連載コラム「SF恐怖映画という名の観覧車」profile046
「violence」=「①激しさ。強烈さ。②暴力。暴行」
2019年5月24日から公開される映画『バイオレンス・ボイジャー』(2019)。
「ゲキメーション」と呼ばれる斬新な手法を使った本作は、凄まじい「強烈さ」で全感覚に訴えてくる脳みそ揺さぶり型のアニメ映画。
今回のコラムでは、「バイオレンス」さに磨きをかけた本作の魅力をご紹介させていただきます。
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CONTENTS
映画『バイオレンス・ボイジャー』の作品情報
【公開】
2019年(日本映画)
【監督・脚本・作画・撮影・編集・キャラクターデザイン】
宇治茶
【キャスト(声の出演)】
悠木碧、田中直樹(ココリコ)、藤田咲、高橋茂雄(サバンナ)、小野大輔、田口トモロヲ、松本人志
映画『バイオレンス・ボイジャー』のあらすじ
日本の田舎地区に暮らすアメリカ人のボビー(声:悠木碧)は、山向こうに引っ越した友人に会いに行くため親友のあっくん(声:高橋茂雄)と共に山越えを試みます。
その道の途中で、「バイオレンス・ボイジャー」と言う寂れたレジャーランドを見つけた2人は、今もなお運営していると言うその施設を興味本位で訪ねます。
お金の持ち合わせがなく、入場料が払えないことにがっかりとする2人でしたが、施設の運営者古池(声:田口トモロヲ)の厚意によって特別に無料で招待されることとなりました。
いかにもな手作りのアトラクションに最初はがっかりする2人でしたが、様々なしかけに気分が上がってきた頃に、アトラクション内に倒れている女性を発見します。
2人は時子と名乗るその少女が数日前からこの「バイオレンス・ボイジャー」内から彷徨い、脱出する方法を探していると知り…。
独特な世界観で描かれる「バイオレンス」なサイコスリラー
本作『バイオレンス・ボイジャー』は『悪魔のいけにえ』(1974)などとジャンルを同じとしたサイコスリラーです。
10代の子供たちが物語のメインとなり、序盤は一見平和に物語が進むため、鑑賞前に意識していても忘れがちとなってしまうのですが、中盤以降は子供であろうが容赦なく次々と人が死んでいきます。
その鮮烈で苛烈な暴力表現の数々と、独自の世界観はロブ・ゾンビ監督の『マーダー・ライド・ショー』(2003)に近しいものを感じ、目を背けたいほどの描写でありながらひきつけられます。
アニメでしか描けないような「SF」と「サイコスリラー」の融合も見事であり、本コラムのタイトルとも言える「SF恐怖映画」と言う言葉がしっくりと来る本作。
サイコスリラーが好きな人には「この展開あるある!」なんて言いながら楽しむことも出来る一方で、「反撃」するスリラー映画が大好きな人にはたまらない展開もある、和製スリラーの新たな形を残す作品でした。
「ゲキメーション」+「バイオレンス」の見事な調和
作画した絵を切り取り、背景の上で動かしながら撮影する「ゲキメーション」と言う手法。
1976年のテレビアニメ「妖怪伝 猫目小僧」で用いられたこの手法は、宇治茶監督により2013年の『燃える仏像人間』(2013)で初めて長編映画で用いられることになります。
童話のような絵のタッチと、「ゲキメーション」による紙芝居のような感覚により、温厚で暖かな世界を思い浮かべてしまう序盤。
しかし、前述したように本作はサイコスリラーであり、血みどろ阿鼻叫喚の物語にシフトする中盤では「ゲキメーション」により「バイオレンス」さがより引き出され、「暴力性」への恐怖心を駆り立てられます。
本作は「紙芝居」の効果を確信犯的に利用しており、終盤の展開は「紙芝居」での鉄板とも言える「ある童話」を彷彿とさせます。
「物語の起伏」と「終盤の童話的展開」、2つの効果をもたらす「ゲキメーション」の技術がとにかく斬新です。
豪華声優陣の作り出す世界観
主人公のボビーの声を演じる悠木碧は2003年以降数多くのアニメ・ゲームへ出演するベテラン声優。
近年では『バンブルビー』(2019)や『スパイダーマン: スパイダーバース』(2019)など、洋画の吹替の場でも活躍し、演技の幅を広げています。
そんな悠木碧の周りを固めるのはお笑い芸人コンビサバンナの高橋茂雄やココリコの田中直樹。
どこか台本を読み上げているような印象を受ける2人の演技ですが、この作品が「紙芝居」をモチーフにしていると考えると合点がいきます。
感情が入っているようでどこか淡々としている演技。
市原悦子の語りで人気を集めた「まんが日本昔ばなし」のようなその演技によって、「ゲキメーション」の世界観に違和感なく声が溶け込んでいます。
特に田中直樹演じるジョージは寡黙ながら家族のことを第一に考える男としてとても格好良く、田中直樹の演技もその渋さを引き出すことに貢献。
「ゲキメーション」の世界観は、目で観る情報に重点を置いている映像手法ではありますが、声優による耳からの情報も同様に重要なものであることが分かります。
まとめ
平和なシーンを敢えて序盤に置くことで、中盤以降のショッキングな展開の心理的揺さぶりを倍増させる手法はホラー映画ではお決まりの手法です。
しかし、『バイオレンス・ボイジャー』ではその心理的揺さぶりを、「ゲキメーション」と言う独自の手法で成し遂げていました。
「サイコスリラー」としても「SF」としても楽しめる本作は間違いなく奇作であり、「バイオレンス」な作品が好きな方にはオススメの作品。
脳みそを揺さぶられるような鮮烈で過激な本作は5月24日より、シネ・リーブル池袋で上映開始。
大きなスクリーンで本作を楽しんでみてはいかがでしょうか。
次回の「SF恐怖映画という名の観覧車」は…
いかがでしたか。
次回のprofile047では、オディロン・ルドンの絵画より影響を受けた和製リベンジ・ノワール映画『キュクロプス』(2019)をご紹介させていただきます。
5月1日(水)の掲載をお楽しみに!