連載コラム「SF恐怖映画という名の観覧車」profile041
映画ではしばしば、映画の主軸となる「物語」よりも、「キャラクター」に人気が集まることがあります。
キャラクターデザインや行動理念などその理由は様々ですが、映画業界が人気となったキャラクターに目を付け次々と続編を製作する中、“あるジャンル”も急速に成長を遂げていきました。
今回は、「キャラクター」の魅力を限界までつぎ込んだ人気ジャンル「VS映画」について、「ホラー」と「SF」両ジャンルから検証を進めていきたいと思います。
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CONTENTS
恐怖の大盛全部乗せ「VS映画」ホラー編
「VS映画」は熱狂的なファンのいるジャンルの1つであるため、多くの作品が様々な製作会社によって世に放たれています。
しかし、権利的に怪しいキャラクターの利用であったり、CGや特撮技術が他作品より劣るなど、どちらかと言えば「B級」と言うイメージの強い作品が多いジャンルでもありました。
楽しみ方によってはそのB級感こそが最大の魅力となるのですが、ある大物映画が登場しこのジャンルが大きく変わっていく事になります。
『フレディVSジェイソン』(2003)
「13日の金曜日」シリーズに登場する殺人鬼ジェイソンと、「エルム街の悪夢」シリーズに登場する殺人鬼フレディがぶつかり合う衝撃の「VS映画」。
パラマウント社が「13日の金曜日」の製作権を、「エルム街の悪夢」シリーズを受け持つニューラインシネマ社に売却する形で権利関係をクリアした本作は、両シリーズのファンにとって歓喜の作品でした。
シリーズを通し殺人鬼フレディを演じてきたロバート・イングランドを起用するなどファン向けのサービスを大量に作品内に散りばめる一方で、ジェイソンの殺戮シーンや、2人の一騎打ちなどシリーズを未見の人にも楽しんでもらえるシーンが次々と登場。
30億円以上もの製作費がかけられた大作「VS映画」として公開され、その人気と完成度から、大作映画界での「VS映画」の火付け役として君臨することとなります。
『貞子vs伽椰子』(2016)
『フレディVSジェイソン』の衝撃から13年がたった2016年、日本で待望の邦画ホラー「VS映画」が誕生することになりました。
呪いのビデオを見た人間を呪い殺すことでお馴染みの「リング」シリーズの貞子と、家に足を踏み入れた人間を確実に呪い殺す「呪怨」シリーズの伽椰子。
『フレディVSジェイソン』と違い直接攻撃がメインではなく「呪い」で人を殺す2人が、まさかの直接対決を行うプロットで話題となった本作。
公開前までは安藤政信演じる常盤経蔵の「バケモノにはバケモノをぶつけんだよ」と言う「呪い」相手に斬新すぎる台詞も相成って、「おバカ映画」として別の意味での期待がされていた本作ですが、公開されるや否やその評価は覆ることになります。
「呪いのビデオ」と「呪いの家」、2つの「恐怖」が充分すぎるほど描かれ「おバカ映画」を期待した多くの鑑賞者を「恐怖」の渦に引きずり込みました。
「リング」シリーズと「呪怨」シリーズ、双方の良さを極限まで引き出した作品として、邦画界にホラー「VS映画」の楔を打ち込むことになりました。
絶妙なさじ加減が光る「VS映画」SF編
「VS映画」にはいくつかの決まり事が存在します。
その中でも特にファンが厳しく判断する重要な要素は、「2つのキャラクターの魅力を公平に描くこと」です。
しかし、それによって「共通の敵が現れ共闘する展開」と言うある意味テンプレート的な物語展開を強いられ、展開が先読みできてしまうことが足枷となり脚本製作を苦しめています。
ですが、王道的な展開ももちろん悪い物ではなく、双方のキャラクターを魅力的に描くことで王道展開に「熱さ」を感じることもまた確かです。
この項ではそんな脚本の匙加減が難しい「VS映画」の中で、見事な完成度を見せつけたSF「VS映画」をご紹介させていただきます。
『エイリアンVSプレデター』(2004)
SF「VS映画」として外すことが出来ない作品が、2004年に公開された『エイリアンVSプレデター』。
大作映画シリーズとして「SF」映画界を牽引する両作のクリーチャーが熾烈なバトルを繰り広げます。
本作の最大の魅力は、物語の中心はあくまでその地に足を踏み入れてしまった調査隊であり、サバイバルに焦点が当てられている部分です。
2つの作品に共通する「生き残りのための戦い」に主軸を置いた本作は、戦士としてのプレデターの格好良さや、人体の内部で成長するエイリアンの恐ろしさを最大限に取り込み、この1作を観るだけで両シリーズにハマること間違いなしの設計になっています。
両シリーズの本編にも密接に物語が繋がり、スピンオフではなくあくまで「本筋」。
SF「VS映画」の代表作として胸を張ってオススメできる作品です。
『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』(2016)
2019年4月26日(金)にシリーズの1つの区切りとなる『アベンジャーズ/エンドゲーム』(2019)が公開の大人気シリーズMCU(マーベル・シネマティック・ユニバース)。
そんなMCUの13作目として製作された『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』は「VS映画」の範疇であり、それでいて前述した王道展開を見事な形で利用した秀逸な作品でした。
MCUシリーズの顔として本国で高い人気を誇るアイアンマンと、決してブレない正義の心を持つ本作の主人公キャプテン・アメリカ。
友人でありながらも同じ方向を向けない2人の正義が、ある爆破テロ事件を巡り完全に対立することになります。
爆破テロ事件の真相、両者の戦いの着地点など、2人のキャラクターを一切ブラさず「正義」同士の潰しあいを描きながら、それでいて王道展開に乗り切らない卓越した脚本作り。
「スーパーヒーロー映画」が「子供向け」作品と侮っている人にこそ観て欲しい、大人から子供にまで人気があることが頷けるSF「VS映画」の大作です。
まとめ
「キングギドラ」や「モスラ」などが登場するハリウッド版「ゴジラ」最新作『ゴジラ キング・オブ・モンスターズ』(2019)の公開が迫り、「VS映画」への興奮が高まる近年。
来年には「キングコング」と「ゴジラ」が戦う『Godzilla vs. Kong』(2020)の公開も決まり、もう心穏やかではいられない人も多いと予想されます。
大好きなキャラクターが自作の垣根を越え、他作の人気キャラクターと戦うことが何故こんなにも嬉しいのでしょうか。
お祭り騒ぎが嬉しいのか、色々な人に自分の好きな作品を知ってもらえることが嬉しいのか、その理由は人によって違いますが、その映画の存在だけで元気を貰える不思議な映画ジャンルと言えます。
次回の「SF恐怖映画という名の観覧車」は…
いかがでしたか。
次回のprofile042では、新進気鋭の映画監督である楫野裕が世に放つ何もかもが異色の作品『阿吽』(2019)をご紹介させていただきます。
3月27日(水)の掲載をお楽しみに!
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