連載コラム『映画という星空を知るひとよ』第155回
ヨハンナ・シュピリの児童書『アルプスの少女ハイジ』を基にした、B級エログロバイオレンス映画『マッド・ハイジ』。
スイスの独裁者による「チーズの独占販売」が始まり、極上のチーズを闇で売りさばいていた恋人ペーターを処刑されたハイジ。恋人の敵討ちと自由な生活を求め、ハイジは武器を手にして立ち上がります。
アリス・ルーシーが主役のハイジを演じる本作は、スイスが誇る名作児童書を、同国出身のヨハネス・ハートマン、サンドロ・クロプシュタイン両監督がB級エログロバイオレンスバージョンにアレンジした“スイス映画史上初のエクスプロイテーション映画”です。
原題を『MAD HEIDI』とする本作は、『マッド・ハイジ』の邦題で日本公開が決定しましたが、そのあまりのグロさに、日本公開では18禁となっています。
映画『マッド・ハイジ』は、7月14日(金) ヒューマントラストシネマ渋谷、新宿武蔵野館、池袋シネマ・ロサほか全国ロードショーされます。
果たして、‟アルプスの少女”は独裁者を倒し、平和で美しいスイスを取り戻すことができるのでしょうか? 映画公開に先駆けて『マッド・ハイジ』をご紹介します。
映画『マッド・ハイジ』の作品情報
【日本公開】
2023年(スイス映画)
【原題】
Mad Heidi
【監督】
ヨハネス・ハートマン、サンドロ・クロプシュタイン
【脚本】
サンドロ・クロプシュタイン、ヨハネス・ハートマン、グレゴリー・ヴィトマー、トレント・ハーガ
【製作】
ヴァレンティン・グルタート
【エグゼクティブ・プロデューサー】
テロ・カウコマー
【出演】
アリス・ルーシー、マックス・ルドリンガー、キャスパー・ヴァン・ディーン、デヴィッド・スコフィールド、アルマル・G・佐藤
【作品概要】
『マッド・ハイジ』は、名作児童文学『アルプスの少女ハイジ』を大胆にアレンジした、18禁の異色のスイス映画です。
強欲で冷酷なスイスの独裁者に、唯一の家族だったおじいさんと恋人のペーターを殺されたハイジが復讐します。18禁ですが、日本やヨーロッパを含む世界各地で愛され続けている、1974年のアニメ版のおなじみのシーンの数々を再現するなど、日本へのリスペクトも随所に感じられる作品です。
ハイジを演じるのは、アリス・ルーシー。『スターシップ・トゥルーパーズ』(1997)のキャスパー・バン・ディーンが独裁者マイリ、『グラディエーター』(2000)のデビッド・スコフィールドが、ハイジのおじいさんを好演。ヨハネス・ハートマン、サンドロ・クロプシュタイン両監督が取りまとめました。
映画『マッド・ハイジ』のあらすじ
スイス大統領の強欲なマイリは、チーズ製造会社のワンマン社長。自社製品以外のすべてのチーズを禁止する法律を制定し、スイス全土を掌握し、恐怖の独裁者として君臨しました。
それから20年後。ハイジはアルプスの山小屋でおじいさんと暮らし、年頃の娘に育ちました。
恋人のヤギ飼いのペーターと仲睦まじく毎日を過ごしていましたが、ベータ―は危ない仕事をしているからと、おじいさんから交際を反対されていました。
おじいさんの心配通り、ペーターは禁制のヤギのチーズを闇で売りさばいていました。それをマイリの部下に見つかり、見せしめにハイジの眼前で処刑されます。
ハイジを追ってきたマイリの部下によって、山小屋ごと包囲され、おじいさんは爆死、ハイジは捕虜となりました。途中同じように捕虜となったクララという少女と一緒に、マイリの矯正施設へ連れていかれます。
果たして、愛するペーターと家族を失ったハイジは、邪悪な独裁者を血祭りにあげ、母国を開放することができるのでしょうか。
映画『マッド・ハイジ』の感想と評価
原作とはあまりに違う様相の‟アルプスの少女ハイジ”。美しいアルプスの山々に囲まれた平和な国スイスというイメージが、見事に覆えされる作品です。
残虐な独裁者マイリがチーズ製造販売に成功してのし上がって20年。マイリの会社以外のチーズ販売を禁じ、逆らう者は処刑します。
マイリの矯正施設ではチーズを使った筋トレ、チーズ三昧の食事と、何から何までチーズ尽くし。
スイスの名産チーズを上手く利用したストーリー展開に加え、殺害や処刑などの残虐シーンもたっぷりと用意されていて、18禁になる理由がよくわかります。
あの有名な児童書とは全く違う物語として誕生した本作では、返り血も恐れず、血だらけになりながら、銃や剣で敵を倒していく可憐な少女ハイジが主人公です。
映画『マッド・ハイジ』のハイジは、その容姿からは想像もできないほど強いヒロインとなっています。一度火のついた彼女の復讐心は、眼を覆いたくなるような残酷な殺しにも怯むことはありません。
流血の争いのあとで得る勝利の快感と自由な暮らしの尊さを、18禁の映像を通して監督たちはアピールしています。そして、観客は美しいアルプスの景色を背景に、スーパーヒロイン・ハイジの活躍に目を奪われることでしょう。
まとめ
ヨハネス・ハートマン、サンドロ・クロプシュタイン両監督が、“スイス映画史上初のエクスプロイテーション映画”として手掛けた、『マッド・ハイジ』をご紹介しました。
映画の基となったのは、ヨハンナ・シュピリの児童書『アルプスの少女ハイジ』。誰もが一度は読んだであろう名作を、監督はB級エログロバイオレンスバージョンにアレンジしました。
観光国スイスの名産・チーズも美しい景色も頻繁に画面に登場するのですが、それがなんだか独裁者の政策の一環のような気がして、素直に受け止められません。映画の中でキーワードとして出てくる美味しそうなチーズも、一度口にすると麻薬のような働きをして独裁者の言いなりになるような危険な香りがします。
真面目にスイスの良さをPRしているようでも可笑しさが先だってしまう『マッド・ハイジ』。こんなところからも、本作はエログロバイオレンス作品と言えるのかもしれません。
児童書のハイジファンの方、本作のハイジは本当にマッドなハイジです。平和を求める可憐な少女ですが、グロさも気にせず敵に挑むところなど、基の児童書とは違っていますのでご了承ください。
映画『マッド・ハイジ』は、7月14日(金) ヒューマントラストシネマ渋谷、新宿武蔵野館、池袋シネマ・ロサほか全国ロードショーされます。
星野しげみプロフィール
滋賀県出身の元陸上自衛官。現役時代にはイベントPRなど広報の仕事に携わる。退職後、専業主婦を経て以前から好きだった「書くこと」を追求。2020年よりCinemarcheでの記事執筆・編集業を開始し現在に至る。
時間を見つけて勤しむ読書は年間100冊前後。好きな小説が映画化されるとすぐに観に行き、映像となった活字の世界を楽しむ。