サスペンスの神様の鼓動16
こんにちは、映画ライターの金田まこちゃです。
このコラムでは、毎回サスペンス映画を1本取り上げて、作品の面白さや手法について考察していきます。
今回取り上げる作品は、2019年4月12日(金)より全国公開される、5つの掟を守りながら生活する4人兄妹が、屋敷に潜む恐怖に直面するサスペンススリラー『マローボーン家の掟』です。
本作は、『ジュラシック・ワールド/炎の王国』の監督で知られるJ・A・バヨナが、脚本の完成度に惚れ込み、初めて製作総指揮を務めた事でも注目されています。
CONTENTS
映画『マローボーン家の掟』のあらすじ
1960年代のアメリカ。
田舎にある屋敷に母親と共に引っ越してきた4人兄妹、長男のジャックと長女のジェーン、次男のビリーと末っ子のサム。
4人兄妹は母親の姓であるマローボーンと苗字を変え、田舎に住む少女アリーと仲良くなり、新たな生活を送ろうとしていました。
しかし、母親が突然病に倒れてしまいます。
ジャックは母親から「どんな時も皆を守る事」「ジャックが成人するまで、屋敷を出ない事」を遺言として伝えられ、母親はこの世を去ります。
6ヶ月後、4人兄妹は人目を避けるように屋敷で生活しており、ジャックは「5つの掟」を兄妹と自分に厳守させて生活していました。
ですが、屋敷は母親から正式に相続がされておらず、弁護士のポーターから相続の手続きとして母親ローズの署名と、高額な手数料を要求されます。
4人兄妹は母親が死亡した事を隠し、残り少ないお金で生活をしていた為、高額な手数料を準備する事は出来ません。
ジャックは「5つの掟」の一つ「血で汚された箱に触れてはならない」という掟を破り、箱の中に隠してある大金に手をつけます。
屋敷は無事に相続されましたが、ポーターから、母親の死を隠し通さなければならない、危険な状況となります。
また、ポーターも、都会の弁護士事務所に所属する為、現金を必要としていました。
そして、血で汚された箱に手を付けた日から、屋敷内で何者かが動き始めるようになります。
屋敷内に潜む者の正体は?そして、兄妹が隠す過去とは何なのでしょうか?
ジャックは母との約束を守り、兄妹たちを守り通す事ができるんでしょうか?
サスペンスを構築する要素①「守らなければならない『5つの掟』」
本作の物語の核は、「マローボーン家の5つの掟」と、それに伴う秘密となっています。
長男のジャックが、兄妹全員が生き残る為に定めた、5つの掟は以下となります。
⑴大人になるまで、屋敷を離れない事
⑵鏡を覗かない事
⑶屋根裏部屋に近づかない事
⑷血で汚された箱に触れない事
⑸怪物に見つかったら、砦に避難する事
全ては「大人になるまで、屋敷を離れない事」という、母親の遺言でもある第1の掟を守る為に作られた約束事です。
中には「鏡を覗かない事」「屋根裏部屋に近づかない事」など、不可解な掟も存在します。
しかし、これら全てには意味があり、兄弟たちが屋敷内で安全に暮らすには不可欠なのです。
1つ1つの掟の意味が理解できた時、作中に隠された驚愕の事実を知る事になります。
サスペンスを構築する要素②「マローボーン家の隠された過去」
本作のもう1つの謎は、母親と兄妹が「何故、屋敷に引っ越して来たのか?」という部分にもあります。
作中前半で、兄妹の父親に何か問題があった事は分かりますが、与えられる情報は「控えめに言って酷い父親だった」「化物のような人間だった」という、漠然とした情報です。
母親と兄妹は父親から逃げてきた事は明白ですが、この父親の存在が「マローボーン家の5つの掟」に関わってきます。
父親の存在が、どの掟に関わっているのか?
これも物語の全容を紐解く、重要な要素となってきます。
サスペンスを構築する要素③「屋敷に隠された秘密」
本作で恐怖を煽るポイントとして、屋敷内に突如現れた「怪物の存在」があります。
この怪物の詳細に関して、不明な点が多く、怪物は、掟の1つである「血で汚された箱に触れない事」を破った為に現れ、屋敷内の鏡に被せてある布が取れると出現するようです。
怪物から身を守る為に、兄妹たちは屋敷内に作られた、砦に隠れる必要があります。
この怪物は一体何なのでしょうか?
そして兄妹たちは、怪物出現の条件をどのように理解し、身を守る為の砦を作り出したのでしょうか?
一見すると不可解な要素しかありませんが、兄妹の友人で、ジャックの恋人でもあるアリーの視点から描かれる後半部分で、全ては解き明かされていきます。
映画『マローボーン家の掟』まとめ
「5つの掟」「屋敷内の怪物」「マローボーン家の過去」など数々の謎を含んだ本作、ホラー要素の強いサスペンス映画と言う印象を受けますが、実はファンタジー要素の強い青春ドラマでもあります。
本作のメインとなる4人兄妹は、それぞれキャラクターが違い、それぞれが子供から大人に変わる繊細な時期に特有の悩みを抱えています。
長男のジャックは、母親から兄妹を守る事を義務付けられ、厳格な掟を作ります。
外部と関わる事もジャックの担当で、弁護士のポーターと交渉する際も、話を対等に進める為に、自身を大人に見せようと振る舞うなど、未知の部分だった大人の世界に足を踏み込む、10代後半特有の不安を抱えています。
兄弟の中で、一番エネルギーに溢れパワフルな次男のビリーは、屋敷に閉じ込められ、外に出れない事に鬱憤を溜め込んでおり、長女のジェーンは優しかった母親の代わりに、母性で兄弟を包み込もうとします。
そして、そんな兄妹に可愛がられている末っ子のサム。
監督のセルヒオ・G・サンチェスは、メインとなる兄妹4人のキャスティングに「作品の成功が賭かっている」と感じ、労力を費やした事を明かしています。
そんな兄妹達に接触する、唯一の部外者であるアリー。
観客はアリーの視点を持って、隠されたマローボーン家の過去、掟の秘密などを知っていく事になりますが、兄妹達にとって、アリーの存在が、これまで作り上げてきた全てを破壊する事になるのです。
最終的に明かされる兄妹達の秘密を知った後で、もう1度映画を見直すと、切なすぎて涙なしでは見られない作品へと変わっていました。
描かれている内容は、10代後半の繊細な時期特有の、家族の存在に対する悩みと、社会との関り方であり、誰もが1度は経験した「漠然とした不安」です。
共感できる部分は多いのではないでしょうか?
さまざまな要素を詰め込み、見事な構成で作り上げた映画『マローボーン家の掟』は、1つのジャンルでは分類できない、不思議な作品となっています。
次回のサスペンスの神様の鼓動は…
2019年5月3日公開の、14年間投獄された男の復讐劇を描く『キュクロプス』を、ご紹介します。