいこのセリフ。アニメでも、善逸演じる下野鉱のハイテンションな絶叫におもわず笑ってしまいます。
「私は いつも怒っているのかもしれない」
“蟲柱”こと胡蝶しのぶとの会話の中、炭治郎が唐突に問いかけた「怒ってますか?」という問いに対して、しのぶが答えた言葉です。
亡き姉・カナエの「鬼と仲良くする」という夢を引き継ぎ、カナエが好きだと言った自身の笑顔を絶やさずにいようとするしのぶですが、カナエを殺した鬼という存在を許す事は決して出来ず、いつしか形だけの笑顔の下に鬼への怒りを隠すようになっていました。その事を炭治郎に初めて指摘された事で、しのぶは長年、自身の心の奥にしまい込んでいた鬼への怒りを思わず彼に打ち明けます。
どこか白々しさが見えるしのぶの笑顔の理由が明かされるこの場面。彼女が鬼殺隊の最高位である“柱”となれた大きな要因でもある壮絶な過去、そして家族にまつわる鬼への激しい憎悪など、非情さを常に忘れない“柱”もまた“人間”であるという、至極当たり前の事実を再認識させられる場面です。
アニメでは、このセリフを話すしのぶがいつも穏やかな口調から一転して、一切の感情が消えたかのように自身の過去と激しい怒りを淡々と語るしのぶが描かれ、彼女を演じる早見沙織の演じ分けが見事な場面となっています。
「頭を垂れて蹲え平伏せよ」/「お前は私が言うことを否定するのか」
“下弦の伍”こと累が那田蜘蛛山で倒された事を知り苛立つ鬼舞辻無惨が、残る“下弦”の鬼たち全員を「無限城」に招集した際に放った言葉です。
鬼である無惨にとって、人が持ち合わせるような感情は一切不要であり、配下の鬼たちも無惨にとってはただの道具でしかないことがこれらのセリフから感じられます。
この後、無惨は“下弦”の鬼たちを次々と粛清していきますが、その場面も相まって、無惨の冷酷さ・理不尽さが最も象徴するセリフとして多くのファンの記憶に焼き付いています。
アニメでは、無惨を演じる関俊彦の抑揚を抑えた無感情な声色の中にある怒気、寒気が走るような恐怖を感じさせる演技は誰もが怯えを感じさせられたはずです。
「申し訳ございません お姿も気配も異なっていらしたので……」
無惨に招集された“下弦”の鬼たちの前に現れた無惨は、普段とは異なる「着物姿の女性」の姿をしており、無惨が第一声を発するまで誰一人それが無惨だと気づけませんでした。その失礼を取り繕うように、“下弦の肆”こと零余子はこのセリフを口にします。
しかしこの言葉を耳にした無惨は、「誰が喋って良いと言った?」という言葉を皮切りに怒りを更に露わに。そして先述の通り強烈な冷酷さ・理不尽さを見せたのち“下弦”の鬼たちの粛清を行った事から、ファンの間ではいわゆる“迷言”の一つとして楽しまれています。
ネットやSNSでは『鬼滅の刃』に出演した声優陣が別作品に出演した際に全く異なる演技・声質を見せた場合、とりわけ無惨を演じる関俊彦に対してよく使われているというこのセリフ。そうして“迷言”として楽しむファンが多く存在するのも、出演している声優陣の知名度や演技力の高さ故とも受け取れます。
「アオイさんの想いは俺が戦いの場に持っていくし」
傷が癒え「蝶屋敷」を離れる事になった炭治郎が、治療・訓練で世話になった神崎アオイに感謝を述べた場面にて、鬼殺隊内で後方支援に甘んじるしかない自身を恥じ、感謝は不要と言うアオイに対して炭治郎がかけた言葉です。
自らの存在意義を見出せていなかったアオイはこの炭治郎の言葉によって、自身の行いが戦いの場に立つ者を支えている事に初めて気がつき、その心を救われたのではないでしょうか。立場や役割が違えども同じ目的のため、自身とは異なる場所でアオイもまた「戦っている」と捉えている炭治郎の想いが表れています。
アニメでは、真っ直ぐに感謝の言葉を口にする炭治郎に対して、どこか冷たく突き放つように返事をするアオイに対し、その様子を気にする事なく“当たり前”にこのセリフを返した炭治郎の優しさを感じさせる、花江夏樹の演技が印象的です。
「人は心が原動力だから 心はどこまでも強くなれる!!」
こちらも「蝶屋敷」を離れる炭治郎が訓練で世話になった隊士・栗花落カナヲに別れを告げる場面にて、自身の心に従う事に消極的なカナヲに対し、心のまま行動するように強く勧めた炭治郎の言葉です。
これまでの激戦の中、窮地に追い詰められようと想いを強く持って戦い続け「心の強さ」を知る炭治郎だからこそ口に出来る名言ではないでしょうか。
どこまでも前向きな炭治郎の姿とこの言葉は、これまで感情を不要とさえ思っていたカナヲにとっては衝撃的なものであり、この事をきっかけに、カナヲは人間らしい感情を徐々に表に表していくようになります。
まとめ/次回の『鬼滅の刃全集中の考察』は……
「柱合会議・蝶屋敷編編」名言・名シーン集、いかがだったでしょうか。
鬼殺隊の最高戦力“柱”が一堂に集まり、炭治郎と運命的な出会いを果たす「柱合会議編」。炭治郎たちの成長が描かれ、今後の物語への期待を高めていく「蝶屋敷編」。
その中で交わされた名言/名シーンの数々は、戦場ではないからこそ、人々の心に強く響く名言が多く登場したように感じられます。
次回記事では、「那田蜘蛛山編」の名言・名シーンをピックアップ。未だかつてない激闘の中で試される炭治郎・禰豆子の兄妹の絆が紡ぎだすあの名言はもちろん、“下弦の伍”こと累の感動的な名シーンも紹介します。