連載コラム「SF恐怖映画という名の観覧車」profile149
ゲーム配信サイト「Steam」で一時世界第3位の売り上げを記録し、世界的に話題となったゲーム『返校 Detention』。
この作品は幽霊が徘徊する暗闇の校舎を歩き回るオカルトホラーでありながら、厳しい思想の弾圧が行われた実際の歴史をベースとした切ない物語が高い評価を受けました。
今回は『返校 Detention』を本国台湾で映像化した映画『返校 言葉が消えた日』(2021)を、ネタバレあらすじをご紹介すると共に、原作ゲームと他媒体での映像化との違いを検証していきたいと思います。
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CONTENTS
映画『返校 言葉が消えた日』の作品情報
【日本公開】
2021年(台湾映画)
【原題】
返校 Detention
【監督】
ジョン・スー
【キャスト】
ワン・ジン、ツォン・ジンファ、フー・モンブォ、ツァィ・スーユン、ヂュ・ホンヂャン、シァジン・ティン、ヂャン・ベンユー、ユン・ヂョンユェ、リー・グァンイー、パン・チン・ユー、リー・ムー、ワン・コーユエン
【作品概要】
台湾のゲーム製作会社「赤燭遊戲」によって販売されたゲーム『返校 Detention』を、映画監督のジョン・スーが映画化した作品。
本作は中国語映画におけるアカデミー賞とも呼ばれる「第56回金馬奨(ゴールデンホース・アワード)」において5部門の受賞を果たし、世界で話題となりました。
映画『返校 言葉が消えた日』のあらすじとネタバレ
1962年、反思想的な言論が厳しく取り締まられる台湾。
政府の意を汲みバイ教官によって厳しい指導が行われる「翠華高校」には「読書会」と呼ばれる、所持すら禁じられた本を読む地下組織がありました。
【悪夢】
翠華高校に通うファンは暗闇に包まれた校舎で目を覚まし、後輩で読書会に所属するウェイと出会います。
校舎内には人の背丈を遥かに超える人外の何かが徘徊し人間を見つけ次第処刑しており、さらに校舎の敷地の外は地面が陥没し脱出が不可能な状態でした。
ファンはこの異常な光景に見覚えがあるような気がしますがはっきりとは思い出せずにいました。
自身のクラスに「忌中」と言う札が貼られ、読書会の発起人であるチャン先生の机が荒らされていたことから当局に読書会の存在が露呈してしまったのではないかと不安を覚えるウェイはファンと共に校内の「防空壕」へと向かいます。
防空壕にはイン先生を始めとした読書会のメンバーが揃っていましたが、読書会のメンバーはファンのことを「密告者」や「裏切り者」「人殺し」と罵倒すると突如姿を消し、彼等のいた場所に読書会メンバーの遺影だけが残りました。
ウェイは読書会が何者かの密告によって露呈しチャンやインが処刑されたことを思い出すと、密告者がファンであることも思い出し彼女を追求しますが、記憶が蘇ったファンはその場から逃げ出してしまいます。
映画『返校 言葉が消えた日』の感想と評価
台湾では1947年から1987年まで「白色テロ時代」と呼ばれる厳しい思想の弾圧が行われており、「思想犯」や「スパイ」の嫌疑をかけられ処刑された人間は3000人以上にも及びました。
本作はそんな「白色テロ時代」を舞台としており、時代背景はこの作品とは切っても切り離すことのできない重要な要素となっています。
原作ゲーム『返校 Detention』は、ジョン・スーによる「映画化」である本作『返校 音葉が消えた日』以外に映像配信サービス「NETFLIX」によって「ドラマ化」も行われていますが、この2作には作品のテイストとして大きな違いが生まれていました。
映画とドラマの違い
ドラマ版の時代設定はウェイの過ごしていた「白色テロ時代」の「翠華高校」ではなく、読書会事件から30年後の現代を舞台としています。
厳しい戒律が残ってはいるものの「処刑」や「弾圧」の無い現代に、ウェイと同じ苦悩を持つことになるユンシアンが現れたことで過去の物語が紐づいていくドラマ版では、「処刑」や「弾圧」に深く関与した人物が英雄として祭り上げられている様子など「白色テロ時代を経ての現代」を強く意識した構成となっていました。
一方で主人公が現代のユンシアンになったことで「白色テロ時代」の「被害者」であるファンの存在が復讐鬼へと変わってしまっており、原作の持つファンの苦しみの要素が少なくなってしまっていたことも確かでした。
映画化となる『返校 言葉が消えた日』では、「暗闇の校舎」を舞台に主人公のファンが記憶を取り戻すまでを描いた概ね原作に沿った物語が展開されており、「現代」を起点としたドラマ版とは異なり「白色テロ時代」の真っ只中を生きた人間たちの苦悩に焦点が当てられていました。
「ウェイ」の役割が変わったことで変化するラストシーン
本作は原作と概ね同様の物語が展開されますが、終盤に差し掛かるに連れて原作に比べてファンの顛末に救いが多く見られるようになっていきます。
その主な要因となっているのは原作と映画での「ウェイ」と言う登場人物の扱いの差にありました。
原作では悪夢に登場するウェイはファンに対する「罰」の小道具の1つに過ぎず、物語の序盤で死体となってしまいます。
映画版となる本作では、原作とは異なりウェイも悪夢に囚われた人間の1人として描かれており、原作よりも登場時間が長く、かつファンに救われると言う新たな「役割」を与えられることとなります。
原作では、ファンは自身の「罪」を受け入れたことで大人になったウェイと廃墟となった校舎で再会しますが、その後「ファンが悪夢から解放されたのか」は明らかにされませんでした。
しかし、本作では「ウェイを救った」ことで同様のラストでありながらも、明らかに「悪夢から解放された」ことを伺える会話が行われます。
原作を尊重しながらも少しの改変を加え、同じ結末でも異なる方向性を見せてくれる映画でした。
まとめ
本作はジョン・スー監督が原作ゲームをプレイした上で「ゲーム原作映画」であることをこだわり製作したとされており、原作を尊重した「ホラービジュアル」はゲームファンには必見のクオリティとなっています。
原作をイメージさせるカメラワークのシーンも多く存在し、原作をプレイ済みの方にこそ観て欲しい「実写化作品」でした。
映画『返校 言葉が消えた日』は劇場で公開中。
夏にぴったりな恐怖演出たっぷりの本作をぜひ劇場でご覧になってください。
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