連載コラム『映画という星空を知るひとよ』第140回
映画『丘の上の本屋さん』は、年齢や国籍の違いを超え、“本”を通して老人と少年が交流するハートウォーミングな物語です。
監督・脚本を務めるのは、クラウディオ・ロッシ・マッシミ。主人公に起用された大ベテランのレモ・ジローネは、読書の持つ可能性と素晴らしさを伝えてくれます。
本作の舞台は“イタリアの最も美しい村”のひとつ、チヴィテッラ・デル・トロント。息をのむ絶景や石造りの歴史ある街並みが味わえるのも魅力です。
『丘の上の本屋さん』は、2023年3月3日(金)より新宿ピカデリー、シネスイッチ銀座、アップリンク吉祥寺ほか全国順次公開。
映画公開に先駆け、『丘の上の本屋さん』の見どころをご紹介します。
映画『丘の上の本屋さん』の作品情報
【日本公開】
2023年(イタリア映画)
【原題】
II diritto alla felicità
【監督・脚本】
クラウディオ・ロッシ・マッシミ
【キャスト】
レモ・ジローネ、コッラード・フォルトゥーナ、ディディー・ローレンツ・チュンブ、モーニ・オヴァディア
【作品概要】
『丘の上の本屋さん』は、イタリアの美しい村チヴィテッラ・デル・トロントを舞台にしたハートウォーミングストーリー。監督のクラウディオ・ロッシ・マッシミが、本を通して老人と少年が年齢や国籍の違いを超えて育む友情を描きます。
リベロ役は、『ボイス・フロム・ザ・ダークネス』(2017)『我が名はヴェンデッタ』(2022)など、映画や舞台などで幅広く活躍してきたレモ・ジローネ。
本作の製作にはユニセフ・イタリアが共同製作として参加しています。また予告動画ナレーションをユニセフ親善大使の黒柳徹子が務めています。
映画『丘の上の本屋さん』のあらすじ
イタリアの風光明媚な丘陵地帯を見下ろす丘の上に小さな古書店がありました。
店主はリベロという老人。隣のカフェ店員の男性と毎朝挨拶をかわし、古書の売買をする毎日を送っています。
ある日、リベロは店の外で本を眺める移民の少年エシエンがいるのに気が付き、コミックが気になる様子の彼に声を掛けます。
「本は買えません」と言うエシエンに、「貸してあげるから明日返しにおいで」とリベロは言いました。
次の日、約束通りにエシエンは本を返しに来ました。リベロは好奇心旺盛なエシエンが気に入ります。
その後も、次々と店の本をエシエンに貸し与えていくリベロ。コミックから児童文学、中編小説、長編大作、さらに専門書までに本のジャンルは広がっていきます。
リベロはエシエンが本を返しに来たら必ず読んだ本の感想を聞き、本の内容を読み解きます。リベロが語る読書の素晴らしさに、エシエンは熱心に耳を傾けます。
感想を語り合ううちに、いつしか2人は友情で結ばれていきました……。
映画『丘の上の本屋さん』の感想と評価
読書が紡ぐ友情
『丘の上の本屋さん』は、風光明媚な丘の上に建つ古書店が舞台です。店主のリベロはある日、店先で本を見つめる少年エシエンと出会いました。
「本は買えない」と言う彼に、リベロは「本を貸す」ことにしました。リベロは、本好きにしかわからない同類の匂いを彼に感じたのかも知れません。
次々と借りた本を読み、本の世界とその内容を理解していくエシエン。貪欲な読書欲はリベロを喜ばせ、エシエンに読ませる本を選択するリベロの表情はとても楽しそうです。
また、リベロがエシエンに貸し与える本のリストも素晴らしい。コミックから始まり、『イソップ物語』『星の王子様』『ピノッキオの冒険』『ロビンソンクルーソー』『アンクル・トムの小屋』『白鯨』と、物語の次は専門書にまでチョイスは及びます。
子どもの頃、一度は読んだであろう物語の登場に、当時の感動もこみ上げ胸を躍らす人も多いのではないでしょうか。
リベロも自分の感動を思い起こし、本好きなエシエンに読ませたのに違いありません。そして、本をただ読ませるだけでなく、読んだ後に感想を聞き、その物語が何を言わんとしているのかをエシエンに教えました。
人生の中で出会う善と悪。困難を乗り切る知恵と勇気。自由を求めて差別と闘う人々などなど。
エシエンは読書によって、まだ見ぬ広い世界を知り成長していきます。
キャストが伝えるものとは
リベロとエシエンの交流が続いていく一方で、リベロの店には常連客もひっきりなしにやってきます。
古書をゴミ箱から捜し出して売りにくる男性や社会的革命をめざす男性を始めとし、ご主人の求める本を買いに来る女性。その女性に恋をする隣のカフェ店員。
それぞれが織りなすサブストーリーも興味深く、特に恋が上手くいきそうなのにイタリア男子の見栄をはるカフェ店員とリベロのやり取りは微笑ましいものでした。
本棚に囲まれてまったりとした時間が過ぎていくリベロの周りには、個性的でユニークな人々が集まって来るようです。機知に富み決して物事に動じないリベロに、周囲の人々は癒されていたのかも知れません。
こんなリベロを演じたのは、イタリアの名優レモ・ジローネ。温かみのある眼差しの”リベロ爺さん”に、観客も身の上相談をしたくなることでしょう。
また日本公開に因み、予告動画のナレーターを務めるのはユニセフ親善大使の黒柳徹子。
本作は、未来を見つめる子どもたちや読書家はもちろん、優しさを求める大人にも観てもらいたい作品としてコメントしています。
黒柳徹子(女優・ユニセフ親善大使)
本を読むことは素晴らしいこと、とこの映画は教えてくれます。イタリアの小さな本屋のおじいさんと、アフリカ移民の少年の話です。少年は毎日おじいさんから本を借りては、次々に読んでしまいます。本の題名は、私たちの知ってる本なのも、うれしいです。本を読むことで世界が広がる。少年の未来は明るいでしょう。私たちは少年のように、わくわくしながら、この映画をみるでしょう。
まとめ
映画『丘の上の本屋さん』をご紹介しました。本作は、年齢や国籍の垣根を越え、“本”を通して紡がれるハートウォーミングな物語。
活字離れが著しい現代においてでも、本を読むことの大切さや素晴らしさを店主リベロが優しく諭してくれます。
「リベロ」にはイタリア語で「自由」という意味があります。店主リベロは、エシエンに自由であること、誰もが幸せになる権利を持つことを、読書で伝えていきました。
時は流れ、ストーリーの展開と共にはっきりとわかるのは、エシエンの成長ぶりです。その凛々しい表情と、リベロが最後にエシエンに読ませた本にもご注目ください。
『丘の上の本屋さん』は、2023年3月3日(金)より新宿ピカデリー、シネスイッチ銀座、アップリンク吉祥寺ほか全国順次公開。。
星野しげみプロフィール
滋賀県出身の元陸上自衛官。現役時代にはイベントPRなど広報の仕事に携わる。退職後、専業主婦を経て以前から好きだった「書くこと」を追求。2020年よりCinemarcheでの記事執筆・編集業を開始し現在に至る。
時間を見つけて勤しむ読書は年間100冊前後。好きな小説が映画化されるとすぐに観に行き、映像となった活字の世界を楽しむ。