連載コラム『映画という星空を知るひとよ』第47回
ミステリー作品と一言に言っても、爽やかなラストのものと後味の悪い結末を迎えるものがあります。
今回は嫌な感じのミステリー小説の先駆者、通称“イヤミスの女王”と呼ばれる湊かなえ原作小説の映画・ドラマ作品をご紹介したいと思います。
湊かなえ映画の代表作といえば、やっぱり『告白』! 一人娘を生徒に殺害された女性教師が、自分の退職と引き換えに事件の真相を追究していくのですが……。何とも言えない後味の悪いラストに仰天します。
ミステリーは、犯人が誰かと想像しながら読む楽しみや、ハラハラドキドキのスリルを味わうもの。
推理やスリルを堪能し、さらに円満解決のラストに見えて実は裏があるという、底意地の悪い湊かなえの作品たちをたっぷり味わってください。
CONTENTS
作家・湊かなえとは
湊かなえは広島県因島市出身の1973年生まれの作家。結婚後、淡路島に引越し、30歳を過ぎた頃から執筆活動を始めます。
2007年に『答えは、昼間の月』で第35回創作ラジオドラマ大賞、『聖職者』で第29回小説推理新人賞を受賞し小説家デビュー。
その後『告白』が2009年第6回本屋大賞を受賞します。デビュー作でのノミネート・受賞という史上初の快挙を成し遂げた『告白』は、2010年に松たか子主演で映画化されました。
映画『告白』は2010年度の日本映画興行収入成績で第7位を記録し、書籍の売上も累計300万部を超える空前の大ベストセラーを達成。
その後も作家活動を続け、『贖罪』『母性』『望郷』『絶唱』『リバース』『ユートピア』『ポイズンドーター・ホーリーマザー』『贖罪』『未来』『ブロードキャスト』など、著書は多数あります。
ご存知!映画『告白』(2010)
映画『告白』の作品情報
【公開】
2010年(日本映画)
【原作】
湊かなえ:『告白』(双葉社刊)
【脚本・監督】
中島哲也
【キャスト】
松たか子、木村佳乃、岡田将生、西井幸人、藤原薫、橋本愛、天見樹力、一井直樹、伊藤優衣、井之脇海、岩田宙
映画『告白』のあらすじとネタバレ
ある中学校の1年B組の担任を務める女性教師の森口悠子(松たか子)は、3学期の終業式の日、生徒たちに、間もなく自分が教師を辞めることを告げました。
数カ月前、学校のプールで彼女の一人娘愛美(芦田愛菜)が死にました。森口は、娘は事故死と判断されたけれども、本当はこのクラスの生徒AとBという2人に殺されたのだと告発しました。
森口は妊娠後に娘の父親のHIV感染が判明したことで結婚しなかったと語り、先ほど犯人である2人の昼食の牛乳の中に、娘の父親の血液を入れた、HIVに感染するかどうかは運次第、2人には「命」をしっかりと噛み締めてほしいと告げました。
森口が学校を去ってからしばらくして、新学年が始まりました。少年Bの下村直樹(藤原薫)は1学期始まりから不登校をしています。
直樹はすっかり自分は感染したと思い込み、部屋に閉じ籠っています。不登校を続けて精神的に追いつめられ、ついには母を殺害します。精神を病んた直樹は、児童相談所に収容されました。
少年Aの渡辺修哉(西井幸人)は、学校に通っていましたが“いじめ”の標的になっていました。あることで“いじめ”の標的から逃れられた修哉には、離婚して研究者となった実母がいました。
修哉は再婚した父たちともうまくいかず、実母に振り向いてほしくて、爆破事件を起こそうと思い立ちます。付き合っていた女子生徒北原美月(橋本愛)も成り行きで殺してしまい、自殺もかねて始業式が行われる学校の体育館に爆弾を仕掛けました。
しかし、森口によって、爆弾は実母の研究室に届けられ、そこで爆発したのです。
森口は修哉に電話をして、「これが私の復讐です。本当の地獄。ここからあなたの更生の第一歩が始まるんです」と告げます。電話を切った後に「なーんてね」という一言も添えて。
映画『告白』のおすすめポイント
2009年本屋大賞を受賞した湊かなえのミステリー小説を、『下妻物語』(2004)『嫌われ松子の一生』(2006)の中島哲也監督が松たか子主演で映画化したサスペンスドラマです。
娘を殺した犯人である少年たちへの復讐劇は、簡単には終わりません。教育の場から姿を消した森口が、標的とした少年の心にしっかりと復讐の種を植え付けて、徐々に少年たちの人生を狂わせていきます。
まずは、HIVに感染したかもしれないという恐怖を植え付け、精神的にダメージを与えます。次に後任者である教師としっかりと連絡を取って、少年たちを監視します。
最終的に、修哉のホームページなどもチェックして爆破計画のことを事前に察知し、それを上手く利用して復讐を果たします。
中学生という若すぎる犯人に教師として向き合う辛さを抱き、罪もなく殺された娘を想って完成させた報復のシナリオは、見事に完了したのですが……。
本当にこれでよかったのでしょうか。少年少女の持つ‟残忍さ”や‟独りよがりな正義感”が色濃く描かれている作品だけに、少年たちの‟その後”も危惧されます。
森口は生徒たちの前で「命の重さ、大切さを知ってほしい。それを知った上で、自分の犯した罪の重さを知り、それを背負って生きてほしい」と語っていました。
松たか子の冷え冷えとした演技で表現した「森口悠子」が、復讐という惨劇になぞらえて少年たちに諭そうとする「命の大切さ」という慈愛。
果たしてこれがどこまで少年たちにわかってもらえるのでしょうと、疑問が残ります。
そして森口は最後に「なーんてね」とつぶやきます。このふざけたようなセリフによって、復讐を終えたと思われる森口の本心が、またしても分からなくなります。
不快感と共に漂うどうしようもない虚しさが、本作がイヤミスの傑作と言われる理由に違いありません。
ドラマ『ポイズンドーター、ホーリーマザー』(2018)
ドラマ『ポイズンドーター、ホーリーマザー』作品情報
【配信】
2018年(WOWOWプライム)
【原作】
湊かなえ:『ポイズンドーター・ホーリーマザー』(光文社文庫刊)
【監督・脚本】
吉田康弘
【キャスト】
寺島しのぶ、足立梨花、清原果耶、中村ゆり、倉科カナ、伊藤歩
ドラマ『ポイズンドーター、ホーリーマザー』あらすじ
女優・藤吉弓香(足立梨花)は、自分を思うようにコントロールしようとする母・佳香(寺島しのぶ)に、幼少期から悩まされてきました。
“毒親”とも言える佳香に反発して上京を決意した弓香ですが、今でもその束縛から解放されたわけではありません。
そんなある日、弓香の元に、かつての同級生・理穂から故郷での同窓会の誘いが届きます。
弓香は、実家に帰って今も変わらず抑圧的な態度を取る母親に会いたくなかったから欠席で返信しました。
けれども、理穂とメールで連絡を取るうちに思いがけぬ訃報を聞いてしまいます。
ドラマ『ポイズンドーター、ホーリーマザー』おすすめポイント
湊かなえの短編小説集『ポイズンドーター・ホーリーマザー』。
6編からなる短篇のうち、『ポイズンドーター』と『ホーリーマザー』を、WOWOWで連続ドラマ化した作品です。
娘と母という親子の葛藤をそれぞれの立場から描いたストーリーの映像化。立場が違えばこんなにもものの考え方や見方が違ってくるのか、とちょっと怖くなります。
ですが、見る角度が異なれば、不幸と思える事象も幸福であり成功といえる場合もあります。人生も人間もある一面だけで判断してはならない、ということをこのドラマは訴えています。
映画『少女』(2016)
映画『少女』作品情報
【公開】
2016年(日本映画)
【原作】
湊かなえ:『少女』(双葉文庫)
【監督】
三島有紀子
【脚本】
松井香奈、三島有紀子
【キャスト】
本田翼、山本美月、 二階堂智、川上麻衣子、白川和子、佐藤真弓、小嶋尚樹、真剣佑、佐藤玲、児嶋一哉、稲垣吾郎、菅原大吉
映画『少女』あらすじ
知的でミステリアスな由紀(本田翼)と、天真爛漫ですがいじめのせいで過度の不安症を抱える敦子(山本美月)は、親友同士。
高校2年生の2人は仲良く女子高に通っていました。
夏休み前、由紀と敦子は転入生の紫織(佐藤玲)から親友の自殺について話を聞きました。それ以来、2人は「自分も人の死を目の当たりにしたい」と思うようになります。
その時から紫織が2人に付きまとうようになり、由紀と敦子の間に、溝ができ始めます。
夏休みになってボランティア活動が課題として出されました。
由紀は小児科病棟へボランティアに行き余命わずかな少年たちと仲良くなって自らの欲望を満たそうとします。
一方、陰湿ないじめに遭い生きる希望を失いかけていた敦子は、誰かの死を見れば生きる勇気を取り戻せるのではないかと考え、老人ホームでボランティアをし、入居者の死を目撃しようとします。
映画『少女』おすすめポイント
主人公は由紀と敦子という高2の女子2人。原作では、2人が交互に自分たちのエピソードを語る形式で書かれていますが、映画でも、自殺、裏サイト、陰口、いじめといったことが、日常茶飯事に出てきます。
誰かの弱みを見つけて裏サイトに書き込む、それを見つけた人たちは次の日から書き込まれた人をいじめの対象とし、その結果として、ターゲットとなった人は自殺するといった、イタチごっこのような悪の輪廻が存在する高校生の裏社会。
特に女子の場合は一層陰湿ないじめが予想されます。女子高生の間に広がる不穏で歪な危うい空気を、本田翼と山本美月がリアルに再現します。さてこの女子高生たちの結末はどうなるのでしょうか。
映画『贖罪』(2012)
映画『贖罪』の作品情報
【公開】
2012年(日本映画)
【原作】
湊かなえ:『贖罪』
【脚本・監督】
黒沢清
【キャスト】
小泉今日子、蒼井優、小池栄子、安藤サクラ、池脇千鶴
映画『贖罪』のあらすじ
ある田舎町にできた足立製作所の工場と、社員のために建てられた田舎には不似合いな瀟洒な社宅。
そこに越してきた転校生エミリの環境に憧れや羨望の思いを抱きながら、4人の小学生はエミリと仲良くなります。
夏休みのある日の「グリーンスリーブス」が鳴る午後6時、彼女達はエミリの死体を発見しました。
彼女達は犯人を見ていましたが、その顔を思い出すことが出来ません。
15年後、小学生の娘エミリを何者かに殺害された麻子(小泉今日子)は、事件の第一発見者でありながら犯人の顔を思い出せない娘の友だち4人に、贖罪を求めて動き出します。
少女達が抱き続けてきた罪の意識と、エミリとエミリの母に対する償いが、さらなる悲劇へと繋がります。
映画『贖罪』のおすすめポイント
「告白」で知られる湊かなえの同名ミステリー小説を、黒沢清監督がWOWOWで連続ドラマ化。2012年に放送された全5話を、第1話、第2話+第3話、第4話+最終話の3回にわけてスクリーンで上映されたものです。
「贖罪」とは、犠牲や代償を捧げて罪をあがなうという意味があります。娘を殺された母は、誰にどんな代償を捧げて罪をあがなって欲しいと思うのでしょうか。
殺人事件の目撃者となった少女たちのトラウマと事件の背景を綿密に描き出した本作には、終始‟女性の怖さ”が見え隠れし、まさにイヤな感じのミステリーとなっています。
主役の麻子役の小泉今日子をはじめ、亡き娘の4人の級友を演じる蒼井優、小池栄子、安藤サクラ、池脇千鶴といった女優陣のそれぞれの個性が光る作品です。
映画『白ゆき姫殺人事件』(2014)
『白ゆき姫殺人事件』の作品情報
【公開】
2014年(日本映画)
【原作】
湊かなえ:『白ゆき姫殺人事件』
【監督】
中村義洋
【脚本】
林民夫
【キャスト】
井上真央、綾野剛、蓮佛美沙子、菜々緒、貫地谷しほり、金子ノブアキ、小野恵令奈、谷村美月、染谷将太、生瀬勝久、秋野暢子、ダンカン、山下容莉枝
『白ゆき姫殺人事件』のあらすじ
日の出化粧品の美人社員・三木典子(菜々緒)が滅多刺しにされ燃やされた遺体となって発見されました。
テレビワイドショーの契約ディレクターの赤星雄治(綾野剛)は、知人の狩野里沙子(蓮佛美沙子)から三木殺害に関する情報を知らされると、その内容をツイートし始めTwitter上で注目されます。
赤星は狩野から三木に恨みがあるとされ、事件の日から失踪している同僚・城野美姫(井上真央)の存在を知り、疑惑の目を向けます。
テレビのワイドショーは美姫の同僚や同級生、故郷の人々や家族を取材し、関係者たちの口からは美姫に関する驚くべき内容の証言が飛び交いはじめました。
評判の美人だった三木の殺害事件は、いつしか勤務する会社の商品になぞらえて「白ゆき姫殺人事件」とネット上で呼ばれるようになり、書き込みで炎上します。
犯人は誰か。噂が噂を呼び、何が真実なのかと、多くの関係者たちは、噂やSNSに翻弄されていきます。
『白ゆき姫殺人事件』のおすすめポイント
『告白』『贖罪』の湊かなえが2012年に発表したサスペンス小説を、井上真央主演で映画化した作品。過熱報道、ネット炎上、口コミの衝撃といった現代社会が抱える闇を鮮烈に描き出しています。
被害者が美人であること、容疑者として挙げられた城野美姫の名前がまるでお姫様のようだったこと、被害者の勤務先の会社のヒット商品名になぞられて、付けられた事件の名称が「白ゆき姫殺人事件」。
加えて、架空のSNSで噂によって美姫が魔女のように語られて中傷されていく様は、SNSを上手く利用した手腕としかいいようがありません。
赤星の取材という形でストーリーは展開しますが、そこで明らかになる人間関係の本音にドキッとします。人の心の奥底に潜む本当の気持ちを知ることは、恐ろしいことなのです。
まとめ
イヤミスの女王といわれる作家・湊かなえの映画・ドラマ化された作品を振り返ってみました。
湊かなえは、モノローグによって人の心理を緻密に描き出す手法が特徴の作家です。その小説が映画化されても、特徴的な心理描写は鮮明でした。
平凡な毎日に潜む日常生活のおける恐怖、友人や肉親の本当の気持ち、そんなものが予期しない形で凝縮され、ラストにとても嫌な気分が残ります。ですが、それがまた隠し味のような役割をして、中毒になる危険な作品たちです。
ここ何年かの間、湊かなえ原作映画の劇場公開は無いようですので、映画化希望として、2017年に藤原竜也主演でドラマ化された『リバース』を挙げたいと思います。
『リバース』は湊かなえの長編小説の中で初めて男性が主人公になっている作品です。イヤミスは少し薄いようですが、男性が主人公ということで、これもまた興味をそそられます。