連載コラム『映画という星空を知るひとよ』第33回
映画『さくら』は、直木賞作家・西加奈子の同名小説を、その世界観に惹かれた矢崎仁司監督が映画化した作品です。
長男・次男・長女と両親の5人家族の長谷川一家は平凡な毎日を幸せに感じながら生きていました。ところが、あることがきっかけで“一家の幸せ”が崩れます。完全な崩壊を防いだのは、1匹の犬でした。
平凡な次男・薫を『君の膵臓をたべたい』の北村匠海、破天荒な長女・美貴には『渇き。』の小松菜奈、人気者の長男・一を『キングダム』の吉沢亮と、豪華な顔ぶれの兄弟妹が登場します。
彼らの両親は寺島しのぶと永瀬正敏が好演。そして犬のサクラも加えて、5人と1匹の長谷川家の物語が始まります。
映画『さくら』は2020年11月13日(金)全国公開。
映画『さくら』の作品情報
【公開】
2020年(日本映画)
【原作】
⻄加奈⼦「さくら」(⼩学館刊)
【脚本】
朝西真砂
【監督】
矢崎仁司
【音楽】
アダム・ジョージ
【主題歌】
東京事変「⻘のI D」(EMI Records/ユニバーサルミュージック)
【キャスト】
北村匠海、⼩松菜奈、吉沢亮、⼩林由依(欅坂46)、⽔⾕果穂、⼭⾕花純、加藤雅也、趙珉和、寺島しのぶ、永瀬正敏
【作品概要】
直木賞作家・西加奈子の同名小説を、『太陽の坐る場所』(2014)、『無伴奏』(2016)など人間の複雑な感情を映し出すことに長けた矢崎仁司監督が映画化。犬のサクラと長谷川一家を通して、家族の在り方や、恋、生きることの意味を丁寧に描き出します。
平凡な次男・薫を『君の膵臓をたべたい』(2019)の北村匠海、破天荒な長女・美貴を『渇き。』の小松菜奈、人気者の長男・一を『キングダム』(2019)の吉沢亮、彼らの両親を寺島しのぶと永瀬正敏がそれぞれ演じています。
映画『さくら』のあらすじ
慌ただしい年の暮れ。長谷川家の次男・薫(北村匠海)は、大阪の実家へと向かっていました。
実家に通じる坂道を登りながら、思い出すのは子どもの頃のことです。
妹・美貴(小松菜奈)が生まれた時、妹に花を贈ってあげたくて薫は兄・一(吉沢亮)と2人で遠くまで探しに行って捜索願いが出されたこと。
一軒家に引っ越して小学生になった頃、美貴が犬を飼いたいと言い出し、両親を説得して犬をもらいに行って、結局自分が気に入った犬・サクラ(ちえ)をもらってしまったこと。
高校生になった兄にガールフレンドができ家によく連れて来ていましたが、そのたびに兄ちゃん大好きっ子の美貴の機嫌が悪くなったことなどなど。
犬のサクラと自分たちの成長とともに、長谷川家でおこる悲喜こもごもの出来事は、今では薫にとっても大切な思い出です。
あることがきっかけで2年前に兄が他界しました。スポーツ万能で明るくて頼りがいのあった兄の一。薫にとって兄は憧れの存在でしたのに、ふっつりと消えてしまったのです。
兄のいない家に耐え切れなくなったのか、父(永瀬正敏)が家出をします。兄の死をきっかけに長谷川家はバラバラになってしまいました。
そんな父から2年ぶりに帰宅するという手紙が来て、大学の学生寮にいた薫も帰省することにしたのです。
実家では、母(寺島しのぶ)と美貴が迎えてくれ、先に到着していた父はサクラと買い物に出かけていました。
その日の夜、暗い雰囲気で鍋を囲む4人の周りで、サクラはしきりに尻尾をふり嬉しそうです。
頃合いを見計らって、サクラはおならをします。そのニオイにみんな大爆笑。「サクラは久しぶりにみんながそろったのが嬉しんだよね」。
そして大みそか、壊れかけた家族をもう1度つなぐかのように、奇跡のような出来事が起こりました。
映画『さくら』の感想と評価
映画『さくら』のナビゲーターは、次男の薫。父がいて母がいて、兄と妹がいて、そして一家のアイドルの犬1匹。これが大学生長谷川薫の家族です。
自由であけっぴろげで温かな長谷川家
サクラが貰われてきた長谷川家は、兄弟妹仲がとてもいい家族です。
スポーツマンで人気者の優秀な兄・一や、末っ子で初めての女の子ということもあり、自由に育てられた破天荒な妹・美貴と比べ、次男の薫はまるで目立たず大人しい存在でした。
ですが、薫は兄には憧れを抱き、妹には優しさ持って接していました。
何かと言えば家族で集合写真を撮り、お正月とか記念日には餃子をお腹いっぱい食べるのを家風としている長谷川家。
仲が良いのは子どもたちばかりではありません。
父と母がいちゃいちゃと仲良くしていた夜がありました。
次の朝、「昨日の夜に何してたの? お母さん、猫みたいな声出してた」と幼い美貴に聞かれます。しかも、家族が全員集合している朝食の席で。
その時母は、愛情たっぷりに、男女の秘め事とはなんたるやと、分かりやすく教えたのです。長男、次男は目を丸くして真剣に聞き、そばで父が飲みかけた味噌汁を噴き出してむせていましたが……。
両親の過剰とも思えるような愛情表現は、美貴が誕生したときにもよく表れています。
「美貴が生まれた時、スロンと出てきたんや」「なんて美しくて、尊いんや」「お父ちゃん、大泣きやで」。
ナビゲーターの薫は告げます。「母さんが世界で一番幸せなら、父さんは宇宙で一番幸せな男だった」と。
隠し事をしないあけっぴろげな父母の愛は、そのまま子どもたちにも受け継がれ、長男はガールフレンドを度々家に連れてくるようになります。
そんな家族の様子をいつも見ていたのは犬のサクラです。その存在は、兄を取られるという嫉妬から荒れる美貴の唯一の癒しでもありました。
皆にかわいがられ、犬であっても、サクラはきっとこの家に来てよかったと思っているのに違いありません。
長谷川三兄弟妹キャストの共通点
とても仲の良い三兄弟妹を演じるのは、北村匠海・小松菜奈・吉沢亮といった、若手俳優の先陣を切る顔ぶれです。
なぜ、この3人が兄弟妹に抜擢されたのでしょう。ご本人たちは、3人とも「三白眼の代表格だから」と思っているそうです。
三白眼は、黒目が小さくて上気味に配置され、白目が目立つという特徴の目をいいます。
構造的に「うつろな目」に見えることもありますが、何を考えているのかわからないというミステリアスな印象を与えるのも、三白眼の特徴です。
そういえば、3人ともクールで印象的な美しい瞳を持っています。
三白眼の力を発揮して演じるそれぞれの役の複雑な心理描写が、作品のコンセプトを揺るぎないものにしているようです。
これが兄弟妹の一番似ているところというのなら、納得も行くキャスティングでした。
特に魅かれたのは、美貴を演じる小松菜奈。
瞳の演技に物を言わせ、憧れが恋心に代わり、兄・一のガールフレンドに嫉妬するわがまま娘の美貴を、時にはかわいらしく、時にはミステリアスな小悪魔ともとれるキャラにしています。
ロシアンルーレットのような“当たり餃子”を食べ、仲良く白目をむく北村巧海と小松菜奈の姿は、とても微笑ましいものでした。
まとめ
直木賞作家・西加奈子の小説『さくら』を、矢崎仁司監督が映画化した本作。
一家に次々とおこる出来事を映し出しながら、どんな時でも長谷川一家に寄り添う犬のサクラの姿がそこにあり、とても愛おしく思えます。
北村匠海・小松菜奈・吉沢亮といった美形の俳優を取り揃えた兄弟妹。それぞれの初恋や、人生の生き方も巧みに描き出され、サクラでなくても見守りたくなるでしょう。
人生いろいろ。辛くても家族が寄り添えば苦難も何とか乗り越えられると、本作は教えてくれています。
犬が支えた長谷川一家の物語は、ほっこりと心が温まる作品となっています。
映画『さくら』は2020年11月13日(金)全国公開。