15歳の誕生パーティーが始まる!
2019年8月23日(金)に、装いも新たに復活をとげた映画館、京都みなみ会館。そのリニューアルを記念して、9月6日(金)からグッチーズ・フリースクール×京都みなみ会館共催の『ルーキー映画祭 ~新旧監督デビュー特集~』が開催されます。
リチャード・リンクレイター、ポール・トーマス・アンダーソン、ウェス・アンダーソン、アレクサンダー・ペインといった元新進気鋭のルーキー映画監督たちの作品。
また、トレイ・エドワード・シュルツ、フィリックス・トンプソン、ジェニー・ゲージなど、新世代のルーキーたちの作品がまとめて上映されるグッチーズ・フリースクールならではの選択の贅沢な映画祭です。
今回は、その中から、オーストラリアのローズマリー・マイヤーズ監督が、15歳の誕生日を前にしておもいっきり憂鬱な気分に沈む少女の心理をとびっきりポップに描いた『ガール・アスリープ』(2015)をご紹介します。
【連載コラム】『ルーキー映画祭2019@京都みなみ会館』記事一覧はこちら
映画『ガール・アスリープ』の作品情報
【日本公開】
2019年公開(オーストラリア映画)
【原題】
Girl Asleep
【監督・脚本】
ローズマリー・マイヤーズ
【キャスト】
ベサニー・ウィットモア、ハリソン・フェルドマン、ティルダ・コブハム・ハーヴィー、アンバー・マクマホン、イーモン・ファレン、マシュー・ウィッテット、イモージェン・アーチャー、メイヤ・スチュワードソン
【作品概要】
2014年に南オーストラリア州のウインドミル・シアター(Windmill Theatre)で上演された同名タイトルの演劇作品を映画化。
もうすぐ15歳の誕生日を迎える少女に、家族はよかれと思い大掛かりな誕生パーティーを開くことにしたのだが・・・。思春期の少女の複雑な心理をポップなセンスで描いた青春もの。
ウインドミル・シアターの舞台監督であるローズマリー・マイヤーズの映画監督デビュー作品。アデレード芸術祭(Adelaide Festival)で初披露された。
ベルリン国際映画祭でも好評を博し、興行的にも成功をおさめた。
映画『ガール・アスリープ』のあらすじ
1970年代、オーストラリアのある都市の郊外。
14歳の少女、グレタ・ドリトコルは、家族とともに新居に引っ越してきたばかり。転校初日、独りで絶望的な気持ちで校庭のベンチに座っていました。
そんなグレタの隣にエリオットという少年が座って話しかけてきました。彼も学園のメインストリームからほど遠い位置にいるような少年です。
エリオットが一方的に話しをし、グレタはずっと困ったように座っているだけでしたが、グレタも彼が悪い人ではないとわかってきて、少しだけ打ち解けます。
エリオットがドーナツを買ってくるからちょっと待ってと席を立った途端、背の高い双子を引き連れた少女が現れ、「友だちになりましょう」と声を掛けてきました。
双子はにこりともせず威圧的で、声をかけてきた少女も実に癖がありそうです。ここでもグレタは戸惑うばかりです。
翌日、学校に登校したグレタはエリオットの姿をみとめて歩み寄ります。しかし、後ろから来た昨日の3人組に連れて行かれます。
彼女たちは相変わらず、独特の威圧感を発揮していて、グレタは愛想笑いをするのが精一杯でした。
放課後、グレタはエリオットと一緒になり、朝のおわびに一緒に遊ぼうと言って、彼を家に誘いました。
グレタは自分の部屋に彼を案内し、幼い頃から大事にしているオルゴールや、フィンランドの文通相手からもらった女戦士の写真を見せました。
グレタの母親は、エリオットを夕飯に誘い、中華料理を振る舞いました。グレタがもうすぐ15歳になることを知ったエリオットは、バースデーパーティーをやろうよ!と提案します。
バースデーパーティーだなんてとんでもない! グレタは絶対にやりたくありませんでしたが、娘が学校に早く馴染めるようにと、父と母が勝手にクラス全員に招待状を出してしまいます。
そしてついに誕生日がやってきました…。
『ガール・アスリープ』の感想と評価
緻密かつ軽妙な映画デザイン
グレタがこちらを向いてベンチに座っている冒頭から、画面に目が釘付けになってしまいます。
グレタが座っているベンチは画面の中央に置かれ、画面奥にはバスケットゴールが2つ、ベンチの左右にシンメトリーに配置されています。
そのショットが固定カメラで長回しで撮られている間、画面のあちこちに、おしゃべりしている女性生徒や、仮装している生徒、バスケのゴールを決める生徒たちが姿を見せては去っていきます。それらは非常にグラフィカルな光景です。洗練されているのですが、どこかとぼけた、ナンセンスな味わいがあります。
そこにエリオットという少年がフレームインしてきて、ぎこちない会話が始まりますが、グレタの表情はますます困り顔になっていきます。
生徒たちの制服は黄色いシャツに赤いスカート(パンツ)といった非常にカラフルなもの。その色合いや世界観は、ウエス・アンダーソンからの大きな影響が感じられ、冒頭から観るものの気持ちを高揚させます。
14歳の少女の憂鬱
14歳という多感な時期の転校なんて、考えただけでも気が重くなるような試練です。グレタのように内向的な少女にとって、高校という空間に自分の居場所はなく、クラスメイトは驚異でしかありません。
グレタを演じるベサニー・ウィットモアは、ほぼ全編、困ったような表情を見せ、その表情と顔の筋肉の動きに内面の叫びが溢れ出ています。
カメラもバンバン彼女の顔をアップにし、顔に照明もバンバンとあて、思春期の少女の戸惑いや、混乱や、絶望をこれでもか、と映し出します。
子供時代の終焉から、大人への第一歩へ。誰もが通るこの道を、どのように乗り越えていけばよいのか?
この普遍的なテーマを、映画は、ユニークな少しファンタジックな手法を交えて、カラフルにコミカルにポップに、時にダークに展開していきます。
いじめっこの3人組女子が学校の廊下を並んでずんずん歩いてくるシーンは学園ドラマのお約束ですが、それにしてもこれほどインパクトの強い3人組はあまり観たことがありません。
この3人を前にしてたじろがない人っているのでしょうか?
作り込んだ舞台設定
映画の舞台は70年代に設定されています。ファッションもインテリアも徹底的に70年代風味に作り込まれています。
70年代のファッションに身を包んだ人々が、アメリカのシンガー、Silvesterの1978年のヒット曲“You Make Me Feel(Mighty Real)”に合わせて踊るパーティーの幕開けの鮮烈なこと!
一方、グレタの家は暗い森に隣接しており、ロバート・エガースの『ウイッチ』(2015)を思い出させます。あの一家は教会にそむき追放されたがゆえにあのようなところしか住むところがなかったのですが、なぜ、こんなところに新居を?
少女にとって森は未知の世界(大人になっていくこと)への恐怖の象徴であり、また自身の心情を映す場所でもありますから、この森自体、グレタの心象風景なのかもしれません。
その森でスラップスティックなチェイスが繰り広げられます。
手作り感溢れるモンスターに加え、父親や母親が魔物のようなものになって出てくるのですが、父親の魔物が繰り広げるオヤジギャクはバカバカしさに溢れ、とことん人を食っています。演じているのはマシュー・ウィッテット。この作品の脚本家でもあります。
こうした脱力感は全編に溢れ、『ガール・アスリープ」の世界観に重要な役割を果たしています。
まとめ
監督のローズマリー・マイヤーズは、南オーストラリア州のアデレードに本拠地を置くウインドミル・シアター(Windmill Theatre)の舞台芸術監督を務め、長年演劇の世界で活躍し、多くの賞を受賞してきました。
本作は、2014年にウインドミル・シアター(Windmill Theatre)で上演された同名タイトルの演劇作品を映画化したもので、ローズマリー・マイヤーズの映画監督デビュー作です。
演劇では全ての配役を大人の役者が務めていたそうですが、映画の方は、主演のグレタを演じたベサニー・ウィットモアをはじめ、これ以上ないというくらい完璧なキャスティングがなされました。
ローズマリー・マイヤーズ監督は、現在もウインドミル・シアターを拠点に新たな演目を上演しながら、新しい映画のプランを練っているとのこと。次回作が待ち遠しい期待の“ルーキー監督”です。
『ルーキー映画祭 ~新旧監督デビュー特集~』は2019年9月6日(金)から8日(日)まで京都みなみ会館にて開催されます。
貴重な上映機会をお見逃しなく!