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Entry 2020/09/03
Update

映画『ストレイ・ドッグ』感想と評価考察。ニコールキッドマン最新作で演じた女刑事の“野良犬根性”と娘への愛|映画という星空を知るひとよ20

  • Writer :
  • 星野しげみ

連載コラム『映画という星空を知るひとよ』第20回

オスカー女優のニコール・キッドマンが刑事役に初挑戦! ある事件で心をむしばまれた女性刑事が、忌まわし過去と向き合う姿を描いたサスペンスノワール『ストレイ・ドッグ』をご紹介します。

ニコール・キッドマンが酒浸りの中年女性刑事という荒んだ役どころを熱演し、ゴールデングローブ賞の主演女優賞にノミネートされた作品です。

監督は『ガール・ファイト』『ジェニファーズ・ボディ』のカリン・クサマ。

ニコール・キッドマン主演映画『ストレイ・ドッグ』は、2020年10月23日(金)よりTOHOシネマズ シャンテほかにて全国順次ロードショーです。

【連載コラム】『映画という星空を知るひとよ』一覧はこちら

映画『ストレイ・ドッグ』の作品情報

(C)2018 30WEST Destroyer, LLC.

【日本公開】
2020年(アメリカ映画)

【原題】
DESTROYER

【監督】
カリン・クサマ

【脚本】
フィル・ヘイ&マット・マンフレディ

【キャスト】
ニコール・キッドマン、トビー・ケベル、タチアナ・マズラニー、セバスチャン・スタン

【作品情報】
サスペンスノワール『ストレイ・ドッグ』。監督は日系女性監督のカリン・クサマです。ミシェル・ロドリゲスを主役に抜擢した『ガールファイト』(2000)で鮮烈にデビュー。その年のサンダンス映画祭、カンヌ映画祭、ドーヴィル映画祭など各国映画祭で絶賛され、数多くの映画賞を受賞しています。

主演は『ある少年の告白』(2018)『スキャンダル』(2019)などの作品に出演のニコール・キッドマン、共演にトビー・ケベル、タチアナ・マズラニー、セバスチャン・スタン。

映画『ストレイ・ドッグ』のあらすじ

(C)2018 30WEST Destroyer, LLC.

陽ざしがまぶしいロサンゼルス。ハイウェイの下の停められた車の中で1人の女が目を開けます。

彼女の名前はエリン・ベル。ロサンゼルス市警のベテラン女性刑事です。

エリンは若き日の美しさはすでに遠い過去のものとなり、酒に溺れ、同僚や別れた夫、16才の娘からも疎まれる孤独な人生を送っていました。

そして今も……。エリンはそっと車を降りると、放水路のそばへ向かいました。そこに立つ鉄塔の下、男女2人の刑事が腹ばいで倒れている男の射殺体を見下ろしています。

同僚らに近寄ったエリンは状況を聞きますが、2人はお前に居られると面倒だと署に戻るように促します。

エリンは死体の傍らにある38口径の拳銃と紫の染料に染まった紙幣に目に留めました。

「犯人を知ってる」。謎めいた言葉を呟き現場を後にしたエリン。

実は、エリンはかつては潜入捜査官でした。

17年前にFBI捜査官クリスとともに砂漠地帯に巣食う犯罪組織への潜入捜査を命じられ、そこで取り返しのつかない過ちを犯して捜査が失敗に終わるという、最悪の事態を招きました。

その罪悪感が今なお彼女の心を蝕み続けているのです。

ある日、そんなエリンの元に差出人不明の封筒が届きます。封筒の中身は紫色に染まった1枚のドル紙幣。それは17年前の事件で、行方をくらました主犯者からの挑戦状でした。

「奴が戻った」。かつての上司にポツリとつぶやくエリン。

エリンの脳裏に忘れようとしても忘れられない苦い記憶が蘇り、主犯者に対するはらわたを焼き尽くすような激しい怒りがこみ上げてきました。

過去に決着をつけるため、犯人を追う野良犬(ストレイ・ドッグ)と化したエリンは、灼熱の荒野へと車を走らせました。

映画『ストレイ・ドッグ』の感想と評価

(C)2018 30WEST Destroyer, LLC.

『ストレイ・ドッグ』はカリン・クサマ監督が手掛けました。主人公は、自身の過ちと向き合い、その行いに対して責任を果たそうとする女刑事のエリン・ベル。演じているのは、ニコール・キッドマンです。

ニコール・キッドマンの新境地

最近は『スキャンダル』(2019 )『聖なる鹿殺し キリング・オブ・ア・セイクリッド・ディ』(2017)など、問題作への積極的な出演が続くニコールですが、今回はさらに思い切った役どころとなりました。

酒に溺れ、私生活も破綻した女性の中年刑事という汚れ役。美人女優というこれまでのイメージが覆るかもしれないキャラクターですが、ニコール・キッドマンは特殊メイクを施して顔かたちを変え、激しい暴力シーンや銃撃戦にも臆せずに演じ切ります。

特に注目したのは刑事ならではの格闘場面。復讐のために17年前の事件の主犯者を追うエリンは、その主犯者と現在共謀して悪事を働く女・ペトラの銀行襲撃現場に遭遇します。

逃げるペトラに追いついたエリンは、激しく殴りあいをし、その場は修羅場と化します。大量に流血したペトラを、エリンはずるずると引きずるようにして引き立て、車のトランクに放り込みました。

180㎝といわれるニコール・キッドマンの長身が映えるシーンですが、男性同士の格闘のようなキレのよいカッコ良さはありません。

ふらふらもたつく足どりや肩で息する様子など、いかにも女同士という感じの争いです。

ですが、渾身の力で車のトランクにペトラを投げ込むエリンに、“どうしてもやり遂げなければならない”という執念が見られ、仕事への責任感と復讐に対する想いがいかに重い物かが伺われました。

カリン・クサマ監督が目指すフィルム・ノワール

カリン・クサマは本作で、アメリカ映画の伝統的ジャンルの一つであるフィルム・ノワールに初挑戦しました。

フィルム・ノワールは、虚無的・悲観的・退廃的な指向性を持つ犯罪映画ですから、どうしても暗い印象が付きまといます。が、クサマは自分のイメージするエリン刑事を描きつつ、“直射日光下のノワール”を目指そうとしました。

その一端として、犯罪多発地帯を含むロサンゼルス全域をオール・ロケ地に……。実際の大都市の荒んだ裏の顔を敢えて登場させて、リアル感を演出しています。

カリン・クサマがもう一つ、この作品で強調したのは、エリンが16歳の娘の母であるということ。

ただのくたびれた刑事の復讐劇だけで終わらせず、事件の真相を追い求める刑事の執念とともに、16歳になった娘との葛藤に苦しむ母の姿も描き出しました。

それは、このような映画のジャンルでは見られない異質かつ新鮮な試みです。

地味でみすぼらしく、自分勝手と思われても仕方のない主人公・エリンのキャラクターに加えられた“母娘の葛藤”!

仕事に熱心な母を疎んじBFと遊びまわる娘を心配するエリン。

これによって、復讐に生きる女刑事でも母親なんだと、エリンに対する親近感を覚え、人物にも深みが増しました。

複雑な人生を歩むエリンを体当たりで演じたニコール・キッドマンと、エリンという人物を生み出したカリン・クサマ監督。

2人のタッグによって完成した『ストレイ・ドッグ』は、『L.A.大捜査線/狼たちの街』(1985)、『ハートブルー』(1991)、『ヒート』(1995)、『ドライヴ』(2011)など、ロサンゼルスを舞台にした数多くの犯罪映画に連なる現代版フィルム・ノワールとなりました。

まとめ

責任感と復讐に燃える1人の女性の過酷な運命を描いた『ストレイ・ドッグ』。

カリン・クサマ監督渾身の野心作であり、ニコール・キッドマンも含めて、2人の新たなる代表作となるのに違いありません。

ニコール・キッドマンは、ストレイ・ドッグ(野良犬)と称される薄汚れた中年の女刑事役に取りくみ、体当たり的な演技に絶賛が相次ぎました。

その結果として、2019年ゴールデングローブ賞・主演女優賞にノミネートされ、チャレンジ精神と演技力は改めて高く評価されました。

エリンの心の内面の苦悩を見事に捉えたニコール・キッドマンは、外面に特殊メイクを使用することでキャスティングにも成功しています。

特に女優の命とも思われる顔のメイクは必見! あのニコール・キッドマンのお肌が……と、観た方は、人生に疲れ切ったボロボロの中年女性と化した彼女の肌メイクにさぞかし驚かれることでしょう。

ニコール・キッドマン主演映画『ストレイ・ドッグ』は、2020年10月23日(金)よりTOHOシネマズ シャンテほかにて全国順次ロードショーです。

次回の連載コラム『映画という星空を知るひとよ』もお楽しみに。

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