連載コラム「SF恐怖映画という名の観覧車」profile006
「猛暑」と言う言葉が今までの夏よりも似合う、高い温度が続く夏となりました。
前回のprofile005で、「夏に観たいジャンルはホラー」と書かせていただきましたが、他にも「夏に観たい映画」として人気を集める作品は多く存在します。
今回は、「夏に観たい映画」として多くの支持を受ける、7月20日に『金曜ロードSHOW!』で放映予定の名作アニメ『時をかける少女』(2006)から、邦画における「夏」と「SF」の親和性について語っていきたいと思います。
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CONTENTS
細田守と『時をかける少女』
大林宣彦監督『時をかける少女』(1983)
『時をかける少女』
もともと、『時をかける少女』は様々な名作を抱える小説家、筒井康隆による1967年に掲載された短編小説です。
この作品は1983年の原田知世による実写化映画の大ヒットを経て、幾度となく映画化やドラマ化がされるようになりました。
そして2006年、『劇場版デジモンアドベンチャー ぼくらのウォーゲーム!』(2000年)で話題を集めていた細田守監督によって、同原作を題材としたアニメ版『時をかける少女』が公開されます。
すると、公開時は少館上映だったこの作品が、口コミによりどんどんと公開館と高評価を増やし、日本のみならず世界でも一躍有名な作品となりました。
『時をかける少女』は、言わば細田守監督にとっての出世作とも言える作品なのですが、今作で特徴的なのはやはり、入道雲を始めとした「夏」らしい季節感と、同じ時間を繰り返す「タイムリープ」による物語です。
邦画における「夏」と「SF」の親和性
前回までのコラムでは、「スペースオペラ」や「モンスターパニック」など、海外の潤沢な予算で製作された壮大なスケールの「SF」を紹介させていただきましたが、邦画も「SF」と言うジャンルでは海外の映画に負けない独特な雰囲気を作り出しています。
細田守監督の『時をかける少女』では、使用することで時間が巻き戻る、と言う「SF」的な装置を中心に物語が進みます。
しかし、劇中で描かれるのは「世界の終わり」でも「文明の破壊」でもなく、「1人の少女のひと夏の出来事」です。
そこには劇的な戦いも無ければ、高度な心理戦も無いのですが、少女が大好きなプリンを食べるため何回も時間を巻き戻したり、とどこかくだらなくも共感してしまうような物語が展開されます。
学生時代の1年の一番の楽しみとすら言える長期休暇、夏休み。その「青春」の舞台装置と、特殊な世界観の「SF」を組み合わせることによって、馴染みが無い「SF」的な要素を入れつつもどこかノスタルジックな印象を持たせることが出来ています。
この感覚は邦画ならではのもので、だからこそ「夏に観たい映画」として今作が支持されているのだと思います。
邦画における「夏」と「SF」
今回は「夏」と「SF」の親和性を説明させていただいた上で、夏にオススメの邦画SF作品をいくつかご紹介させていただきます。
『サマーウォーズ』(2009)
細田守監督が『時をかける少女』の次作として制作したSFアニメ。
「夏と言えばこれ!」との声を良く聞くほど圧倒的な支持を受けるこの作品。
夏の田舎の風景と、インターネット上の仮想世界での騒動を交互に描き、今より進んだ社会でも、現実世界の風景はあまり変わらないだろう、とどこか納得させられる世界観を持っています。
インターネットに頼りすぎた現代に警鐘を鳴らす物語と合わせ、毎年、この夏が訪れるたびに観たくなる作品です。
『打ち上げ花火、下から見るか? 横から見るか?』(2017)
2017年に米津玄師が主題歌「打上花火」を制作し話題となったアニメ映画『打ち上げ花火、下から見るか? 横から見るか?』(2017)。
『スワロウテイル』(1996)や『リップヴァンウィンクルの花嫁』(2016)など、長いスパンで活躍し続ける岩井俊二監督が1993年に制作したドラマをアニメリメイクした作品なのですが、この作品も「夏」と「異質な世界観」が上手く融合したノスタルジックさを感じさせてくれます。
昨年のアニメ版では最新技術と確かな技術を持つ制作会社によって描かれる映像美が印象的で、1995年に劇場公開されたドラマの総編集作品は当時の独特な撮影方法も相まって、より雰囲気を楽しめます。
「打ち上げ花火、下から見るか? 横から見るか?」は、アニメが苦手、実写が苦手、どちらの人にもオススメしたい夏作品です。
『ジュブナイル』(2000)
『ALWAYS 三丁目の夕日』(2005年)や『永遠の0』(2013年)で知られる山崎貴の初監督作。
「テトラ」と言う高性能なロボットと小学生4人が出会う夏休み、やがてその出会いが未知の生物との戦いに繋がっていく本作。
終盤は「日常」とはかけ離れた壮大な物語となりますが、「秘密基地」や「冒険」が詰まっていて、小学生のころ夢見た大人に内緒の冒険が蘇る作品です。
『サマータイムマシン・ブルース』(2005)
幾度かの講演で大人気だった同名舞台を「踊る大捜査線」シリーズの本広克行が映画化した、高い評価を受ける作品。
大学生特有の軽いノリ、銭湯や小劇場などの下町、そして恋物語とタイムマシンでのタイムリープが合わさりどんどんとカオスな展開になっていくのですが、今作の見どころは何と言ってもその脚本。
中盤までに幾度となく起きる違和感を覚えるシーンが、終盤に次々と回収されていく巧みな脚本が魅力的で、毎年観ても飽きない夏映画の1つです。
次回の「SF恐怖映画という名の観覧車」は…
いかがでしたか。
次回のprofile007では、『ザ・プレデター』や、『ザ・ハロウィン』などから名作が時代の垣根を越えて製作される背景や、リメイクや続編であるその作品たちの楽しみ方について語っていこうと思います。
7月25日(水)の掲載をお楽しみに!