連載コラム「SF恐怖映画という名の観覧車」profile016
SFが描く未来の世界には様々な種類の未来があります。
私たちが理想とする素晴らしい世界がある一方で、決しておとずれて欲しくはない恐ろしい未来もあります。
今回は、そんな数ある未来を描いた映画の中でも、“監視社会”を描いた2作品と、それに近づきつつある現実をご紹介していきます。
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『スキャナー・ダークリー』(2006)
2006年にキアヌ・リーヴス主演で公開された『スキャナー・ダークリー』。
『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』など、数多くのSF小説を世にはなったフィリップ・K・ディックの『暗闇のスキャナー』を映像化した作品であり、独特なアニメーションによる表現が麻薬により自己を見失っていく主人公の様子を見事に表現しています。
“自分”を監視する“自分”
個人の保護のため、職場にすら自身の正体を明かさず任務に就く麻薬の潜入捜査官の主人公が、売人だと疑われた自分自身の監視を命じられます。
潜入捜査の過程で薬物に溺れ始めた事と、監視対象となった“自分自身の監視”を繰り返すうちに“本当の自分”を見失う物語がメインとなり、狂気と一筋の希望が物語としても強烈に頭に残ります。
キアヌ・リーヴス本人が海外の掲示板に登場した際にこの作品を勧めるなど、ロバート・ダウニー・Jrのつかみどころのない演技も合わせ評価が高いことを納得できる1作で、興味のある人にはぜひ見て欲しいとすら言えます。
“監視社会”がもたらす弊害とは
今作では、“監視対象”となった人物にはプライバシーは存在せず、家の中に至るまでプライベートなありとあらゆる部分を監視されています。
一方で、現実では犯罪捜査の場においても家の中までを監視することはありませんが、“監視カメラ”の普及により、犯罪捜査以外でも様々な場所が監視されています。
街中や店内に設置される監視カメラは、犯罪捜査や犯罪に対する抑止力として日々活躍しています。
しかし、社内や店内に設置した監視カメラで、社員の勤務状況を監視するなど犯罪とは違った部分での監視が増えてきているのも事実です。
社内に設置された監視カメラで、不正や過度な職務怠慢を指導することは正常な使い道とすら言えますが、必ずしも“監視している人間”が正しいとは言えないのが世の常です。
高度な“監視社会”は使う人間の暴走で、良い方にも悪い方にも転んでしまう危うさを抱えていると言えるでしょう。
『PSYCHO-PASS サイコパス』Next Project(2019)
「踊る大捜査線」シリーズで有名な本広克行監督とアニメ「魔法少女まどか☆マギカ」の虚淵玄がタッグを組み製作されたアニメ「PSYCHO-PASS」。
1度の映画化を経験し、来年には3部作の映画化が予定されるなど、根強い人気を持つこのシリーズでは、“完全監視”により成し遂げた理想の社会が描かれています。
“犯罪係数”が左右する人生
あらゆる生体反応からその人の精神状態を解析し、“犯罪者になる危険性”を数値化した“犯罪係数”。
今作の中ではこの“犯罪係数”が何よりも重要になり、この値が一定の基準を上回った人間は、仮に罪を犯していなくても“強制収容”もしくは“即時射殺”となります。
この部分だけを見ると非常に恐ろしい社会であるように思えますが、犯罪係数が低い人間にとっては、数値化したあらゆる自己の情報から自分に合った人生をシステムが紹介してくれる素晴らしい社会のようにも描かれています。
自身が決める人生ではなく、システムが決める自身の人生。
恐るべき犯罪者との戦いと、そのシステムの裏側を巡った陰謀を楽しめるアニメシリーズです。
犯罪を事前検知する社会
作中では、犯罪係数を測定するために、監視カメラ等を通しスキャンすることで犯罪者となり得る存在を事前に検知しているのですが、現実でもその世界はかなり近づいています。
ロシアで開発された監視カメラ「DEFENDER-X」には、カメラに映った人物の行動を解析し、その人物の危険度を自動で検知する機能が内蔵されています。
大規模なイベント会場など、様々な場所で導入が決定されているこのカメラのように、“犯罪を未然に防ぐ”と言う、犯罪被害に合う人を減らす様々なシステムは既に現実のものになりつつあり、“監視社会”が人々に幸福を与えてくれるのか、が問われる時期になってきています。
次回の「SF恐怖映画という名の観覧車」は…
いかがでしたか。
今回のコラムでは現実に近づきつつある、人々のテクノロジーについて少しだけ触れましたが、次回のprofile017では、今回のコラムとは真逆とも言える、人間の底力と宇宙人の文明とのド派手なぶつかり合いを描いた最新映画『スカイライン 奪還』(2018)を詳しくご紹介していきたいと思います。
10月3日(水)の掲載をお楽しみに!