連載コラム「SF恐怖映画という名の観覧車」profile087
「シナリオ重視」のゲームは古くから存在し、選択肢を選び物語が展開する「ノベルゲーム」や探索をメインとした「アドベンチャーゲーム」はその代表とも言えるゲームのジャンルでした。
しかし、CGなどの技術の大幅な進歩によって表現可能な領域が広がり、ゲームは新たな局面を迎えています。
一方、「配信映画」と言う新たな方向性を見出し発展を始めた映画の世界には「ゲームのような映画」が登場。
今回は「映画のようなゲーム」と「ゲームのような映画」、時代の変化によって生まれた新たなジャンルについて紹介させていただきます。
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「映画のようなゲーム」
参考動画:『デス・ストランディング』
映画やドラマなど実写作品のゲーム化そのものは、遡ってはファミコン以前から存在しました。
ですが、ソニー・コンピュータエンタテインメントが2000年に発売したゲーム機「PS2」の登場以降、CG技術の発展により本格的に俳優の顔及び行動をモデリングしたゲームが開発され始めます。
中でも金城武をキャストとして迎えた2001年のゲーム『鬼武者』は大ヒットとなり、2004年の『鬼武者3』では『レオン』(1995)などで有名なジャン・レノを起用し世界的に話題となりました。
さらに映像技術が進歩し実写と見紛うほどになった現代では、「ウォーキング・デッド」シリーズの人気俳優ノーマン・リーダスを主演に迎え、共演に『ドクター・ストレンジ』(2017)のマッツ・ミケルセンや『007 ノー・タイム・トゥ・ダイ』(2020)のレア・セドゥと言った有名どころを起用したゲーム『デス・ストランディング』が発売し、「ムービーシーンはまるで映画のよう」とまで評価されます。
しかし、近年のゲームは実写俳優の起用だけに留まらず、「ムービーシーン」のみを取り出したゲームも登場するなど、着実に「ゲーム」と「映画」の境界線は曖昧なものになっています。
自身の手で選択する「映画」
参考動画:『デトロイト ビカム ヒューマン』
2010年にクアンティック・ドリームが発売したゲーム『HEAVY RAIN -心の軋むとき-』は、従来のゲームのように「主人公を操作する」ことはありつつも、「プレイシーンの合間にムービーが存在する」従来のゲームの概念から「ムービーの中で登場人物を操作する」と言う新たなゲームデザインが評価され、その年の英国アカデミーコンピューターゲーム賞を受賞しました。
同社が2018年に発売した『デトロイト ビカム ヒューマン』は同方向性のクオリティをさらに煮詰め、「自身の手で選択する映画」のようなプレイ感触でこの作品も高い評価を得ることになります。
作中には数多くの分岐がボタン入力の成功可否や選択肢によって用意され、プレイする人間によって全く違う結末が用意されていることが受動的に作品の内容を受け取る「映画」との大きな違いと言われていましたが、そのころ「映画」の世界にも変化が訪れていました。
「ゲームのような映画」
読書には古くより「ゲームブック」と言うジャンルがあり、文章の中に登場する選択肢を読者が選択し該当のページに進むことで読む人によって結末の変わる「ゲームような本」が存在していました。
一方で「映画」には結末の違う複数のバージョンや、ディレクターズカット版が用意された作品はあれど、基本的には作者および監督の敷いた物語を追体験することが絶対原則でした。
しかし、「U-NEXT」や「hulu」など映画やドラマの映像配信が普及し、配信会社による様々なオリジナルコンテンツが製作される中でその原作を打ち崩す映画が登場することになります。
自身の手で選択する「映画」
参考動画:『ブラックミラー:バンダースナッチ』
2018年、映像配信の大手会社「Netflix」が製作した『ブラックミラー:バンダースナッチ』(2018)は、「映像配信限定」と言う条件を逆手に取った作品として世界で話題となります。
本作では、鑑賞者がコントローラーやリモコンを使い、作中の主人公が取る行動を選択し、その選択によって映画は全く違った物語で展開していきます。
鑑賞者の選択によっては物語が唐突に終わってしまうこともあり、「映画」と言うよりも「ゲーム」に近いものでありながら、ジャンルとして「映画」に該当する「異質さ」に鑑賞した誰もが唖然としたはずです。
このコンセプトは前述した「ゲーム」である『デトロイト ビカム ヒューマン』と同様であり、両者は作品が「ゲーム」として販売されたか「映画」として公開されたかの違いしかなく、その境は技術の進歩によって曖昧になっていることが分かります。
しかし、本作は映画館での劇場公開は不可能な形の作品であり、そのような公開形式の作品を「映画」と呼ぶのか、と言う点がこのジャンルの問題となることが予想されます。
ですが、新ジャンルの登場に批判は付き物であり、争点の明確さゆえに界隈そのものがますます盛り上がることも期待できます。
まとめ
テレビなどの家電にインターネットの接続機能が付き、かつてはインターネット専用機とも言えたパソコンとの境が曖昧になったように、「技術の進歩」と「斬新なアイデア」によってあらゆるジャンルのコンテンツが統合を果たしています。
映画の世界でも革新は続き、賞界隈では冷遇されていた配信専用映画も『アイリッシュマン』(2019)のアカデミー賞大量ノミネートによって新たな可能性が見え始めています。
2020年から2030年までの10年間、世の中や映画界隈はどのようなジャンルの統合や進化を遂げるのか、期待と不安が入り混じる10年間になりそうです。
次回の「SF恐怖映画という名の観覧車」は…
いかがでしたか。
次回のprofile088では、時代によって新たな局面を迎えつつある「インターネット」にまつわるホラー映画をいくつかご紹介していこうと思います。
2月5日(水)の掲載をお楽しみに!