こんにちは、映画ライターの金田まこちゃです。
このコラムでは、毎回サスペンス映画を1本取り上げて、作品の面白さや手法について考察していきます。
今回取り上げる作品は、2019年3月8日から公開となる、女性の失踪事件を軸に、さまざまな秘密や嫉妬が入り乱れるサスペンス『シンプル・フェイバー』です。
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映画『シンプル・フェイバー』のあらすじ
ニューヨークに住む、純粋で天真爛漫な女性、ステファニー。
彼女は夫を事故で亡くし、残された息子のマイルズを、1人で育てるシングルマザーです。
夫の保険金で生活しているステファニーは、料理ブログを配信しており、自身のフォロワーに、親友のエミリーが行方不明である事と、そこに至るまでの経緯について話はじめます。
ステファニーとエミリーが親しくなったのは、子供がキッカケでした。
マイルズが通う小学校のイベントに参加したステファニーは、イベント終了後も、マイルズが仲良くなったエミリーの子供、ニッキーと遊びたがり離れようとしません。
困り果てたステファニー。
そこへ、エミリーがニッキーを迎えに学校へ姿を現します。
遊びたがる2人を一緒にいさせる為に、エミリーはステファニーを自宅へ招待します。
まるで、別世界で生きているような雰囲気を醸し出すエミリーに、ステファニーは萎縮しますが、自宅でお酒を飲み打ち解け始めます。
そこへ、エミリーの夫で作家のショーンが帰宅します。
ショーンは、過去にベストセラーを出版していますが、現在は作品を書いておらず、エミリーの世話になっていました。
立派な屋敷に住んでいるエミリー夫妻ですが、エミリーから生活が苦しく、実は破産寸前である事を、ステファニーは聞かされます。
ステファニーはエミリーの力になる為に、ニッキーを預かって、エミリーとショーンが仕事に集中できるように、協力する事を申し出ます。
ステファニーとエミリーの距離は縮まっていき、お互いの闇の部分をさらけ出すようになっていきます。
ステファニーはエミリーを信用し、親友と呼ぶようになっていました。
ある日、ステファニーはエミリーから連絡を受け、出張に行くエミリーの代わりに、ニッキーを預かるように頼まれます。
快く引き受けたステファニーですが、数日経過してもエミリーが帰って来る様子は無く、連絡も途切れてしまいます。
心配したステファニーは、母親の介護の為にロンドンにいたショーンへ連絡、2人でエミリーの捜索を開始します。
ステファニーは、エミリーが働いていた、ファッションブランドのオフィスを訪ねますが、誰も何も知らないどころか、興味を示そうともしません。
ステファニーは、自身の料理ブログでエミリーの情報を呼びかけます。
すると、フォロワーから「ミシガン州でエミリーを目撃した」という情報が入ります。
ステファニーは、ショーンと共に目撃情報のあった場所へ向かいますが、そこで目にしたのは…。
サスペンス構築の要素①「失踪したエミリーの秘密」
『シンプル・フェイバー』のストーリーの主軸は、「何故エミリーが失踪したのか?」です。
ステファニーは、エミリーの事を親友と呼んでいますが、実は何も知りません。
エミリーの事を心配するステファニーは、独自に捜査を開始し、エミリーの過去を探って行きます。
そして、一流ファッション・ブランドの広報という、華やかな職に就くエミリーからは、かけ離れた秘密を知る事になります。
作品の序盤では、エミリーが汚い言葉を連発したり、写真を撮られる事を異常に嫌がったりと、後半に繋がる伏線が張られています。
失踪した人間を探す展開が、物語の主軸となるサスペンスでは、失踪者の秘密や裏の顔が、徐々に暴かれていく点が見どころとなり、そのギャップが大きいほど、観客が受ける衝撃も大きくなります。
そして、秘密や裏の顔が暴かれるほど、観客の結末への期待も大きくなり「如何に観客を裏切りながら満足させるか?」が、制作側の腕の見せどころとなります。
『シンプル・フェイバー』には、クライマックスに向けて、ある仕掛けがされており、一筋縄ではいかない作品となっています。
サスペンス構築の要素②「2人の対極的な女性の物語」
『シンプル・フェイバー』に登場するメインキャラクターは、2人の女性となります。
天真爛漫で純粋な性格から、時に街の人から失笑されるステファニーと、野心家のキャリアウーマンで、その威圧感から街の人を寄せ付けないエミリー。
専業主婦のステファニーと、キャリアウーマンのエミリーでは、2人の立ち位置も違い対極の存在と言えます。
ステファニーはエミリーの強さに憧れ、エミリーはステファニーの家庭的な面に劣等感を抱きます。
しかし、女性は「家庭的で優しい女性」か「社会で生き抜く強い女性」の2つしか無いのでしょうか?
2つの内の、どちらかを強要されているのではないでしょうか?
本作の脚本家、ジェシカ・シャーザーは、原作の小説『ささやかな頼み』から、女性の内面を強調しながら脚色しています。
女性の持つ、外には見せない複雑でややこしい、男性からすると怖いと感じる女性の内面が、本作の鍵となっています。
サスペンス構築の要素③「誰も信用できないクライマックス」
本作は、物語の中心に、常にステファニーが置かれており、ステファニーの目線を通して、物語が進行します。
ですが、当初は純粋で天真爛漫な印象だったステファニーが、エミリーの過去を追いかける内に、大胆で切れ者の一面や、強い性格の一面など、さまざまな顔を見せるようになります。
次第に観客は、常に物語の中心にいたはずの、ステファニーの人物像が分からなくなり、信用できなくなっていきます。
ステファニーが交通事故で亡くなった、夫の保険金で生活しているという設定が、信用できないという要素に拍車をかけてきます。
さらに本作では、ステファニーの周囲で起きている事を、全部観客に語っている訳ではありません。
この仕掛により、クライマックスでは「誰が何を知っていて、誰と共闘関係にあるのか?」が、観客に何も語られず、誰一人として信用できない展開が繰り広げられます。
映画『シンプル・フェイバー』まとめ
本作品『シンプル・フェイバー』は、人間の嫉妬や裏切りなどを描いている作品ですが、全体的にはカラフルな映像となっており、コメディのような印象を持つ作品となっています。
劇中で起きている事は、別世界の犯罪組織で起きた話ではなく、ごく普通の人による、日常の延長線で起きている出来事です。
だからこそ、この作品の監督ポール・フェイグは、生々しい映像にする事をあえて避け、コメディ色の強い映像にしていますが、何か悪い冗談をずっと見せられているようで、おかしさから来る恐怖を感じました。
失踪した女性を探すサスペンスと言えば、近年では2014年に公開された『ゴーン・ガール』を連想する人もいるでしょう。
ですが『ゴーン・ガール』は男の目線で、女を甘く見た男の悲劇が描かれています。
対して『シンプル・フェイバー』は、女性脚本家のジェシカ・シャーザーが脚色し、女性主演のコメディを多く手がけているポール・フェイグ監督が、女性目線で描いたサスペンスです。
同じ失踪をテーマにしたサスペンスでも、話の中心にいる人物の性別が変わると、描かれ方が変わるという事を、見比べても面白いかもしれません。
次回のサスペンスの神様の鼓動は…
推理オタクの青年と、伝説と呼ばれた刑事。
対象的な2人が、未解決事件に挑むシリーズ第2弾『探偵なふたり リターンズ』をご紹介します。