連載コラム『映画という星空を知るひとよ』第18回
動物の中身は人間!動物園を舞台にした韓国発のハチャメチャ奮闘コメディ『シークレット・ジョブ』。
廃業寸前の動物園を舞台に、経営立て直しのためスタッフが本物そっくりな着ぐるみをまとって動物に扮し、奮闘する日々を描いた韓国映画をご紹介します。
本作は、経営立て直しのため、動物に扮装する動物園スタッフの“偽装勤務”という奇抜な設定が韓国で大きな話題を呼びました。『2階の悪党』のソン・ジェゴン監督が手掛けています。
本作は、2020年7月24日(金)から東京・シネマート新宿、大阪・シネマート心斎橋で1週間限定公開後、8月からは先行デジタル配信もされています。
CONTENTS
映画『シークレット・ジョブ』の作品情報
【公開】
2020年(韓国映画)
【原題】
해치지않아
【英題】
SECRET ZOO
【監督】
ソン・ジェゴン
【脚本】
ソン・ジェゴン、イ・ヨンジェ、キム・デウ
【キャスト】
アン・ジェホン、カン・ソラ、パク・ヨンギュ、キム・ソンオ、チョン・ヨビン
【作品概要】
『シークレット・ジョブ』を手掛けたのは、ソン・ジェゴン監督。映画『エクストリーム・ジョブ』(2019)のアバウトフィルムが制作しました。前作のチキン店を舞台にした偽装捜査劇から一転、舞台は動物園に……。経営立て直しのためにリアルすぎる着ぐるみを身にまとって動物に扮装する従業員の偽装勤務という奇抜な設定で話題を呼びました。
映画『操作された都市』『王様の事件手帖』(2017)のアン・ジェホンが主人公の見習い弁護士テスに扮し、『サニー 永遠の仲間たち』(2011)のカン・ソラ、『尚衣院 -サンイウォン-』(2015)のベテラン俳優パク・ヨンギュ、『少女は悪魔を待ちわびて』(2016)のキム・ソンオ、『密偵』(2016)のチョン・ヨビンが共演しています。
映画『シークレット・ジョブ』のあらすじとネタバレ
有名法律事務所の見習い弁護士テス(アン・ジェホン)に一世一代のチャンス到来。
それは廃業寸前の動物園“ドンサンパーク”の経営をわずか3ヶ月で立て直せたら、正規の弁護士として雇ってもらえるというものでした。
法律事務所の代表からその使命を受け、新動物園園長として“ドンサンパーク”へ向かったテス。
閑散とした動物園で勤務しているのは、前園長(パク・ヨンギュ)と獣医のハン先生(カン・ソラ)、男と女の飼育係の4人でした。
人気のある動物はほとんど売却され、残っているのは小動物とホッキョクグマのクロ鼻だけ。クロ鼻は心理的な病気を抱えていて怒りっぽいクマでしたので、残されたのです。
「動物を買い戻して動物園を復活させる」と公言したテスですが、誰も本気にしてくれません。
見習いから正規の弁護士へと将来のかかるテスは、動物園を救うため本気で打開策を考えます。
テスは車の荷台に積まれたトラの剥製に驚き、ここが動物園であるから、動物がいても当たり前ということに気がついて、スタッフたちが動物に扮装して勤務するという奇想天外な案を出します。
そして本物そっくりのリアルな着ぐるみを業者に作ってもらい、スタッフたちに役割を与えました。
ホッキョクグマは前園長、ゴリラには筋肉質な男性飼育係(キム・ソンオ)、ライオンはハン先生、ナマケモノは女性飼育係(チョン・ヨビン)と決まり、それぞれに着ぐるみを着てもらい、ドンサンパークのスタッフたちは、偽装勤務を始めました。
動物の動きを練習していたわりにはなかなかうまくいきませんが、動物園のリニューアルを知らせる値引きチラシの効果もあり、ちらほらとお客がやって来ます。
スタッフたちは仕方なく、暑くて窮屈な着ぐるみに身を包み偽装勤務をすることにしました。
お客が檻の前からいなくなったとたんに、ぶら下がっていた木から落ちるナマケモノ。お客を前に興奮してひとり鼓舞するゴリラ。岩に隠れて顔しか出さないホッキョクグマ。同じ方向を向いたまま寝そべっているライオン。
黙っているのは基本で、首や肩こりに悩まされながらの奮闘が来る日も来る日も続きます。
そんな時、ナマケモノ役の女性飼育係が付き合っていた彼氏からフラれたと知り、ゴリラ役の男性飼育係は自分のことのようにおこり、ゴリラの格好のまま、彼氏の務める店に行って大暴れをします。
動物園にいる女性飼育係に文句を言おうと彼氏は動物園に行きましたが、携帯に電話を受けた彼女は慌ててしまい、ナマケモノの着ぐるみ姿のままで彼の前に現われます。
仰天する彼から逃げようとしますが、追いかけられてつかまりそうになり、助けを求めます。
女性飼育係を助けようと他のスタッフが着ぐるみ姿のままでかけつけ、彼氏に偽装勤務の秘密を知られてしまいました。
やっとのことで彼氏にこの状況を理解して秘密を守ってくれるという約束を取り付け、みな再び着ぐるみ勤務につきますが……。
あまりにも動きがない動物たちの姿に、お客からは「つまらない動物園ね」という声も聞こえ、観客動員数もあまり伸びなくなりました。
頼みの綱とするキリンは、着ぐるみを依頼した業者が借金がかさんで夜逃げをしてしまい、頭の部分しかできていません。
苦肉の策として、庁舎のドアから頭の部分のみ見せるというカラクリキリンになってしまいました。
そんな時、ホッキョクグマ役の前園長が倒れてしまい、全般をみていたテスが代理を務めます。前園長はそのままホッキョクグマ役を降りて、キリンの首を動かす役になりました。
ホッキョクグマになったテスは「見られている」ことの重圧から、動物園にいる動物たちの気持ちがわかってきたような気がしていました。
ある日、心無い観客からのコーラのペットボトル投げ入れなどに傷つき、ひどく喉が渇いたテス。
ホッキョクグマコーナーの塀の前に誰もいなくなったのを見計らって、ホッキョクグマの扮装のまま、投げ込まれたコーラを飲んでしまいます。
それを目ざとく見つけた観客たちが戻って来て、「ホッキョクグマがコーラを飲んでいる!」と大騒ぎ。携帯で写真を撮られ、ネットにアップされてしまいました。
映画『シークレット・ジョブ』の感想と評価
『シークレット・ジョブ』という謎めいたタイトルで、興味をそそられる本作。実は、動物園の経営立て直しのために動物に扮装するスタッフの偽装勤務の物語でした。
一人二役キャラクターが大活躍
経営立て直しの方法として動物に扮してお客を呼ぶというアイデアは突拍子もないけれど、「動物園だからそこにいるのは動物たちだ」という思い込みに付け込んだ名(迷)案と思われます。
大きな存在感で安定した人気のアン・ジェホンが主人公の見習い弁護士テスを演じ、見習い園長、さらにはホッキョクグマにもなり、「コーラを飲むホッキョクグマ」として評判を得ています。
さらには責任感の強い獣医にカン・ソラ。寝そべってばかりだけれど、時々二本足で歩く雄ライオンに扮しています。
ベテラン俳優パク・ヨンギュは、腰痛持ちの前園長役です。ホッキョクグマを降りてキリンの首の操作係に。
ガッチリタイプのキム・ソンオが演じるのは、男性飼育係兼純情でマッチョなゴリラ。女性飼育係のチョン・ヨビンは、ナマケモノに扮し、木に抱きついたまま、スマホをいじくります。
用意された動物の着ぐるみが本物そっくりで、あまりにもリアルなせいかもしれませんが、それぞれ個性豊かな動物たちでした。
物語前半で披露する彼ら人間の動物になりきろうとする様子は、必死であるがゆえにどこか滑稽で、思わず笑いがもれるほどです。
偽装勤務の裏に潜む人間のエゴ
動物園のスタッフたちと新任園長・見習い弁護士のテスが、偽装勤務をしてまでも守りたかったのは、小さな動物園です。
動物園側のスタッフはもちろん、動物たちの幸せと園の仕事に生きがいを感じていたからですが、テスは少し違っています。
テスが一生懸命に動物園の再建を目指したのは、最初は自分の夢を叶えるためでした。
債権者側から依頼を受けて来た新園長と知り、初っ端からハン先生言われた「操り人形ね」という言葉に、テスは平然と「経営のプロだ」と言い切ります。
自分の野望や夢のために手段を選ばないという人間のエゴが、この場面でチラリとのぞきました。
自身の奇想天外なアイデアから、着ぐるみでホッキョクグマになり、次第に動物園経営についての考えが変わっていくテスの変貌ぶりはちょっと見ものです。
まとめ
映画『シークレット・ジョブ』は、『エクストリーム・ジョブ』(2019)の制作会社アバウトフィルムの2作目となる作品。
前作のチキン店を舞台にした偽装捜査劇から一転、着ぐるみで動物になって動物園の経営を立て直す偽装勤務をします。
人間から動物に変身するキャストたちの演技に笑い、偽装勤務がいつバレるかとひやひやする、前作同様のドタバタのコメディ映画となっています。
鑑賞後は動物園に行ってみたくなるこの映画は、先行デジタル配信中ですが、2021年度も劇場公開予定があります。キャストが動物になる姿、必見です。