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Entry 2020/04/07
Update

映画『アドリフト』感想とレビュー解説。実話サバイバルとして「41日間の漂流」を絶望と執念で戦う|SF恐怖映画という名の観覧車97

  • Writer :
  • 糸魚川悟

連載コラム「SF恐怖映画という名の観覧車」profile097

今週の当コラムは、実話を基にした恐怖と希望の映画『アドリフト 41日間の漂流』(2020)をご紹介させていただきます。

「SF」でも「ホラー」映画でもない作品ではありますが、生命の源でもあり時に人々を絶望に追いやる圧倒的な力を持った「海」に対して「恐怖」の気持ちを抱くこと間違い無しの本作の魅力を、存分に味わっていただけたらと思います。

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映画『アドリフト 41日間の漂流』の作品情報


(C)2018 STX FINANCING, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

【日本公開】
2020年(アメリカ映画)

【原題】
Adrift

【監督】
バルタザール・コルマウクル

【キャスト】
シャイリーン・ウッドリー、サム・クラフリン

映画『アドリフト 41日間の漂流』のあらすじ


(C)2018 STX FINANCING, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

当てもなく世界各地を旅行しながら生きるタミー・オールダム(シャイリーン・ウッドリー)は、タヒチでヨットで世界を旅するリチャード・シャープ(サム・クラフリン)と出会います。通じ合う部分のある2人はやがて結婚を意識し合うようになりました。

そんな時、ある老夫婦からヨットをタヒチからサンディエゴへと運んでほしいという依頼を受けることになった2人は、破格の謝礼金と長い航海に心惹かれ、タヒチからサンディエゴへ向けた航海を始めますが……。

実話を基にした愛と努力の生還劇


(C)2018 STX FINANCING, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

『アドリフト 41日間の漂流』は1983年に41日間の漂流の末に生還した、タミー・オールダム・アシュクラフトによる自伝『Red Sky in Mourning: A True Story of Love, Loss, and Survival at Sea』を基にした実話の作品です。

太平洋を横断する広大な航海のさなかにハリケーンに巻き込まれ、マストもラジオもナビゲーションシステムも壊れてしまい正確な位置も分からず漂流することになってしまうタミーとリチャード。

太平洋の面積はおよそ1億7970万平方キロメートルといわれ、全地表の3分の1を太平洋が占めているとされています。

その太平洋の中で自身の座標を知る道具も、外部との接触を取る装置も壊された状態で漂流することは、生半可なホラー映画の描写よりもよほど「恐怖」であり「絶望」そのものであると言えます。

2人を襲うのは「飢え」と「怪我の後遺症」だけではなく、海という「密室」に閉じ込められたことによる精神状態が招く「幻覚症状」。

正確な判断が求められる状況下では幻覚は一番の大敵であり、負傷の軽いはずのタミーが幻覚により精神状態を悪化させていく様子が、絶望感たっぷりに描かれています。

「奇跡」に頼らない執念の航海


(C)2018 STX FINANCING, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

タミーの生還劇の異質な部分は「奇跡」に頼ることなく、自身の知恵を振り絞り生き抜いた「執念」にあります。

かねてより海外を1人で渡り歩いていたタミーは決断を他者に委ねない強靭な意思を持っており、ハリケーンの接近や漂流後も経験者であるリチャードに意見し、結果として生還に繋がるきっかけを作っています。

また、セーリングの豊富な知識を持つリチャードから緯度経度の割り出し方も習得し、重傷を負ったリチャードの代わりに漂流中における全てのトラブルにタミーは正面から立ち向かっていくことになります。

彼女が生き残ったのは「奇跡」ではなく迫りくる困難に心折れず正しい判断をしたからであり、世界的な緊急事態が襲う今だからこそ、劇中で彼女が見せた「強い意志」を参考にしたいと強く感じる作品です。

絶望と生還を描いた製作陣


(C)2018 STX FINANCING, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

『アドリフト 41日間の漂流』の監督を務めたバルタザール・コルマウクルは2015年に、1996年に起きたエベレストでの大量遭難事故を描いた『エベレスト 3D』(2015)を製作し、人類にとって時に味方であり時に大きな敵となる「自然」の恐ろしさを描いていました。

本作でもバルタザール監督は「自然」への向き合い方を変えることなく作品を製作しており、自然が人を殺そうと追い詰めながらも、それでも自然に魅せられ挑戦していく「人間」の面白さのようなものを劇中に残しています。

『ファミリー・ツリー』(2012)以降、ドラマや映画などの出演でで数多くの賞を受賞したシャイリーン・ウッドリーの鬼気迫る演技や、『パイレーツ・オブ・カリビアン/生命の泉』(2011)で宣教師フィリップ役に抜擢され話題となったサム・クラフリンの人を惹きつける海の男の魅力を体現した演技も魅力的で、「自然」と「人」が調和した恐怖と希望の物語が映し出されています。

まとめ

「タミーとリチャードの出会いと漂流への経緯」と「漂流中」のシーンを交互に映す手法によって、何気ない日常の幸福と危機的状況の絶望感を緩急つけて浴びることになる『アドリフト 41日間の漂流』。

「なぜ人は危険に魅入られ挑戦するのか」、絶望の中で彼女がたどり着くどんでん返しと切なく彩られたラストは、「生きることの意味」を感じることの出来る物語として必見の作品です。

『アドリフト 41日間の漂流』は2020年6月12日(金)より新宿バルト9ほか全国で公開。

次回の「SF恐怖映画という名の観覧車」は…

いかがでしたか。

次回のprofile098では、今度こそ「SF映画おすすめ5選!90年代の名作傑作選」と題し、90年代を彩った「SF」映画のオススメ作品をランキング形式でご紹介させていただきます。

4月15日(水)の掲載をお楽しみに!

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