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Entry 2019/02/06
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実写映画『がっこうぐらし!』感想と考察。日本製ゾンビ映画が示す新たな方向性|SF恐怖映画という名の観覧車35

  • Writer :
  • 糸魚川悟

連載コラム「SF恐怖映画という名の観覧車」profile035

様々な作品の興行的、批評的失敗から、邦画に対する「実写化アレルギー」のようなものを持つ方もいるでしょう。

「アベンジャーズ」シリーズを代表するような潤沢な予算を使用した海外作品と違い、切り詰めた予算の中で作り出す邦画作品は確かに見劣りする部分もあるかもしれません。

しかし、大ヒットを記録した低予算映画『カメラを止めるな!』(2018)のように、「脚本」や「工夫」によって映画のクオリティを飛躍的に向上させ、名作と呼ばれるようになった「実写化」作品も多くあります。

今回は、大人気漫画の「実写化」と言う重荷を背負いながらも、原作に匹敵するほどの高クオリティな100分を見せつけた映画『がっこうぐらし!』を、原作の持つ変わった「コンセプト」に注目しながらご紹介して参ります。

【連載コラム】『SF恐怖映画という名の観覧車』記事一覧はこちら

映画『がっこうぐらし!』の作品情報


(C)2019「がっこうぐらし!」製作委員会

【公開】
2019年(日本映画)

【監督】
柴田一成

【キャスト】
阿部菜々実、長月翠、間島和奏、清原梨央、おのののか、金子大地

映画『がっこうぐらし!』のあらすじ


(C)2019「がっこうぐらし!」製作委員会

巡ヶ丘学院高等学校に通う女子高生のくるみ(阿部菜々実)には、想いを寄せる先輩がいるなど充実した高校生活を過ごしていました。

少し不思議なところのある同級生のゆき(長月翠)や、しっかり者のりーさん(間島和奏)もこの時間がいつまでも続くのだと思っていましたが……。

意外なコンセプトを正面から描くゾンビ映画


(C)2019「がっこうぐらし!」製作委員会

『がっこうぐらし!』の原作には、他の「ゾンビ」作品には無い独特の「コンセプト」がありました。

ゾンビが蔓延した世界を舞台に女子高生たちによる「学校」での「日常生活」にスポットをあてた新しいゾンビ作品の形を持ったこの作品は、2015年に連続アニメとして放映されます。

連続アニメ版では、第1話放送前までゾンビ作品であることが完全に秘匿し放送。

その結果、第1話終盤の日常生活が一瞬で崩れ去る演出が「ホラー」アニメとして高く評価され、話題にもなりました。

しかし、2018年に情報が解禁された映画版『がっこうぐらし!』では、ポスターで日常生」とゾンビが同居する物語であることが早々に明かされ、一部では批難の対象ともなります。

ですが、そんな逆風の中公開された映画版の作中では、意外なコンセプトを早々に明かすことで、アニメ版とはまた違った効果を生み出すことに成功していました。

再構成された脚本


(C)2019「がっこうぐらし!」製作委員会

漫画の実写化における関門は、前述した「映像技術」による再現性だけでなく矛盾の無い「脚本」作りにもあります。

原作は2019年現在、10巻以上にも及ぶ未完の作品であり、漫画の物語を完璧な再現度で描くのは不可能と言えます。

そのため、本作では原作の5巻までで描かれた「高校編」を再構成する形で物語が展開していくんですが、そこには様々なアイデアが使用され、単なる実写化を越えた作品になっていました。

コンセプトを明かした狙いは?


(C)2019「がっこうぐらし!」製作委員会

アニメ版の第1話のような「どんでん返し」は、上手な脚本を演出することで高い評価を受けやすい特徴があります。

しかし、そのためには「真相」の説明が丁寧に描かれる必要があり、物語の尺が大いに削られる危険性も含んでいます。

ですが、本作では予め「ゾンビ」映画であることを宣伝しておくことで、劇中におけるゾンビに関する説明や深い描写を減らすことに成功しています。

さらに原作をそのまま再現した際にどこか「漫画チック」に感じてしまう「ゾンビ化」の「理由付け」も物語から外れ、「日常生活」をクローズアップした作品へと昇華。

このように、「コンセプト」を先に明かす独特のプロモーションにより、映画内の「没入感」への増加を成功させていました。

映像に面白さを与えるコンセプト


(C)2019「がっこうぐらし!」製作委員会

本作が「観ていて楽しい作品」である理由は、やはり独特の「コンセプト」にあります。

原作の持つコンセプトを最大限に引き出す形で「再構成」した「脚本」もその魅力の内訳の1つですが、「映像」と言う視点でもコンセプトによる力を強く感じる作品でした。

制服+本格アクション


(C)2015 東映ビデオ

学生の「制服」姿でのアクションシーンは、その国独特の服装ということもあり、魅力の高い部分と言えます。

『GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊』(1995)などで有名な押井守が、清野菜名主演で製作した『東京無国籍少女』(2015)では、「女子高生」と言う設定の主人公が本格的な「殺陣」で派手な立ち回りをするシーンがアクション映画ファンに注目されました。

一方『がっこうぐらし!』では主人公の1人であり、身体能力の高いくるみがスコップを使いゾンビと戦うシーンが多くあります。

アクションシーンの殺陣のスピーディさやスコップ捌きの力強さが、アクション映画としても高いレベルであり、本作の映像的な面白さを後押ししています。

ゾンビ+学校生活


(C)2019「がっこうぐらし!」製作委員会

「荒廃した世界」での「日常生活」は「ゾンビ」作品の魅力の1つ。

ショッピングモールで暮らしたり、各地を移動しながら食料を集めたり、とそれこそ多くの作品でその日常生活が描かれてきました。

しかし、本作でメインとなるのは「学校生活」。

ゾンビが蔓延する中、「部活動」をしたり「授業」を受けたり、「文化祭」を開催したりと主人公たちにとっての「がっこうぐらし」を続けます。

「非日常」の中で「日常」を過ごす。

失ってしまったものを取り戻すかのように荒廃した世界で日常を過ごす彼女たちの光景が、映像を観ただけで「異質」で面白く感じます。

まとめ


(C)2019「がっこうぐらし!」製作委員会

「極道」+「ゾンビ」を描いた『Zアイランド』(2015)や、名実写化として名高い『アイアムアヒーロー』(2016)など、邦画でも多様なゾンビ映画が製作されてきました。

2019年1月25日(金)より全国ロードショーの映画『がっこうぐらし!』も間違いなくそんな日本製「ゾンビ」映画の歴史に残る名作。

実写化作品が苦手な人にもオススメしたい、新たなゾンビ映画の方向性を指し示す本作をぜひ劇場でご覧になってください。

次回の「SF恐怖映画という名の観覧車」は…

いかがでしたか。


Netflix映画『ベルベット・バズソー: 血塗られたギャラリー』

次回のprofile036では、名優ジェイク・ギレンホールが主演を務めるNetflixホラー映画『ベルベット・バズソー: 血塗られたギャラリー』の魅力とあらすじ、そして注目点を詳しくご紹介していきます。

2月13日(水)の掲載をお楽しみに!

【連載コラム】『SF恐怖映画という名の観覧車』記事一覧はこちら

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