連載コラム「SF恐怖映画という名の観覧車」profile124
呪いによって怪異が発生し、お祓いによって怪異から救われる。
かつてより「ホラー」と言うジャンルと「宗教」は密接なものにありました。
それゆえに宗教の知識はホラー映画を鑑賞する上でこの上ないスパイスであり、歴史の勉強にも繋がることになります。
今回は「シッチェス映画祭 ファンタスティック・セレクション2020開催記念特集」第3弾として歴史的事実とホラーを組み合わせた異色の映画『ザ・ヴィジル 夜伽』(2020)の魅力をご紹介させていただきます。
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CONTENTS
映画『ザ・ヴィジル 夜伽』の作品情報
【原題】
The Vigil
【公開】
2020年(アメリカ映画)
【監督】
キース・トーマス
【キャスト】
デイブ・デイビス、メナッシュ・ラスティグ、マルキー・ゴールドマン、フレッド・メラメッド、リン・コーエン
『ザ・ヴィジル 夜伽』のあらすじ
かつては熱心な宗教家だったものの、ニューヨークの暮らしに馴染み宗教観を失った青年ヤコブ(デイブ・デイビス)。
ある日、就労しておらず家賃の支払いにすら困窮するヤコブはユダヤ教の「超正統派」に所属するレブ(メナッシュ・ラスティグ)から、死者の傍らで夜間を過ごす「夜伽」の付添人になって欲しいと依頼されます。
レブから高額な報酬を提示されたヤコブはお金目的でその依頼を引き受けますが、やがて「夜伽」の最中に様々な異変が起き始め…。
ユダヤ教とユダヤ人の歴史
キース・トーマス監督による長編映画初監督作品である本作『ザ・ヴィジル 夜伽』は、「ユダヤ教」の知識が重要となるオカルトホラーの要素が強い作品です。
もちろん本作は宗教や歴史の知識がなくとも問題なく楽しめる作品であり、作品内でも特に重要になる言葉にはしっかりと説明がありますが、中には詳しくは説明されない要素も存在します。
「ユダヤ教」とユダヤ教を信仰する家族の元に生まれた「ユダヤ人」が恐れるものや、ユダヤ人がユダヤ人と言うだけで受けることになってしまったあまりにも厳しい仕打ち。
次項では、映画内に本作を鑑賞する上で最低限頭に入れて起きたい2つの事柄を説明させていただきます。
「ホロコースト」
第2次世界大戦下、ナチス党が率いたナチス・ドイツは反ユダヤ主義が国策となり「ヨーロッパにおけるユダヤ人問題の最終的解決」と称したユダヤ人の虐殺が始まります。
収容所における過剰労働による過労死やガスや人体実験での直接的な殺害など国家を挙げての殺戮が繰り返され、ナチス・ドイツが崩壊しユダヤ人が解放されるまでのおよそ10年間で推定600万人以上が殺害されることとなります。
この惨劇は「ホロコースト」と呼ばれ、人類の業として避けて通ることの出来ない歴史知識であり、映画を多く鑑賞する人は間違いなく知っているはずです。
「ホロコースト」では想像を絶する残虐な殺戮が起き、中にはユダヤ人にユダヤ人を殺害させると言う非人道的な殺害方法も存在しました。
ユダヤ教において「悪霊」とされる存在「マジキム」。
映画『ザ・ヴィジル 夜伽』には悪霊「マジキム」に憑りつかれた人間が登場します。
彼はなぜ「マジキム」に憑りつかれてしまったのか、そこには「ホロコースト」の存在が関わり、ユダヤ人の中では終わることのない悪夢であることを痛感させられます。
悪夢と現実が入り乱れる正統派ホラー
翌朝まで遺体の近くで添い遂げる「夜伽」を最中に、ヤコブの周りで不自然なことが多く発生していきます。
それらの怪異は現実と大きく乖離しており、ヤコブ自身それが現実ではないと確信していきます。
どこまでが現実に起こっていることで、どこからがヤコブの見ている悪夢なのか。
驚かされる演出とじわじわと恐怖が蝕む感覚の両方を楽しむことが出来ます。
古臭さを感じさせない工夫
「呪い」によって主人公の周囲で怪異が発生すると言う「オカルトホラー」の歴史は長く、時に古臭さを感じてしまうこともあります。
本作は今や利用していない人はいないほどの世界普及率を誇る「スマートフォン」を巧みに作品に取り入れることで、古臭さを感じない恐怖を生み出しています。
声のみの繋がりを容易に作り出すことの出来る「電話」が進化し、今では映像での通話が一般的になっています。
現代的な「スマートフォン」と「宗教ホラー」、一見噛み合わせの悪い2つの要素が見事にマッチしている恐怖シーンは必見です。
複雑に絡み合う過去の罪と待ち受ける罰
金銭目的で夜伽の依頼を引き受けることとなったヤコブは、夜の間故人を見守らなければいけない夜伽の最中に居眠りや知人とメッセージでやり取りをするなど真面目に取り組もうとしません。
しかし、怪異に襲われ神経をすり減らすうちに故人の過去だけでなく、自分自身が過去に犯した「罪」にも向き合っていくことになります。
消せない過去の記憶と待ち受ける罰、全てを受け入れたときヤコブの心はどう変わっていくのか。
「オカルトホラー」と言うジャンルであり、決して忘れることの出来ない「ホロコースト」を題材にしながらも、夜が明けたときの爽やかさを感じることの出来る鑑賞後感がオススメの作品です。
まとめ
ヤコブにとって人生感の変わる一夜の物語を描いたオカルトホラー映画『ザ・ヴィジル 夜伽』。
本作は「シッチェス映画祭 ファンタスティック・セレクション2020」において劇場で公開予定。
「シッチェス映画祭 ファンタスティック・セレクション2020」はヒューマントラストシネマ渋谷、シネ・リーブル梅田、シネマスコーレ(名古屋)の3劇場で開催予定。
日程をご確認の上、ぜひ会場に足を運んでみてください。
次回の「SF恐怖映画という名の観覧車」は…
いかがでしたか。
次回のprofile125では、引き続き「シッチェス映画祭 ファンタスティック・セレクション2020開催記念特集」として、夫婦が殺人鬼や狂犬に襲われ殺されるタイムリープに巻き込まれてしまう様子を描いたSFホラー映画『ココディ・ココダ』(2020)をご紹介させていただきます。
10月21日(水)の掲載をお楽しみに!