Cinemarche

映画感想レビュー&考察サイト

連載コラム

Entry 2022/05/07
Update

映画『エリザベス 女王陛下の微笑み』あらすじ感想と解説評価。ドキュメンタリーでクイーンの素顔と在位70年の軌跡を観る|映画という星空を知るひとよ99

  • Writer :
  • 星野しげみ

連載コラム『映画という星空を知るひとよ』第99回

「世界で最も有名な女性」と呼ばれるエリザベス女王殿下。2022年4月で女王は96歳となられました。

映画『エリザベス 女王陛下の微笑み』は、25歳の若さで即位し公務を行う現在までにエリザベス女王が出会ったさまざまな場面をとらえた長編ドキュメンタリーです。

監督は、『ノッティングヒルの恋人』(1999)などで知られるロジャー・ミッシェル。 

「既視感のある、ありきたりな王室ドキュメンタリー」ではなく、むしろ「機知の富んだイタズラ心とサプライズがあるものを作りたい」という思いで取り組んだ本作は、エリザベス女王の在位70周年となる祝福の年に公開となります。

映画『エリザベス 女王陛下の微笑み』は2022年6月17日(金)、TOHOシネマズ シャンテ、Bunkamuraル・シネマほか全国公開です。

【連載コラム】『映画という星空を知るひとよ』一覧はこちら

映画『エリザベス 女王陛下の微笑み』の作品情報


(C)Elizabeth Productions Limited 2021

【日本公開】
2022年(イギリス映画)

【原題】
Elizabeth: A Portrait in Part(s)

【監督】
ロジャー・ミッシェル

【製作】
ケヴィン・ローダー

【音楽】
ジョージ・フェントン

【出演】
エリザベス2世、フィリップ王配、チャールズ皇太子、ウィリアム王子、ジョージ王子、ダイアナ元妃、ザ・ビートルズ、ダニエル・クレイグ、マリリン・モンロー、ウィンストン・チャーチル ほか

【作品概要】
2022年で在位70周年となる英国君主エリザベス2世の初となる長編ドキュメンタリー。

2021年9月に急逝した『ノッティングヒルの恋人』(1999)などで知られるロジャー・ミッシェル監督が手がけました。

本作では、1930年代から2020年代までのアーカイブ映像からエリザベス2世の足跡をたどり、これまでにあまり見られることのなかった女王の素顔に迫ります。

王族はもちろんのこと、ザ・ビートルズ、エルトン・ジョン、ダニエル・クレイグ、マリリン・モンローといったスターのほか、歴代政治家やセレブなど、そうそうたる人物の登場にも注目したい作品。

映画『エリザベス 女王陛下の微笑み』のあらすじ


(C)Elizabeth Productions Limited 2021

「王冠は重いわよ」と言う25歳の若さで即位した麗しき姿から、にこやかに公務を行う現在まで。

戴冠式での緊張した姿や凛々しい乗馬姿、レースに熱狂する笑顔のエリザベス女王なども交え、生誕95年そして在位70周年のエリザベス2世を祝う、豪華でスキャンダラスなロイヤルファミリーの知られざる軌跡を追います。

英国のみならず、日本をはじめ世界中から注目される王室の中心にあるエリザベス2世は、2022年4月に96歳の誕生日を迎えられました。

女王でありながら一人の女性として存在感を発揮するその瞬間をさまざまなカットが捉えます。

これまでのテレビや報道映像では見られなかった“素顔のエリザベス女王”。その魅力が、次々とスクリーンに登場します。

映画『エリザベス 女王陛下の微笑み』の感想と評価


(C)Elizabeth Productions Limited 2021

エリザベス女王の軌跡

エリザベス2世が、一国の女王になったのは奇遇なものでした。

在位70周年を迎えるエリザベス女王陛下ですが、彼女の父親は当時の英国国王の次男。普通なら、皇位継承とはいきません。

ですが、父の兄エドワード8世が国王となって1年足らずで退位。かわってエリザベス2世の父・ジョージ6世が王になり、彼女は王位継承者となりました。

その後、1952年に父ジョージ6世が逝去となり、エリザベス2世が25歳で即位しました。

戴冠式は1953年6月2日に行われ、以来半世紀を超えるエリザベス女王の公務が始まります。

2015年9月には、高祖母ビクトリア女王(1819~1901)の約63年7カ月の最長在位記録も更新しました。

本作では、女優のような神々しい美貌の映像も交え、日々精力的に公務に勤しむ毎日から、母らしい姿を切り取った日常と女王の素顔が映し出されます。

国とロイヤルファミリーを支える微笑み


(C)Elizabeth Productions Limited 2021

一国の国王でありながらもロイヤルファミリーの中心的存在のエリザベス陛下。

彼女は、即位前に結婚し、チャールズ皇太子、続いてアン王女を出産。10年以上を経て、さらに第三子アンドリュー王子、第四子エドワード王子と4人の子宝に恵まれました。

順風満帆な日常で、時代の変化に合わせて王室改革を実施。「開かれた王室」として国民からの人気も高く、国民の母のような存在であることが伝わってきます

スクリーンに映し出されるエリザベス女王の笑顔は慈愛に満ち溢れ、国民一人ひとりの心配や憂鬱を優しく包み込んでくれるようです。なんと絶大な包容力

親しみやすい微笑みで、国民のアイドルまたは母として親しまれるエリザベス女王。武力で国を治めるトップとは大きな違いです。

英国が長らく平和で安泰していると思われる理由は、こんな所にもあるのに違いありません。

また本作では、エリザベス女王が母であることも強調しました。最愛の夫の死、長男の家庭内ゴシップ、長女の離婚騒動など、心労を極める出来事もこれまでに少なからずありました。

高齢となられた女王が、心を痛めている様子もありのままの映像で映し出されます。

「わたくしのすべてをご覧にいれましょう」というキャッチコピーそのままの本作

笑顔でパレードに出る姿や、子どもと戯れる良き母の一面、女王蜂に群がるミツバチの映像もあり、クスリと笑みもこぼれます。

高貴な美貌のエリザベス女王の素顔におちゃめな女性の一面も加わり、心の和む長編ドキュメンタリーとなっています。

まとめ


(C)Elizabeth Productions Limited 2021

英国王室って堅苦しいところでは? こんな先入観を持たれている方も多いのではないでしょうか。実際はそうではないようです。

重苦しいイメージのある王室を、在位70周年を迎えるエリザベス女王が、親近感のある開けたものに変えて行きました。

その記録を過去と現代を交えた映像とポップな音楽で表現したドキュメンタリーが、本作『エリザベス 女王陛下の微笑み』です。

英国では、2022年6月2日から4日間、英国君主として初の‟プラチナジュビリー”(70周年の記念式典)が行われ、エリザベス女王を祝福するといいます。

英国史上最高齢かつ最長在位の君主エリザベス2世のドキュメンタリーを作ろうと思い立ち、実際にそれを完成させたロジャー・ミッシェル監督は、残念ながら2021年9月に急逝されました。

けれども、その描きたかったものは、確かに本作を観る観客の皆様に届くことでしょう。

映画『エリザベス 女王陛下の微笑み』は、2022年6月17日(金)、TOHOシネマズ シャンテ、Bunkamuraル・シネマほか全国公開

【連載コラム】『映画という星空を知るひとよ』一覧はこちら

星野しげみプロフィール

滋賀県出身の元陸上自衛官。現役時代にはイベントPRなど広報の仕事に携わる。退職後、専業主婦を経て以前から好きだった「書くこと」を追求。2020年よりCinemarcheでの記事執筆・編集業を開始し現在に至る。

時間を見つけて勤しむ読書は年間100冊前後。好きな小説が映画化されるとすぐに観に行き、映像となった活字の世界を楽しむ。


関連記事

連載コラム

『キャノンフィルムズ爆走風雲録』感想と考察。大ヒット映画会社は何故崩壊したのか|だからドキュメンタリー映画は面白い10

連載コラム『だからドキュメンタリー映画は面白い』第10回 映画制作に情熱を注いだ2人の男の、友情と確執の果てにあるものとは、一体なんだったのか? 『だからドキュメンタリー映画は面白い』第10回は、20 …

連載コラム

トルコ映画『湖上のリンゴ』あらすじと感想レビュー。吟遊詩人の少年が忘れることのできない存在|TIFF2019リポート29

第32回東京国際映画祭・コンペティション部門『湖上のリンゴ』 2019年にて32回目を迎える東京国際映画祭。令和初となる本映画祭が2019年10月28日(月)に開会され、11月5日(火)までの10日間 …

連載コラム

ベルイマン映画『沈黙』解説ネタバレと感想考察レビュー。”神の沈黙三部作”ラスト最終章で描かれる“空虚な心”|電影19XX年への旅8

連載コラム「電影19XX年への旅」第8回 歴代の巨匠監督たちが映画史に残した名作・傑作の作品を紹介する連載コラム「電影19XX年への旅」。 第8回は、『叫びとささやき』や『仮面/ペルソナ』など、数多く …

連載コラム

村上由規乃映画『オーファンス・ブルース』感想と評価。工藤梨穂監督の描いた希望を与える光|銀幕の月光遊戯 32

連載コラム「銀幕の月光遊戯」第32回 終わらない夏、汗ばむ肌、記憶が抜け落ちていく中、彼女は幼馴染を探す旅へ出かける。 「ぴあフィルムフェスティバル2018」にてグランプリを受賞した『オーファンズ・ブ …

連載コラム

【ネタバレ考察】動物界|感想解説と結末評価。ラストシーン×聖ヨハネ祭の風習で知る《神の子羊の獣心》とanimaの絆【のび編集長の映画よりおむすびが食べたい14】

動物を嫌う人間が持つ《獣》の心 異端の父子がたどり着く《命/魂》の絆とは? 映画情報サイト「Cinemarche」編集長・河合のびが気になった映画・ドラマ・アニメなどなどを紹介し、空想・妄想を交えての …

【坂井真紀インタビュー】ドラマ『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』女優という役の“描かれない部分”を想像し“元気”を届ける仕事
【川添野愛インタビュー】映画『忌怪島/きかいじま』
【光石研インタビュー】映画『逃げきれた夢』
映画『ベイビーわるきゅーれ2ベイビー』伊澤彩織インタビュー
映画『Sin Clock』窪塚洋介×牧賢治監督インタビュー
映画『レッドシューズ』朝比奈彩インタビュー
映画『あつい胸さわぎ』吉田美月喜インタビュー
映画『ONE PIECE FILM RED』谷口悟朗監督インタビュー
『シン・仮面ライダー』コラム / 仮面の男の名はシン
【連載コラム】光の国からシンは来る?
【連載コラム】NETFLIXおすすめ作品特集
【連載コラム】U-NEXT B級映画 ザ・虎の穴
星野しげみ『映画という星空を知るひとよ』
編集長、河合のび。
映画『ベイビーわるきゅーれ』髙石あかりインタビュー
【草彅剛×水川あさみインタビュー】映画『ミッドナイトスワン』服部樹咲演じる一果を巡るふたりの“母”の対決
永瀬正敏×水原希子インタビュー|映画『Malu夢路』現在と過去日本とマレーシアなど境界が曖昧な世界へ身を委ねる
【イッセー尾形インタビュー】映画『漫画誕生』役者として“言葉にはできないモノ”を見せる
【広末涼子インタビュー】映画『太陽の家』母親役を通して得た“理想の家族”とは
【柄本明インタビュー】映画『ある船頭の話』百戦錬磨の役者が語る“宿命”と撮影現場の魅力
日本映画大学